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文武両道は実現可能なのか?体力の向上が与える学業への影響【北海道教育大学・森田教授】

北海道教育大学の森田教授による研究は、中学生の体力や肥満傾向が学業成績にどのように関連しているかを明らかにした。この研究では、家庭環境や塾の利用などの外的要因を除外した上で、体力が男子中学生の学業成績に良い影響を与えることを示した。

今回の結果で明らかになった、運動やスポーツを通じた体力向上と学力向上の関係性について、子どもの運動習慣を身につけるポイントなどを森田教授に伺った。

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森田 憲輝さん

北海道教育大学岩見沢校 教授

専門は運動生理学・健康科学.北海道大学大学院医学研究科修了博士(医学)。2017年4月より現職。小学生・中学生の体力や運動習慣についてのスポーツ科学的な研究を実施。近年は小中学生の学力および認知機能に体力やスポーツがどのように関係するのかを探究している。

本記事のリリース情報
スポーツ・コーチング科学コース教員の研究に関する取材記事がWebメディアに掲載されました

スポーツが得意な生徒は「勉強が苦手」、それホント?

──今回の研究に取り組まれたきっかけを教えていただけますか?

森田教授:アメリカのチャールズ・ヒルマン教授など、体力と学力の関連性を発表した海外の研究を見て、日本でも検証してみようと思ったのがきっかけでした。当時、スポーツが得意な生徒は勉強ができないというイメージがまだ日本には残っていたので、その風潮と逆の考えである「体力があることが学力にも良い影響を与える可能性」について調査するようになりました。

──具体的にどのような方法で体力と学業成績の関係を調査したのでしょうか?

森田教授:北海道内の一般的な公立中学校の469名を対象に、1年から3年生までの2年間を追跡調査しました。体力と学業成績(国語・社会・数学・理科・英語の最低評定値と最高評定値)の変化を調べ、BMIや社会経済要因、放課後の勉強時間など他の要因の影響を統計学的に取り除いて分析しました。

──体力の評価の基準はどのように設定されたのでしょうか?

森田教授:体力の基準としては、スポーツ庁の新体力テストを利用しました。このテストは全国で実施されているもので8種目あります。多くの中学生は毎年これらのテストを受けるので、1年生から3年生までのデータを利用して体力の向上を測定しました。8種目には、握力、上体起こし、長座体前屈、反復横跳び、20mシャトルラン、50メートル走、立ち幅跳び、ハンドボール投げが含まれています。

── 研究結果はどのようなものでしたか?

森田教授:体力が向上すると苦手科目の学業成績が改善することが示されました。体力の向上がなぜ苦手科目にプラスの効果をもたらすのかについては今後明らかにしていく予定ですが、運動後の脳機能の高まりがひとつの要因として影響していると考えています。

中学1年生から中学3年生にかけて体力が向上すると、苦手科目の学業成績が改善(主要5教科の最低評定値が向上)することが示されました。この結果から、体力の向上をもたらすような習慣(運動部活動の練習など)は苦手科目の学業成績に好影響を与えると推測できます。

──苦手科目の学業成績は改善されたとのことですが、得意科目はどうなのでしょうか?

森田教授:元々成績が良い生徒は学力の天井効果により伸びにくい現象にありましたが、伸びしろのある生徒は体力の伸びと学業の伸びの関係性が見られました。しかし、女子中学生にはこれがあまり見られないという結果が出ています。女子で学力と体力の関係性が見られない理由はまだ明確ではありませんが、共同研究者の間でもこの点はよく議論されています。

運動習慣が脳機能の活性化につながる

──運動によって脳機能が高まるとのことですが具体的に教えてください。

森田教授:運動と脳機能の関係性について言及した論文は多く発表されています。脳機能の中でも、特に実行機能と呼ばれる抑制や作業記憶が運動後に高まり、これが学校の成績にも影響を与えると考えられています。ただ、脳機能の活性化は運動後の一時的なものなので、実行機能の向上は長くは持続しないと言われています。そのため、運動を習慣化して活性化状態を継続させることが必要とされています。

── ちなみに、学業成績以外でも運動が子供たちに与えるポジティブな影響はあるのでしょうか?

森田教授:運動はメンタルの健康にも良い影響を与えます。これは、レジリエンスの向上にも繋がるとされています。私は心理学者ではありませんが、運動をしている子供はレジリエンスが高いという話はよく耳にしています。

運動習慣を身につけるポイントとは?

──ゲームやYouTubeなどのデジタルメディアの使用が学業成績に与える影響についてはどう思われますか?

森田教授:デジタルメディアの使用時間が長いと、その他の活動に割ける時間が減少します。これには勉強時間や部活動などが含まれるため、結果として学業成績に影響を与える可能性があります。特にゲームの時間が長い場合、勉強時間が減少するため、学業成績が伸び悩むことが考えられるでしょう。

── デジタルメディアの使用時間を制限することで、学業成績の向上につながる可能性があるということでしょうか?

森田教授:はい、その可能性はあります。時間の使い方を見直すことで、学業成績にプラスの効果をもたらすことが期待できます。特にゲーム時間が長いということは、運動時間や勉強時間とトレードオフの関係にあり、結果として学校の勉強の成績は伸びにくいと考えられます。必ず成績が下がるとは言い切れませんが、そうなる可能性があることを考慮して子どもの運動習慣を大切にした方がよいと思います。

── 運動習慣の継続が重要とのことですが、継続するためのヒントはありますか?

森田教授:楽しい運動経験を小学校の時にたくさんすることが、継続するための一歩となります。競争にさらされない楽しい環境を提供するのも良いかもしれません。

──最後に、現在計画中の研究について教えていただけますか?

森田教授:現在は中学生と小学生の体力と学業成績の関係性を研究しています。子供たちの発達を追いかけ、どのような運動が役立つかを明らかにしたいと考えています。

編集後記:

今回の取材を通じて、私たちは体力と学業成績、そしてメンタルヘルスとの深い関連性についての洞察を得ることができました。森田教授の研究は、子供たちの発達における運動の重要性を浮き彫りにし、教育と健康の分野における新たな視点を提供してくれます。教授の言葉を借りれば、運動は単に体を動かすこと以上の意味を持ち、子供たちのレジリエンス、つまり逆境に対する心の強さを育む要素としても機能します。中学生と小学生を対象にした体力と学業成績の関係性を探るこういった研究がどんどん進歩して、子どもたちの文武両立が成り立つ環境が整っていくことを期待したいです。

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