今まで抽象的な概念に留まっていた幸福に尺度を設け、幸福を「見える化」する試みとして、茨城県では2022年度から「いばらき幸福度指標」を導入しています。公表されている政府統計などのデータを基に、客観的指標で幸福度を定量的に把握することで、県民一人ひとりの幸せを実現するために必要な取り組みや政策課題を明確化しています。
他県ではあまり見られないこの新しい試みは、県民のウェルビーイングにつながる取り組みとしても大きな期待がされています。そこで今回は、「いばらき幸福度指標」の内容を踏まえ、茨城県の現状や今後の展望についてお話を伺いました。
鈴木 麻美さん
茨城県政策企画部計画推進課長
本記事のリリース情報
Well-Beingに特化したwebメディア「Wellulu」にて、「いばらき幸福度指標」が紹介されました。
産業振興、LGBTQコミュニティ、刑法犯認知件数…、「いばらき幸福度指標」によるランキングとは?
──本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、茨城県の幸福度指標に関する取り組みについて教えていただけますか?
鈴木さん:茨城県では「活力があり、県民が日本一幸せな県」という基本理念を掲げ、「新しい豊かさ」「新しい安心安全」「新しい人財育成」「新しい夢・希望」の4つのチャレンジを推進しています。2022年3月に策定した第2次茨城県総合計画において、今まで抽象的な概念に留まっていた幸福を「見える化」するため、新たに県独自の「いばらき幸福度指標」を導入しました。茨城県では、「県民一人ひとりが未来に希望を持つことができ、自身のなりたい自分像に向かって一歩でも二歩でも近づいていけるよう、挑戦を続けられること」が幸せな状態であると考えています。
幸福感を主観的な感覚だけに頼らず、客観的な指標を通じて「見える化」しようとする試みで、当初は次の38指標を設定しました。その後も社会情勢などを踏まえながら、随時指標の見直しを行っています。
──具体的な指標がありますね。どのように選定を行ったのでしょうか?
鈴木さん:指標は、内閣府の先行研究や(一財)日本総合研究所が発行する「全47都道府県幸福度ランキング」なども参考に選定しました。公平かつ客観的な視点から茨城県の幸福度を測定したいという思いから、有識者の方のご意見やこれまでの研究成果も積極的に取り入れています。
転入者が増加!その背景にある雇用や産業振興
──特に幸福度指標の中で特に良い傾向にあるものはありますか?
鈴木さん:特に良い傾向を示しているのが「新しい豊かさ」に関連する指標です。これには1人当たりの県民所得や工場立地件数、労働生産性、農業の付加価値創出額などの指標が含まれています。このような雇用や産業振興、農林水産業に関わる指標で比較的高いスコアを得ており、2023年度の「新しい豊かさ」の全国順位は5位となりました。
幸福度指標を活用することで、政策の成果の確認や課題の明確化を図ることはもちろん、県民の皆様に、本県の良い部分をしっかりとお伝えし、豊かさや暮らしやすさを感じていただけることが重要だと考えています。本県にお住まいの方だけではなく、県外の方にも本県を知っていただき、将来的な移住にもつなげていきたいです。
──移住のお話がありましたが、茨城県の人口動向は具体的にどのような状況なのでしょうか?
鈴木さん:人口動向については、2021年、2022年と2年連続で転入超過となりました。具体的な数値を見ていくと特に10歳未満の子どもの転入が増えていることから、子育て世帯の転入が増加していることを示しています。
一方で、10代後半や20代前半の若年層に関しては課題が残っており、高校や大学を卒業した後、進学や就職を機に県外に流出する傾向があります。そこで、若い世代が望むような雇用を創出するため、いわゆるホワイトカラーと呼ばれる、本社や研究開発拠点の誘致に力を入れています。若い世代の方に地元での就職先があること、また、将来的に家庭を持った際に茨城県で生活する魅力を感じてもらうことが、人口減少対策の重要な部分だと考えています。
──首都圏が近いからこそ若年層の進学や就職での流出は起こりやすいかもしれませんが、会社の誘致というのは面白いですね。一方で、幸福度指標の中で、課題とされている部分はございますか?
鈴木さん:幸福度指標では、「新しい安心安全」の分野が課題として挙げられます。特に、県民千人当たりの刑法犯認知件数(警察が認知した刑法犯罪の件数)は、直近の数値で全国44位となっており、本県における大きな課題と認識しています。
独自のアプリで犯罪リスクを減少
──犯罪防止の観点では、具体的にどのような取り組みをされていますか?
鈴木さん:巡回連絡を活用した高齢者総合安全対策や街頭防犯カメラの設置支援のほか、茨城県独自に「いばらきポリス」という防犯アプリの運用を開始しました。特殊詐欺事件や不審者情報などの犯罪防止に関する情報をリアルタイムで提供することを目的としており、このアプリによる注意喚起を通じて、県民が犯罪に遭遇するリスクを減らすことができると考えています。
──地域全体の防犯意識の向上にもつながりそうですね。
パートナーシップ宣誓制度で、LGBTQコミュニティを支援
──そのほか、幸福度指標のなかで注目すべきものはありますか?
鈴木さん:「新しい人財育成」の部分で、パートナーシップ制度人口カバー率という指標があります。茨城県のパートナーシップ制度人口カバー率は100%で、都道府県ランキングでも1位となっています。
この取り組みにおいては、パートナーシップ宣誓制度の導入が重要な役割を果たしており、2019年に都道府県として初めて導入しました。法的に婚姻が認められていないLGBTQカップルに対して、パートナーシップの証明を提供し、生命保険の受取人指定、県営住宅への入居権、病院での手術同意などを可能にしています。
さらに、茨城県は他自治体との連携を深めており、これまでに5県3市とパートナーシップ宣誓制度の連携に関する協定を結んでいます。これにより、例えば茨城県の住民が協定を結んだ他の自治体に転出した場合でも、宣誓の効果が継続できるようにしています。
──茨城県が率先して広げていくことで、全国的に影響を持つように感じます。
より「幸せな暮らし」を実現する、県民参加型の取り組み
──県民の健康増進についても取り組んでおられるとのことですが、具体的にお伺いできますか?
鈴木さん:県民の健康増進を図る取り組みのひとつとして、県公式健康推進アプリ「元気アっプ!リいばらき」があります。このアプリでは、歩数や食生活など健康につながる活動をすることでポイントが貯まり、貯まったポイントで県産品などのプレゼントがもらえるシステムとなっています。
──ポイ活が健康につながるというのは、参加するのも楽しそうですね。
鈴木さん:そうですね。さらに、茨城県では総合計画の政策として「健康長寿日本一」を掲げており、「いばらき幸福度指標」では、健康寿命を1つの指標としています。健康寿命とは、健康な状態で生活できる期間の長さを示す指標です。茨城県の健康寿命は全国平均と比較して高い位置にありますが、これらの取組により、さらに向上させていきたいと考えています。
──他にも、県民の方が参加できるものとして、「であイバ」という茨城県オリジナルの婚活AIサービスも導入されていますね。
鈴木さん:「であイバ」は、結婚を誠実に希望する独身男女に出会いの機会を提供する、茨城県の公的な結婚サービスです。
──かなり多くのカップルが「であイバ」でご結婚されていますね。茨城県が支援するサービスとしてユニークな部分はありますか?
鈴木さん:近年導入したAIマッチングシステムにより、相性のよい相手をAIが紹介することでマッチングの確率を高めている点が大きな特徴です。また、オンラインお見合い機能など、スマートフォンで気軽に婚活ができる点が若い世代にもささっているのかなと思います。
──ありがとうございます。最後に、今後茨城県としてウェルビーイングを考えるにあたっての展望を教えていただけますか?
鈴木さん:茨城県は、北海道、鹿児島県に次ぐ、全国3位の農業産出額を誇り、農業大県として知られています。県内各地で品質に優れた農林水産物が豊富に生産されており、例えば、メロンや常陸牛、栗、干し芋などを通じて茨城県の魅力をPRしています。最近では、茨城県産のイセエビや、本県に飛来するマガモを「常陸乃国いせ海老」、「常陸国天然まがも」としてブランド化する取組を始めました。
また、人口減少や国内経済の規模縮小が懸念されるなか、海外への輸出にも力を入れています。知事自らがアメリカなどの海外へトップセールスに出向くなど積極的に海外戦略を進めています。
──新たな特産品の開発や海外への輸出、茨城県の産業が生かされた取り組みですね。
鈴木さん:そうですね。これらの海外も見据えた取り組みは、「食」を通じた茨城県のイメージアップに繋がると考えています。観光面では、JRグループと地域が一体となって行う国内最大規模の観光キャンペーンであるデスティネーションキャンペーンを実施していますが、「食」に関するイベントなどにより、観光客の誘致に努めています。強みである農業分野の施策にもしっかりと取り組むことで、県民の幸福も増大し、茨城県の目指す「活力があり、県民が日本一幸せな県」につながると信じています。
うつくしい庭園に圧巻の絶景!ゆたかな自然と触れ合えるスポット
──茨城県でおすすめのウェルビーイングスポットを教えていただけますか?
鈴木さん:私のおすすめとして、まずは「いばらきフラワーパーク」です。こちらは石岡市にあり、筑波山の麓に位置しています。1985年に開業した施設なのですが、2021年にリニューアルオープンしました。バラや季節の花々を楽しみながら、レストランでは花を使った料理が提供されるなど、さまざまな体験活動ができるようになっています。特に冬のライトアップイベントは、美しいイルミネーションが魅力で、デートスポットとしても最適です。
県の北部、福島に近い地域にある「常陸国ロングトレイル」もおすすめです。茨城県の県北エリア6市町にまたがり、日本のなかでも距離の長い山道を歩けるトレイルコースで、途中には絶景が眺められる見晴らし台や温泉、おいしい食べ物なども楽しめます。
最後に、「大洗海岸」もおすすめです。ここは海岸沿いにあるリゾート地で、アクアワールド茨城県大洗水族館が特に人気です。水族館では様々なイベントが開催されており、土曜日は夜間営業もあります。また、近くには大洗磯前神社もあり、日の出スポットとしても有名なパワースポットです。大洗は東京からもアクセスしやすく、海の幸も楽しめるので、ぜひ訪れてみてください。
──本日はありがとうございました。
Wellulu編集後記:
今回のインタビューでは、「いばらき幸福度指標」のランキングを踏まえながら、茨城県の現状をどのように捉え、今後はどのように施策を展開していく予定なのか?など、非常に興味深いお話を聞くことができました。また、産業振興や雇用面での全国5位という高い評価は、茨城県の経済的な基盤の強さを示しているのかもしれません。多様性・パートナーシップ制度人口カバー率で全国1位という成果も、社会の多様性への配慮と包摂性の高さを示しており、特にLGBTQコミュニティへの支援は他の地域にも模範となる取り組みだと感じました。
1993年に茨城県庁に入庁後、女性青少年課、産業政策課、労働政策課などに在籍し、2022年4月から現職。県政運営の基本方針である総合計画の推進と合わせ、2022年に導入した「いばらき幸福度指標」のPRに取り組む。このほか、地方創生や移住推進などの業務を総括。