Biz4-Well-Being

公開日:  / 最終更新日:

会社のパーパスと、私の生きがいがつながるとき。“内発的動機”を軸にした組織の進化 <イベントレポート>

個人の“価値観”や“内発的動機”と、組織の“持続可能な成長”をどうつなぐのか。ウェルビーイングやサステナビリティが経営の中核テーマとなる今、「人の内面」と「組織のビジョン」の交差点を問い直すオンラインイベント【組織をRe:Designする経営〜内発的動機×エンゲージメント×未来戦略〜】が開催された。

本イベントを主催したのは、株式会社ユーダイモニアユニバース。人が内面に持つ“源泉的な価値観”を可視化し、「本来の自分」と出会い直すためのマップ『価値観ネットワーク』を基盤としたサービスを展開している。

今回のイベントでは、個人の価値観や内発的動機が、組織のビジョンやパーパスとどう響き合い、互いに影響し合うのかについて、多彩な登壇者とともに深く探っていった。その様子をお届けする。

目次

「内発的動機」を可視化する重要性とは?

前野 隆司さん

武蔵野大学ウェルビーイング学部長、慶應義塾大学名誉教授

1984年東京工業大学(現東京科学大学)卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、慶應義塾大学教授、ハーバード大学訪問教授等を経て、武蔵野大学ウェルビーイング学部長、慶應義塾大学名誉教授。博士(工学)。著書に、『ディストピア禍の新・幸福論』(2022年)、『ウェルビーイング』(2022年)、『幸せな職場の経営学』(2019年)、『幸せのメカニズム』(2013年)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(2004年)など多数。日本機械学会賞(論文)(1999年)、日本ロボット学会論文賞(2003年)、日本バーチャルリアリティー学会論文賞(2007年)などを受賞。専門は、幸福学、イノベーション教育など。

妹川 久人さん

日本たばこ産業株式会社 執行役員 Chief Sustainability Officer

1995年JT入社。物流、セールス等の経験を経て、2000年大蔵省/財務省出向。出向後は主に事業企画や経営企画を経験し、2015年人事兼人事企画部長。2020年より執行役員としてサステナビリティマネジメントを担当。
一貫して中長期の戦略立案を独自目線で担い、各種改革案の提唱や遂行を図り、社内外問わずその活動の領域を広げることに主眼。直近ではサステナビリティ経営の新機軸の模索・構築と、非財務資本の可視化等を主要テーマの一つとしつつ、共感資本社会等のあり方についての研究と実践に努める。

水野 貴之さん

株式会社ユーダイモニアユニバース CEO

ヤフー株式会社(現・LINEヤフー)社長付・会長付、ネットエイジ執行役員、三井物産・TBSホールディングスの顧問など、国内の企業において経営戦略の中枢を歴任。
また、東南アジア・中東・欧州を拠点にプライベートエクイティやファミリーオフィスにて従事。異なる文化圏・産業領域での経営支援と事業創出に取り組み、多様な挑戦を重ねてきた。
1997年より「共感資本社会の創造」を構想。社会関係資本を可視化する電子マネーを発明し、特許を取得するなど、経済と人間性の接点を探究。ステークホルダーバランスを可視化する経営指標「CRV(Corporate
Resonant Value)」、幸福度と発達段階を定量化する「eumoグラム」といった、多角的な指標設計にも取り組む。
現在は、株式会社ユーダイモニアユニバース代表として、人間の心や意識等、これまで見えなかった価値を可視化定量化し、それらを活用した企業経営や社会システムの創造活動を実践している。

堂上 研

株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。

https://ecotone.co.jp/

堂上:今日はざっくばらんに、組織がこれからどうあるべきか、ウェルビーイングとサステナビリティ、さらには「生きがい」や「ワクワク働ける状態」について、皆さんのご経験をもとにお話を伺えればと思っています。

まずは前野先生から、「ウェルビーイングと経営」の視点でお話しいただけますか?

前野:ウェルビーイングという言葉自体は16世紀ぐらいからありましたが、広く知られるようになったのは1946年、WHOが「健康の定義」の中で用いたのがきっかけだと言われています。

WHOは「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と定義しており、その「良好な状態」と和訳されてる元の英語が「well-being(ウェルビーイング)」なんです。つまりウェルビーイングとは、「肉体的、精神的、社会的に完全に良好な状態」と定義することができます。

これは健康経営も含みますし、幸せな人は生産性が高いので働き方改革にも関係しますし、人的資本経営にもとづいて人が資本としてより良くなるということは、結局は「幸せになる」ということだと思います。幸せな人は生産性が30%高く、創造性も3倍高いというデータもあります。

堂上:生産性の高い、創造性の高い組織になるためには、ウェルビーイングな人を増やせばいいとわかっている。一方で、「それって実際どうやってやれば良いの?」と悩んでいる企業も多いと思います。

前野:そうですね。ウェルビーイングな人を増やすためには、「やりがい」と「つながり」が大切です。やりがいを高めるには、本人が「自分の本当にやりたいこと=内発的動機」を見つけ、それを実行できること。一方で、つながりを深める取り組みとして、1on1ミーティングをする会社も増えていますが、じつは1on1ミーティングをすればするほどエンゲージメントが下がるケースもあるんです。

堂上:えっ、むしろ逆効果になることもあるんですか。それは1on1ミーティングで価値観を押し付けてしまっているということでしょうか?

前野:そうなんです。1on1ミーティングというのは本来、傾聴する時間なのに、上司が価値観を押しつけてしまう、いつの間にか仕事の詰問になってしまう、ということが起きています。ウェルビーイング経営が浸透してきている一方で、こういった逆に信頼を損ねてしまうこともあるんですよね。

堂上:なるほど……。傾聴どころか、圧迫面接みたいになってしまうこともあるわけですね。

では、JTでサステナビリティマネジメントを担当している妹川さん。ウェルビーイングとサステナビリティの関係をどう捉え、社内ではどのように実践されているかお話いただけますか。

妹川:「サステナビリティ」を環境・人権等々分解すれば色々な点が出てきますけれども、私自身はもっと根本的に、「人間も企業も、社会や地球環境に生かされている存在」であるというのが前提にあると思っています。

つまり、企業の持続性と、我々の持続性というのはマッチしているわけで、自分たちのエゴだけを追求して、自分たちだけが生き残ろうとしても生き残れるわけではない。だからこそサステナビリティというのは、誰かからの要請があるから動くのではなく、自らの「内発的動機」に基づいて取り組むべきものだと考えています。

堂上:企業が自分ごととして、積極的に手を挙げていくことが求められているということですね。

妹川:そうです。そのためにも、まず「自分たちは何が得意で、何ができるのか」ということを理解し、自分たちらしいアプローチでサステナビリティを追求することが大切です。

企業は人の集合体ですから、会社・グループの社員はもちろん、ステークホルダーも含めた「私たち」を主語として、内発的動機に基づき、共に未来を描いて実践していく。それが、これからの経営のあり方ではないかと思います。

堂上:「私」のウェルビーイングから「私たち」のウェルビーイングへ。それもひとつの大きなテーマだと感じます。

ただその一方で、会社の内発的動機と自分自身の内発的動機にズレがある、価値観が一致しないということもありますよね。そういったときには、やはり対話を重ねていくことで乗り越えていくのでしょうか。

妹川:はい。そう思いますし、そもそも「自分の内発的動機って、どこから来ているのか?」を知ることがとても大事だと思います。できれば、それをオープンに共有できるようになると理想的ですよね。

相手がどんな動機を持っていて、何に喜び、何に悲しみ、どんな感情に動かされているのか。そうした背景が見えるだけで、対話の質は深まるはずです。

堂上:オープンでいることは、ウェルビーイングにおいても重要ですね。ズレた対話や、価値観の押し付け合いが続いてしまうと、ウェルビーイングやサステナビリティとは逆の方向に進んでしまいかねません。

妹川:内発的動機や自分自身のウェルビーイングを追求することは大事です。でも同時に、それが自分だけのエゴになってしまっては本末転倒だとも思うんです。

私が目指しているのは「共感資本主義」という世界観です。「自分さえよければいい」という考えでは、共感に満ちた心豊かな社会は成り立たないと考えています。

堂上:「共感」もひとつのキーワードになってきますね。では続いて、水野さん。僕はタカさんと呼ばせていただきますが、タカさんは企業のウェルビーイングを探求した結果、価値観を可視化する「価値観ネットワーク」、そして「Ikigai経営理論」にたどり着いたということですが、詳しくお話いただけますか。

水野:はい。まず「可視化」には人間を動かす力があります。たとえば、2016年のリオ五輪で日本が当時過去最多のメダルを獲得できた背景には、データ主義のもと戦略が立てられ選手たちの現状の記録とメダリストの記録との差、またそれを縮めるためには何をすべきかを徹底的に可視化したからだそうです。

これはスポーツだけでなく、人間全般にも言えることだと思っています。目に見えないウェルビーイングや生きがい、そういった“見えにくいもの”を、いかに見える化するか。それが、これからの社会づくりのカギを握っていると感じています。

堂上:ウェルビーイングや生きがいを可視化するって、すごく難しそうな気がしますが、どのようにアプローチしていかれたんですか?

水野:まずは「生きがいとはそもそも何か?」を探るところから始めました。古今東西、さまざまな文献を読み解いたりしていくと、大きく分けて「肉体系」「感情系」「思考系」「精神系」という4つの領域に分類できると気づいたんです。そして、その価値観を整理していったところ、全部で108個あるんですよ。

堂上:108個! 煩悩の数と一緒ですね。興味深いです。

水野:そうなんです、偶然なのか、なんとも皮肉めいていますよね(笑)。

ただその価値観を見ていくと、どうも価値観は個々ではなく価値観同士がつながってそうだと感じ、ネットワーク化したモデルを作ってみました。すると、そのネットワークからいろんなことがわかってきたんです。

たとえばその人のタイプ、コンピテンシーの思考や発達段階など。自分でも「これはすごく深遠な世界にたどり着いてしまったな」と感じながら、楽しく探究を続けています。そうして生まれたのが、私たちが提供している「価値観ネットワーク」というサービスです。

whatだけでなく、why・howで生きがいを捉える視点

堂上:最近では「夢を持っていますか?」と聞かれても、答えられない若者が増えていると言われていますよね。部下に夢を聞くことが「夢ハラ」だという風潮もあります。自分の内発的動機が見えていない社員に対しては、どう接するのがよいのでしょうか。

水野:「夢」というと、どうしても大きなものをイメージしがちですが、「生きがい」は誰もが何かしたら持っていると思うんです。たとえば朝にこだわって飲むコーヒーが好きとか、可愛いがっているペットと散歩するのが楽しみだとか。

それは「夢」とは呼ばないかもしれませんが、立派な生きがいだと思います。そうした自分軸のある日常のなかで、生きがいと仕事をどう結びつけるか。そんな視点を持ってみてはいかがでしょうか。

前野:生きがいや夢、目標がある人のほうが、幸福度が高いというデータがあります。それと同時に、企業の理念と個人の生きがいが一致している人も、幸福度が高い傾向があります。

ただ実際には、企業の理念と個人の生きがいって、抽象度の高い部分では重なり合うものなんですよ。どんな企業でも社会に貢献し、成長し続けようとしているわけですから。

堂上:欲やエゴ、そして価値観や生きがいのあいだで混乱している人も多そうですよね。

妹川:夢や内発的動機を、「what(何をするか)」で細かく定義しようとすると、苦しくなることがあります。じつはwhat以外の「why(なぜやるのか)」や「how(どう取り組むのか)」でも良いと思うんです。

私自身は、how派。たとえば逆張りや敢えて異なるアプローチを試してみることが好きなんです。極端に言えば、whatは何でもよくて、一見非常識に見えるアプローチを試してみると仕事を楽しめる。

もちろん夢を具体的に持つのも素晴らしいですが、howのような抽象的な軸を持っていると、生きやすさにもつながることもあります。たとえばよくある「どこの部署に行きたいか」を聞くキャリア面談は、whatの視点ですよね。でも、それ以上に「なぜそれをやりたいのか」「どういう人でありたいのか」といった観点を持つことができれば、外的環境に振り回されず、自分らしく働けるようになると思います。

堂上:夢や動機の“抽象度”を少し上げてあげることが大切なんですね。

前野:そうですね。たとえば「サッカー選手になりたい」と思っていても、なれなければ挫折になります。でも「スポーツや健康に関わりたい」という夢なら、選択肢はぐっと広がる。自分の中で抽象化することで、仕事ともマッチしやすくなるし、幸福度も高まると思います。

堂上:新規事業をつくる場でも、「what」より「why」が大事にされますよね。だからこそ、whyを深掘りしていくというのは、あらゆる場面で重要だと思います。

水野:じつは私は、数年前まではWhy派で「天命原理主義」だったんですよ。社員にも「天命に目覚めろ」と言っていました。

でも、研究開発を進めるなかで、あるとき気づいたんです。天命って、あくまで価値観のひとつにすぎないんだなと。それ以来、生きがいや内発的動機は、howやwhyでもいいし、人によって多様でいいんだと捉えるようになりました。

堂上:経営者やマネジメント層は、自分の成功体験がある分、その方法をやれば効率良くできると思ってしまいがちですよね。でも、遠回りしてでも社員の価値観を可視化しながら話を聞いてあげるというのが大事なんでしょうか。

妹川:そうですね。私は「失敗談をたくさん話せる会社」は良い会社だと思っています。

堂上:JTさんは、失敗を許してくれる風土があるんですか?

妹川:はい。基本的に失敗は糧にできるもの。むしろ、大人の特権だと思っています。

堂上:Welluluで「ウェルビーイングに働ける会社」を調査したときも、「失敗を許される文化がある会社」はウェルビーイングが高いという結果が出ていました。そういう企業がもっと増えていってほしいですよね。

前野:失敗談を語ると、チームの一体感が高まるという研究もあるんですよ。自慢話ばかりするよりも、失敗談を聞いた方が親近感がわきますよね。

組織で起こった変化とは? 可視化が導いた実践事例

 

榎並 顕さん

オムロン フィールドエンジニアリング株式会社 執行役員

2002年大阪大学基礎工学部卒業、オムロン株式会社に入社。新規事業開発や、環境事業の立ち上げを経て、11年より欧州に赴任、欧州・中東・アフリカにおける環境事業の拡大に取り組む。19年よりグローバル戦略本部にて長期ビジョン・中期経営計画の策定に携わる。23年より現職。現在は、製造業を中心にカーボンニュートラル実現に向けた設備更新や大型蓄電池事業を活用した事業を中心に取り組む。

永野 太郎さん

関西電力株式会社 ソリューション本部 リビング営業計画グループ 部長

2001年東京大学経済学部卒業、関西電力入社。主に電気料金メニューの開発に従事した後、2014年には電気事業連合会に出向し、電力小売全面自由化の制度設計対応を担当。2017年、再び関西電力にて、ガス小売自由化にあわせ、ガス小売エリア拡大に参画。その後は、電気・ガス小売事業の収支管理・料金戦略を担当。 現在は、リビング営業計画グループで、家庭用分野の電気・ガス小売事業に加え、住宅設備リース事業の販売戦略策定を担当。

堂上:ここからは、実際に組織で価値観の可視化を取り入れたことで、どのような変化が起きているのか。オムロンの榎並さん、関西電力の永野さんにお話を伺っていきます。

個人の価値観や人となり、そして組織のパーパスが、どのようにつながっていくのかを考えていきたいと思います。まず、オムロンさんではどのようにして個人の価値観を可視化しているのでしょうか?

榎並:オムロンでは2030年に向けた長期ビジョンとして、「人が活きるオートメーションで、ソーシャルニーズを創造し続ける」というテーマを掲げました。技術の力を使って、人の可能性を最大限解き放ち、社会全体の豊かさと自分らしさの追求を両立させていくという考え方です。

長期ビジョンを策定した後、事業に戻ったときに、ビジョン達成には大きなハードルがあるのではないかと感じました。なぜならば、社員の多くが“内発的動機”に基づいて「善く生きる」よりも、“評価への不安”という恐れから「上手く生きよう」と行動していたからです。その結果、「自分軸」よりも「他人軸」が強く影響している現実がありました。

堂上:だからこそ、価値観の可視化が重要だと思われたのですね。

榎並:はい。リモートワークが普及したことで、一緒に過ごす時間が減り、人となりや大切にしていることを知る機会が減っています。加えて飲み会などコミュニケーション機会も随分減っています。そのため、価値観を可視化するだけでなく、共に働く仲間がどのような価値観を持っているかを互いに話し合い、相手の人となりを知ることが非常に重要だと思っています。

堂上:つまり、仕事で見せる「A面」だけでなく、プライベートな「B面」。たとえば友達と遊んでいるときや、家族といるときのような部分も見せていくということですね。

関西電力さんではいかがでしょう?

永野:私は今の家庭向けサービスの部署に配属される前、販売統計と小売収支を担当する部署にいました。数字を扱う仕事は会社全体の動きを支える重要な業務である一方で、社員がやりがいを実感しにくいという課題がありました。

そこでまずは仕事を効率化して残業時間を減らし、プライベートの時間を充実させてもらおうと動いたのですが、仕事中の表情があまり変わらなかったんです。そこで気づいたのが、仕事を効率化するだけでなく、「今やっている仕事がどこにつながっているのか、誰の幸せにつながっているのか」を社員一人ひとりが理解できていないと、やりがいは生まれないということでした。そこで各自の価値観を可視化し、それが現在の仕事とどう結びついているかを話し合う機会をつくりました。

堂上:価値観を可視化したあとは、どのように組織の中で活用されていますか?

榎並:私たちのチームでは、業務を通じてどの程度価値観を満たせているか、満たせていない場合には誰とどのような業務で満たしていくのかの対話をしてもらっています。

堂上:つまり、価値観をチーミングや組織編成にも活かしているのですね。一方で、価値観が見えることによって価値観の違いが明らかになり、衝突してしまうということも起こりうると思います。そういったことにはどう対応されていますか。

永野:確かに、表面的な行動や感情だけを見るとすれ違いも生まれやすいのですが、その背景にある価値観を理解していれば、衝突も減らせます。私たちは「職場懇談会」で、業務の会議とは別の“価値観にフォーカスした場”を毎月設けています。仕事やプライベートでどんな価値観が満たされたか、何が満たされなかったかを共有する場です。

堂上:なるほど。とはいえ、企業には「この日までにこれをやる」といった時間的な制約もありますよね。価値観を大事にしながら、そうした現実とどう向き合っていますか?

榎並:社員がやりたいことと、会社がやりたいことの重なりをいかに大きくするかがポイントになります。社員のやりたいことを理解しつつ、会社もまた社員のやりたいことに応じて変わっていけるかが重要だと思います。

私自身も、今までやりたいことに挑戦させてもらえたときには、パフォーマンスも上がり、自分自身が成長しているという実感も高まりました。社員一人ひとりの「やりたいこと」を大切にすることは、結果的に会社の成長にもつながるはずです。

永野:関西電力では「公正・誠実・共感・挑戦」の4つの価値観を大切にしています。これらは、多くの社員と自然に重なり合う部分があるんです。“共通点”を見つけていくことも、組織としての一体感を育む上で大切だと思います。

堂上:まさに、前野先生がおっしゃっていた「幸せな人は生産性が高い」という話につながりますね。オムロンさんと関西電力さんでは、社員一人ひとりの内発的動機を可視化し、そこに組織として向き合うことで、社員と会社の成長が同時に進んでいる印象です。

では、最後にお二人に伺います。仕事をされていて、どんなときに楽しさを感じますか?

榎並:私はオムロンの価値観の一つである「絶えざるチャレンジ」に共感しています。自分がやりたいことに挑戦させてもらえた環境に感謝していますし、多くの失敗も含めて受け入れてもらえた経験が、今の自分を支えています。

永野:私の場合、「学び」と「発見」が大きな軸です。異動して業務内容に戸惑ったときも、「ここで何を学べるか」「何が見つかるか」と考えることで、前向きに仕事に取り組めるようになりました。自分ひとりで抱え込まず、周囲に頼ることも自然にできるようになったと思います。

堂上:価値観の可視化が、他者との対話だけでなく、自分自身との対話にもつながっているのですね。

榎並:そうですね。組織メンバーの価値観が見えるようになると、一緒に仕事をしているだけで楽しくなります。良いチームができている実感があります。

永野:正解がない問いについて、メンバーと「ああでもない、こうでもない」と議論しながらコミュニケーションを取りながら進めていくのが楽しいんです。そのなかで相手の価値観の背景が見えてくると、仕事そのものがより豊かになります。

会社の価値観と合わないと気づいたときの向き合い方

堂上:最後に、少し難しい問いを皆さんに投げかけたいと思います。価値観を可視化した結果、「自分は会社のパーパスや価値観と合わない」と気づいてしまったとしたら……そのときは、会社を辞めるべきなのでしょうか?

妹川:会社には理念やパーパスといったものが掲げられてはいますが、会社を構成しているのは一人ひとり異なる価値観を持った社員です。

だから、会社の価値観と合う・合わないって簡単に整合性が図れるものなのかどうか、そこはまずちゃんと疑ってみましょうとお伝えしたいです。

自分がまだ気がついていない価値観が会社にあるのかもしれない。表面的な違いに捉われているだけかもしれません。その上で、「やっぱり違う」と思うなら、違う道を進むという選択もあるでしょう。ただし、ストレスフルなときに決断をするのはおすすめしません。大事なことは、ヘルシーでウェルビーイングなときに決断して欲しいですね。

前野:幸福学の研究でも、幸せな人は利他的であり、不幸せな人ほど利己的になる傾向があります。会社と価値観が合わないと感じてしまうときというのは、もしかすると“幸せじゃない状態(利己的な状態)”にいるのかもしれません。

でも、会社も本来は社会に貢献する存在ですし、個人の幸せも「誰かの役に立つこと」や「成長」に関係しているものです。それをもとに、利他的な視点からもう一度見つめ直してみることで、見えなかった接点に気づくことができるかもしれません。

榎並:オムロンの創業者・立石一真氏は「最もよく人を幸福にする人が、最もよく幸福になる」と言っています。この考え方は、前野先生のおっしゃる「利他」につながるものだと思います。

また、私たちが大切にしている社憲には「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」とあります。この言葉は、多様な人たちの価値観を満たせるものだと思っています。

永野:人と会社の関係を「人と人」に置き換えて考えてみると、価値観が完全に一致する相手というのはなかなかいないと思うんです。それでも一緒にいて楽しいと思えるなら、それはうまく関係を築けているということ。

その感覚って、じつはすごく大事だと思うんです。そうしているうちに価値観が変化することもあるし、隠れた価値観が見つかることもあると思っています。

堂上:皆さんのお話を聞いて、「対話」というキーワードが浮かびました。自分の中にある価値観、会社の中にある価値観、どちらにもまだ気づいていない部分があるかもしれない。まずはそれを対話の中で確かめ合ってから、本当に合わないのかどうかを判断していくべきなのかもしれませんね。

前野:よく「価値観の不一致」が離婚の理由に挙げられますが、僕は妻と性格がまったく違うからこそ、楽しく暮らせていると感じています。実際、うまくいっている夫婦って、価値観が違うことを受け入れて楽しんでいることが多いんです。

それと同じように、上司と部下、会社と自分という関係も価値観が完全に一致する必要はないし、違いを楽しめることが大切なんだと思います。違いに気づくことで自分の成長にもつながりますし、そう思えたら、違いがあること自体が「正常」なんだと受け取れるかもしれません。

堂上:価値観の違いが、むしろ自分を成長させてくれる。そう思えば、価値観の違いを感じる瞬間にすら感謝できるようになるかもしれませんね。今日は本当に多くの学びをいただきました。ありがとうございました!

お問い合わせ先はこちら:
 株式会社ユーダイモニアユニバース
 https://www.eudaimoniauniverse.com/

記事内でご紹介した、個人の価値観を可視化する「価値観ネットワーク」無料作成をご希望の方は、上記リンク内「お問い合わせ」よりお申込ください。

RECOMMEND

←
←

Biz4-Well-Being

花を買う文化の国は幸福度が高い? 廃棄される花を再生する「ロスフラワー®︎」から生まれる物語〈RIN〉

Biz4-Well-Being

【大成建設 田中康夫氏】リベラルアーツの学びで人財育成改革に挑む

Biz4-Well-Being

【広瀬拓哉氏】リアルな拠点は共創プロジェクトを加速させる装置。三菱地所が「食農×地域」に取り組むわけ

Biz4-Well-Being

自分の気持ち、感じてますか? 鎌倉にいる変容のプロを訊ねて <ヒューマンポテンシャルラボ>

Biz4-Well-Being

良質な睡眠はウェルビーイング生活の出発点!睡眠不足で経済損失も?日本社会の睡眠問題とは

WEEKLY RANKING

←
←

Biz4-Well-Being

会社のパーパスと、私の生きがいがつながるとき。“内発的動機”を軸にした組織の進化 <イベントレポート>

Others

ダンベルを使った筋トレメニュー14選!部位別のおすすめ種目・1週間メニューも紹介

Others

【体脂肪率別】女性の見た目の違い!理想値と平均値、体型別の特徴

Others

【前部・中部・後部】三角筋(肩)の筋トレ!ダンベル・バーベル・自重など種目別に紹介

Others

大胸筋を鍛えるダンベル筋トレメニュー8選!重量や回数・組み合わせメニューも