ホテルや商業施設、オフィス、交通機関など「全世界6,000か所以上の空間」を香りでデザインしてきたアットアロマ。
その香りづくりを手がけるセンティングデザイナーであり、執行役員としてマーケティングやブランディングも担っている、武石紗和子さん。
「香りに、正解はない」。
そう語る武石さんの仕事は、「ただ、いい香りをつくる」ことではない。ブランドの背景や空間の役割、そこを訪れる人の感情までを丁寧に汲み取り、目に見えない体験を香りへと翻訳していく仕事だ。
目に見えない香りは、どのようにして人の記憶や気持ちに届くのか。武石さんの仕事観から、その奥深い世界を紐解いていく。

武石 紗和子さん
アットアロマ株式会社 センティングデザイナー/執行役員
いい香りをつくるのではなく、体験をデザインする

── まず、武石さんのお仕事内容を教えてください。センティングデザイナーとして香りを手がけながら、執行役員としてマーケティングやブランディングも担われていると伺いました。
武石さん:センティングデザイナーとしては、ホテルやアパレルブランドなど、企業やブランドの方々と一緒に、世界観を表現する香りをつくっています。
一方で、執行役員としては、マーケティングやブランディング、商品企画などを担当しています。こちらは、アットアロマというブランドそのものをつくり、育てていく仕事ですね。
香りをつくる仕事は、お客様のブランドづくりを香りでお手伝いすること。ブランドを育てる仕事は、アットアロマ自身の価値をどう届けていくかを考えること。
視点は違いますが、どちらも「香りを通して価値をつくる」という意味ではつながっています。
── お客様のブランドを香りで支える仕事と、アットアロマ自身のブランドを育てる仕事。その両方を担われているのですね。香りを「つくる」立場と、ブランドを「育てる」立場では、見ているものも違いそうです。
武石さん:そうですね。
香りをつくるときは、そのブランドの世界観や成り立ち、背景を深く理解していきます。「その空間に、いつ、どんな方がいるのか」まで、かなり具体的に想像していく作業です。
一方で、ブランドを育てる立場では、もう少し俯瞰(ふかん)して物事を見ています。
「アットアロマがこれからどうあるべきか」「ずっと愛されるブランドになるためには何が必要か」「アットアロマらしさとは何か」。そういったことを、少し引いた視点から考えていきます。
一点に深く集中して見ることと、全体を広く見渡すこと。その両方を行き来している感覚がありますね。
── お話を伺っていると、「香りをつくる」という言葉の印象が少し変わってきます。単にいい香りを生み出すだけではないということでしょうか?
武石さん:もちろん、いい香りであることも大切ですが、それだけではないんです。私たちがつくっているのは、香りそのものというより、その空間を訪れる方の「体験」に近いと思っています。
どれだけ香りがよくても、その空間になじまなければ意味がありません。空間との相性や、ブランドの世界観をどう表現するかをいつも大切にしています。
── 香り単体の良し悪しではなく、その場所で過ごす時間や、そこに残る印象まで含めて設計されているんですね。
一瞬で、その場の空気を変える香りに惹かれて

── もともとはIT企業にお勤めで、アットアロマの講座を通してアロマを学ばれたと伺いました。仕事として香りと向き合おうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
武石さん:もともとは、本当に趣味だったんです。
香りのある空間を体験したのは、たしかフィットネスジムだったと思います。香りのある中でヨガをする、というような空間があって。
それまで私にとって香りは、自分が疲れたときに使うものや、マッサージのときに取り入れるものというイメージが強かったですね。
でも、そのときは空間全体に香りが広がっていた。自分だけではなく、その場にいるたくさんの人が同じように心地よい体験をしているように感じ、そこにすごく興味を持ちました。
── 自分一人で楽しむものだと思っていた香りが、空間全体に作用していたことに気づくきっかけだったんですね。
武石さん:そうなんです。
「一つの香りで、同じ空間にいるたくさんの人の気持ちが、一瞬で変わることがある」そこに香りの魅力を感じました。それで調べていくうちに、アットアロマがスクールをやっていることを知って、学び始めたんです。
── 異業種から香りの世界に入ってみて、これまでのお仕事の経験が活きた部分や、反対に難しさを感じた部分はありましたか?
武石さん:これまでのマーケティングの経験も活かしながら関わることができたので、その点はよかったと思います。
ただ、学べば学ぶほど「香りって奥が深いな」と感じることが多く、原料の知識はもちろん、経験値も問われますし、組み合わせ一つで印象が変わります。
たとえば、鼻先で嗅ぐのと、空間に広げるのでもまったく違うんです。
香りに教科書はない

── 香りづくりは、知識を学ぶだけでは完結しない世界なのですね!
武石さん:そうですね。知識と合わせて、自分の感覚や経験が必要になります。
少し料理に近いところもあると思います。素材を理解して組み合わせてみても、「思っていたのと違う」となることがある。「教科書通りにやれば必ず正解にたどり着ける」というものではないんです。
── たしかに、店頭で「いいな」と思った香りが、家で使ってみると少し印象が違うと感じたことがあります。
武石さん:はい。同じ香りでも、人によって感じ方は違いますし、自分自身でも、その日の気分や体調によって感じ方が変わることがあります。
だから、香りには「これが正解」というものがないんです。ブランドの香りをつくるときも、明確な答えが最初からあるわけではありません。
── 正解がないからこそ、香りとどう向き合うか、デザイナー自身の感じ方も大切になってくるのですね。
武石さん:はい。だからこそ、どうつくっていくかを考えること自体が、難しくもあり、面白いところです。
香りのつくり方も、デザイナーによって本当にそれぞれです。正解がないからこそ、その人が何を感じ、どう表現するかが問われる。そこに、センティングデザインという仕事の奥深さがあると思っています。
「言葉にならない想い」を香りに翻訳する

── 正解がない中で、クライアントの想いやブランドの世界観を、どのように香りへと変換していくのでしょうか?
武石さん:企業の方とお話しするときは、いきなり香りの話をするわけではありません。
まずは、そのブランドについて詳しく教えていただくところから始めます。ブランドの歴史や成り立ち、そこで働いている方が自分たちのブランドをどう捉えているのか。
そういったお話を伺いながら、そのブランドらしさを表す言葉やキーワードを見つけていくんです。
── 香りを考える前に、まずはブランドの奥にある想いや価値観を、丁寧に紐解いていくのですね。
武石さん:そうです。
言葉だけでなく、空間そのものも見せていただきます。内装に木が使われているのか、ガラスが多いのか、どんな光が入るのか。そこにも、ブランドのこだわりが表れていると思うからです。
「ここが大切にされているポイントですね」と確認しながら、そのキーワードを少しずつ香りへ変換していく。そんな感覚に近いですね。
異なる空間を余韻でつなぐ

── これまでで、とくに印象に残っている制作事例はありますか?
武石さん:北海道の「UNWIND HOTEL & BAR 札幌/小樽」さまの香りを手がけたことが、とても印象に残っています。小樽と札幌にある、2つの施設の香りを同時につくらせていただいたのですが、外観も内装も、コンセプトもまったく違うんです。
ただ、同じブランドとして展開されているホテルなので、それぞれの個性を表現しながら、ブランド全体としての統一感も出したいというご要望がありました。
── それぞれの場所らしさを出しながら、同じブランドとしての印象も残す。とても難しそうです。
武石さん:そうですね。
最初は「同じ香りにしようか」という話もありました。でも、それぞれの施設で働いている方々にも参加していただくなかで、小樽には小樽の想いがあり、札幌には札幌の想いがあることが見えてきたんです。
そこで、小樽の施設は、レンガ造りの歴史的な建物や(バーでの)ワインサービス が印象的だったので、ワインを思わせるような「ワインのような芳醇さを感じるフローラル調の香り」にしました。

一方、札幌の施設は暖炉があり、ロッジのようなあたたかさを感じる空間だったので「シトラスやスパイスを効かせた、アットホームな印象の香り」にしています。

2つの香りは、最初に感じる印象はまったく違います。でも、最後にふっと残る香りの奥に、同じブランドらしさが感じられるようにしたかったんです。
小樽で過ごしても、札幌で過ごしても、「UNWIND HOTEL & BARで過ごした時間」として記憶に残るように。そのために、余韻の部分には共通する原料を使うことを大切にしました。

── 第一印象は違っても、最後に残る余韻の部分で、同じブランドとしてつながっていく……。香りだからこそできる、統一感のつくり方なのですね。
武石さん:香りづくりには、それぞれの施設で働いている方も、協力してくださいました。
香りの好みは人それぞれなので、「私はこっちの香りが好き」という話も出るんですが、話し合いを重ねていくうちに、最終的には「このホテルとして、どの香りがふさわしいか」というブランド軸での会話になっていきました。

── 香りを選ぶ過程そのものが、自分たちのブランドを見つめ直す時間にもなっていたのですね。
香りは主役ではなく、空間を支える存在

── 武石さんは、香りが空間やブランド体験にもたらす影響を、どのように感じていらっしゃいますか?
武石さん:香りは、人間の感覚の中でも「本能的な感覚」だと言われています。
記憶や感情に働きかけるものなので、「何の香りだろう」と考える前に、「心地よいな」と感じることができる。そこに香りの力があるのかなと。
── いい香りって、頭で理解するというよりは、自然とそう感じている気がします。
武石さん:はい。だからこそ、「またここに来たいな」「ずっとここにいたいな」と思える瞬間をつくることができるのだと思います。
旅行の記憶の中に香りが残っていることもありますよね。目に見えるデザインでは表現できない部分にも、香りは無意識に入り込むことができるんです。
── たしかに、香りは記憶ともよく結びついている印象があります。空間の香りづくりでは、どんなことを意識されているのでしょうか?
武石さん:まず、その空間に入った瞬間に「心地よい」と感じていただけることは、絶対条件だと思っています。
私たちが使っているのは、植物から得られる天然100%の香りです。森の中にいると、自然と心地よさを感じることがありますよね。その感覚の延長線上にあるものとして、香りを考えています。
だから、香りだけが前に出るのではなく、その空間を引き立てたり、支えたりする存在でありたい。あくまで「サポート役」として、その場所で過ごす時間がより心地よくなるように設計しています。
── 香りが主役として前に出るのではなく、空間を支える側にまわる……。
武石さん:香りは目に見えないので、「これがよかった」とはっきり言っていただけることばかりではありません。
でも、「この場所の香りがよかったから、また来ました」と言っていただけることがあります。それは、香り単体というより、空間との相性も含めて、全体を心地よいと感じていただけた結果なのだと思います。
目に見えない分、価値を理解していただくのは難しいこともありますが、そういう瞬間に出会うと「この仕事をしていてよかった」と感じます。
「香りに、正解はない」と気づいてから、変わった

── センティングデザインを始めたころと現在で、香りへの向き合い方は変わりましたか?
武石さん:変わりましたね。
始めたころは、「デザイナー」という存在への憧れもありましたし、「いい香りをつくらなければいけない」「ブランドを代表する香りだから、きちんとしたものをつくらなければ」という想いが強かったんです。
でも、続けていく中で、「香りに正解はない」と気づいていきました。
── 「正解がない」と気づいたことで、何が変わったのでしょうか?
武石さん:ブランドに寄り添うこと、人の暮らしに寄り添うこと。それができていれば、一つの答えになるのだと思えるようになりました。
センティングデザイナーとしての香りづくりは、自分の好きな香りや、自分の個性を表現する場ではないんです。そのブランドに寄り添い、世界観を香りで表現することが仕事です。
「香りをつくる」というより、ブランドや空間の体験に寄り添い、それを香りで支える。そういう感覚に変わっていきました。
何百ものサンプルをつくり、空間で確かめる

── 具体的には、どのようなところに成長を感じますか?
武石さん:センティングデザインを始めたころは、お客様にご提案したあとに、何度も調整を重ねることがありました。
1滴違うだけでも、香りの印象は大きく変わります。自分が表現したい香りにたどり着くまでに、サンプルを何十、何百とつくることもありましたね。
今でも新しい素材が入ると数多く試すこともありますが、少しずつ「表現したい香り」と「使うべき原料」が整理されてきました。
── 何百ものサンプルをつくっていると、どれがよいかわからなくなりそうです(笑)。
武石さん:香りをつくるときは、ムエットという試香紙で香りを確かめていきます。ただ、紙で嗅ぐ香りと、空間に広げたときの香りはまったく違うんです。
ですので、ディフューザー(芳香器) を使って実際に空間に香りを広げて、その状態でどう感じられるかを確かめます。時間はかかりますが、実際にお客様が体感する形に近い状態で確認したいんです。
捨てられるゆずの皮にも、物語がある

── デザイナーとして、香りの背景にある土地や作り手の物語まで大切にされていると伺いました。その考え方は、どのような経験から生まれたのでしょうか?
武石さん:もともとアットアロマには、「ソーシングストーリー」といって、原料の背景を大切にする考え方があります。
代表も自ら世界各国をまわり、生産者の方と話したり、植物が育っている環境や、香りが蒸留される過程を見たりしながら、信頼できる原料であることを確かめています。
そうした原料の情報を社内で共有しながら、香りをつくっていくので、精油をただのオイルとして見るのではなく、その先にある土地の背景や、生産者の方の想いまで汲み取りながらつくっていく。そういう姿勢が、ブランド全体にあります。
── 原料そのものだけでなく、その香りが生まれる場所や人のことまで知ったうえで、香りを扱っているのですね。武石さんご自身も、産地に足を運ばれたことがあるのですか?
武石さん:はい。
たとえば、高知のゆずの産地に行ったことがあります。ゆずは果汁を搾ったあと、皮が余って捨てられてしまうことがあるんです。その皮を使って蒸留してみようという取り組みに、生産者の方と一緒に立ち会わせていただいたことがあります。
それから、和歌山では、粒の大きい「ぶどう山椒」の産地を訪れました。ちょうど収穫作業をされていたときで、畑にいると、風が吹くたびにふわっといい香りがするんです。
── 実際にその土地に立って、植物が育っている空気ごと感じる。精油だけを見ているのとは、まったく違う体験になりそうです。
武石さん:そうですね。
最終的に原料として届く精油は、香りがぎゅっと凝縮されたものです。でも、その香りの中にある爽やかさや奥行きを、産地で見た景色や、そこで感じた空気と合わせて理解していくことが大切だと思っています。
会社としても、研修で生産現場に行ったり、生産者の方のお話を聞きに行ったりしています。私たちは蒸留所を持っているわけではありませんが、蒸留器を積んだ「モバイルアロマラボ」があり、産地まで行って、その場で蒸留することもあるんですよ。
香りの背景を知ることで、原料をどう使うか、その向き合い方も変わっていくんです。
正解がないからこそ、自分の感覚を育てていく

── 香りのように感覚的で、言語化が難しいものを、次の世代へ伝えていくうえで、大切にされていることはありますか?
武石さん:本当に正解がないので、教え方も難しいところがあります。
同じ人が同じ香りを嗅いでも、そのときの気分によって感じ方が変わることがあるんです。そのうえで、香りと向き合うときには、2つのことを大切にしようと伝えています。
一つは、その香りがどんな香りなのかを知ること。もう一つは、その香りに対して、自分がどう感じたのかを大切にすることです。
── 知識として香りを覚えるだけではなく、「自分はどう感じたか」まで見つめることが大切なのですね。
武石さん:そうです。
同じ香りを嗅いでも、人によって感じ方や意見は違います。だからこそ、「自分はどう思ったのか」を積み重ねていくことが、デザイナーとしての経験につながっていきます。
正解がない分、自分の中に芯がないと難しい。だから、精油の勉強をしたり、ブレンドを何度も繰り返したりしながら、自分の感覚を育てていくことが大切だと思っています。
癒やしだけではない。香りで気持ちを「オン」にする

── ここまで、武石さんが香りと向き合ううえで大切にされていることを伺ってきました。私たちが日常で香りを取り入れるとき、どのような使い方ができるのでしょうか?
武石さん:私自身、最初はアロマというと、癒やしやリラックスのイメージが強かったんです。
でも、いろいろなブランドや施設の香りをつくっていく中で、香りの目的は本当にさまざまだと感じるようになりました。リラックスするためだけではなく、どちらかというと気持ちを「オン」にするような使い方もあるんです。
── 気持ちを落ち着けるものという印象がありましたが、気持ちを高める使い方もあるんですね。
武石さん:そうです。香りを「スイッチ」として使っていただくと、日々の生活にも取り入れやすいと思います。
朝、目覚めたあとに、活動モードへ切り替えるスイッチ。プレゼン前に気持ちを整えるスイッチ。仕事で疲れた頭を、家に帰ってプライベートモードに切り替えるスイッチ。
そうしたふとした時間に香りを挟み込むことで、自分の気持ちも切り替わっていくんです。
── たとえば、やる気を出したいときは、どんな香りが合うのでしょうか?
武石さん:すっとした印象の香りや、エネルギッシュな香りがおすすめです。
柑橘系は明るい印象がありますし、レモングラスはアクティブな雰囲気を持つ香りです。ローズマリーやユーカリのような、すっとした香りも、気分を切り替えたいときに取り入れやすいと思います。
── 香りで、「なりたい自分」に近づくような感覚ですね。
武石さん:そうですね。香りを選ぶことは、「今の自分はどんな気分だろう」と立ち止まるきっかけにもなると思っています。
たとえば、今日は少し疲れているから落ち着く香りを選ぶ。これからがんばりたいから、すっきりした香りを選ぶ。そんなふうに香りを取り入れることで、自分の気持ちに意識を向けることができるんです。
人と自然を、香りでつないでいく

── 香りは、空間を演出するものでもあり、一人ひとりが自分の気持ちに向き合うきっかけにもなるのですね。そうした香りの可能性を、アットアロマとして今後どのように広げていきたいですか?
武石さん:アットアロマは、天然100%の香りを扱い、原料の背景にあるソーシングストーリーも大切にしているブランドです。
だからこそ、「人と自然をつないでいくブランド」であることは、これからも大切にしていきたいと思っています。
ホテルや商業施設のように、たくさんの方が訪れる空間はもちろんですが、ご自宅やプライベートな暮らしの中にも、もっと香りを取り入れていただきたいですね。
忙しい毎日の中で、今の自分の気持ちにふっと気づいたり、気持ちを切り替えたりするきっかけとして、香りが寄り添えたらうれしいです。
── 施設や空間だけでなく、日々の暮らしの中にも、香りの可能性を広げていきたいということですね。武石さんご自身は、これからどんなことに挑戦していきたいですか?
武石さん:いろいろな方と一緒につくり上げる香りを、もっと広げていきたいです。
香りについて意見を聞き、まとめていくのは、もちろん簡単なことではありませんが、その過程で出てくる言葉や、クライアントの方々と一緒にブランドについて考える時間は、とても面白いんです。
関わる方々が、「自分たちのブランドって、こうなんだな」と再認識したり、そのブランドをより好きになったりする瞬間があります。そこに立ち会えることが、すごく楽しいんですよ。
香りのデザインをしながら、ブランディングにも携わっている。その両方があるからこその面白さを、これからもっと追求していきたいと思っています。
── 最後に、武石さんにとって「香り」とは、どのような存在なのか教えてください。
武石さん:香りは、目に見えないからこそ、考えるより先に心に届くものだと思っています。自分の気持ちに気づかせてくれたり、なりたい自分に切り替えてくれたりする。暮らしに寄り添う存在でもあります。
「その香りを通して人と自然を、そして人と人をつないでいけたら」。それが、私がやりたいことですね。

Wellulu編集後記
香りをつくる仕事と聞くと、いい香りを生み出す感性の仕事を想像していました。けれど武石さんのお話から伝わってきたのは、自分の好みを表現するのではなく、ブランドや空間、そこを訪れる人の体験に寄り添い続ける姿勢でした。
「香りに正解はない」からこそ、感性だけに頼らず、目に見えないものに丁寧に向き合い続ける姿勢が大切なのだと感じました。
ブランドの歴史や空間のこだわりを聞き取り、何百ものサンプルをつくり、実際に空間で確かめる。目に見えない香りを扱うことは、言葉にならない想いをすくい上げることでもあるのだと思います。
武石さんのお話を伺いながら、香りとは、ただ空間を満たすものではなく、人の記憶や感情にそっと残っていくものなのだと感じました。
センティングデザイナーとして、空間やブランドの世界観を表現するシグニチャーセントを手がける。空間や暮らしに寄り添う香りを通じて、心地よさや新たな体験価値を創出している。
また、アットアロマの執行役員としてマーケティング・ブランディングを統括するとともに、香りの可能性を広げる活動や次世代人材の育成にも取り組んでいる。