認知症世界の歩き方の学び
元博報堂の筧祐介さんの講演を聞かせていただいた。スクラムベンチャーズ主催のWellbeingXのプログラムのインプットセッションとワークショップだ。そこで、「認知症世界の歩き方」のお話をおうかがいした。博報堂にいる頃から、社会テーマを解決するIssue+Designという取り組みをしている尊敬していた先輩だ。
認知症世界にようこそ。
あなたはこの世界を旅する旅人。
ここ認知症世界では、
不思議な体験をする乗り物や店、
出会ったことがない未知の民族がクラス村、
想像を絶する摩訶不思議な風景が
次々とあなたの目の前に現れ、
誰もがいろいろなハプニングを体験するのです。
さぁ、認知症世界の旅のはじまりです。(筧さんの説明資料より)
オープニングから、物語の主人公となる認知症世界に入っていく設計だ。認知症患者に対して、きちんと理解しておくことが重要になってくる。僕らは、まず認知症に関しての理解をしておらず、勝手に「認知症」=「トラブルを起こすので、何もさせない、外に出さない」という行動をしてしまっているということが分かった。
偏見が大きな壁になっている。本にも紹介されている認知症世界を分かりやすく動画と共に紹介してくれた。認知症にもいくつかのカテゴリーに分かれるらしい。
【記憶のトラブル】
「もの忘れ」と「記憶障害」の違いは自覚したことが無かった。自分の脳は、記銘したものを、保持して、想起できる。例えば、ついつい忙しくて約束したことを忘れたけれども、誰かから忘れてるよ、と言われて「思い出せるのは、もの忘れ」であり、「そのこと自体を思い出せないのが、記憶障害」とのこと。
また、あてもなく街を歩き回る人がいる。これを他人は「徘徊」という。「徘徊」は、本当は意味もなく歩き回ることなので、これは適切なことばではない。本人にとっては過去の記憶を現在進行中のものだと思い違い行動してしまう現象だということだ。空間のトラブルに陥るので、なぜそこを歩いているのか分からなくなるので、まわりは徘徊と言ってしまうらしい。
財布の中身がなくなって、ものを盗られたと思ってしまうものは、財布の中に入っていたものを使ったことを忘れてしまい、盗まれたと思ってしまうことらしい。
なんども同じものを買ってきてしまうということも起こりうる。今、見ていたものを、見えなくなった瞬間に忘れてしまう現象らしい。例えば、トイレットペーパーを買ってきて、扉を閉めたら買ってきたことを忘れてしまい、またトイレットペーパーを買ってきてしまうようなこと。トイレがどの扉か分からなくなって失敗するのもこの現象だ。
【五感のトラブル】
人の顔を認識できない、見るたびに顔が変わって見えるなどの現象。人が人の顔を認識するのは特殊な能力だとのこと。アニメは理解できるので、ドラえもんのしずかちゃんは認識できるが、ドラマなどは主人公が違う人に見えたりするので登場人物がいっぱいで分からなくなるらしい。大切な人の顔がわからない理由は、その人の印象に残っているもので本人と認識するそうなのだが、そこも認知障害がおこっているのだ。
皮膚の感じ方(触覚)や味(味覚)、臭い(嗅覚)が変化したり、鈍感になるなどの現象もある。お風呂がぬるぬるしたり、空調があたたかいのに寒いと感じるなどの感覚が鈍る現象。トイレに間に合わないのも、身体の中の感覚が鈍感にになっていることから起こる現象とのことだ。
【時間・空間のトラブル】
服を着ることができなくなることは、自分の身体の位置や方向、距離や奥行きが把握できない現象。洋服を着ることができない。シャツの穴があるところに、腕を通すということもできなくなる。鍵を鍵穴にいれることもできなくなるようなことも同様のトラブルだ。
空間把握能力が鈍ってしまった人は、平面の世界で生きている。例えば、道案内の標識で、まっすぐの矢印が、上だと思う。上って空に向かってジャンプしろ?ということで道に迷ってしまう。
【注意・手続きのトラブル】
聴覚や視覚が敏感になりすぎて、聞くべきや見るべきものに集中できなくなる現象。例えば、バーとかで話をしていたら、救急車が通って、その音にもっていかれ、注意を元に戻せるはずなのに、そのまま、その音に注意をもっていかれてしまう。同時行動がむずかしくなったりするのと同じ現象らしい。例えば、雨の日に横断歩道を渡るというのは、傘をさしながら、人をよける、青信号で渡るなどの同時行動ができなくなる。
レジですごく時間がかかるのも、慣れたものを処理できなくなる現象。例えば、支払いにおいて100円玉3枚を1円玉3枚と勘違いしたり、計算ができなかったりするので、千円札とか1万円札とかで払うので小銭が溜まったりする。ポイントやカードなどの手続きという話が入ると、余計頭が混乱して、目的を達せられない。複雑な複数のことを同時に行動することができなくなる。
偏見をなくし、まずは認知症世界の理解を。社会参加を積極的に!
認知症世界を知って解決するためには、まずは理解した上で対策を練ることが重要になる。糸口の発見>「観察」「傾聴」「知識」→推移(仮説推論)が大切になっていく。
家族の中で認知症の方がいたら、家族はまずは認知症世界を理解した上で、どういう認知機能のトラブルがあって、そのトラブルにどう暮らしやすい環境をつくっていくか、偏見をなくし、きちんと対話して、どうすることが良いか考えていくことが重要になる。
長生きしたら、認知機能は落ちていくものと考えて、対応するために必要なのは「社会参加」であるとのこと。すべてをトラブルにならないように取り上げたり、禁止するのではなく、自分の居心地のよいコミュニティで、行動をどんどんできるような環境をつくると認知機能の低下は遅らせることができるらしい。
ウェルビーイング21因子の調査をしたときに分かったのが、高齢になればなるほど「コミュニティ」を求める方が多い。それは社会との交わりを維持したいという欲求かもしれない。自分が必要とされている、自分と気の合う仲間がいる、積極的に何かに参加する、それが認知症世界を理解した上で、共存する社会で必要な考え方だと感じる時間を過ごさせていただいた。
筧さん、素晴らしいお話を聞かせていただきありがとうございました。
ちなみに、僕の体重は、富士山登山の後のビール、焼肉とラーメンで、いっきに80,8㎏になってしまった。もう一度70㎏台に戻したい。
堂上 研 Wellulu 編集部プロデューサー