近年、資源枯渇の課題が深刻化している。サステナブルな社会の実現に向けた取り組みが加速するなか、これまで廃棄されてきた「未利用資源」に新たな価値を生み出す「発酵アップサイクル技術」が、いま大きな注目を集めている。
今回は、この発酵技術を駆使して資源が循環する社会の土台づくりに貢献している株式会社ファーメンステーションの渡辺麻貴さんに話を伺った。
未利用資源とは
市場に流通せず、廃棄や放置されていた資源(規格外野菜や加工副産物など)
- 規格外野菜:食べられるにもかかわらず、形や大きさが基準を満たさないため、通常の流通経路で販売されない野菜
- 加工副産物:製造する過程で、本来の目的物以外に発生するものなど

渡辺 麻貴さん
インパクト推進・広報
捨てられていたものを「選ぶ」という消費行動
── 最近、生活者の間で「サステナブルな選択」をする意識が高まっています。生活者の意識変化をどのように感じられていますか?
渡辺さん:サステナブルな選択をする意識は徐々に浸透してきていますが、世界的に見ると日本はまだゆっくりとした進展だと感じています。現状、商品の選択で価格や機能に大きな差がない場合、サステナブルであることが価値として選ばれることが多い印象がありますね。
積極的に選ぶ人はまだ少数ですが、関心を持っているコアな層は確かに存在すると思います。
── 日本では、浸透するスピードはゆっくりなんですね。そんな日本では未利用資源を使った商品を選ぶことに抵抗を持つ人もいるかと思います。どんな情報が伝わると、選びやすくなるでしょうか?
渡辺さん:未利用資源を使った食品を消費者に選んでいただくには、商品の安全性をしっかり伝えることが大切だと考えています。
クリーンラベルの食品は添加物や遺伝子組み換え原料をほとんど使っていないんです。お客様に安心していただくために、私たちは原材料がたどれる原料のみを使い、クリーンラベルを実現できるような、わかりやすい設計と表示を心がけています。
クリーンラベルとは
表示内容が明確でわかりやすい食品パッケージの表示。人工添加物や化学合成物質などをなるべく使わずに製造されている製品であることの証明となる。

出典:事業共創:宝酒造株式会社 様 | 株式会社ファーメンステーション (FERMENSTATION)
── 安全性がわかれば、製品を手に取りやすくなりそうですね!実際に、未利用資源を使った製品を消費者が手に取る機会は増えていますか?
渡辺さん:プライベートで買い物に行ったときに、弊社が企業と研究開発をおこなった商品をスーパーやドラックストアで共同開発した商品をよく見かけますね。以前よりもアップサイクル製品を手に取る機会が増えていると肌で感じています。
代表例のひとつが、宝酒造株式会社と共同開発した『発酵蒸留サワー』です。発酵蒸留サワーには、柑橘の果皮を発酵させることで複雑な香りや風味を引き出した果皮発酵スピリッツが使用されています。
柑橘類を独自の技術で発酵させることで、すっきりとした風味だけでなく果皮由来の複雑な風味を持つスピリッツを作り出しています。製品にこのスピリッツを使うことで低アルコール商品にもかかわらず、アルコール感や深み、飲みごたえを感じられるようになるんです。
未利用資源が発酵アップサイクル技術で価値に変わる瞬間

── 発酵アップサイクル技術の仕組みを教えてください。
渡辺さん:未利用資源を非遺伝子組み換えの微生物を組み合わせて、発酵させることで、狙った用途の食品素材に変換しています。たとえば、コーヒーかすを発酵させ、独自の方法で蒸留等をおこなうと、バニラのような甘い香りのエタノールが生成され、ユニークなフレーバー素材になります。
また、米ぬかからミルク系の風味素材を開発しており、来春販売する商品への使用を予定しています。植物由来の未利用資源からこうした原料を開発できれば、ヴィーガンやプラントベース食品の選択肢やおいしさの種類を増やせるのではないかと考えています。


── 未利用資源を発酵させると甘い香りを生み出すことができるんですね!生活者視点で価値がわかりやすい発酵アップサイクルの製品事例を教えてください。
渡辺さん:そのほかでご好評をいただいたのは、食品をウェットティッシュにアップサイクルする事例ですね。株式会社ニチレイフーズの焼おにぎりの製造で出てしまう規格外品などを発酵・蒸留してエタノールを精製し、除菌ウェットティッシュを製造しました。
冷凍の焼おにぎりを生産する過程では、炊いたご飯が一定量最終商品に使われない余剰として発生してしまいます。これらの規格外の焼きおにぎりを活用して、ウェットティッシュにアップサイクルさせています。
『焼おにぎりの除菌ウェットティッシュ』は、キッザニア内でのニチレイフーズのアクテビティ内での配布がおこなわれるだけでなく、小売店を通じての販売もされました。ほかにも、亀田製菓株式会社のハッピーターンの規格外品や全日空商事株式会社の規格外バナナからも、ウェットティッシュを製造しました。
捨てられる食品から新たな価値を生み出すことを今後も続けていきたいですね。
未利用資源により地域・企業とつくる循環の連鎖

出典:ファーメンステーションが未利用資源から開発した「ゆずのさのうエキス」が、オリジナル保湿成分としてポーラ「From Loss To Beauty」に採用
── 企業や自治体との共創事例のなかで、地域ならではの未利用資源が活きたプロジェクトを教えてください。
渡辺さん:株式会社ポーラとの共創で、高知県産ゆずの『さのう』と呼ばれる搾汁粕(さくじゅうかす)を使った『ゆずのさのうエキス』を開発した事例です。「ゆずのさのうエキス」は、保湿成分としてポーラが販売するボディソープ『フロムロストゥビューティー ボディシャワーシロップ』に配合されています。ゆずの加工過程で、1年のゆずの収穫量約10,000トンのうち約3,600トンも廃棄されてしまうさのうは、地域の課題となっていました。
このプロジェクトは、ポーラから弊社にアップサイクル製品を作れないかとお問い合わせをいただいて実現しました。そして、弊社がゆずの生産地である高知県をつなぎ、弊社が開発したさのうエキスをポーラが分析し、商品化につながりました。
農作物を生産する過程では、どうしても廃棄する副産物が出てしまいます。その活用方法に困っている生産者も少なくありません。弊社は地域とさまざまな企業との橋渡しの形を通じて、食品ロスを解決していきたいと考えています。
── 企業や地域と連携して商品を作るときにはどのような課題がありますか?
渡辺さん:企業や地域と連携する上での課題は、さまざまな未利用資源から原料をつくる際の仕組みやサプライチェーンの構築ですね。
食品メーカーや地域ごとに発生する未利用資源は、種類も量もさまざまです。一つひとつの資源に対して最適な発酵技術を適用し、未利用資源ならではの食品原料を開発することは、これまで誰も行ってきていないチャレンジです。法規制や食品生産工場のあり方、廃棄ルートの変更など、世の中の様々なシステムを変える必要があります。
この課題は当社だけで解決できるものではないので、多くのステークホルダーを巻き込みながら、消費や食文化のあり方を変えていきたいですね。
発酵アップサイクル技術により持続可能な社会を日常へ
資源の枯渇対策に貢献する発酵アップサイクル技術

── 発酵アップサイクルの製品が広がることで、どのような課題が解決できますか?
渡辺さん:当社が開発するような、資源を有効活用したアップサイクル製品が広がることで、資源枯渇や大量生産、大量消費の問題を解決できるのではないかと考えています。アップサイクルの製品が広く普及している状態をつくることができれば、消費者が意図していなくても、資源の枯渇や消費の課題に寄与できる製品を使うことになると思うんです。
また、アップサイクル製品を通じて未利用資源を使えば、限りある資源の減少を緩やかに食い止められます。今ある食品を食べ続けるためにも、誰もが意識せずにアップサイクル製品を手に取れるようにしたいですね。
未利用資源を使った製品を世の中に送り出すことで、消費者が製品を手に取っていただく機会が増え、消費の行動変容にもよい影響を与えられればと考えています。
── たしかに、アップサイクル製品を自然と選べるようになれば、意識せずとも資源の枯渇問題に貢献できますね。 そんな発酵アップサイクルの製品を広げるために、必要なことはなんですか?
渡辺さん:まずは、企業に未利用資源をもっと活用してもらえるような基盤を整えることが重要だと考えています。食品工場などで未利用資源がきちんと分別され、資源として扱ってもらうことがスタートですね。
私たちは、協業する食品メーカーなどの工場に訪れた際、「未利用資源は出ていないか?」「その未利用資源をどうレスキューすればいいか?」を考えています。私たちの視点で未利用資源活用について考え、各企業の要望を受け止める形でサポートしています。
食品を製造する際、多くのメーカーはベルトコンベアで製造副産物を廃棄物処理ルートに運んでいます。私たちがアップサイクル原料の開発を支援した企業では、製造副産物を未利用資源として分別するために、ベルトコンベアを逆回転させて材料として確保したことがありました。
こういった一歩を踏み出すことの積み重ねが、既存のシステムを変えると考えています。
発酵アップサイクル技術でおいしさを追求

── 今後、発酵アップサイクルの技術を使ってどのようなことに挑戦したいですか?
渡辺さん:発酵アップサイクルで生まれた製品が、おいしさや機能性などの点で、普通の原料を使ったものより優れているという状況や認識をつくりたいと考えています。そもそも日本古来の技術である発酵は、味の複雑さや厚み、繊細な旨味や風味などのおいしさの種類を増やせるのが強みです。
現在も、当社の独自の発酵技術と未利用資源の組み合わせによって、食品の新しいおいしさを提供できている自信があります。発酵×未利用資源で生まれた食品素材の魅力を、より一層消費者に伝えていきたいですね。
また、2025年11月から、発酵アップサイクルを通じて健康機能性を持つ素材を作る研究を岩手大学と共同でおこなっています。約50種類の未利用バイオマスを発酵原料にして、脂肪細胞による脂質蓄積を抑制できる作用のある素材を生み出せないか、研究を進めています。中性脂肪、皮下脂肪の過剰な蓄積の抑制に役立つ素材が見つかるかもしれません。
「未利用資源だから」と意識して買うのではなく、「おいしいから」「ものがいいから」という理由で自然に選んでもらえる状態を目指したいです。
── 今後、発酵アップサイクル技術を使って、どのような分野に注力していきたいですか?
渡辺さん:食品領域により一層注力していきたいと考えています。私たちは発酵技術でしか生み出せないおいしさを、未利用資源を使って作り出すことを追求していきたいです。
一例として、発酵によってアルコールを生成すると、香りや風味を凝縮できるんです。少量でも風味豊かで、香りの高いアルコールができます。私たちの作り出したアルコールが、石油由来の香料の置き換えにつながれば、環境への負荷を低減できる可能性もあるのではないかと考えています。
── おいしさという普遍的な価値をきっかけに、アップサイクル素材が商品選択のひとつなっていくことで、持続可能な社会への貢献が当たり前になってく予感を感じました。ゴミを資源として認識し直すことが、社会を変えていくきっかけになるのかもしれませんね。本日は素晴らしいお話をありがとうございました!
2015年に株式会社ファーメンステーション入社。事業性と社会性の両立を追求する同社で事業部を経験後、現在はインパクト推進・広報を担当。
https://fermenstation.co.jp/