腸内で100%発酵されるという特徴を持ち、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌のエサとなり腸内環境を整える水溶性食物繊維の一種「イヌリン」。イヌリンが腸内環境を整えることによる、全身の健康に与える影響とは…?疲労感の軽減から骨や肌の健康まで、現代を生きる私たちにとって気になる効果ばかり。今回はそのイヌリンを摂取することによる身体への影響について、フジ日本精糖株式会社の原さんに詳しくお話を伺った。
原 健二郎さん
フジ日本精糖株式会社機能性素材事業部
本記事のリリース情報
WEBメディア「Wellulu」にて、当社イヌリンのインタビュー記事が掲載されました。
善玉菌のエサになる!ゴボウ・玉ねぎに含まれる水溶性食物繊維「イヌリン」とは
──それではまず、イヌリンとはどのようなものなのでしょうか。
原さん:イヌリンは水溶性食物繊維の一種で、水に溶けやすく、腸内細菌によって発酵されやすい特徴があります。さまざまな野菜に含まれており、特にチコリの根やキクイモに多く含まれています。日本ではゴボウや玉ねぎにも含まれていることが知られていて、ゴボウを切った時に白い液体が出てきますよね。あれがイヌリンです。
──あ、ゴボウの液体なら見たことあります!続けてイヌリンの特徴を教えてください。
原さん:腸内発酵性の高さがイヌリンの大きな特徴です。ほかの水溶性食物繊維、例えば難消化性デキストリンなどは腸内で半分程度しか利用されず、残りは排出されるのですが、イヌリンの場合は100%腸内で発酵されます。これにより、腸内細菌に利用されやすくなり、腸内環境を整える効果が期待できるのです。
──100%利用されるとは驚きです。この腸内環境を整える効果のメカニズムを教えてください。
原さん:腸内の善玉菌、特にビフィズス菌や乳酸菌の栄養源となる物質のことをプレバイオティクスといい、これにより善玉菌が増殖し、腸内環境が改善します。イヌリンはこのプレバイオティクスのひとつなのです。例えば、腸内の善玉菌が短鎖脂肪酸を生成し、有害菌の抑制や便通の改善など、さまざまな健康効果が期待できるんです。私たちの製品でも、イヌリンを使用した腸活を目的としたお茶などがあるんですよ。
──イヌリンは腸内にいる善玉菌のエサになるのですね。イヌリンもそうかと思うのですが、フジ日本精糖では、現在「腸の健康」に注目しているそうですが…。
原さん:はい。まず、腸の健康が全身の健康にも大きく関係していることが明らかになっていることがあります。
──脳腸相関(脳の状態が腸に影響を及ぼす)など、確かに全身と腸の関係は最近よく耳にします。
原さん:腸内環境が良好であると、疲労感の軽減や骨の健康、美容にも良い影響を与えるとも考えられています。腸内細菌(善玉菌)が豊富だと、体内で短鎖脂肪酸が生成され、これが腸の健康を保つ一因となります。また、腸の状態が良いと、腸壁の細胞同士がしっかりと結びつき、有害物質が体内に侵入するのを防ぎます。
──腸から有害物質が体内に侵入するとのことですが、腸の中は体内ではないのですか…?
原さん:実は、私たちの中では腸の内側というのは体外で、腸の外側が体内なのです。経口摂取した食べ物などが通る、口、胃、腸などは体外です。先ほどの腸の健康状態の良し悪しが及ぼす影響について改めて説明すると、腸の健康状態がよくない場合、腸の細胞の隙間が開いてしまい、細菌や毒素といった有害物質が体内に入りやすくなり、様々な疾病との関係が明らかにされています。
水溶性食物繊維「イヌリン」の研究でわかったこと
──フジ日本精糖でイヌリンの研究を始めたきっかけを教えてください。
原さん:イヌリンは、グルコースにフルクトース(果糖)が繋がった構造を持っているのですが、まさに、私たちは精製糖に従事していて、昔から砂糖の製造販売を行ってきました。その過程で、砂糖を原料にして新しい製品を作り出すバイオインダストリーの分野に進出しました。
そして、30年ほど前、微生物や酵素を使って砂糖から新しい物質を作り出す研究を始めました。その中で、私たちはスクロースを基にしたイヌリンの製造方法を確立するための酵素を見つけることに成功したのです。
──砂糖との長い関わりがスタートだったのですね。先ほど、腸内環境と疲労感・骨密度・美肌が関係するとお伺いしましたが、改めて「イヌリン」に関するフジ日本精糖が行った研究について教えてください。
原さん:まず、イヌリンの摂取が心身の健康に様々な良い影響をもたらすことが明らかになっています。イヌリン含有食品を摂取することによりストレスの軽減、活動的な気分の維持、免疫機能の向上、および風邪症状の発症抑制や軽減効果が示唆されています。
イヌリンの効果:精神的および身体的な疲労感、ストレス、イライラ感の軽減
──とくにどのような症状の軽減が見られたのでしょうか。
原さん:アンケート調査を行ったところ、精神的および身体的な疲労感、ストレス、イライラ感の軽減が見られました。マウスを用いた研究では、ビフィズス菌や乳酸菌などイヌリンにより増加するプロバイオティクスを摂取させた後、ストレスホルモンであるコルチゾールの濃度を測定しました。
その結果、これらの腸内細菌を摂取したマウスでは、ストレスホルモンであるコルチゾールの濃度が低下することが確認されました。また、迷走神経を通じて腸から脳への信号伝達が関与していることが示唆されました。
──迷走神経とはどういったものなのでしょうか。
原さん:迷走神経は、脳と腸を含む内臓をつなぐ神経です。腸の迷走神経は、脳に伝える役割を果たしています。腸内環境が改善されると、迷走神経を通じて脳に信号が送られ、ストレスの軽減や精神的な安定がもたらされると考えられています。
イヌリンの効果:美肌効果(肌のくすみ・乾燥の軽減)
──続いて、イヌリンを摂取することによる肌への影響の研究について教えてください。
原さん:この研究では、イヌリンを含む食品を摂取したグループとプラセボ(薬効成分を含まない偽薬)を摂取したグループを比較し、肌の状態や腸内環境の変化を観察しました。その結果、イヌリンを摂取したグループでは、腸内環境が改善されるとともに、肌バリア機能を高め弾力を維持することから、全体的に肌の状態が良好になる傾向が見られました。
──肌のくすみや乾燥で悩んでいる人、多いと思います!
原さん:実際に、腸と肌とのかかわりについて、特に腸内環境が肌のターンオーバーに与える影響についての研究が進んでいます。
肌のターンオーバーというのは、通常約28日間で行われるのですが、腸内環境が悪化した場合、このプロセスが阻害されることがあるんです。腸内細菌によって分解される過程で、フェノール類、インドール、スカトールなどといった有害な腸内腐敗産物が生成されます。これらが血中に吸収されて全身に巡ることで、肌に悪影響を及ぼすことが知られています。これらの物質がケラチノサイトの分化を阻害し、ターンオーバーを遅らせることがあります。
──なのでイヌリンを摂取して腸内環境を改善し、肌のターンオーバーを正常に戻す必要があるのですね!イヌリンが大腸に届き、腸内環境を整えるまでのメカニズムを詳しく教えてください。
原さん:イヌリンは通常の砂糖とは異なり、小腸での消化酵素によって分解されないため、大腸まで到達するという特徴があります。大腸に到達すると、善玉菌に利用され、短鎖脂肪酸が産生されます。これらの短鎖脂肪酸は、大腸のぜんどう運動を促進し、便通を改善する効果があります。
また、短鎖脂肪酸には大腸内の病原菌に対する殺菌効果もあり、腸内環境を整える役割、いわゆる整腸作用というものです。
──大腸までしっかり届く、というのがイヌリンの長所なのですね。
原さん:イヌリンには食後の血糖値の上昇を抑える効果もあり、小腸での糖の吸収を抑制するだけでなく、大腸で生成される短鎖脂肪酸が消化管ホルモン、特にGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の産生を誘導します。GLP-1は膵臓からのインスリン分泌を促進し、血糖値のコントロールに寄与します。また、短鎖脂肪酸は肝臓での中性脂肪の合成を抑制し、脂肪細胞からの脂肪の動員を促進するため、中性脂肪の低下にも効果があります。
おいしくイヌリン摂取!心も身体も健康に、強い免疫力をゲットする
──水溶性食物繊維であるイヌリンの1日の摂取目安量を教えてください。
原さん:イヌリンの1日の推奨摂取量は、食物繊維の摂取量として考えると約25gです。ただし、実際に摂取できている食物繊維量は、20~29歳の女性の場合は平均して14.6g、20~29歳の男性だと17.5gとなっており、いずれも推奨量には達していないのが現状です(令和元年国民健康・栄養調査報告のデータ参照)。そのため、不足分の5gを補うことを目標に、イヌリンを摂取してすることをおすすめしています。
子どもや高齢者の場合、全体的なエネルギー摂取量が少ないため、食物繊維の摂取量も少なくなります。年齢や体重に応じて適切な量を調整することが重要で、たとえば、子供の場合は大人の半分程度、高齢者の場合は消化機能の状態を考慮してください。
──不足している5gをイヌリンで摂取するのが目安ですね。イヌリンを摂取したい場合、どのような食材から摂取が可能ですか?
原さん:イヌリンは玉ねぎ、ゴボウ、ニンニク、アスパラガスなどの野菜に多く含まれています。ただし、食事だけで必要量を補うのが難しい場合は、機能性表示食品やサプリメントを利用することも有効です。
──調理の過程で気をつけた方が良いことがあれば教えてください。
原さん:イヌリンは水溶性の食物繊維なので、水で洗うと一部が溶け出してしまいます。炒め物といった一般的な調理条件ではほとんど分解しませんので、心配する必要はあまりないのですが、たとえば、煮物など長時間の調理ではイヌリンが分解されることがあります。
──イヌリンが水で溶け出す一方で、大腸まで残るというのは不思議ですね。イヌリンを摂りすぎることによるデメリットはあるのでしょうか。
原さん:イヌリンの特性上、腸内で発酵しやすいため、摂り過ぎると腸内での発酵が過剰になり、ガスが発生するため、お腹が張ったり、ガスが出やすくなることがあります。
──実際にイヌリンを摂取した場合、効果はどのくらいで実感できますか?
原さん:まず、整腸作用については比較的早く効果が現れることが多いです。たとえば、朝にコーヒーと一緒にイヌリンを摂取すると、1時間から1時間半後にお通じが改善されることがあり、1日でも効果を感じることができます。
私自身は毎朝コーヒーと一緒にイヌリンを摂取してスッキリして出社するというのがルーティーンになっていて、その効果を実感しています。例えば、短鎖脂肪酸という成分は腸内での発酵により生成されますが、一度摂取すると8時間程度効果が持続することが分かっています。このように、適切なタイミングでイヌリンを摂取することで、腸内環境を整える効果が期待できます。
──原さんご自身がイヌリンの効果を毎日感じてらっしゃるんですね!
原さん:ほかにも、肌質改善のような効果については、もう少し長い期間が必要です。肌のターンオーバーを考慮すると、少なくとも1ヶ月程度は継続して摂取したいですね。臨床試験の結果によると、4週間から8週間程度の継続的な摂取で、肌質改善やその他の健康効果が見られることが多いです。
──期待する効果によってさまざま、継続が必要なものは余裕を持って効果を期待したいものです。最後に、今後はどのような研究を進めようと考えていますか?
原さん:イヌリンの効果に関しては、まだまだ研究すべきことはたくさんあります。たとえば、女性特有の問題に対する効果についてもイヌリンで解決できないかと考えています。また、高齢者に関しては骨に対するエビデンスを取ってきましたが、最近はサルコペニア(筋肉量減少)やロコモティブシンドローム(運動器症候群)といった問題も注目されています。これらの問題に対してもイヌリンが有効かどうか研究を進めたいと考えています。
Wellulu編集後記
大腸までしっかり届き、その高い腸内発酵性で腸から全身の健康にアプローチをしてくれるイヌリンについて知っていく中で、近年注目されている腸の健康と全身の健康の関係性をより強く感じました。疲労感を感じつつも、睡眠時間が短い傾向にある私たち日本人、ストレスの多い毎日、健康寿命の延伸のためには欠かせない骨の健康、美容効果まで、腸を整えることの重要性がわかるインタビューでした。今後の研究でどのような健康効果が新たに解明されるか、今からたのしみにしています。