グループとして、再生可能エネルギー発電所の開発から建設、保守管理まで、関連事業を一気通貫で行い、電力の効率的な利用を可能にするエネルギーマネジメントシステムの開発などエネルギーテック事業も手がける自然電力株式会社。2011年、風力発電会社で働いていた3人の30代前半の若者が立ち上げ、「青い地球を未来につなぐ。」をパーパスとして掲げて再生可能エネルギー事業を推進。2022年10月には、カナダの大手年金基金CDPQから700億円の資金調達を行うなど、世界で注目を集めるベンチャー企業に成長している。
事業自体がウェルビーイングな自然電力株式会社で、カルチャーとして大事にしていることや、独自の研修制度・福利厚生とは?People Experience部 部長の足立遼介さんに、Wellulu編集部プロデューサーの左達也とライターの齋藤優里花が話を伺った。
全世界のメンバーで徹底的なバリューシェアリングを実施
左:自然電力株式会社は2011年に創業、東日本大震災がきっかけだと伺いました。
足立:はい。元々風力発電会社に勤めていた磯野謙・川戸健司・長谷川雅也の3人が、東日本大震災の福島第一原子力発電所事故をきっかけに、「より良い未来をつくるためには、人のせいにせず、自らが行動を起こし、本気で問題を解決していく必要がある」と決意し創業しました。創業ストーリーから一貫して、「人のせいにせず、オーナーシップを持つ」「自分が起点となって行動する」といった価値観を大切にしています。
左:「青い地球を未来につなぐ。」というパーパスはとても印象的です。
足立:このパーパスは自然電力にとって、全ての事業の軸となっています。経済合理性の前に、このパーパスに繋がる事業かどうかを鋭く吟味しています。
齋藤:従業員の方を「クルー」と呼ばれているのは、どういった想いがあるのでしょうか?
足立:地球を変えていくという共通の目的をもち、同じ船に乗っている仲間として「クルー」と呼んでいます。会社と従業員という従来の上下のある概念でなく、ひとりひとりが会社や社会を変える、という意識・カルチャーがあることも大きいと思います。自然電力株式会社には社長がおらず、磯野・川戸・長谷川の3名が並列の立ち位置で代表取締役を務めています。本社と支社という言葉も使わず、東京オフィス・福岡オフィスと呼びます。自然電力には16カ国のクルーがおり、7カ国で展開していますが、日本がメインの国だとも思っていません。どこかが本流であるという概念がない組織となっています。
左:People Experience部として、社員のウェルビーイングを実現するために意識されていることはありますか?
足立:まず企業としては多様性を理解した上で、組織が向かう方向性(会社のパーパス)と個人が生きていく上での方向性(個人のパーパス)が重なっているのがヘルシーな状態だと考えています。自然電力は、「青い地球を未来につなぐ。」というパーパスに様々な切り口でモチベートされている人たちが集まっている組織です。気候変動や環境問題に取り組みたい人もいれば、各地域の発電所でエネルギーを作るという文脈から地方創生に関心の高い人も共感度が高いです。また、地球の未来のため、子供に誇れる仕事をしたいと考える人も多くいます。そういった組織・個人の目的意識が重なる領域で研修・福利厚生制度を作ることを意識しています。
左:具体的にはどのような制度があるのでしょうか?
足立:我々が大事にしている制度の1つが、バリューシェアリングです。個々人の価値観をシェアするというもので、創業当初からずっと大事にしています。日本以外の拠点も含めて組織全体でやることもありますし、プロジェクト・チーム単位で行うこともあります。創業から12年が経った今でも創業メンバー3人が同じ方向を向いて事業を行えているのも、創業当初に徹底的にバリューシェアリングを行ったからです。
左:そうなんですね。スタートアップ企業で創業メンバー3人が同じ方向を向き続けているのは珍しいのではないでしょうか?バリューシェアリングに自然電力の組織の強さの秘訣がありそうですね。どのような内容なのでしょうか。
足立:例えば、先日は「自分の理想の国を作る」というワークショップを行いました。どういう門があって、どういう建物が立っていて、そこで暮らしている人はどういう人たちで、どういう風に日々の生活をしているか。自分の理想を出来るだけビジュアライズ化して話していきます。ゆったりと暮らすのが理想な人もいれば、老若男女がテクノロジーを駆使して生活することを想像する人もいる。1人1人の価値観を具体的に理解しあった上で、目の前の仕事について議論するようにしています。
齋藤:拠点が異なるメンバーはリアルでのコミュニケーションが減る分、バリューシェアリングが難しいように思います。工夫されていることはありますか?
足立:半年に1回程度、オフサイトミーティングという機会を設けています。オフサイトミーティングでは、オフィスやデスクを離れて、自然の中で時間を過ごします。その中でのメインワークがバリューシェアリングです。これはバリューシェアリングだけではない大規模なものですが、先日は千葉県の「KURKKU FIELDS/クルックフィールズ」でAll meetingという、世界中のクルーが集まって関係性を深め合うオフサイトミーティングを実施しました。
左:小林武史さんがプロデューサーを務める、オーガニックファームやアートを構えた施設ですね。
足立:はい。音楽ライブを通して気候変動や人権問題を取り上げるなど、コンセプトに共感性の高い施設ですし、太陽光発電設備で発電した電気を使用していることや、自然電力でマイクログリッド(平常時は、分散型電源と蓄電池を用い再生可能エネルギーの有効活用を図り、災害時は域内で電力を融通することができるエネルギーシステムのこと)の構築を担当させて頂いたこともあり、利用させていただいています。その他にも、リーダー層を中心に屋久島での研修も行っています。屋久島で自然の循環や人間の営みとの繋がりを学びながら、バリューシェアリングを行う研修です。私自身、一番濃密で、自分が成長できた実感のある研修でした。
左:机上だけでなく五感で学ぶのは素晴らしいですね。日々の業務の中でもバリューシェアリングを実施されていらっしゃるのですか?
足立:例えば、People Experience部では、週に1度行う定例ミーティングの中で、今週何があったかをシェアする「今日の一言」という時間を設けています。家族であったことや、テンションが上がったこと、海外出張でインスピレーションを受けたことなど、個人的なことをじっくり時間をかけてシェアしています。日々の業務と個人の間をシェアすることで、コミュニティの良さに気づくことができる時間になっています。同じ組織で働く人が仕事ができるかどうかではなく、人間的な魅力に定期的に気づく機会を持つことは、組織を作る上で重要だと考えています。
左:主観の共有会ですね。大企業では主観よりも客観を求められがちですが、主観を棚卸しし、共有することはウェルビーイングに繋がると感じました。
足立:オフサイトミーティングは、部門ごとに行われることも多いのですが、基本的にマネジメントの判断で予算をとり、定期的にオフサイトミーティングを実施することができます。
齋藤:マネージャーが決められるのですか?凄いですね。
足立:会社として重要な投資だと考えているので、オフサイトミーティングのための予算を準備して、マネージャーが決めた場所にオフサイトミーティングに行っていますよ。
齋藤:例えばどういったところに行かれるのでしょうか?
足立:先日は高尾山に行っているチームがありました。山や川で自然を感じながら、夜は焚き火を囲んでみんなで話し合っていたようです。「自然電力らしさ」というものを明文化するだけでなく、ハイコンテクストの中で築き、自然と理解していくことは入社後ギャップをなくすためにも重要だと考えています。
自然電力に任せれば、再生エネルギーが「フルターンキー」で回る
左:自然電力が注力している事業は何でしょうか?
足立:事業の軸となっているのは電源開発です。再エネ発電所開発に適した土地を見つけ、発電所を建設するところから、発電所のテクニカルな保守管理、アセットとして収益を出し続けるための管理まで、一貫して行っています。自然電力は当初、経済産業省が再生エネルギー導入を促すFIT制度と共に成長を遂げてきましたが、今は脱炭素への取り組みを行っているかどうかが企業の投資条件にも関わるようになり、企業や自治体を中心に再生可能エネルギーのニーズが増えています。そういったお客様のニーズに、当初から積み上げてきた強みである電源開発を軸にソリューションをご提供する、というのが大きな流れです。
左:世間でも再生可能エネルギーへの関心はどんどん高まっているのを感じます。
足立:そんな中で今後重要になってくることが2つあって、1つ目はデジタル事業。再生可能エネルギー発電事業は、大小さまざまな発電所が各地に存在する分散型のビジネスなので、事業が拡大していくとトランザクションが複雑化していき、スマートに制御する必要が生まれます。例えばある高齢者施設で太陽光パネルや蓄電池を導入したとして、そこに自然電力が開発した「Shizen Connect」というエネルギーマネジメントシステムを入れることで、発電設備や蓄電池のコントロールが可能になります。小規模の発電所や蓄電池でも、数万台をまとめて制御することで、あたかも1つの発電所のように機能させることができ、電力の不足分を補うなど、天候に左右されやすい太陽光発電や風力発電で得た電気を有効活用することが可能になります。
左:電気のIoTビジネスですね。
足立:デジタルを組み合わせて多角的にソリューションを提供できるのは、自然電力の強みです。2つ目は、海外事業です。再生可能エネルギーは国の制度や自然環境に依存するビジネスです。日本では出来ないけれど、別の国では進められる事業もあり、国によって進めやすい電源が異なります。各国で一番最先端の実績を作ることで、その国や地域にフィットした様々な電源を展開させていくことが可能になります。気候変動問題はグローバルなイシューですから、こういった観点はとても大事にしています。
左:だからこそ、日本がメインではなく、全世界での視点を大切にされているわけですね。
足立:はい。自然電力では「フルターンキー」、つまり鍵を自然電力に挿せば再生エネルギーの事業がぐるっと回るということを1つのキーワードとしています。土地開発、建設、運営、デジタルなど再生エネルギーにまつわる全てのノウハウを自然電力が持ち、最適なソリューションを組み合わせてお客様と対峙できる。しかもインターナショナルで展開ができる。それが自然電力の目指す姿であり、強みでもあります。
プロフェッショナル&リラックスな人材が集まる
齋藤:多様な価値観を持つ人材が同じ組織に属するにあたって、意識していることはありますか?
足立:パーパスへの共感度は非常に意識しています。今や脱炭素に興味がある人は増えてきており、単に興味がある程度では本当に自然電力にマッチするかを測れません。もし「お金になりそう」といった感覚で入ってくる人が組織の3割を超えたら、会社の空気が変わり、元には戻れなくなると考えています。そのため、原体験やライフスタイルを深掘りし、本当に自然電力のパーパスに共感している人材なのかを見極めます。
左:表層的な人ではなく、なぜ・何のために再生エネルギー事業をやるか、掘り下げていかれるわけですね。
足立:入社するとなったら、個人の大事な人生の中で、短くても2-3年は過ごすことになります。過去何を考えてきたのか、今何を思っているのか、未来をどうしたいか。もちろんブレることもあるとは思いますが、出来る限り会社と本人とがアラインすることは両者にとって大事です。
齋藤:人材の特徴、風土はありますか?
足立:「プロフェッショナル&リラックス」というキーワードがあって、仕事はプロフェッショナルに、だけどどこかでリラックス、エンジョイするという風土も大切にしています。
齋藤:リラックスはどう実現するのでしょうか?
足立:先ほどお話しした屋久島研修はそのうちの1つであると言えます。福利厚生的なリラックスではなく、泰然と構える姿勢ですね。創業者3名が一番それを体現していて、本気で取り組み、思い通りにならなくても力むことがありません。パーパスに共感した人が集まってきた組織であるのが特徴的だと思います。
左:屋久島に色々詰まっているわけですね。屋久島は自然の厳しさもあり、福利厚生的なリラックスだけでは選ばない場所ですよね。独特なセンスを感じます。
足立:虫が嫌いな人は過ごしにくいでしょうし、全員にとって必ずしも良い場所ではないですよね。一方で、屋久島の雄大な自然の中で、生まれ育った国や文化、個性が異なる多様な仲間と、自然の循環を理解し、また同じ目的意識を共有し議論できることは、自然電力でしか体験のできないユニークで強烈な経験になり得ます。コンセプトのある体験というのはそういうことなのだと思います。福利厚生制度として先日取り入れたのは、都心からアクセスしやすい自然を感じられる場所に滞在できる「SANU 2nd Home」というサービス。環境負荷のない建築にこだわっており、共感度が高いサービスです。こういったウェルビーイングなサービスを利用できることに、福利厚生制度は使っていきたいですね。
社会を良くする人材を地域に増やしていく
左:自然電力はサービス自体もウェルビーイングを体現しています。
足立:そうですね。でももちろん、その中でも葛藤もあります。
左:葛藤とはどういったことでしょうか?
足立:私個人として感じているのは、資本主義が副次的に生み出してしまう環境問題と格差問題において、環境問題はフルコミットできていますが、格差問題はなかなか難しいことが多いという点です。自然電力として真剣に向き合っている課題ではありますが、本質的に意味のある資本循環をつくっていくことは非常に難しく、チャレンジングな課題だと感じています。一方で、再生可能エネルギーは解決の軸となり得、非常に大きなポテンシャルがあると思っています。
左:地方創生においても、本当に地域にお金を落とせているか、雇用を生み出せているかは課題の1つですね。
足立:今の日本は経済合理性的や社会環境として難しいことも多いです。そこで自然電力では、中長期的にこの課題に取り組むべく、Green Business Producers(グリーンビジネスプロデューサーズ)というアカデミーを立ち上げ、発起人として運営に参加しています。1年1期のサイクルで回し、1期のプログラムは半年ほどの時間をかけて、参加者は地域を盛り上げたいとビジネスをしている人たちとフィールドワークを行い、地域ごとの課題解決を探っていくプロジェクトです。
左:教育事業ですね。参加者は大学生など若い方が多いのでしょうか?
足立:いえ、20代から50代まで幅広い世代の方が参加しています。バックグラウンドは農業、水産業、ベンチャーキャピタルなど業種も様々です。2022年からスタートし、第1期生はすでに自治体に実際にプレゼンしに行く計画を立てているチームもあります。ケーススタディをして終わるのではなく、実際に地元の課題に取り組むのがユニークなポイントです。自然電力のビジネスと繋がれば、共に事業を作っていくこともあります。
左:それは良いですね。産官学連携していけると更に強いプロジェクトとなりそうです。
足立:はい。既に第2期生の募集を開始しており、自然電力との繋がりはもちろん、卒業生同士で繋がっていくことで、地域課題に向き合う大きなコミュニティを形成していきたいと考えています。企業としては大変な取り組みですが、中長期的に意義のあることだと捉え、意思を持って挑戦を続けています。
左:社会的意義への強い意欲はもちろん、長期的な時間軸で捉えていることも自然電力の特徴ですね。ウェルビーイングな経営に繋がるユニークな視点だと感じました。
本記事のリリース情報
自然電力株式会社People Experience部 部長 足立遼介のインタビューがWell-Beingを加速させるwebメディア『Wellulu』に掲載されました
足立 遼介さん
自然電力株式会社 People Experience部
左 達也さん
Wellulu編集部プロデューサー
齋藤 優里花さん
ライター