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羽毛布団には愛情が詰まっている?愛着を持って次世代へつなぐためのヒント【日本羽毛製品協同組合】

「羽毛布団」は、ただの寝具ではありません。そのふんわりとした温かさの背後には、水鳥が厳しい自然の中で卵を守るために蓄えた「ダウン」の特別な物語があります。本記事では、日本羽毛製品協同組合の片岡さんに、羽毛布団の選び方や「ダウンパワー」の基準、環境や文化的視点からの価値について詳しく伺いました。また、羽毛布団のリフォームを通じて、愛着ある布団を長く使う方法もご紹介します。

片岡 智志さん

日本羽毛製品協同組合

2022年より現職(日本羽毛製品協同組合 専務理事)で羽毛製品の品質維持向上に向き合う日々となっている。海外駐在18年(シンガポール、インドネシア、オランダ)の経験が年2回の国際羽毛協会会議の参加に役立っている。
睡眠環境・寝具指導士 早稲田大学卒。

本記事のリリース情報
Welluluにインタビューが掲載されました

目次

羽毛布団を選ぶ基準「ダウンパワー」とは?

──まず日本羽毛製品協同組合についてお伺いします。どのような取り組みをされている団体なのでしょうか?

片岡さん:日本羽毛製品協同組合は、設立から46年を迎える歴史のある団体です。当組合は、日本で唯一、経済産業省の認可を受けた羽毛製品に関する業界団体として活動しています。この組織は、中小企業等協同組合法に基づいて設立されました。当初の目的は、組合員間の相互扶助や経済活動の促進でしたが、それだけにとどまりません。生活者の利益にも貢献し、それによって業界全体の発展を目指すという役割も担っています。

──具体的な活動例についても教えてもらえますでしょうか?

片岡さん:例えば「品質表示ラベル」についてですが、これは布団の横に縫い付けられているラベルで、主に「ダウン何%、フェザー何%」といった情報が書かれています。ただ、これらは法律で定められた用語に限られているため、消費者がその情報だけで布団の品質を判断するのは難しいのが現状です。そこで、当組合では「ダウンの膨らむ力」を数値化した独自の基準を設けています。この指標を「ダウンパワー」と呼び、1gの羽毛がどれだけ膨らむかを測定して、300、350、400、440といった4つのグレードで表しています。

──買い手としても、こういう基準があると助かりますね。

片岡さん:そうですね。この基準がなかった時代には、羽毛の品質と価格の関係は消費者にとって見えにくいものでした。当組合はこの課題を解決するため、業界としての自主基準を提案し、導入しました。そして現在も、これらの基準や試験方法の改定を行っています。具体的には、ダウンパワーのJIS測定方法の原案作成を担当しており、約5年ごとに改定作業をおこなっています。

ただし、膨らむ力が高いほどすべての人にとって「良い布団」となるわけではありません。

布団の生地や中身のバランスを含め、トータルで判断いただくことが重要です。また、業界全体で低品質の羽毛を使用しないよう、自主規制を設けています。このように、消費者が安心して選べる製品を提供することが、私たちの重要な役割のひとつです。

──ありがとうございます。膨らみの大きさ、つまりダウンパワーが布団の温かさや快適性に関わってくるという理解でよろしいでしょうか?

片岡さん:ダウンパワーは布団の保温性に直結しています。膨らむ力が強い羽毛ほど多くの空気を含むことができ、その空気の層が断熱材の役割を果たして温かさを保ちます。たとえば、440のダウンパワーを持つ布団は非常に軽くて暖かく、寒冷地や冬の使用に適しています。この基準があることで、消費者が「なぜこの布団は高価なのか」「どんな特徴があるのか」を理解しやすくなると思います。

──確かに、基準がなければ「買ってみたけど思ったより保温性が低かった」という失敗もありそうです。その点、この基準が選択の目安になるのはありがたいですね。消費者だけでなく、組合員の企業に対する支援も重要な活動の一環と感じましたが、具体的にはどのようなサポートをされているのでしょうか?

片岡さん:私たちは消費者に対して「安心・安全な製品を提供する」という役割を果たす一方、組合員企業へのサポートにも力を入れています。たとえば、中小企業の集まりである組合員同士の協力関係を深めることや、共同でブランドを築くといった活動です。中小企業が集まり、お互いを支え合いながら業界全体を発展させていくという立場にあります。その意味で、「ともに栄える団体」というのが私たちの基本的なスタンスですね。

羽毛布団が広く普及し買い替えサイクルへ

──ちなみに、羽毛布団が日本で本格的に普及し始めたのはいつ頃だったのでしょうか?

片岡さん:羽毛布団の普及は、まさに私たちの組合が設立された時期と重なります。当組合が誕生したのが46年前ですが、その頃から羽毛布団が広く知られ始め、30周年を迎えた頃には非常に普及が進んでいました。それ以前はまだまだ限られた層向けの高級品というイメージが強かったのですが、品質基準の整備や生産技術の向上によって、多くの方に手の届く商品になっていきましたね。

──羽毛布団の普及や需要の変化について、とても興味深いお話です。羽毛布団のピークとされる時期や、その後の変化について、もう少し詳しく教えていただけますか?

片岡さん:羽毛布団の原料輸入量が最も多かったのは1991年頃です。この時期は、日本で羽毛布団が急速に普及していた時期で、輸入量も今の数倍に達していました。ただし、これはまだ普及途上で、一般的な布団は綿が主流でした。

その後、2007年頃には輸入量が落ち着きました。これは羽毛布団がほぼ普及し終わり、新規需要から買い替え需要へとシフトした時期と重なります。羽毛布団の寿命は約10年と言われており、この30年間で2~3回の買い替えサイクルが回ってきた計算になりますね。

【羽毛布団リフォーム】プレミアムダウンウォッシュ仕上げ・ダウンウォッシュ仕上げ

片岡さん:現在、羽毛布団を所有する家庭が多い中、布団のリフォーム、つまり再利用が注目されています。当組合では「リフォームラベル」という制度を導入し、品質保証とブランド化を進めています。これは、古くなった羽毛布団をリフォームする際に、品質基準を満たしていることを保証するもので、消費者に安心感を提供する取り組みの一環です。

──なるほど。普及から買い替え、そしてリフォームへと需要の形が変化してきたのですね。「リフォームラベル」について、詳しく教えていただけますか?

片岡さん「リフォームラベル」は、リフォームされた羽毛布団の品質を保証するためのラベルで、組合が定める基準を満たしたリフォーム認定工場でのみ発行されます。この取り組みは2006年に始まり、環境保全や循環型社会の実現を見据えた活動としてスタートしました。当時はSDGsという言葉は一般的ではありませんでしたが、私たちは早くから環境に配慮した取り組みを行ってきました。このラベルをつけることで、消費者にリフォーム布団の品質と安心感を提供しています。

── 「プレミアムダウンウォッシュ仕上げ」、「ダウンウォッシュ仕上げ」の2種類ありますが、それぞれについて詳しく教えていただけますか?

片岡さん「ダウンウォッシュ仕上げ」では袋状の布団をそのまま洗い、洗濯後に中の羽毛を取り出して乾燥し、新しい生地に詰め直して仕上げます。

一方、「プレミアムダウンウォッシュ仕上げ」は、専用の洗浄機を使って羽毛だけを取り出し、裸の状態で洗浄する方法です。この方法では、羽毛をより丁寧に洗えるため、ほぐれやすく、清潔さも向上します。洗浄後は同じく乾燥し、新しい生地に詰め直して仕上げます。

「プレミアムダウンウォッシュ仕上げ」の品質は非常に高く、特に丁寧な仕上がりを求める方に適した方法です。

──布団をそのまま洗うか、羽毛を取り出して洗うかの違いがあるんですね。

──ちなみに、洗浄後の羽毛の追加も重要なポイントなんですか?

片岡さん羽毛布団はリフォームの過程で洗浄して除菌する際に、どうしても羽毛が減少してしまうことがあります。これを補うために、羽毛の追加が行われるケースが一般的です。特に、羽毛の種類や品質に合わせて適切に追加できることが、リフォームの仕上がりを左右します。これがきちんとできる工場でリフォームされると、消費者にとっても満足度の高い布団が仕上がります。

── 「リフォームラベル」を発行できる「リフォーム認定工場」の基準について詳しく教えてください。

片岡さんリフォーム認定工場」は、組合が定めた厳しい基準を満たしている工場です。

認定には、「ハード面」と「ソフト面」の両方の審査が必要です。ハード面では、羽毛を洗浄する機械、乾燥機、充填機などが適切で、一定の品質を維持できる設備が揃っているかを確認します。これらの設備は、信頼できる業者から納入されているケースが多いですが、それでも現場での品質基準を満たしているかを丁寧にチェックします。

ソフト面では、加工や生産管理がしっかりしているかを審査します。たとえば、お客様からの依頼内容を正確に工場内で共有し、工程ごとにしっかり管理されているか、最終的な検品が行われているか、衛生面で問題がないかなどを確認します。また、リフォーム過程で出るゴミや廃材が適切に処理されているか、法律を遵守しているかも重要なポイントです。

── 認定工場が関わるリフォームと、それ以外のリフォームの違いはどこにあるのでしょうか?

片岡さん認定工場を利用すれば、一定の基準を満たしているため、品質面で安心感があります。ただし、認定工場を利用していないからといって品質が必ずしも悪いというわけではありません。クリーニング店を通じたリフォームは、取次窓口として機能することが多く、実際の作業は提携工場で行われます。ただ、クリーニング店がどの工場と提携しているかは分かりにくい場合があります。

── 改めて羽毛布団をリフォームすることのメリットについて教えてください。

片岡さんリフォームの最大のメリットは、布団を新品同様にリフレッシュできる点です。生地を新しくし、中の羽毛を洗浄・補充することで、より快適な状態に整えられます。

元々の布団が高品質であれば、リフォームをすることでさらに価値を引き出せます。例えば、3~4万円の費用をかけたリフォームでも、30万~40万円の布団であれば十分にコストに見合った結果が得られます。

──なるほど。環境面でもリフォームはメリットがあるのでしょうか?

片岡さん環境保護の観点からもリフォームは非常に有効です。羽毛布団を処分する場合、燃やすしかありませんが、その際に二酸化炭素が大量に排出されます。一方、リフォームによって10年以上使い続けることができれば、その分環境負荷を軽減できます。特に「良いものを長く使う」という視点は、環境にも優しく、満足感も得られる素晴らしい選択だと思いますよ。

── 羽毛布団をリフォームすることで環境面での意義が大きいですね。

片岡さんその通りです。リフォームでは10年以上使える布団に再生でき、循環型社会の実現に寄与します。また、羽毛布団は側生地が汚れることはありますが、内部の羽毛自体は汚れにくく、適切に洗浄すれば長期間使い続けることができます。

親から子どもへの愛情が詰まった羽毛を大切に!

──コスト的な視点・環境的な視点を踏まえると、やはり羽毛布団をリフォームに出す価値は高そうですね。

片岡さんそうですね。それに生活者の皆さんには、羽毛布団に対しての「愛着」を強く持って欲しいなとも感じています。羽毛布団に使われるダウンは、水面にあたる水鳥の胸から腹の部分で、卵を温めるために胸にも使われます。厳しい自然の中で親鳥が卵を守るために生み出されたものだと考えると、とても愛おしく感じますね。

こうした背景も影響しているのか、ヨーロッパでは羽毛布団を「世代を超えて受け継ぐ文化」が根付いています。おじいちゃん、おばあちゃんが使っていた布団を孫に渡す、そんな伝統が今も息づいています。

日本でも結婚の祝いとして羽毛布団が贈られ、大切に使われてきました。これからも布団を大切にする文化を広めていきたいと思います。

── 羽毛布団の起源や文化的背景を聞くと、さらに魅力を感じますね。

片岡さん羽毛布団をただの寝具と捉えるのではなく、環境や愛情、そして受け継がれる価値を感じていただけたらと思います。また、毎日の睡眠をより豊かにするために、自分に合った布団を選び、大切に扱ってほしいです。

── 最後に、読者へのメッセージをお願いします。

片岡さん羽毛布団は長く使える高価値な製品です。正しい手入れと適切なリフォームで、10年、20年と快適な眠りを提供してくれます。さらに、自然の恵みである羽毛を活かすことは、環境にも優しい選択です。布団を愛情深く扱うことで、その価値が一層高まります。ぜひ、自分だけの特別な布団として、羽毛布団と一緒に豊かな時間を過ごしてください。

Wellulu編集後記:
今回の取材で、羽毛布団がただの寝具ではなく、「自然の恵み」や「親から子への愛情」を象徴する特別な存在であることを改めて感じました。特に印象的だったのは、羽毛布団がヨーロッパでは世代を超えて受け継がれる文化があるというお話です。環境に配慮しながら、親の愛情や思い出を形に残すことができるのは、羽毛布団ならではの魅力だと感じました。また、「リフォーム」を通じて羽毛布団の価値を再発見できるという点も素晴らしい発想です。「新しいものを買う」のではなく、「大切なものを長く使う」という考え方は、これからの時代にますます重要になるでしょう。

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