ウェルビーイングは人との繋がりのなかで生まれていく。その一方で、人と一緒に過ごすばかりでは疲れてしまう。座談会はウェルビーイングと一人の時間との関係性へと話が膨らんでいきました。
そもそも、「孤独」っていけないの?「孤立」と「孤独」の違いは? 自分で自分の身を置く状況を選択できる重要性について。いよいよ、座談会も終盤に向かいます。
【宮田教授×編集部】新メディア Wellulu(ウェルル)のネーミング・ロゴ決定の裏側〈前編〉
ネーミングには、間口が広く幸せな響きを込めたかった 堂上:昨年から博報堂DYグループのメディアエンジン社で準備をしてきたウェルビーイングに関する新しいメディアが.....
【宮田教授×編集部】編集メンバーがウェルビーイングを感じる瞬間とは?〈中編〉
病気になって日常の小さなことでも幸せを感じられるようになった 宮田:昨日までご病気で入院されていたんですね。 本橋:そうなんです。とある病気にかかっていたのです.....
望まない孤立と、望んだ孤独は、ちがう
堂上:私たちが考えるウェルビーイングには「人とのつながりのなかで幸せになっていく」という考え方がベースにあります。
とすれば、あまり1人だけの時間は作らないほうがいいのかなとも思えるのですが、そのあたり宮田さんはどうお考えですか?
宮田:細川さんが先ほどおっしゃられた「1人の時間が大切に感じる」という話は、自分が望まずして孤立状態にあるのか、自ら選択して孤独な状態でいるのかの違いかなと思います。
望まずして孤立している場合は誰にとってもつらいですが、自分で意識的に選択して1人でいる状態はウェルビーイングにつながります。
細川さんの場合、クリエイティブディレクター・デザイナーとして日々制作に向き合っているなかで、外からの情報をシャットアウトして制作に没頭する時間がご自身のバランスにつながっているのかなと感じました。
堂上:これに関連する話として、スタートアップと共同でやった調査でメンタルダウンとウェルビーイングの関係のデータを見てわかったことがあります。
調査では、企業でメンタルダウンしてしまう人に共通の特徴として、「1人の時間を作れていない」ということがありそうだとわかりました。たとえば、仕事場でも会社や上司との距離が常に密で一息つく時間がなかったり、家に帰ってもパートナーや子どもとのコミュニケーションに追われていたりという感じ。
そういう黄色信号の人たちは、意識的に1人の時間を作ってみたらいいかもしれないですね。たとえば、漫画が好きなら1人で漫画喫茶に行って小一時間こもってみるとか。マインドフルネスまでいかなくてもいいけど、パワーナップ(昼寝)の時間を意識的にとってみるとかですね。
井口:自分から意識的にやることが大事なんだね。
人や社会との距離感を自分でコントロールできている感覚はありますか?
堂上:「1人の時間」というテーマで、先日面白いなと思ったのが、メタバース空間に没頭している人の話です。その人は、メタバース空間にいる自分が居心地がよくて、24時間メタバース空間にいるのが幸せなんだって。
宮田:うん、でもその人もメタバース空間という仕組みのなかで人とのつながりを感じる体験がきっとあるのだと思いますよ。たとえバーチャルな空間だったとしても、その先に人とのつながりを感じられるかがウェルビーイングには重要です。
堂上:確かにそうですね。逆にいうと、一見すると人との輪のなかに入っているようでいて、どこか心の孤立を感じているほうがよくないのかもしれません。
井口:人とのつながりは、それぞれに適度な距離があるんでしょうね。
宮田:人との適度な距離を“自分でコントロールできている”感覚があることが大切です。それが、自分ではコントロール不能で人との関係性のなかに巻き込まれてしまう感覚は、ウェルビーイングを遠ざけてしまうのかなと。
例えば、長時間の仕事でも自分で選んで仕事している分には満足度が高いはずです。でも、自分では選ぶことができずにやらされている感覚が増してくると途端に苦しくなることでしょう。
細川:自分に選択肢があるかが重要ということですね。
身体検査のように精神的な状態を検査する習慣を
本橋:私が体調を崩した話に戻りますが、病気に関してはあらゆる身体検査がありますよね。ウェルビーイングかどうかを測る検査ってあるんですか?
堂上:それでいうと、少し角度は違うけど面白い調査があります。特定の人に40日間毎日ウェルビーイング指数を測ってもらうために100問ほどの質問に回答していただいたんですね。
すると、40日間同じ質問に回答してもらっているだけなのに、初日にウェルビーイング度が40くらいだった人が最終日には44ほどまで自然と上がっていくんですよ。具体的に何かをやってもらったわけでなく、質問に回答するだけで。つまり、ウェルビーイングは意識するかどうかでも変化するんだと感じました。
宮田:これはとても大事な話です。本橋さんの問いから考えると、我々の心身の健康のためには「自分の状態を知ること」が大切。しかし、身体的な検査は行なっても、精神的な検査を行なう習慣が日本には根付いていないですよね。
実際に世界中の子どもの身体的な幸福度と精神的な幸福度を測ったデータがあるのですが、日本の子どもは身体的幸福度トップで精神的な幸福度は最下位でした。これは測定する文化がないことが影響していると考えられます。
堂上:確かに、小学校のときなかったですよね……今もないのか。
本橋:子どものときから定期健診に入れておけばいいのに。
宮田:おっしゃる通りだと思います。やはり、まず自分の精神的な状態を知らないことには改善のしようがない。自分がどういうときにウェルビーイングなのか、またウェルビーイングではないのかを知ることで、事前にコントロールできるようにもなるはずです。
私たちがウェルビーイングの種をまき、未来の子たちの幸せにつなぎたい
堂上:でも、子どもたちの教育現場も私たちの頃とは大きく変わっているみたいですよ。うちの娘はいま中学三年生なんですけど、授業で「人をウェルビーイングにするためにあなたは何ができますか?」という発表を行なっていたんです。SDGsの文脈ですね。
コロナ禍になって自宅でリモートワークする機会が増えたから、私がオンライン会議でよく「ウェルビーイング」って話しているのを聞いていたんでしょう。この間「パパ、ウェルビーイングな状態ってどうやって作るの?」って(笑)。今の中学生、すごいなって思いましたよ。
熊崎:へー、おもしろい!
本橋:うちの子も学校で「SDGsブック」っていうのを作っているそうです。こんな風にウェルビーイングをはじめとした新しい価値観がやがて当たり前になってくれるとうれしいですよね。
「自分にとってこの選択はウェルビーイングなんだろうか?」と判断基準に加わるだけで、人生の幸福度が大きく変わるはずです。
宮田:とても本質的な問いですね。それが当たり前になると日本人の生き方は大きく変わる。
本橋:ウェルビーイングに暮らせる社会のために、まずは私たちがその土壌を作って、そのうえで子どもたちが開花していってほしい。
熊崎:すごい幸せに生きられそう!
宮田:人よりお金持ちになるとか、社会的ステータスの獲得を目指すべきだという価値観ではなく、『一人ひとりが自分らしいウェルビーイングを誇りに思い大切にできる』社会を目指していきたいですね。
堂上:そうそう、それが一番です。まさに『Wellulu(ウェルル)』を通して人がつながりあい、読者の皆さんがウェルビーイングを感じられるメディアに育てていきたいと思います。
ここにいるメンバーを中心に、『Wellulu(ウェルル』の目指すビジョン達成へ、一歩ずつ進んでいきましょう!
撮影場所:UNIVERSITY of CREATIVITY
宮田 裕章さん
慶応義塾大学医学部教授。Wellulu アドバイザー
堂上 研さん
Wellulu 編集部プロデューサー
井口 雄大さん
Wellulu クリエイティブディレクター、コピーライター
細川 剛さん
Wellulu クリエイティブディレクター、 チーフアートディレクター
本橋 彩さん
Wellulu 編集部
熊崎 友紀子さん
Wellulu 編集部
2025日本国際博覧会テーマ事業プロデューサー
Co-Innovation University 学長候補
専門はデータサイエンス、科学方法論、Value Co-Creation
データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。
医学領域以外も含む様々な実践に取り組むと同時に、世界経済フォーラムなどの様々なステークホルダーと連携して、新しい社会ビジョンを描く。宮田が共創する社会ビジョンの 1 つは、いのちを響き合わせて多様な社会を創り、その世界を共に体験する中で一人ひとりが輝くという“共鳴する社会”である。