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アミノ酸の摂取が骨代謝に影響!破骨細胞とアミノ酸トランスポーター「LAT1」の関係【岐阜薬科大学・檜井教授】

身体を支えているだけでなく、内臓を守ったり、血液を作ったり、運動の支点になるなど、私たちの身体で多くの重要な役割を担っている「骨」。普段目に見えない分、“骨の健康”を意識して生活している人は少ないのではないだろうか。

岐阜薬科大学の檜井栄一教授らの研究グループは「金沢大学」「東京医科歯科大学」「松本歯科大学」「米国国立衛生研究所「英国ダンディー大学」との共同研究によって、アミノ酸を細胞に取り込むアミノ酸トランスポーター「LAT1」というたんぱく質が“健康な骨の維持”に重要な役割を果たしていることを発見し、そのメカニズムを明らかにした。

今回は岐阜薬科大学の檜井教授に、研究をおこなった背景や内容、健康な骨を維持するためにできることについて詳しいお話しを伺った。

檜井 栄一さん

岐阜薬科大学薬理学研究室 教授

薬理学者。2003年金沢大学大学院を修了し、博士号(薬学)を取得。金沢大学薬学部・助手・准教授を経て、2019年より現職。岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科、岐阜大学高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター(COMIT)の教授も兼務。この間、チェコ国立科学アカデミー生理学研究所、ハーバード大学医学部・マサチュウセッツ総合病院、ベイラー医科大学、コロンビア大学でも研究活動に従事してきた。骨粗しょう症や変形性関節症などの運動器疾患に対する新しい予防法や治療法の開発を目指し、学生と日々研究活動に励んでいる。

健康的な骨には“アミノ酸”による骨代謝(骨リモデリング)が欠かせない

── まず、檜井教授がこの研究をおこなったきっかけを教えていただけますか?

檜井教授:私たちの身体は細胞から構成されていて、細胞はアミノ酸を必須栄養素・エネルギー源としています。アミノ酸は細胞内で作ることもできますが、細胞の外からも取り込んでいく必要があります。

アミノ酸を細胞に取り込む際に活躍するのが“アミノ酸トランスポーター”というたんぱく質です。

このアミノ酸トランスポーターの機能に異常をきたすと、がんや神経変性疾患など、さまざまな疾患が発症するということは知られていたんですが、骨に対してはどうかということは、これまでわかっていませんでした。

そこで私たちは、アミノ酸トランスポーターに着目し、骨の健康にどのような影響を与えているのかを研究しました。

研究の結果「LAT1」という特定のアミノ酸トランスポーターが、骨の健康にとても重要な役割をしていることがわかったんです。

骨の健康を保つ骨代謝とは?

── 「LAT1」は骨の健康を維持する上で、どのような働きをしているのでしょうか?

檜井教授:私たちの骨は、破骨細胞が古い骨を壊し(=骨吸収)、骨芽細胞が新しい骨を形成する“骨代謝(骨リモデリング)”が繰り返されることによって、骨組織が常に新鮮な状態に保たれています。

今回の研究では、骨芽細胞特異的なLAT1不活性化マウスと、破骨細胞特異的なLAT1不活性化マウスを作製し、それぞれの骨代謝を調べました。

その結果、骨芽細胞特異的なLAT1不活性化マウスの骨代謝に異常は認められず、破骨細胞特異的なLAT1不活性化マウスの骨量は大幅に減少していました。

このことから、破骨細胞における「LAT1」の働きが骨代謝に重要であるということがわかったのです。

「LAT1」が破骨細胞の過剰な活性化を防ぐ

──破骨細胞の「LAT1」がうまく働かないと、骨リモデリング(骨代謝)がおこなわれなくなり、骨がもろくなってしまうというわけですね。

檜井教授:はい。少し難しい話にはなるのですが、さらに詳しく調べたところ、破骨細胞特異的なLAT1不活性化マウスでは、破骨細胞の数や大きさおよび骨吸収能(=古い骨を壊すこと)が増加していることがわかりました。つまり、「LAT1」がうまく働かず、必要なアミノ酸が破骨細胞の中に取り込まれなくなったことで、破骨細胞が過剰に活性化をしてしまい、骨がどんどん壊されることで、もろくなっていったのではないかというふうに考えられます。

── 「LAT1」が不活性になったことで、うまくバランスがとれなくなってしまったんですね。

檜井教授:ほとんどすべての細胞にいえることなのですが、各細胞の中に適切な濃度のアミノ酸を取り込む必要があるんです。アミノ酸が過剰になってもよくないですし、少なくなってもよくありません。

たとえばがんの細胞でも、トランスポーターに異常があり、アミノ酸が過剰に細胞の中に入ってしまうと、がんをより悪くしてしまうことがわかっています。

トランスポーターの機能異常で、細胞内に取り込むアミノ酸の調整がうまくいかなくなった結果、疾病を発症してしまう…というようなイメージです。

今回の骨代謝でいうと、アミノ酸トランスポーターの「LAT1」が働かず、破骨細胞が多くなってしまうことで、骨がもろくなり、骨粗しょう症などの骨の病気を引き起こしてしまう可能性があるというわけです。

骨代謝・破骨細胞に影響を与える「LAT1」の機能を落とさないために

栄養バランスの良い食事と適度な運動が大切

── 「LAT1」にうまく働いてもらうには、日々の生活でできる対策はあるのでしょうか?

檜井教授:「LAT1」の機能がなぜ落ちてしまうのかという点については、まだ詳しくわかっていないんですが、細胞のエネルギー源であるアミノ酸を摂取するということは大切です。

アミノ酸はたんぱく質の原材料ですので、“良質なたんぱく質”からアミノ酸を摂取する必要があります。

── 骨の健康維持を目的とした場合に、具体的にどんな食材を摂ればよいのでしょうか?

檜井教授:たんぱく質にも、植物性、動物性などの種類がありますが、特定のたんぱく質やアミノ酸、特定の食品を奨めるような十分な根拠はまだありません。

たんぱく質を多く含む食材として挙げるならば、鶏の胸肉や鶏卵、サバ、鮭、木綿豆腐、大豆など、一般的に“良質なたんぱく質”とされている食材を取り入れることで、アミノ酸を摂取することができるかと思います。

── たんぱく質を意識的に摂ることが、細胞に必要なアミノ酸を摂取することにつながるんですね。

檜井教授:そうですね。ですが、たんぱく質とかアミノ酸だけをとればいいかというと、そうでもなくて。

脂質、炭水化物、ビタミン…いわゆる“5大栄養素”と呼ばれるような栄養素をバランスよく摂取していることが重要ですね。

── 栄養はバランスよく摂ることが大切で、中でも直接的に骨代謝に関わる栄養素がたんぱく質(=アミノ酸)ということですね。ちなみに太っていたり痩せていたりすることと、骨の代謝には関係があるのでしょうか?

檜井教授:これに関してはさまざまな研究結果がでているので、一概には言えません。

たんぱく質の摂取量が少なかったり、脂質が多いものなど栄養素が偏ったりした食生活を送っていると、太っていても痩せていても骨に悪影響があるでしょうし、単に太ってる痩せてるだけの情報だけでは、骨の健康を判断するのは難しいかと思います。

── 食事以外の点でいうと、骨の健康維持に大切なことはありますか?

檜井教授:食事以外でいうと適切な運動も重要です。健康な骨を維持するためには、骨にもある程度の負荷をかける必要があるんです。

たとえば、宇宙飛行士の方は、無重力で生活をしていると骨に負荷がかからないため、骨がどんどん弱くなってしまいます。寝たきりの状態の方も同じく、骨がもろくなってしまうといわれています。

バランスのよい食事を心がけるのに加え、適度な運動で骨に負荷をかけることも、骨の健康維持には大切です。

── 骨に負荷をかけるというのが、あまりイメージがつかないのですが、日常生活でおこなうような運動でいいのでしょうか?

檜井教授:そうですね。散歩などの軽い運動で十分です。

逆に激しいストレスを与えるような運動をしてしまうと、あまり骨の状態がよくない方だと、それによって骨折をしてしまう可能性もあるので、注意が必要だと思います。

骨密度などを測って自分の“骨の健康状態”を知ろう

── “自分の骨が今健康な状態なのか”気になってきました。骨の健康を測る指標などはあるのでしょうか。

檜井教授:髪や皮膚であれば「カサカサしている、ツヤがない」など、栄養不足や不調に気づきやすいのですが、骨は直接見えるものではありませんので、やはり自身で健康度合いを自覚するのは難しいと思います。

骨の健康度合いをみるための重要な指標である「骨密度」などは、健康診断や人間ドックなどで、少し追加でお金を払えば測ることができます。

── 骨密度が高いか低いか。これまであまり気にしたことがなかったのですが、きちんと確認しておくことが大切ですよね。

檜井教授:若い方はあまり気にされていない方が多いですが、女性であれば閉経後50〜60代からどんどん骨が弱くなってしまいますし、男性でも高齢者になればどんどん骨量が減っていくので、健康診断のついでに測っておきたいという方はいらっしゃいますね。

各年齢の基準値を基にして、自分の骨密度が高いのか低いのかをみながら、自分自身の骨の健康具合を把握しておくといいかなと思います。

栄養素不足が女性の骨粗しょう症の危険レベルを高める

── そうですね、閉経後の女性の悩みのひとつが骨粗しょう症だと思います。骨密度と加齢は切っても切り離せません。若い年のうちから骨密度を高めるためにできることはありますか?

檜井教授:若い女性の中には、極端な食事制限をするような無理なダイエットをおこなう方もいらっしゃいますよね。私たちの骨の量は、大体20〜30歳くらいでピークを迎えるというふうにいわれています。このピークを迎える若い時期に無理にダイエットをしてしまうと、たんぱく質をはじめ、いろんな栄養素が不足してしまうので、骨量が増えなくなってしまうんです。そういった方が閉経を迎えると、一気に骨が減ってしまって、一般の方よりも早く骨粗しょう症の危険レベルに達してしまうというケースもあります。節目節目で、自分自身の骨の量や密度を測っておくと安心ですね。

 

── お話しを伺って、骨の健康を維持するためにはアミノ酸が必須であることや、普段から気をつけるべきことがよくわかりました。

檜井教授:今回の研究は、アミノ酸トランスポーターが骨の健康にどう影響しているかを詳しく調べた、初めての研究です。

骨の病気も骨粗鬆症だけではなく、さまざまな病気があるので、今回の研究結果が、現時点では治療法がないとされている疾患に対して、新しい治療戦略を立てていくことに結びつけばいいなと願っています。

── 檜井教授、本日はどうもありがとうございました!

Wellulu編集後記

日常生活で、自分の骨の健康を意識したことがあまりなかったので、今回檜井教授のお話しを伺い“骨の健康”に着目したのがとても新鮮でした。

骨に問題を感じていない若い世代であっても、骨量がピークを迎える20〜30歳の時期にきちんと骨が作られていなければ、高齢になった際に骨が弱ってしまうリスクが高まると聞き、年齢問わず、骨の健康を意識しておくことは大切だなと感じました。

健康な骨を維持するためには、適度な運動と栄養バランスの良い食事、中でも重要な働きを持つアミノ酸(たんぱく質)を摂取することが大切とのこと。日常生活でも意識して、健康な骨を守っていきたいです。

本記事のリリース情報

・【プレスリリース】檜井教授らの研究グループの研究成果がWebメディアで紹介されました。

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