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健康維持につながる!室内照明を自然光の変化に合わせることの重要性【東京都市大学・小林教授】

私たちは日常生活の中で自然と光を浴びているが、この光が実際に私たちの身体にどのような影響を与えているかについて知っているだろうか。

実は、光環境は直接人の行動に影響を与えるだけでなく、身体の周期的な変化にも大きく関係していることが明らかになっている。今回、東京都市大学建築都市デザイン学部建築学科の小林茂雄教授に、光環境と生体リズムについて、それにまつわる睡眠や室内照明、生体リズムを整えるためのアドバイスなどについてお話を伺った。

小林 茂雄さん

東京都市大学建築都市デザイン学部建築学科 教授

建築光環境と環境心理を専門とし、特に低輝度の屋外光環境計画と、照明の対人行動への影響を研究している。東京工業大学工学部建築学科卒、同大学院、助手を経て、武蔵工業大学(現東京都市大学)教授。「人の行為を軸とした建築環境の評価に関する研究」で日本建築学会賞(論文)受賞。著書に『写真で見つける光のアート』(雷鳥社)、『Lighting by Yourself』(オーム社)。

本記事のリリース情報
小林教授の研究がWebメディア「Wellulu(ウェルル)」に掲載されました。

目次

光環境は人の無意識に影響を与える

━━はじめに、先生が光の研究に取り組まれたきっかけについて、教えていただけますでしょうか。

小林教授:元々、光環境が人の行動にどういう影響を与えるのかについて研究をしていました。光環境の人への影響は、従来は物の見えやすさや安全性、そしてデザイン的な視点からの雰囲気の変化に焦点が当てられた研究が多かったんですね。ですが、私はそれとは違う視点で、光環境が直接人の行動を無意識に変えることがあるのではないかと考え、その点を中心に30年以上研究を行ってきました。

━━研究を通して、どのように光環境が直接人の行動に影響を与えるのか、明らかになったことがあれば教えていただけますでしょうか。

小林教授:はい。まず、人の話す声の大きさは光の明るさによって自然と変わるといった傾向がありました。他にも、人が座っている時の姿勢も明るさの変化によって前傾することがあったり、人との距離感も光に影響されることが確認されました。このような行動の変化は、意識的に行っているわけではなく、光の影響を受けて無意識のうちに変わっているということが分かりました。

━━なるほど。声の大きさや姿勢に関して具体的にどのような傾向がみられたのでしょうか。

小林教授:声の大きさに関しては、暗い環境の方が声が小さくなる傾向があります。例外として、暗い中で特定の場所だけが明るく照らされているスポットライトのような状況では、声が大きくなる人もいれば小さくなる人もいますが、基本的には暗くなるほど声が小さくなる傾向が強いです。

姿勢に関しても、例えば1人でいる時、暗い環境ではゆったりとした姿勢をとりがちですが、明るい場所では前傾の姿勢を取ることが多いです。また、2人で食事をしている場合は、暗い場所ではカップルや女性同士は前傾になりやすいのですが、男性同士では前傾になる傾向は特に強くありませんでした。また、カップルや女性同士は暗い場所でより目を合わせやすく、男性同士の日本人は暗い場所で目を合わせにくくなる傾向がありますが、外国人男性は暗い場所でも目を合わせることが多いです。

生体リズムと光の関係

━━今回、睡眠と光の関係に注目した背景は何だったのでしょうか。

小林教授:コロナウイルスが流行って多くの人が在宅勤務やオンライン学習に切り替えた結果、日常生活のリズムやスタイルが大きく変わったことが背景にあります。生活の変化の中で、睡眠の質に対する影響が多くの人々に出てきており、その中の一因として光が関与しているのではないかと考え、この研究テーマに取り組むことを決めました。

━━まず、光と生体リズムの関係性について、教えていただけますでしょうか?

小林教授:人間は基本的に24時間周期のリズムで生活をしています。しかし、実際には人間の生体リズムは25時間と言われていて、25時間周期で覚醒と睡眠を繰り返すとされています。この25時間周期を私たちの日常の24時間周期に合わせるための調整が必要なのですが、これは、食事や運動、仕事などを通じて保たれています。中でも最も保ちやすいのが、朝起きたときに光を浴びて、夜寝る時に光を浴びないという、光を変えることだと言われています。要は、朝に太陽の光を浴びることで人は活動状態になり、夜に光を浴びないことで休息状態に入るというリズムが最も整いやすいということです。

━━それは、身体のホルモンとも何か関係があるのでしょうか?

小林教授:はい。先ほどの生体リズムをつかさどっているものの1つにホルモンがあるのですが、それがセロトニンとメラトニンです。私たちは日中、セロトニンというホルモンを生成していて、夜になると夜間の睡眠を促すメラトニンを生成します。特に、朝起きた時に強い光を浴びると、約15時間後にメラトニンが生成されるのですが、逆に夜、強い光を浴びるとメラトニンの生成が抑制され、睡眠の質が低下する可能性があります。

このメカニズムを利用して、時差ボケの対策や、北欧のような日照時間が短い地域での生活リズムの調整が行われています。例えば、海外に到着後、現地の時間に合わせて午前中に強い光を浴びることで、時差ボケの症状を軽減することができます。また、北欧では冬季に日照時間が短くなるため、朝食時などに強い光を浴びることで生活リズムを整える工夫が行われていたりします。

━━では、リモートワークによる生活リズムの乱れは、光が影響しているでしょうか?

小林教授:要因はいくつか考えられるのですが、1つは光が関係していると考えられます。リモートワークで外出の機会が減少すると、十分な太陽光を浴びる機会が減る可能性があります。家では日中も光がそれほど強くないので、この照度の違いが生活リズムの乱れを引き起こす要因として挙げられます。

もう1つは、家での仕事環境がストレスを引き起こしている可能性です。オフィスでの作業はスムーズですが、家の狭い空間で家族とともに仕事をしなければならないということがストレスにつながることがあります。また、オフィスや学校は仕事や学習のための空間として設計されていますが、家は基本的に休息のための空間として作られているので、そのまま仕事をするのには適していないことがあります。

━━調査結果にて5人に1人がリズムの乱れを感じていると記載されていましたが、それはどのような調査から得られた結果ですか?

小林教授:600名を対象にした調査結果で、リモートワークによる生活リズムの乱れを感じている人が20%近くいるという実態が浮き彫りになりました。

明るいと活動的になり暖色系だとリラックス。光の照度と色温度が与える影響

━━光の照度と色温度が日常生活や生活リズムにどのように関連・影響するのか教えてください。

小林教授:光の照度と色温度は、光のサーカディアンリズム、つまり生体時計に影響を与える光のリズムと関連しています。

まず、照度についてですが、これは目に入る光の量を示します。私たちは朝から夜まで様々な照度の光を浴びています。特に、外にいるときは大体1万ルクスの強い光を受けることが多いです。建物の中だと下がりますが、それでもオフィス勤務者が住宅での勤務者と比べて、おおよそ倍の照度の光を浴びています。日中に強い光を浴びると、人は活動的になりやすく、逆に夜になると眠りやすくなるので、生活リズムを考える上で日中の光の浴び方は非常に重要です。

次に、色温度ですが、これは光の色の性質を示すものです。一般的に、寒色系の白色に近い光を浴びると人は活動的になります。例として、太陽光はおおよそ5000〜6000ケルビンの範囲で、これは白色に近い色温度です。一方で、暖色系の光を浴びると人はリラックスし、休憩状態になりやすくなります。例として、太陽光の中で色温度が低い朝日や夕日は2000ケルビン程度です。

━━では、在宅勤務やオフィス勤務において、光の照度や色温度が生活リズムや働き方にどのような影響をもたらすのでしょうか?

小林教授:まず照度に関してですが、明るい環境は人を活動的にさせる効果があります。ですので、オフィスの照明は住宅よりも明るく設定されています。一方、在宅勤務では、住宅の照明が主に使用されるため、オフィスよりも暗めの環境での作業となりがちです。これにより、生活リズムの乱れや作業効率が低下する可能性があります。

色温度に関しては、日中は寒色系の光を多く浴びることで活動的になり、夜には暖色系の光を浴びることでリラックスしやすくなるとされているので、在宅勤務でもオフィス勤務でも、時と場合にあわせて適切な色温度の照明を選ぶことが重要です。

━━照度や色温度以外に、何か気づきや研究結果はありますか?

小林教授:仕事をする際は、上からの照明が適しています。その方が物事がはっきりと見えます。一方、寝る時の照明ですが、人はベッドに横たわる時、上から直接目に入る光は避けたいのです。実際、病室などではベッドの真上に光がこないようにしています。寝る前やリラックスする時には柔らかな間接照明が適しています。ベッドサイドのライトや天井に向けた間接照明が良いでしょう。

さらに、寝室には少なくとも2種類の照明を設置することをおすすめします。1つは仕事や読書などの活動をするためのもの、もう1つはリラックスや睡眠の準備のためのものです。このような使い分けをすることで、昼間の活動と夜のリラックス時間の両方をサポートできる環境を作ることができます。

━━寝室の照明条件と睡眠の質の関係について、詳しく教えてください。

小林教授:照明と睡眠の質には密接な関係があります。通常、寝る直前に照明を消すのが一般的かと思いますが、寝る前の1時間〜2時間の間の照明環境も非常に重要なんです。近年の研究では、寝る前に強い光を浴びることが、サーカディアンリズム、つまり生体時計を乱す可能性が指摘されています。

実際に、我々は「通常照明条件」と「シンクロ照明条件」の2つの条件を設定して検証しました。通常照明条件では、寝る直前まで照明をつけたままにして、寝る時に消します。一方、シンクロ照明条件では、寝る時間の1時間前から照明を徐々に暗くし、最終的に完全消灯します。結果として、シンクロ照明の方が深い睡眠を得やすいことが明らかとなりました。

また、体温の変化も睡眠に影響を与えます。体温が下がると眠りやすくなるため、寝る2時間前に熱いお風呂に入ると、その後体温が下がり、眠りやすくなります。しかし、寝る直前に高温のお風呂やサウナに入ると、眠りにくくなる可能性があります。

━━つまり、睡眠の質を高めるためには、寝る前の照明や体温の管理が重要ということですね?

小林教授:はい、その通りです。眠る前の照明環境は、特に深い睡眠を促進するためには重要です。また、体温も管理することで、より快適な眠りを得ることができます。これらの環境を整えることで、睡眠の質を向上させることが可能になります。

午前中に外の光を浴びて生体リズムを整えよう

━━生体リズムを整えるために「光環境」で取り組むべきポイントは何でしょうか?

小林教授:生体リズムを整えるために重要なポイントは、午前中に外の光を浴びることです。外の光は非常に強く、10万ルクス程度の強さがあり、それによって生体リズムが調整されます。通勤する場合は自然と外の光を浴びることができるのですが、在宅勤務などで外に出ない場合でも、少なくとも10分や20分は外に出て光を浴びることが大切です。外に出ることが難しい場合には、窓際での作業や、午前中に強い光を浴びる工夫をしましょう。そして夕方以降は、暖色系の柔らかな光を選ぶのがおすすめです。

━━仕事や生活において、光環境を整えることで得られる他のメリットはありますか?

小林教授:光環境を整えることで、活動の質に大きく影響することが分かっています。例えば、白くて色温度が高い強い光は、人の集中力を高め、スピードを上げて作業をするのに適しています。一方、暖色系の光はリラックス効果があり、食事が美味しく感じたり、会話がしやすくなったりします。オフィスの中でも、作業の内容に応じて光の強さや色を変えることで、より効果的な活動ができるでしょう。

━━これから研究をしようと思っていることについて教えてください。

小林教授:人の行動は無意識に光の色や強さに影響されています。住宅の照明で光の強さや色温度を変えられる照明器具はありますが、人々は特定の色や強さを継続してコントロールし続けることが難しいと感じています。理想は、特定の時間や天候、人の数やその活動状態に応じて照明が自動的に調整されることです。今後はセンサーやカメラ、スマートウォッチなどを利用して人の心理状態や生理状態を検知し、それに応じて照明が自動で変わるシステムを開発することを考えています。

Wellulu編集後記:
今回は、光と生体リズム、そしてその影響について小林先生に詳しくお話を伺いました。コロナウイルスの影響で多くの人が在宅勤務などを余儀なくされ、生活のリズムやスタイルが大きく変わった中で、光の影響についての認識がこれまで以上に重要となりそうです。取材を通じて、光の照度や色温度が私たちの生活リズムや働き方、さらには心身の健康にどれほど影響を与えているのかを深く理解することができました。在宅勤務が増える中での光環境の整え方や、睡眠の質を高めるための照明の工夫など、日常生活に役立つ情報など、ぜひ普段の生活に取り入れてみてください。

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