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週60分の筋トレが糖尿病を予防する?筋トレが死亡・疾病リスクを下げる可能性【東北大学・門間氏】

筋トレは身体を大きくしたり、きれいに魅せたりするだけでなく、健康の側面から見ても取り入れたほうがいいことがわかってきている。東北大学、早稲田大学、九州大学の研究グループにより「筋トレをおこなうと、筋トレを全くおこなっていない人に比べ、総死亡・心血管疾患・がん・糖尿病のリスクが低くなる」ことが明らかになった。

また、総死亡・心血管疾患・がんについては、週30〜60分実施することで最もリスクが低くなり、糖尿病は実施時間が長いほどリスクも低くなるという結果に。

今回は、この研究の第一人者である東北大学大学院医学系研究科の運動学分野「門間陽樹氏」に、研究をおこなった背景や、研究によってわかった“筋トレと死亡・疾病リスクの関連性”について詳しいお話しを伺った。

門間 陽樹さん

東北大学大学院医学系研究科運動学分野 准教授

運動疫学者。2011年に博士(障害科学)を取得(東北大学大学院 医学系研究科障害科学専攻)。同大学院医工学研究科・医学系研究科の助教等を経て、18年4月から同大学院医学系研究科講師、22年10月より准教授。これまで取り組んできた集団に対するエビデンスの創出に加え、現在、個人におけるベストエビデンスの創出を目指した研究を構想しつつ、疫学手法の普及・啓蒙活動にも奮闘中。

海外ではすでに多くの国が“健康目的の筋トレ”を推奨

── まずは門間先生がこの研究をしようと思ったきっかけを教えていただけますか?

門間先生:厚生労働省から“健康維持のために、このくらい身体を動かしましょう”という目安を示すガイドライン「健康づくりのための身体活動基準2013」というものが2013年に出ています。

今年で発表されてから10年目となり、 そろそろ改定 の時期に差し掛かっています。

その改定作業に関わっている研究グループで、ガイドラインに新たな情報を盛り込むための一つのエビデンスになり得るような研究結果を出していこうというのが、まず研究のモチベーションとしてありました。

── 「健康づくりのための身体活動基準2013」を念頭においた上で、とくに“筋トレ”に着目した理由はありましたか?

門間先生:世界で最初に国のガイドラインで筋トレを推奨したのはアメリカで、2008年に筋トレについての言及がなされています。

その内容を踏襲するような形で、2010年にWHO(世界保健機関)が世界に向けて出した身体活動のガイドラインにも筋トレが入っています。

しかし、2013年に厚生労働省から発表されたガイドラインには、筋トレに関しての言及はなく、次の改定でも触れないとなると、世界的に後れをとってしまうという危惧もありました。

それに加え、コロナ禍を通して「自宅での筋トレ」が流行り始めたり、「筋肉体操」など注目されるようなコンテンツが登場したりしたこともあり、今回の改定では筋トレに触れるべきだという話になったのです。

諸外国で筋トレが推奨されている根拠は、主に運動器に関連する健康指標、例えば筋力・筋量、身体機能、骨密度などを維持・向上させるという研究結果に基づいています。

これらの結果は短期間(数週間~数ヶ月)の研究期間で得られた成果です。

そこで、“他の病気や死亡に対する筋トレの長期的な影響からも筋トレを推奨する信頼性の高いデータを示せないか”という目的で今回の研究をおこないました。

長期間の筋トレによる健康効果を検証

── 今後の日本での筋トレのひろがりを前に、筋トレが及ぼす健康への長期的な影響について着目をしたということですね。実際に研究はどのようにおこなわれたのですか?

門間先生:今回は「システマティックレビュー」と「メタ解析」という研究法を採用しています。

ざっくりいうと、すでに報告されている筋トレと死亡・疾患に関わる研究を、ある基準にもとづいて網羅的に集め、その中から分析の基準に合うものを全て選び(システマティックレビュー)、結果を1つにまとめていく(メタ解析)という方法です。

※MEDLINE:医学分野で世界最大の文献データベース
Embase:出版文献の生物医学および薬理学の書誌データベース

今回の研究では、1252件の文献が最初の検索でヒットしました。すべてのタイトルや概要を手作業で確認し、研究の目的と合わないものや、重複している研究を除外していった結果、最終的に16件になりました。今回の結果はこの16件を統合したものとなっています。

先ほどお話ししたように、筋トレの研究は「やってもらうグループ」と「やらないグループ」に分けて何ヶ月間か調査し“筋力がよくなった”“バランス能力が上がった”など、筋骨格系や運動器に関わる健康効果をみていくような短期間の研究がとても多いんです。

ですが、今回は長期間の影響を見たかったので、筋トレを【やってもらう・やらない】のグループに分けられた研究を分析するのではなく、【そもそもやっているか・やっていないか】【何分やっているか】という日頃の運動習慣ごとに長期間追跡した研究を集め、その人たちが将来どういう病気にかかり、お亡くなりになるのかを検討した研究結果を1つにまとめた研究となっています。

筋トレによる死亡・疾病リスクの減少率は?

糖尿病17%、総死亡15%、心疾患血管17%、全がん12%減少

── 研究の結果、具体的にどのようなことがわかったのでしょうか?

門間先生:まず、筋トレをおこなうことで、死亡・疾病のリスクがどのくらい減るのかを確認したかったので、筋トレをおこなっている人たちとおこなっていない人たちを比べてみました。

その結果、おこなっていない人に比べ総死亡が15%、心疾患血管が17%、全がんが12%、糖尿病が17%も低い値となりました。

“総死亡15%減”がどういうことなのか簡単にお伝えすると、筋トレをやっている人、やっていない人が1000人ずついるとします。筋トレをやっていない1000人中100人が亡くなってしまった場合、筋トレをしていた人たちでは85人まで死亡人数が減ったというようなイメージです。

週40分ほどの筋トレをやっていた人は総死亡率が17%減

── 筋トレをおこなうことで、死亡やさまざまな疾病のリスクが減少することがわかったんですね。ただ、やはり長時間の筋トレや週に何度も行うのは自信が持てません…。

門間先生:さらに実施時間を詳しくみていったところ、おもしろい結果が得られました。

たとえば総死亡で見ると、週に40分ぐらい筋トレをおこなっていた人たちは、やっていない人たちに比べて相対リスクが17%減という一番低い値を示し、心血管疾患だと週60分ぐらいで18%減、がんだと週30分で9%減という結果になっています。

筋トレをやり始めるとリスクは下がっていきますが、週30〜60分でまた徐々に上がり始め、週130〜140分ぐらいおこなうようになってくると、やっていない人とリスクに差はみられなくなってくるということがわかりました。

週60分の筋トレが糖尿病リスクを下げる傾向に!

門間先生:糖尿病に関しては、週60分の筋トレをすることで疾病リスクが急激に下がり、60分以上は緩やかな減少に転じていきます。そのため、筋トレをやったらやった分だけよいのではないかという結果が出ています。

── たったの週30〜60分とは意外でした!筋トレをおこなうことで、死亡や疾病のリスクが減少した理由はなんでしょうか?

門間先生:いろんな取材を受ける中で必ず質問されるのですが、お答えするのがかなり難しいんです。

私たちが今やっているような研究は「疫学研究」と呼ばれ、この研究はスタンスがけっこう明確で「論より証拠」なんですよ。

今回の研究でいうと、どうしてリスクが減るのかというメカニズムよりも、筋トレをしていると本当にリスクは低い値を示すのかという証拠(エビデンス)を出すというスタンスで、どうしてこういうことが起こり得るのかの解明は、生理学や分子生物学の研究成果に頼ることになります。

今回の研究から導くことは難しいですが、先行研究の結果からいえることをお話しすると、筋トレをすると筋肉量が上がります。筋肉は血糖を使う代表的な器官なので、筋肉量が上がると「血糖コントロール」がしやすくなるんです。糖尿病のリスクが減ったのには、こういった関連が考えられますね。

身体を動かすことでいろんな部分に影響するので挙げるときりがありません。そういった点でも、一言で理由をお伝えするのが難しいなと感じます。

── 研究の対象者が、どのくらいの期間・負荷で筋トレを続けていたかなどの目安はあるのでしょうか?

門間先生:筋トレの期間・強度に関しては、正確にわからない部分です。

今回の分析対象となった研究では、筋トレの状況をアンケートによって確認しているものがほとんどで、“普段筋トレをおこなっていますか?”など、質問内容もざっくりとしています。

また、アンケートは調査開始時のみだったため「筋トレをやっていない」と答えていた人が、数年後に筋トレをはじめていたり、逆に「やっている」と答えた人が辞めてしまっていたりする可能性もあります。

そういった可能性は考慮されていない研究の結果ですが、筋トレを習慣的にやっているほうがよいという結果が出ているということには変わりはありません。

健康のために無理なく筋トレを取り入れることがカギ

まずは週30~40分から!しっかり負荷をかけ、有酸素運動も取り入れよう

── 研究結果を踏まえると、これから“健康増進の目的で筋トレに挑戦しよう!”と考えている人は、週30〜40分を目安にするとよさそうですね。

門間先生:はい、まずはそれを目安に始めてみるのがよいと思います。10分の筋トレを週に3回おこなったり、20分を週2でおこなったり、まずは取り組みやすいものからはじめてみてください。

また、負荷をしっかりかけることを意識してほしいと思っています。

筋肉はやはり、日常生活で動かす以上の筋力を使って負荷を掛けなければ育っていかないので、しっかり追い込んでいなければ筋トレにならないんです。

── 具体的にどのくらいを目安にするとよいでしょうか?

門間先生:“できるところまで”が一番わかりやすいと思います。できなくなったところでやめてください。

たとえば、腕立て伏せをやってみて30回が限界だったら、30回までやってください。徐々に身体がなれてきて、100回くらいできるようになったとします。100回やるのは時間が長いなと感じれば、重りを取り入れて、また30回が限界くらいに調整することができるわけです。

“できるところまで”をベースに、回数と負荷を調整して取り組むのがおすすめです。

あと、筋トレは休息も大切。運動で筋肉を動かしたら、筋肉を休ませて回復させるまでがワンセットです。ちゃんと休んで、またしっかり身体を追い込んでみてください。

── やはり有酸素運動と組み合わせておこなうのがおすすめでしょうか?

門間先生:実は今回の研究で有酸素運動との組み合わせ効果も調べています。

組み合わせによる影響を調べたのは、総死亡、心疾患系死亡、全がん死亡で、上が有酸素だけ、真ん中が筋トレだけ、下が2つを組み合わせておこなった場合で、どちらもやっていない人たちと比べています。

数字を見てもらうとわかりやすいですが、有酸素と筋トレを組み合わせることで、より効果的がでやすいと考えています。

自身の目的に合わせて“筋トレ”に取り組む

── 筋トレをおこなう時間が長いと、総死亡や一部の疾病のリスクが右肩上がりになっている結果がでていましたが、普段から長時間筋トレをおこなっている人が気をつけるべきことなどはありますか?

門間先生:あくまでも週30〜40分おこなった際のリスクが一番低かったというだけで、週130〜140分の筋トレをしている人が、筋トレをしていない人よりも大幅にリスクが高くなったなど、長時間の筋トレに警鐘を鳴らす必要があるような結果ではありません。

今回の研究の目的は、ムキムキになりたい、ダイエットをしたいという以外に“健康のために筋トレをする”という新たなモチベーションを提案するということでした。

死亡・疾病のリスクを少なくする目的では週30〜60分が最適という結果がでましたが、筋肉増強やダイエットのために筋トレに取り組んでいる人はそもそも目的が異なりますので、ぜひご自身の目的に合わせた時間・負荷で身体作りに取り組んでください。

運動習慣がない人が“たった週30〜60分の筋トレで死亡や病気のリスクを減らせる”ということで、「じゃあ健康のために筋トレをやってみようかな」というきっかけになればと思います。

── あくまで自身の目的に合わせて。そして週30〜40分の筋トレを続けることが大切ということですね。

門間先生:はい、筋肉美やダイエットを目的に筋トレをおこなっている人は、ぜひそのまま目標に向かってがんばってもらえればと思います。

筋トレの疫学研究は、2010年ぐらいから始まっているようなので、有酸素運動の研究と比較しても相当最近なんですよ。

有酸素性の研究は、まずアンケートでの調査からはじまり、そのあと歩数計(例:万歩計 )が使われるようになり、今はウェアラブルで加速度計が入った活動量計も登場して簡単にデータを測定できるんです。

有酸素運動はこれだけ評価方法の変遷があるのに、筋トレは今でもアナログなアンケートベースなんです。

そのため、筋トレも有酸素運動ほどのエビデンスを蓄積するためには、どのくらいの頻度で、どこで、どのくらいの強度で、何回やっているのかなど、客観的に正確なデータが測れるようにならないと伸びてこないという現状があります。

不明瞭なことも多い分、こういった研究がこれからどんどんできるようになってくると面白そうだなと感じていますし、まだまだ日本には少ない筋トレにまつわる基本的な情報をこれから発信していくということを、今後も取り組んでいければと思っています。

── 伸びしろが感じられる、筋トレ研究の今後が楽しみですね。門間先生、本日はどうもありがとうございました!

Wellulu編集後記

冒頭で門間先生がおっしゃっていた通り、筋トレはダイエットやボディメイクのためのものという印象が強かったので、総死亡やさまざまな疾病のリスクを下げる効果があると聞き、新たな筋トレの一面を知ることができ、とても新鮮でした。

健康目的であれば週に30〜60分とのこと、週に3回取り組むとすればたった1日10分。10分の筋トレで死亡・疾病のリスクを下げることができるのであれば、これまで運動習慣がなかった人が身体を動かすよいモチベーションになるのではと感じます。

本記事のリリース情報

・門間陽樹先生の取材が、Webメディア「Wellulu」に掲載されました

 

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