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【ブランド責任者のB面】ブランドと過ごす時間が価値になる。B.Aが見ているのは「肌」だけではなく「人そのもの」

「やってみないとわからないから、まずはやってみる」。そう話すのは、化粧品メーカー・ポーラの最高峰ブランド「B.A開発チーム マネージャー」の田代恵実さん。

約20年にわたってものづくりに携わり、産休・育休を経て、憧れのブランドを任された。「私がB.Aを?」という驚きから始まった日々。その歩みを支えてきたのは、変わることを恐れず、本質を見失わず、問い続ける姿勢だった。

「違う」と思えば立ち止まり、自分の感覚を信じて決断する。最高峰ブランドを育てる、その仕事観に迫る。

田代 恵実さん

ブランドクリエイティブ部

約20年の商品企画キャリアを持ち、現在はB.Aブランドの企画開発チームマネージャーとして全体を統括。

ポーラにおいてもっともB.Aに精通する人物の一人。

目次

「私がB.Aを?」衝撃の人事異動とプレッシャー

── B.Aは、ポーラの最高峰ブランドとして知られています。そのブランドを担当すると聞いたとき、率直にどんなお気持ちでしたか?

田代さん:「私がB.Aを?」という気持ちでした。最初に内示を受けたときは、あまりの緊張に思わず「心臓が口から出そうです」なんて言ってしまったくらい、本当に驚きましたね(笑)。

── かなりの衝撃だったんですね(笑)。

田代さん:私は、仕事であまりプレッシャーを感じるタイプではないんですが、マネージャー経験も十分ではない中で、「マネージャーとしてB.Aを任せる」と言われたときは、さすがに身が引き締まりました。

B.Aのことを考えすぎて、夜中の2時に目が覚めてしまう日もあったりするくらい、私には衝撃の人事異動だったのだと、今、振り返ってみて感じます。

── B.Aはそれくらい特別な存在ということですね。

田代さん:そうですね。私は新卒で入社してから、いろいろな部署を経験しながらずっと「商品開発」に関わってきました。そのときに、B.Aの商品づくりに関わる機会もあったんです。

──正式に異動する前から接点はあったんですね!

田代さん:弊社にはたくさんのブランドがあり、それぞれに強みや特徴がありますが、中でもB.Aの話になると少し空気が変わるのをその頃から感じていました。

「B.Aという冠が付くなら、これではダメだよね」のような会話が自然と交わされていて、B.Aの話になると社員の目の色が変わる。それくらい、ポーラを象徴するブランドなんです。

だから、そのチームの中心で仕事をすることは、本当に誇らしいことでしたし、「とうとう自分がここに来たんだ」という感覚もありました。

ものづくり一筋20年。その積み重ねがB.Aにつながった

── ずっと商品開発に携わってきたとおっしゃっていましたが、具体的にはどのようなキャリアを歩んでこられたのですか?

田代さん:厳密にはスキンケアやメークなどのいわゆる化粧品開発をしていたわけではなく、健康食品やエステ、美容研究など、いろいろな部署で経験を重ねるなかで、一貫して「ものづくり」の仕事をしていたという感じです。

お客様にとって、どのような商品が喜ばれるか、求められているかをずっと考え、形にしてきました。

途中、産休・育休で現場を離れた時期もあったのですが、復帰してからもものづくりに関わる仕事は、ずっと続けてこられました。

実は、B.Aのブランドマネージャーの話は、育休から復帰してまだ2年ほどたったころの、係長試験に合格したばかりというタイミングだったのです。だからこそなおさら、「本当に私でいいの?」という驚きがありました。

── まだお子さまが小さい中での大きなチャンスとチャレンジだったのですね! 迷いや不安はありませんでしたか?

田代さん:もちろん、「どうしよう」とは思いましたよ(笑)。でも、「やってみないと分からない」という気持ちのほうが強かったですね。

どんな仕事も、一度やってみないと見えない景色があると思っているので、「断る」という選択肢は、最初からありませんでした。

── B.Aのブランドマネージャーとして奮闘する中で、家庭や子育ての両立はかなり大変だったのではないでしょうか?

田代さん:正直、大変じゃないと言えば嘘になります(笑)。平日は仕事で手一杯なので、休日は思いっきり子どもとの時間に充てる、とメリハリをつけるようにしています。そんな中で意識しているのが読書です。

B.Aは「思想」を持ったブランドです。だから、「今の時代、人はどんな価値観で生きているのか」「これから必要とされる考え方は何か」といったことを知るために、本を読みます。

── どのようなジャンルの本を読むんですか?

田代さん:好きなジャンルを固定せず、いろいろと読みます。あと、答えを探すために本を読んでいないというか……。読んでいるうちに新しい発見や気づきを得て、「もしB.Aだったら、どう考えるだろう」というふうに自然と仕事につながっているような感じです。

著者の方の考えを自分の中で咀嚼して、ブランドの思想と重ね合わせていく。きっと、私の中でそういう時間を持てていることが、ものづくりの土台になっているのだと思います。

最近読んだ中で印象的だったのは、『人間には12の感覚がある 動物たちに学ぶセンス・オブ・ワンダー』です。「五感」というのは、すごく古い時代にまとめられたもので、人間の感覚は「12種類ある」という説も「30種類ある」という説もあったりする、という内容の本です。

ものづくりを続けるには感性を磨くことがとても大事だと思います。「私はこう見えるけど、周りの人はどういうふうに見ているんだろう?」など、いろいろな感じ方があることをもっと知りたいし意識しなければ、と気づきましたね。

B.Aは「肌」だけではなく「人そのもの」を見ている

── 私は今日お話を聞くまで、正直に言うと「B.Aは高級な化粧品」というイメージでした。でも田代さんのお話を聞いていると、それだけではない気がしてきました。

田代さん:B.Aは化粧品ブランドではありますが、肌だけを見ているわけではないんです。もちろん化粧品なので、肌を美しくすることは大前提です。でも、その先には「その人がどう生きたいのか」「どうありたいのか」という問いがあります。

だから私たちは、肌だけではなく「人そのもの」を見ている感覚なんです。B.Aは「エイジングケアシリーズ、ポーラ最高峰ブランド」として最先端の技術を集結させ、肌の悩みに寄り添うお手伝いをします。

しかし、本当に重要なのは、「その人がどう自分らしく輝けるのか」「B.Aがその支えになれるのか」だと思っています。

── 「化粧品を作る」というより、「生き方に寄り添う」という感覚でしょうか?

田代さん:そうですね。B.Aは、流行を追いかけるブランドではありません。時代は変わりますし、人の価値観も変わります。

でも、「人を見つめる」という思想だけは変わらない。それがB.Aらしさだと思っています。

「よい商品」と「よいブランド」は、違う

── 商品開発とブランドマネジメントでは、考え方や視点も変わりましたか?

田代さん:はい、違うと思います。ずっと商品開発をやってきた中で、20代の頃は「ヒット商品を作りたい」という思いが強かったんです。そうなると、どうしても機能性やスペックに目が向きます。

でも今は、それだけではブランドにはならないと思っています。その商品が世の中にどう役立つのか。その人にとってどんな意味を持つのか。そういうことを、大切にするようになりました。

── 機能や性能だけではなく、その商品を通して得られる体験や価値まで含めてブランドなんですね。

田代さん:そうですね。たとえば音楽も、ただ聴くだけならスマートフォンでも十分です。でもレコードを選ぶ人は、音楽だけを楽しんでいるわけではありません。レコードを棚から取り出して、針を落として、その時間を味わう。体験そのものに価値があります。

ブランドも同じだと思うんです。商品そのものだけではなく、それを手に取る時間や、その商品と過ごす日々まで含めて価値になる。

そういう世界観を届けられるブランドでありたいと思っています。

愛着は持つ。でも、執着はしない

── ブランドを育てるというお話を聞いていると、「変えてはいけないもの」と「変えてもいいもの」を見極めることが、大切かもしれないと感じました。

田代さん:私は、その線引きがすごく大事だと思っています。変えてはいけないのは、ブランドが大切にしている「思想」です。

一方で、その思想を伝えるための表現は、時代に合わせて変わっていい。むしろ、変わらなければ伝わらなくなることもあります。

── ということは、B.Aのブランドカラーをがらりと変えるような、そんな斬新な改革もブランドを長く続けるためには必要ということでしょうか?

田代さん:その通りです。それが正解だと感じたら、ブランドカラーを変えることも検討しなければいけません。

もちろん、私は今のB.Aの黒が大好きです。素材や形、光の当たり方によって表情を変えながらも、B.Aの世界観をしっかり表現できていると思っています。でも、「100年後もこの黒なのか」と考えたら、それは分かりません。

今すぐ変えたいという話では決してありませんが、「B.Aといえば黒」という表現を守ること自体が目的になってしまったら、本来守るべきものを見失ってしまう。守るべきなのはブランドカラーではなく、その奥にある思想です。

表現は時代に合わせて変わってもいい。でも、「人を見つめる」というブランドの根っこだけは変えてはいけない。私はそう考えています。

── 根っこを大切にするという考え方は、ブランドづくりだけではなく、仕事全体にも通じているように感じます。

田代さん:そうかもしれません。私は、「愛着は持つ。でも、執着はしない」ということを大切にしています。時間をかけてつくった商品にも、デザインにも、もちろん愛着はあります。

でも、「自分がつくったから」「今までこうだったから」という理由だけで守ろうとしてしまうと、ブランドは未来へ進めません。

ブランドは、私のものではありません。これから先の時代を生きる人たちへ受け継がれていくものです。

だからこそ、「今の表現が本当に未来にもふさわしいのか」を問い続けたい。その結果として表現が変わるのであれば、それはブランドが進化しているということだと思います。

変わることを恐れない。B.Aが選んだ挑戦

── 先ほど聞いた「やってみないと分からないから、まずはやってみる」という言葉がとても印象に残っています。あの一言は、田代さんご自身の生き方でもあり、B.Aというブランドにも通じているように感じました。

田代さん:そうかもしれません。B.Aは、「人はどう生きるべきか」を問い続けるブランドなんです。その考え方が一番表れたのが、2025年の新しいB.Aへの刷新でした。

それまでのB.Aは、四角くてシャープで、どちらかというと力強さを感じさせるデザインでした。それを、一切直線のないデザインへと変えたんです。

「今までの方が好きと言われるかもしれない」「受け入れてもらえなかったらどうしよう」と、発売までずっと考えていたし、不安でした。それでも、自分たちが信じるチャレンジをしようと思ったんです。

結果としては、従来のファンのみなさまにも新しいB.Aを受け入れていただき、さらに、新しい層にも発信できる強さが備わりました。

違うと思えば、引き返す勇気を持つ

── ここまでB.Aというブランドの在り方や、変化を恐れない姿勢についてお伺いしてきましたが、田代さんご自身が仕事をする上で大切にしているこだわりやマイルールがあれば教えてください。

田代さん:私は、一度決めたことでも、「違う」と思ったら引き返します。

たとえば、開発がかなり進んでいたとしても、「これじゃなかった」と思ったら、一度止めて、「ごめん」と謝って、一からやり直すこともあります。

AIが拾えない、「一人の感覚」を信じる

── 「違う」と判断する、その感覚はどこから生まれてくるのでしょうか?

田代さん:私は、マーケティングだけでは見えてこない、「一人の人間の感覚」をすごく大事にしています。AIは大好きですし、仕事でもたくさん活用しています。でも、AIにまとめてもらった議事録だと、その場で誰かが何気なく言った一言や、「そのアイデア、おもしろいね」とみんなが盛り上がった空気まで伝わりづらいんですよね。

ブランドを動かすのは、そういう偶然生まれた感覚だったりもするので、それを取りこぼさないように意識しています。

── 最後の決め手になるのは、データではなく人の感覚なんですね。

田代さん:そうなんです。B.Aを担当するようになってから、その感覚はますます強くなりました。

── これは違う、と感じてからの決断で迷ったり悩んだりはしないのですか?

田代さん:決断はすごく早いですよ。5分くらいで決めることもあります。私がチームによく言うのは、「担当者がよいと思わなきゃ、よくないんだよ」ということです。

みんな真面目なので、「こういう理由があって、このデザインで……」と説明してくれるんですが、私は最後に「あなた自身は、どれが一番好きなの?」と聞くんです。

「これです」と迷わず言えるものには、その人の想いが宿っています。でも、本当に人の心を動かすのは、「好き」という純粋な感覚なのかもしれません。私は、その感覚を信じたいと思っています。

人の可能性を広げるブランドへ

── 今日お話を伺っていて、B.Aは単なる高級化粧品ではないと感じました。ここまでのお話と重複する部分もありますが、田代さんにとってB.Aとはどんなブランドなのでしょうか?

田代さん:B.Aには「人の可能性を広げるブランド」という考え方があります。ブランドが可能性を与えるということではなく、その人自身の人生や感受性、可能性が広がっていく。そんな存在になれたらいいなと思っています。

だから私は、「こう感じてください」と押し付けたくないんです。一人ひとりが、自分なりの意味や価値を見つけてくださることが、一番大切だと思っています。

見えないところまで、美しくありたい

── その考え方は、商品の細部にも表れているのでしょうか?

田代さん:そうですね。たとえば、香りも「どんな香りにするか」ではなく、「どんな景色を感じてもらいたいか」から考えます。

一日の中の短い時間でも、自分と向き合えるような景色。そういう体験から逆算して、香りを作っていくんです。

容器も同じです。B.Aの黒は、実は真っ黒ではなく、透明感を少しずつ調整して「深みのある黒」を作っています。手に取ってくださるお客様は、もしかしたら気づかれないかもしれない。

それでも、B.Aらしさの小さな積み重ねを表現していくことでブランドとしての魅力も増していくと思います。

── 最後に、これからもB.Aというブランドを育てていく中で、変わらず大切にしていきたいことは何でしょうか?

田代さん:先ほど話したように、B.Aは化粧品を通じて「人の可能性を広げるブランド」でありたいと思っています。

だから、機能だけを追いかけることはしたくないですし、「こういうふうに感じてください」と決めつけることもしたくない。その人らしく感じて、自分らしい時間を過ごせること。そのきっかけになれたらいいなと思っています。

そして、そのためには、私たち自身も立ち止まらずに問い続けなければいけない。「今の時代に、本当に届けたいものは何だろう」「このブランドだからできることは何だろう」。

そうやって考え続けることが、これからも私たちの仕事なんだと思っています。

Wellulu編集後記

田代さんは、子育てをしながらブランドマネージャーという大きな役割を担い、「やってみないと分からない」と新しい挑戦を受け入れてきました。一方で、「違う」と思えば途中でも立ち止まり、自分の感覚を信じて方向転換する。その姿は、柔軟でありながら、芯の強さも感じさせます。

私自身も同世代で子育てをしながら仕事を続ける一人として、その仕事観やキャリアの歩み方には共感することばかりでした。そして何より、「挑戦することをやめない」という姿勢がとてもかっこよく、自然と背筋が伸びる思いがしました。

取材の日、田代さんは黒い装いでいらっしゃいました。「気づいたら黒の服ばかり買ってしまうんです!」と明るく笑って話される姿が、とてもチャーミングでした。ブランドカラーを身にまとうことが、特別な演出ではなく、日常になっている。

その何気ない一言からも、B.Aというブランドへの深い愛情が伝わってきます。こうしたお人柄もB.Aのブランド背景の魅力の一つなんだろうと感じた取材でした。

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