「たった一人の悩みを解決する」──その理念を掲げ、化粧品ブランド「マナラ」を育ててきた株式会社ランクアップ代表・岩崎裕美子さん。
広告代理店勤務時代に、寝不足や不規則な生活が原因で深刻な肌荒れに悩み、「自分が本当に納得できる化粧品をつくりたい」と37歳で起業。
「そんな商品は売れない」「化粧品会社はやめたほうがいい」と言われ続けても、信念を曲げることなく生み出したのが、ブランドの代表商品「ホットクレンジングゲル」だ。
ブランド誕生までの試行錯誤や舞台裏に迫りながら、岩崎さんの仕事観を通し、ブランドを育てる本質をひもとく。

「自分が納得できる化粧品をつくりたい」が創業の原点

── 今日はブランドのお話だけでなく、岩崎さんご自身についても伺えればと思います。まずは、株式会社ランクアップを立ち上げた原点から教えてください。
岩崎さん:創業の原点は、自分自身の悩みでした。私は37歳で起業したのですが、その前は広告代理店で働いており、毎日深夜まで仕事をする生活が続いて、生活も不規則でした。
20代の頃はミスコンテストに選ばれることもあったのに、35歳のころには45歳くらいに見られるほど肌が荒れてしまって。そのときは本当にショックでした。
── 寝不足が続くとくすみやむくみも出やすくなって、私も老けて見られます……ショックですよね。
岩崎さん:そうなんです。私の場合は、久しぶりに会った昔からの友人に「どうしたの」と驚かれるくらい本当にボロボロだったんです。
なんとかしたくていろいろな化粧品を試しましたが、自分が納得できるものには出会えず。それなら「自分でつくろう」と思ったのが、起業のきっかけでした。
「努力すれば未来は変えられる」と知った日

── 自分に合う化粧品をつくるために起業されたということでしたが、もともと経営者を目指していたのでしょうか?
岩崎さん:実は社会人になってから、「いつか社長になろう」とは思っていたんです。
そのきっかけをくれたのが高校時代の先輩で、私が短大を卒業して地元・北海道の旅行会社に勤めていた頃、その先輩がオープンカーに乗ってやってきたんです。
一緒に高校に通っていた身近な人が、経営者として大活躍している。「特別な環境や学歴がなくても、自分の力で人生を切り拓けるんだ」と、とても衝撃を受けました。
── オープンカーで現れたんですか⁉ それは強烈なインパクトですね(笑)。
岩崎さん:びっくりしましたよ(笑)。でも、そのときに感じたのは、成功している人は自分とは違う世界の人だと思い込んでいたけど、そうじゃないかもしれない、ということなんです。
その先輩は同じ地域で育った、とても身近な存在だからこそ、「私も社長になれるかもしれない」と思えたんです。
同時に、その先輩が誰よりも努力している姿を知って、「努力すれば未来は変えられる」「挑戦しない理由を、自分でつくっていただけだった」ということにも気づいたんです。それで旅行会社を辞めて東京の広告代理店へ転職し、営業を1から学びました。
社長になるまで信じ続けた

── 広告代理店では営業本部長まで務められていますが、順調なキャリアだったのでしょうか?
岩崎さん:いえ、決してそんなことはありません。入社して5年ほどは、思うように結果が出ませんでした。ようやく成果が出始めた頃、上司が独立することになり、「一緒にやらないか」と声をかけていただいたんです。
せっかく声をかけていただいたし、挑戦する意味でもその上司についていくことにしました。それが29歳のときです。
でも、出社してみてびっくり。オフィスは雑居ビルの一室にあり、隣はカラオケスナック。鳩よけがあるのにバルコニーに鳩が来ていて、面接に来た人が怖がって帰っちゃうような場所だったんです(笑)。
── それは……ハードな環境ですね(笑)。
岩崎さん:そんな場所で、しかも社員が少ないから、毎日夜中まで働く日々。営業だけじゃなく、採用も経理も全部やっていたんです。「明日の給料は、自分で稼がなきゃいけない」という感覚でした。
── 「社長になりたい」という想いは、その間もずっと持ち続けていたんですか?
岩崎さん:はい、もちろんです。22歳で社長になると決め、転職して東京へ。そこからひたすら広告代理店の営業を続けながら29歳でもう一度転職。そして、ランクアップを立ち上げたのが37歳のときです。
つまり、社長になるまで15年かかったんです。いろんなことがありましたが、「いつか必ず」と想い続けていたからこそ、実現できたんだと思います。
「同じものをつくれば売れる」。その常識に、ずっと抗ってきた

── 会社を立ち上げて、まず最初に始めたのは何でしょうか?
岩崎さん:化粧品の試作品づくりです。とはいえ、右も左もわからない状態。広告代理店時代に化粧品メーカーを担当していましたが、実際に商品をつくる知識はありませんでした。
そこで、市販の化粧品を買って製造元を調べ、一社ずつ電話をかけて、協力してくださる会社を探したんです。
── 本当にゼロからのスタートだったのですね。
岩崎さん:営業出身なので、テレアポ自体は得意なんですよ(笑)。それよりも、一番苦労したのは、「何を大切にして商品をつくるか」を理解してもらうことだったんです。
「あなたの人生最高傑作」をつくってください

── 岩崎さんが商品づくりで大切にしたいと考えていたのは、具体的にどういうことですか?
岩崎さん:私は「売れる商品」ではなく、「自分が本当に納得できる商品」をつくりたいと考えていました。
ところが、研究者の方に相談すると、最初に聞かれるのは「原価はいくらですか」ということだったんです。私がつくりたいのは、原価ありきの商品ではありません。
本当に肌がきれいになるものをつくりたいと思っていて、そのための最高の処方をプロに考えてほしかったんです。
だから研究者の方には、「あなたの人生最高傑作をつくってください」「ご家族にも安心してすすめられるものにしてください」とお願いしました。
── そんなふうにお願いされたら、「絶対にいいものをつくりたい」と思いますよね。
岩崎さん:それが…‥‥。当時は、「有名ブランドを参考にすれば売れる」「同じようなものをつくればいい」とアドバイスされてしまい、思うようにはいきませんでした。
── 最初はうまくいかないところからスタートだったんですね。
岩崎さん:そもそも、私は化粧品業界では実績のない新参者でしたから、「本当に売れるのか」と信用してもらえていなかったのだと思います。いくら想いを伝えても、「そんな商品は売れない」「化粧品会社はやめたほうがいい」と言われ続けました。
それに対して私は、「販売の責任は私が持ちます。だから、最高の商品をつくってください」と諦めずに伝え続けました。商品づくりと販売は、それぞれのプロがいる。だからこそ、お互いが自分の仕事に全力を尽くせばいいと思っていたんです。
── 想いを伝え続けることで状況は変わっていきましたか?
岩崎さん:なかなか難しかったです。相変わらず、「有名ブランドを参考にした方が売れますよ」「まずは市場で売れている商品をベンチマークしましょう」と断られることばかり。
既存商品の延長線上で商品を開発しても、それでは本当にお客様の悩みを解決する商品は生まれないと思いました。
── 言われてみれば、いろんな業界にありそうな話ではありますね。
岩崎さん:流行を追いかけること自体は、多くの業界で当たり前になっているとは思います。1つ流行ったら追いかけるように、同じようなものが世の中にあふれていく。でも私は、「その製品で肌が美しくなるなら、そもそも独立していないですから」っていう気持ちだったんです。
要は、それでは「本当にお客様の悩みを解決する商品は生まれない」と思っていました。
「やめたほうがいい」と何度言われても折れなかった

── 化粧品業界に参入するのは、想像以上に高い壁があるのですね。
岩崎さん:そうですね。私のように「化粧品をつくりたい」と相談に来る人はたくさんいるそうです。でも、その後も継続して商品をつくり続ける人は、100人に1人くらいだと聞きました。
だから、「そんな商品は売れない」「悪いことは言わないから、化粧品会社はやめたほうがいい」というのは、ある意味アドバイスだったのだと思います。新参者の私を心配してくださっていた面もあったのかもしれません。
── そういった状況の中で、ようやく共感してくれる相手に出会えたんですね。
岩崎さん:はい。最後に出会ったのが、アトピーに悩む方のための石けんをつくっていた会社です。そこの社長さんが、「私も、本当に女性の肌をきれいにする化粧品をつくりたかった」と言ってくださったんです。
そして、気づけば夕方まで話し込むほどに意気投合。「ものづくりとは、こういうことなんだ」と確信できた瞬間でした。
売上が10億円落ちた日、お客様に救われた

── そういった出会いによって、看板商品のホットクレンジングゲルが生まれたんですか?
岩崎さん:そうなんです。私は、メイクはしっかり落としたい。でも、肌への負担はできるだけ抑えたいと考えていました。
そこで生まれたのが、「美容液で洗うクレンジング」という発想です。その発想から誕生したマナラの「ホットクレンジングゲル」は、発売以来、おかげさまで多くのお客様に支持していただきました。
ところがしばらくして大変なことが起きたんです。
── 何が起きたのですか!?
岩崎さん:似たようなクレンジング商品が、次々と登場したんです。しかも、価格も私たちの半額程度の安いものまで登場しました。「こんなに似たような商品が出てきて、大丈夫かな」って社員みんなで、すごく不安になりました。
不安なときこそ「攻めの姿勢」を忘れない

── その不安に、どう立ち向かったのでしょうか?
岩崎さん:「ホットクレンジングゲルを攻める会」という対策チームを社内で立ち上げて、「どうすればもっとよくなるか」を話し合いました。他社を気にするんじゃなくて、自分たちの製品をもっと進化させようと考えたんです。
── 具体的には、どんなことを改善していったのでしょうか?
岩崎さん:例えば、お客様から「もう少し柔らかくしてほしい」「もっと使いやすくしてほしい」といったご要望をいただいたので、それを商品設計に反映しました。
また、新しい美容成分が登場すれば、その効果を検証しながら処方も見直し、そうやって2〜3年ごとにリニューアルを重ね、常に最新・最高の商品をお届けできるようにしてきました。
「潰れないで」の声に、泣きそうになった

── 常に新しい価値を届けることで、課題を解決していったんですね!ほかにも大変だった出来事はありますか?
岩崎さん:実はコロナ禍で売上が10億円も落ちたんです。最初は理由がわからなかったのですが、調べてみると「メイクをしなくなった」ことが原因だということがわかりました。
そうするとクレンジングを使わなくなるから、売上も下がっていったんですね。
── 確かに、私もメイクはほとんどしなくなった記憶が……。
岩崎さん:そんなコロナ禍の最中に、ちょうど15周年を迎え、オンラインイベントを開催したんですね。
参加してくださったお客様からは「マナラのおかげで肌がきれいになりました」「マナラさん、潰れないで」と、本当にたくさん声をかけていただいたんです。
当時は私も副社長も相当落ち込んでいたんですが、社員の前ではそんな顔を見せられなくて。だから、お客様に励まされたときは、本当に泣きそうになりました。
── 「潰れないで」という言葉は、胸に響きますね。
岩崎さん:私たちが目指したいのは、売上至上主義の会社ではなく、困ったときに応援したくなる会社。
例えば、行きつけのお店が大変だったら「応援しよう」って思いますよね。そんなふうに、「マナラだから買う!」と言ってくださるお客様を増やしたいと思いました。
社員は私ではなく、お客様を見ている

── 応援したくなるブランドは、どうすれば生まれるのでしょうか?
岩崎さん:お客様や取引先から「普通の通販会社だと思っていました」と言われることがあって。そこで、「想いを伝えること」を大切にしてきました。
そこから、ホームページをつくり直したりして、私たちの理念をきちんと伝えるようにしました。でも、それだけでは足りないんですよね。
── 何が足りなかったんですか?
岩崎さん:みんなが同じ方向を向いていないといけないということに気づいたんです。
弊社にはお客様の声が社員全員に届く仕組みがあって、朝礼で必ず共有しています。お客様の存在がとても近くにあるので、私も含めて、みんな向いている先はお客様なんです。
── 常に視線の先にはお客様がいるのですね。
岩崎さん:みんな会社が好きなんですよね。もっと言えば、「たった一人の悩みを解決することで、世界中の人たちの幸せに貢献する。」というミッションが好きなんですよ。
だから、自分で考えてお客様のために動く。商品もサービスも新しいアイデアも、全部そこから生まれてくるんです。お客様に喜んでもらうにはどうしたらいいかを、みんなが自然に考えてくれています。
すべては、「たった一人の悩み」から始まる

── 会社のミッションである「たった一人の悩みを解決することで、世界中の人たちの幸せに貢献する。」は、商品づくりの根幹なのですね。
岩崎さん:はい。商品を考えるときに、一番最初に考えるのは、「たった一人は誰なのか?」ということなんですよ。
マーケティング調査をして、「最近これが売れているからつくろう」という発想ではなく、本当に困っている人がいるかどうか。それも、できるだけ身近な人の「リアルな悩み」じゃないとダメなんです。
── リアルな悩み……どのように悩んでいるかを追求するということですか?
岩崎さん:そうです。例えば、「クッションファンデーションが流行っているからつくろう」という発想では、想いが入りません。でも、「ニキビを隠したい人がいる」といった、誰かの具体的な悩みがあるなら話は別です。
「誰の、どんな悩みを解決するのか」が明確だからこそ、最後まで妥協せずにつくり込めるんです。
身近な人の悩みから生まれた商品

── 実際には、どんな悩みから商品が生まれているのでしょうか?
岩崎さん:本当に身近なことばかりですよ(笑)。「子どもの足が臭くて、抱っこしたいけど、足を洗ってきてって言っちゃう」という悩みから、子ども向けの足用制汗・汗臭予防「フットデオパウダー」をつくりました。
また、自分の子どもが毛深いことで悩んでいる社員がいました。そこで、「安心して使える子ども用の脱毛クリームがあったらいいのに」と考えて商品化したんです。
── どっちの悩みもすごくわかるし、それが解決できるものがあるなら知りたい!って思ってしまいました。
岩崎さん:誰か一人の困りごとから始まった商品でも、実は同じことで悩んでいる人はたくさんいる。一人の困りごとに本気で向き合うことは、結果として多くの人の役に立つと考えています。
私たちは、「これを売りたい」というより、「同じ悩みを抱えている人に届けたい」という気持ちの方がずっと強いんです。
「化粧品会社」ではなく、「悩み解決カンパニー®」

── 化粧品にとどまらず、いろいろな事業に広がっているのも、同じ発想なんでしょうか?
岩崎さん:はい。今は化粧品だけじゃなくて、いろいろな事業をやっていますけど、全部出発点は同じです。
例えば学童事業のスタートも、副社長が「自分の娘を通わせたい学童がない」と言ったことがきっかけで「だったら、自分たちでつくろう」と考えたんです。
自由な発想ができる子どもを育てる学童を始めたら、多くの方に共感していただけました。結局、困っている人の悩みを解決したい。だから、私たちは「悩み解決カンパニー®」で、その解決策が、たまたま化粧品だったり学童だったりするだけなんですよ。
諦めなければ、必ず叶う

── ここまで、ブランドづくりの原点や、ぶれない理念について伺ってきました。その岩崎さんを支えてきた言葉があるとしたら、何でしょうか?
岩崎さん:「諦めなければ、必ず叶う」です。成功している人って、成功するまで続けているだけなんですよね。雨乞い師は「必ず雨を降らすことができる」そうなんです。
それは、雨が降るまで祈り続けるから。だから成功率100%なんですよ(笑)。私も同じだと思っています。
「たった一人の悩みを解決したい」という想いを、諦めずに続けてきた。それがマナラであり、ランクアップなんです。これからも、その想いだけは変わらないと思います。
Wellulu編集後記
今回の取材で、一番印象に残った言葉は「あなたの人生最高傑作をつくってください」です。岩崎さんが研究者に商品開発を依頼するとき、必ず伝えていた言葉だそうです。
この言葉を聞いたとき、私は「最高の商品をつくってください」ではなく、「あなたの人生最高傑作」という表現を選んだことに、とても心を動かされました。
誰かに仕事をお願いするとき、その人の能力や技術だけではなく、誇りや情熱まで信じて託している。その姿勢があったからこそ、20年以上ともに歩むパートナーと出会い、マナラというブランドが育ってきたのだと感じました。
もう一つ印象に残ったのが、「たった一人の悩みを解決する」という考え方です。商品づくりだけではなく、会社づくりや事業づくりまで、その理念が一貫していることに驚きました。届ける相手の顔がはっきり見えているからこそ、商品もサービスも、ぶれずに磨き続けられるのかもしれません。
取材を終えた今、自分自身の仕事も、「誰のために、何を届けたいのか」をもっと具体的に考えてみたくなりました。
1968年、北海道生まれ。新卒でJTBに入社。その後広告代理店へ転職。営業成績トップとなり営業本部長として活躍したが、ブラックな働き方を続けたことで肌がボロボロになり、10歳も老けて見られることに悩んだ経験から、自身の肌のために化粧品会社である株式会社ランクアップを2005年に創業。
「たった一人の悩みを解決することで世界中の人たちの幸せに貢献する」をミッションとし、悩み解決カンパニー®を目指す。代表となるブランド「マナラ」は多くのファンに支持され、現在は日本だけでなく台湾、シンガポールなどアジアにも進出している。