東京とウェルビーイング

Wellulu 編集部プロデューサー

堂上 研

又吉さんの「東京百景」を読む。

僕は大阪で生まれて、大阪で高校卒業まで育った。1995年に東京の三鷹にある大学に来て、そのまま東京に住みついたので、もう東京生活のほうが長くなっている。

日曜日の午後、僕は息子たちとお昼に「そば」を食べて、家でゆっくり又吉直樹さんの「東京百景」(角川文庫:令和2年)を読んだ。これまでも、又吉さんの「人間」(角川文庫:令和4年)や、今年発売された「月と散文」(KADOKAWA:2023年)も読ませていただいた。

僕は、すっかり彼の世界にはまってしまった。というのも、年代が近いこともあるが、サッカー部だったこと、大阪で育ったこと、何よりも「自分の生き方」を探していると感じたことが、勝手に親近感を感じてしまい、ファンになってしまったのだ。しかも、本を読みながら、一人で笑っている自分がいる。

「東京百景」を読みながら、僕自身が東京に来てからの28年を振り返りながら、僕の東京生活はこんなこともあったな、あんなこともあったな、など東京の体験をフラッシュバックのように思い出す時間を過ごすことができた。

三鷹にある大学を卒業して、すぐに博報堂に入社するまでは、ほぼ吉祥寺までが東京という感じで過ごした。受験に来たときは、東京が怖くてたまらなかったのを覚えている。海外に行くほうが、誰も知らない、言葉が通じないからラクだと考えた。

受験が終わった日の夜は、歌舞伎町を観ておこうと思って、歌舞伎町をうろうろして、そのまま24時間やっているマクドナルドで一夜を過ごし、そのまま始発で渋谷に移動して、ハチ公の前で寝ていたら「すみません、邪魔なのでどいていただけますでしょうか?」と言われて、「東京は怖い」と感じて、そのまま大阪に帰ったことを思い出した。

東京が怖いと思ったが、大学生活も含めて住み始めて28年。すっかり、東京は楽しい、面白いに変わっている。東京には、多様な人が集まってくる。そして、東京の街が僕に様々な経験と出会いをもたらしてくれた。

又吉さんの「東京百景」を読みながら、僕自身の東京生活を振り返った時間は、ウェルビーイングな時間だった。

認知症予防に、過去の自分の街での体験を振り返るというのが効果があると、ある海外のスタートアップのVR技術を活かしたものが実証していると聞いたことがある。まさに、僕の脳は「東京百景」によって活性化された感じだ。

娘が体験した東京の良い人との出会い

娘は、今学校の部活で「新体操」をしている。ある日、新体操の練習場所を間違えて、違う場所に行った日があった。「松丘小学校」というところに行くはずなのに、勘違いして「桜丘小学校」に行った。

誰も来ないので、おかしいなと思ったけれども、遅刻していたこともあり、焦りながら「桜丘小学校」の体育館の入り口を、その学校の放課後クラブで働くお姉さんに道をたずねた。体育館が離れていたのに、わざわざついてきてくれて、道案内をしてくれた。しかも勤務時間は終わっていたそうだ。

着いたと思って、体育館をのぞいたら、体育館にはサッカー部が練習をしていたそうだ。新体操部の影も形もない。汗がびちょびちょで、半べそをかいていたところ、新体操の先輩に電話したら、「松丘小学校だよ。間違えているよ。」と・・・。

すると、そのお姉さんは、「松丘小学校ならよく知っているよ。タクシーならすぐ着くよ。」と言ってくれて、練習時間も聞いてくれて、優しくしてくださった。

ところが、娘は帰りの電車代もない状態だった。「実は、お金がなくて・・・。(財布の中にお金がなく、交通カードSUICAの残金もなかった)」と伝えて、あきらめて帰ろうかと思ったら、「私、持っているから。」と言って、現金を1万円渡してくれた。名前だけうかがって、タクシーに乗ったそうだ。(なんで、電話番号とか聞いていないんだ??!!)

泣きながら行ったら、部活は終わりの時間だったらしい。無駄に時間を費やし、無駄にタクシーに乗ったけれども、人の親切に触れる体験をすることができた。

帰ってきてから、娘にこの話を聞いて、「すぐに明日お礼のお菓子を届けて、1万円を返してきて。」と伝えて、次の日にもう一度、桜丘小学校に向かわせた。

東京で、全然見ず知らずの女子中学生に1万円を貸す善意ある人がいた。しかも、娘は自分の名前も連絡先も伝えず、お姉さんからも聞かれず。もしかしたら返ってこない可能性のある1万円を渡して「早く行きな!」と送ってくれたお姉さん。

こんなお姉さんの住んでいる東京はすごい。東京にも親切な人がいる。(東京に来たばかりのとき、みんな無表情で冷たい、という印象があった)東京のウェルビーイングな生活を垣間見るお話だった。もう一度、お会いできるなら、お姉さんに親としてお礼を伝えに行きたい。探偵ナイトスクープ(朝日放送)に依頼したら、探してくれるんだろうか?

自分の身体と向き合う週末

自力整体をして40日が過ぎた。体重は81.4㎏まできた。ただ週末はいつものように少し多めに食べてしまう。

今日の夜も、息子のサッカーチームの懇親BBQだった。久しぶりの飲み放題と食べ放題のBBQによって、ついつい食べ過ぎた。今日も20分だけ自力整体をやって、早く眠ろう。

本を読む、誰かとお話をする、新しい体験をする、自分の身体と向き合う、いろいろなウェルビーイングな挑戦と実践をやって、自分の時間と居場所をつくっていく。僕にとって、幸せな分人コミュニティの中での充実した時間だ。

 

堂上 研 Wellulu 編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

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