突然の雨に見舞われたとき、コンビニでビニール傘を買い、気付けば玄関に何本も溜まっている……。使い捨て傘ゼロを目指すために、傘は借りて返すという新しい当たり前をつくろうとしているのが、傘のシェアリングサービス「アイカサ」です。
今回は、アイカサを運営する株式会社Nature Innovation Groupの代表取締役である丸川照司さんに、廃棄問題から傘のシェアリングサービスの利便性、使い捨て傘をなくすための取り組みについてお話を伺った。

丸川 照司さん
代表取締役
年間8,000万本が消費されるビニール傘大国日本

── ビニール傘が広まった背景やどのくらい消費されているかを教えてください。
丸川さん:そもそも透明なビニール傘は、日本で生まれた製品です。日本特有の夕立ちが多い気候や電車移動がメインで「いい傘を持っていても忘れてしまいやすい」という文化も相まって普及してきました。
さらに、1980年代以降にコンビニエンスストアが急増し、安価な傘がどこでも手に入るようになったことで消費が加速しました。現在、日本では推定で年間約6,000万〜8,000万本の傘が消費されており、日本のビニール傘の消費量は全世界の中で1位なんです。
── 全世界で1番ビニール傘が消費されているんですね!そのビニール傘は環境にどのような影響を与えますか?
丸川さん:ビニール傘はどんなに長く使っても寿命は5年程度です。長期的な視点で見れば、この消費量はほぼ廃棄量に直結しています。8,000万本が廃棄されたとすると、二酸化炭素が55,000tも排出されてしまうんです。
また、ビニール傘が街なかにポイ捨てされると景観を損なう原因にもなるので、環境負担という観点でも大きな課題があると考えています。
── 環境負荷が大きいのにもかかわらず、突然の雨のたびにとりあえずビニール傘を買ってしまう人が多い背景を教えてください。
丸川さん:まず弊社のアンケートによると、日常的に折りたたみ傘を携帯している人は全体の2〜3割にとどまります。そもそも「傘を持っていない」状態で外出する人が多いのが現状です。
東京の移動人口は約1,000万人ですが、そのうちのわずか1%が傘を買うだけで、1日で10万本の傘が消費される計算になります。「天気次第で持ったり持たなかったりする」という不確実な行動様式が、結果として大量消費を生んでいるんです。
── 傘の所有からレンタルにより、生活者の行動にどのような変化が生まれていますか?
丸川さん:新しく傘を買わなくて済むようになった人が増えたことが大きいですね。ビジネスパーソンの中には年間10本近く購入している人も少なくありません。
アイカサ※を利用すると、ビニール傘の消費が抑えられます。 実際、私たちが実施したアンケートによると、ユーザーの約48.7%が「アイカサがなければ傘を買っていた」と回答しています。
アイカサのサービス
日本初の本格的な傘のシェアリングサービス。6~24時間140円、月額280円で借りられる。
傘をシェアリングしてビニール傘を削減

── 生活の動線としてどのような場所に傘スポットがあると、私たちの傘を買う行動が変わりますか?
丸川さん:雨が降った瞬間に目の前にスポットがあれば、ビニール傘を買わずに済むと思います。そのために、コンビニのようにどこにでもあるインフラになることが目標ですね。
現在は、借りやすさと返しやすさを重視して駅への設置に注力しています。今後は移動の途中や遊んでいる最中にも利用できるよう、商業施設や通学・通勤路など、人の移動ニーズが多い場所へ広げていきたいと考えています。
── アイカサのスポットを広げていく中で、生活者の行動変容を感じる事例はありますか?
丸川さん:ユーザーインタビューでは「以前はお酒を飲んだ帰りに傘をトイレや電車に置き忘れることが多く、ビニール傘を年間10本は買っていましたが、アイカサを利用してから1年以上ビニール傘を買っていません」という声をいただきました。
もともと環境意識が高くなかった人でも、アイカサの利便性に惹かれて使い始めるうちに、結果としてエコな行動をとっていることがあるようです。「環境のために」と構えなくても、サービスを使うことで自然と行動変容が起きているのは嬉しい変化ですね。

── 傘をシェアリングするだけで、気軽にエコな行動がとれるのは素敵ですね!アイカサの利用者や利用場所を教えてください。
丸川さん:幅広い世代にご利用いただいていますが、とくに通勤・通学で移動が多い30代の人の利用が目立ちます。エリアとしては都心部が中心ですね。「天気予報を見るのが面倒」「普段は手ぶらで過ごしたい」というニーズを持つ人に選ばれています。
たとえば、渋谷で買い物するときに1時間だけ借りて駅で返し、最寄り駅から帰宅するときにまた借りるなどシーンに合わせた使い方をしています。約7割のユーザーがサブスクリプションプランをご利用いただいており、最大で同時に2本の傘を回数無制限で利用できるので、傘を保有せずに生活できるんですよ。
修理を前提とした使い捨てないデザイン

出典:傘シェアのアイカサ、街全体で使い捨て傘の削減を目指す「2030年使い捨て傘ゼロプロジェクト for City」を開始。コンビニを越えるインフラに。
── 一般的なビニール傘よりも長く使うために、アイカサの傘で工夫されているところを教えてください。
丸川さん:アイカサの傘は、使い捨てではなく「修理して使い続ける」ことを前提に設計しています。
骨が1本折れたり、雨をはじく生地が消耗したりしても、そのパーツだけを取り換えられる構造になっており、適切なメンテナンスをおこなえば、5~10年は使い続けられます。 このように、廃棄を極限まで減らすサーキュラーエコノミーの実現を目指しています。
サーキュラーエコノミー
製品や資源を可能な限り長く使い続け、廃棄物を最小限に抑える持続可能な経済システム
── 修理して使い続けられるのは、エコですね!そのアイカサが提供している傘は、環境に配慮した素材を使用しているそうですね!
丸川さん:アイカサで貸し出している傘のうち、全体の8割ほどを占める水色の傘は、生地にペットボトル再生素材を100%使用しています。今は生地の部分だけですが、今後は、傘の先端の石突や持ち手の部分も再生可能素材に変更し、より一層環境に優しい傘にしていきたいですね。
渋谷を傘のいらない街へ。インフラとして風景に溶け込む挑戦

出典:アイカサ、東急不動産、HD新規プロジェクト「傘のいらない街 渋谷」を始動 | 株式会社Nature Innovation Groupのプレスリリース
── 街全体で傘のシェアリングがインフラとして根付いていくために、どのようなアプローチを考えていますか?
丸川さん:私たちは2030年までに、日本の使い捨て傘消費を実質ゼロにすることを目指す「2030使い捨て傘ゼロプロジェクト」の取り組みを進めています。
そのなかで、現在は首都圏で約1,500箇所のスポットを展開していますが、まだまだ足りないと感じています。 アイカサをより多くの場所に設置できるように、さまざまな企業や自治体との協業に向けて動いています。
── 実際に企業や自治体と協業した事例はありますか?
丸川さん:身近な例でいくと、東急不動産HDや渋谷区、観光協会などと連携し、渋谷駅半径600メートル以内に100箇所以上のスポットを設置して「傘のいらない街」を目指しています。MIYASHITA PARKやShibuya Sakura Stageといった大型施設だけでなく、街中の目につく場所に設置して、雨が降ってきたら自然とアイカサが視界に入る状態を作りたいんです。
── 100箇所以上あれば、渋谷駅周辺で傘に困らなさそうですね!
丸川さん:ただ実際に設置したところ、渋谷の人の多さと需要の高さから110箇所では足りていないと感じています。今後は200箇所程度まで広げて自販機のように街の景色の一部として当たり前に認知されるまで、渋谷駅周辺でアイカサの設置数と密度を高めていくことを計画しています。
認知度アップのためにさまざまな企業とコラボレーション

── これまでアイカサの特徴や利便性をお伺いしてきましたが、アイカサが抱える課題を教えてください。
丸川さん:アイカサの課題は、徐々に知ってもらいつつも雨の日のインフラになるためには、まだまだ認知度を上げていく必要があることです。そのために「2030使い捨て傘ゼロプロジェクト」の一環として、企業とコラボレーションしたり、さまざまな発表をおこなったりしています。
たとえば、2025年の5月には、日本テレビ放送網株式会社の「Good For the Planet ウィーク(以下グップラ)」とコラボレーションしました。グップラは、視聴者とともに「地球のため、未来のため、より良い暮らしのために今できること」を考えていくキャンペーンで、グップラのサポーターがデザインした傘を、山手線全線に設置しました。「かわいらしいデザインのアイカサを使って、雨の日をハッピーに過ごしてほしい」という願いが込められているんです。
出典:傘シェアのアイカサ、日本テレビが行う「Good For the Planet(グップラ)」とコラボ!オリジナル傘を山手線全駅で提供開始。
── かわいらしい傘なら、雨の日の気分も上がりそうですね!ほかにも企業とのコラボレーション事例はありますか?
丸川さん:旭化成ホームプロダクツ株式会社とコラボレーションし、ジップロック®のリサイクル素材を使用した傘の製作をおこなっています。使用済みのジップロック®や工場の廃棄材を回収し、株式会社ビームスがデザインしたオシャレな傘に再生する取り組みです。
実際に、東急東横線・田園都市線沿線を中心に、ジップロック®をリサイクルした傘が設置されており、今後もプラスチック製品を再利用した傘をアイカサとして再利用して、環境負荷を軽減していきます。

雨の日だけでなく晴れの日のストレスを解放し、ウェルビーイングな社会へ

── 利用者は、アイカサによって一日の気分がどのように変化していると感じますか?
丸川さん:「安心して外出できるようになった」「移動のストレスが減った」という声を多くいただいています。
また、最近では雨の日だけでなく、猛暑日の熱中症対策として「日傘」のシェアリングも強化しており、夏の暑い時期に日傘をシェアリングして利用している男性も増えてきていると感じています。「雨に濡れる」「暑さに耐える」といった移動中の負担を解消することで、人々のウェルビーイングに貢献できていると実感しています。
── 「2030使い捨て傘ゼロプロジェクト」の取り組みが達成されることで、日本の街や生活者の行動がどのように変化してほしいですか?
丸川さん:アイカサを使うことが、ただ便利なだけでなく「環境にいいことをしている」という小さな誇りにつながってほしいと考えています。そして、「昔は傘をわざわざ買っていた時代があったよね」と笑って話せるような未来を作り、シェアリングの輪を広げることが最大の環境貢献になると感じています。
そのための目標は、アイカサのスポット数を現在の10倍にし、利用者1,000万人を達成することです。まずは認知率を高め、企業や自治体と連携しながら、傘のシェアリングを日本の新しい文化として根付かせていきます。
── ビニール傘の大量廃棄問題を解決する手段であるシェアリングの可能性がよくわかりました!個人の意識変化だけでなく、街全体でインフラとして整えることが持続可能な社会につながるんですね。本日は素晴らしいお話をありがとうございました!
台湾と日本とのハーフでトリリンガル。18歳でNPO法人フローレンスの駒崎さんの影響を受けソーシャルビジネスに興味持ち社会に良いビジネスをしたいと社会起業家を志す。その後マレーシアの大学へ留学した。マレーシアに留学中、生活を豊かにする海外のシェア経済に魅了され、2018年日本の使い捨て傘を無くし、雨の日を快適にするために「アイカサ」を立ち上げる。
公式HP:https://www.i-kasa.com/