ECOTONEを設立して10か月
10か月前、僕は企業内起業家として「株式会社ECOTONE」を設立した。それまでの準備段階も含めて、様々な葛藤と挑戦と失敗があった。僕が目指す「ウェルビーイング共創社会」はどうやったら、人に伝わるのだろう? そんなことばかりを考えていたのが懐かしい。Welluluというウェルビーイングのメディアを立ち上げて、2年4か月。このメディアのおかげで、僕はたくさんの人たちと出逢うことができた。そして、たくさんの学びがあった。
会社設立前、「僕たちは、どんな未来をつくりたいんだろう?」と考えた。「ひとりひとりがつながりの中で、ウェルビーイングを感じられる未来」。そんな問いに向き合いながら描いたのが、このECOTONEの未来図だ。手描きの図には、僕たちが大切にしたい価値やつながりが、まるで呼吸するように描かれている。これは、事業計画というよりも、僕たちの“願い”の地図だと思っている。(とはいえ、これもなかなか伝わらなかったが・・)
はじめて、ここで伝えることで、会社設立のころの想いを綴っておこう。
出会いがすべてのはじまり
未来は、いつも「出会い」から始まる。
人と人が出会い、価値観が交差することで、まだ言葉になっていない問いが生まれる。その問いが、コミュニティを育て、やがて「Human-Ecotone」という、人間らしさを中心に据えたエコシステムへとつながっていく。僕が構想している「すべての産業がウェルビーイングへ」ということも、まさにこの出会いから始まる。出会いは、価値観の共鳴から生まれる——僕はそう信じている。その出会いが、僕らを成長させるし、僕らはそこに新結合が生まれると思っている。
Welluluというメディアを通して、僕らは多様な人たちが集まれる「場」をつくることができた。ウェルビーイングな人と企業人と街に触れることができた。このウェルビーイング共創社会は、未来を発明する交わりがある。図の中心には「Co-creation(共創)」がある。これは、僕たちの未来づくりの心臓部だ。教育、技術、イノベーション、人材育成——すべてが共創の中で育まれる。そして、ここから「ウェルビーイング」と「ビジネス」が組み合わさり、お互いがお互いを共鳴しあう「事業」が生まれてくる。
そのためには、「教育」が必要だ。事業を創る人が必要なのだ。「entrepreneur(起業家)」と「intrapreneur(社内起業家)」が育てば、日本から世界を代表する起業家たちがどんどん生まれる。そのときに大企業もスタートアップも関係ない。生活者のウェルビーイングをつくる事業が生まれていくのだ。これは、組織の枠を超えて、自分の内側から湧き出る情熱で価値を生み出す人たちのこと。僕は、そんな人たちが育つ場をつくりたいと思っている。
昔「教育とは何か?」と自分の中で問い続けたことがある。その頃は、「隠された力を発見し、導き出すもの」と考えたのだが、今は違う。教育とは、「共に問い、共に育つこと」だと思う。そのプロセスが「事業共創(インキュベーション)」につながり、やがて「Fund(資金)」や「Consulting(支援)」によって社会に実装されていく。ここでも、中心にあるのは「共感」だ。人のつながりを通して、資金も支援も、心が動くからこそ、いっしょに行動に出るのだ。
この図には「Media」がある。これがWelluluなのだが、価値を社会に伝える装置であり、出会いを生む場でもある。Welluluを立ち上げて、博報堂がメディアを立ち上げるというハードル以上に、得た価値は大きい。僕らは、このメディアが、事業共創をする上での、情報を育む場でもある、と考えている。メディアは、ただ情報を届けるだけじゃない。価値観を翻訳し、共感を育てる場だ。だからこそ、「Encounter」へとつながり、再び「Community」へと循環していく。この循環は、僕たちが目指す「持続可能なウェルビーイング価値共創」の象徴でもある。一度きりの出会いではなく、関係性の中で価値が育ち、社会に還元されていく。これは、ウェルビーイングの視点から見ても、とても大切なことだと思う。人が安心して働き、暮らし、成長できる社会は、こうした循環の中でこそ生まれる。
ECOTONEという問い
最後に、「ECOTONE」という言葉そのものが、僕たちの問いだ。生物界における生態系の境界にあるエコトーンは、山や海の境にあるからこそ、違う生態系が交じり合い、新たな生態系が生まれ続ける。僕らの考えるエコトーンも、多様性と変化が生まれる場である。僕たちは、社会の境界に立ち、問いを立て、価値をつなぎ、未来を育てる存在でありたい。そこから、たくさんの文化や価値観、そして事業や産業が生まれてくればうれしい。
この図は、そんな僕たちの意思を可視化したものだ。Welluluの対談で、「冒険の書」を執筆した孫泰蔵さんの話の中に、子どもに向けて「未来は自分たちで変えられるんだ。」というメッセージが好きだ。僕らの未来は、誰かが決めるものじゃない。僕たち一人ひとりが、出会い、問い、共創を通じて、共に描いていくものだ。未来のECOTONEは、そんな未来を目指している。そして、この一歩目を歩き出し、様々な人々に支えられながら、進めている今日という日に感謝している。僕らは、ECOTONEという場を、みなさんと共に育んでいきたい。

堂上 研 Wellulu 編集部プロデューサー