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サプライズで感謝の度合いは高まらない?プレゼントを贈る際のポイントとは【上智大学・山本特別研究員】

あなたは友人や家族など大切な人に贈り物をする際、サプライズをした経験はあるだろうか。実は、サプライズにしたからといって受け手の感謝が強くなるわけではない可能性が明らかになっている(※1)。

今回、上智大学総合人間科学部心理学科の山本晶友特別研究員に、感謝の定義や効果について、サプライズと感謝の強さの関連性、感謝してもらいやすいギフトのポイントや注意点などについてお話を伺った。

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山本 晶友さん

上智大学総合人間科学部心理学科 特別研究員

2021年3月に上智大学にて博士(心理学)を取得し2021年4月より現職。専門領域は社会心理学や感情心理学。主要な研究対象は、感謝、負債感、社会的感情など。文教大学において発達心理学と健康心理学の科目、東洋大学において統計学に関する科目を非常勤講師として担当。

本記事のリリース情報

感謝してもらいやすいギフトのポイントとは?心理学科の山本晶友特別研究員がWelluluの取材の中で詳説しています

「感謝しているから助ける」というシンプルな意思決定

──山本先生、まずはこれまでの研究について教えていただけますでしょうか?

山本研究員:私は、「感謝」という感情が人々の協力的な行動を支えていると考えながら、感謝に関する様々なことを研究しています。例えば、人は「この人を助けたら私は将来得するのだろうか」「助けなかったら周囲から嫌われてしまうだろうか」という複雑な判断だけでなく、「今感謝しているから助ける」という、感情に基づくシンプルな判断をすることも多いと考えています

人間は1人では生きていけない生き物で、助け合う必要があります。しかし、助け合いは進化の文脈で見ると、簡単にできることではありません。意思決定を行い、その中で「助けるか助けないか」を選択します。この選択は、深く考えることもあれば、直感的に行うこともあります。特に「感情」がこのシンプルな意思決定に大きく影響しており、中でも「感謝」は、助け合いの中で非常に重要な役割を果たしています。私は、このシンプルな意思決定がどのように助け合いを支えているのか、そして感謝がどのように関与しているのかに興味を持ち、研究を始めました。

──感謝の感情がシンプルな意思決定に影響するというのは、どのようなメカニズムなのでしょうか?

山本研究員:人は情報を処理する際に、脳という、重さは小さいのに大きなエネルギーを消費する「贅沢な臓器」を使用しています。そのためもあって、複雑な情報をすべて処理するのは難しく、直感的でシンプルな判断基準に基づいて行動することもしばしばあります。このようなシンプルな判断基準の中で、「感謝」という感情が大きな役割を果たしていると考えています。

──「感謝」の定義について教えていただけますでしょうか?

山本研究員:感謝にはさまざまな定義が存在しますが、私が研究で参照しているのは、J.Tsangによる2006年の文献(※2)で示されている定義です。それによると、感謝は「他者の善意から生じたと知覚される利益の受領に対する肯定的な感情反応」とされています。この定義のポイントは、他者の「善意」と「肯定的な感情反応」の2つであると考えています。

利益の提供には様々な背景があり、純粋に相手のためを思っての行動もあれば、「周りからよく思われたい」「この人にお返しをしてもらいたい」といった利己的な理由での行動もあったりします。この研究では、純粋に他者のためを思った行動、すなわち「善意」に基づく行動に対して生じる感謝を中心に考えています。

また、優しくされたときの感情は必ずしもポジティブではありません。感謝の気持ちと同時に「お返ししなければ」という義務感や「申し訳ない」という気持ちも生じることがあります。しかし、この研究では、他者の善意に基づく行動に対しての純粋な「嬉しい」「温かい」といった肯定的な感情反応を「感謝」と定義しています。

山本研究員:感謝の効果に関しては、いくつかの理論が提唱されています。まず、M.E.McCulloughらの2001年の論文(※3)では、感謝が道徳の感情として捉えられています。この理論によれば、感謝には、他者が自分に優しく振舞ってくれたことを感じ取れる機能、自分も他者に優しくなろうという気持ちにしてくれる機能、「ありがとう」と伝えた他者に「今後とも誰かに優しくなろう」と思わせる機能の3つがあるとされています。

一方、S.B.Algoeの2012年の論文(※4)では、感謝の効果を「Find,Remind&Bind理論」という理論で説明しています。この理論によれば、感謝は助け合えるような良い関係をつくれる相手を見つける「Find」、その相手のことを思い出す「Remind」、そしてその相手との関係を強化する「Bind」という3つの機能を持っているとされています。

これらの理論は、互いに補完的な関係にあり、感謝がどのようにして人々の向社会性(他者に親切にしようと思える性質)や関係性を高めるのかを示していると思います。

──つまり、感謝は他者との関係を強化するだけでなく、自分自身の向社会性も高めるということですね。

山本研究員:はい、その通りです。感謝は他者との関係を深めるだけでなく、自分自身も他者に対してより向社会的な行動を取るようになるという効果があります。これは、感謝が人々の間の絆を深めるための重要な要素であることを示しています。

──今回の研究で「サプライズ」と「感謝の強さ」の関連性を調査することになった背景を教えていただけますか?

山本研究員:サプライズギフトは感謝してもらえる、という説が一般的に浸透しているように思えますが、本当にサプライズという要素そのものが感謝を強めるのかについては厳密な検証が行われていませんでした。それでも、シンプルな意思決定を支えるのが感情なのだとしたら、感謝だってシンプルな要因によって揺らいでしまうかもしれない、つまり、ただ「貰えないと思っていた」だけで感謝が強くなることだってありえるのかもしれないと思い、調べてみることにしました。

サプライズで感謝の度合いは高まらない

──今回の研究内容について具体的に教えていただけますか?

山本研究員:今回の研究では、他者からの利益をもらえないことの想像と感謝の度合いの関連性を2つの実験で調べました。1つ目は「他者からの利益を受けると予期していた場合」と「他者からの利益を受けないと予期していた場合」の感謝の度合いの比較、2つ目は、他者からの利益を受けた事後に「他者からの利益を受けなかったケースを想像した場合」と「実際に他者からの利益を受けた状況を再び想像した場合」の感謝の度合いを比較しました。

──研究方法についても詳しく教えていただけますか?

山本研究員:他者からプレゼントや親切を受けるシナリオを実験参加者に読んでもらい、その時に感じる感謝の程度を答えてもらう形で行いました。シナリオの一例としては「あなたは大学のサークルに入り、プレゼントとしてボールペンを貰えました」といった内容です。ただし質問冊子には細工がしてありました。

1つ目の実験では「プレゼントは用意されていない」または「プレゼントが用意されている」のいずれか一方がランダムに最初のページに書かれていて、どちらの場合でも読み進めると「実際はプレゼントが用意されていた」と共通のシナリオが書かれていました。2つ目の実験では、まず「あなたが欠席した大学の授業の資料を同級生がくれました」といった共通のシナリオを読んでもらった後に「授業の資料をもらえてなかったらどうなっていたか」と「授業の資料をもらえていたからどうなったか」のいずれか一方の想像を促す質問がランダムに書かれていました。

こうして、1つ目の実験では「もらえないと思っていたら実はもらえた時の感謝」vs「もらえると思っていたらやっぱりもらえた時の感謝」の比較、2つ目の実験では「もしもらえなかったらどうなっていた?と想像した時の感謝」vs「もらえたのでどうなった?と想像した時の感謝」の比較をしました。

──実際にプレゼントや親切を受けたわけではない、ということでしょうか?

山本研究員:実際には受けていません。しかし、シナリオを通じてその状況を想像してもらうことで、感謝の度合いの変動を調べました。この方法のメリットは、多くの人のデータを取得できることと、条件を均一にすることができる点です。

──研究結果について教えていただけますでしょうか?

山本研究員:研究の結果、事前の予測の有無や後からの想像の有無だけで、感謝の度合いに大きな変動は見られませんでした。これは、事前の予測や後からの想像が感謝の度合いに与える影響があるとしても限定的だということを示しています。

──つまり、現実のサプライズギフトなどでの感謝の度合いに影響はないということでしょうか?

山本研究員:いえ、そこまではいえないと考えています。例えば結婚式で新郎が新婦にサプライズのビデオメッセージを贈るような場面では、そのサプライズの中に込められた努力や気持ちを考えると、感謝の度合いは非常に高まると思います。しかし、この研究ではそういった具体的な状況や背景をあえて取り除き、純粋にサプライズの要素だけで感謝の度合いが変わるかどうかを調べたので、大きな影響は見られなかったということだと考えています。

相手の欲求やニーズに応えることが重要

──今回の研究で他に解明できたことや気づきなどがあれば教えていただけますか?

山本研究員: 今回の研究の補足的な目的として、感謝が強くなる要因といわれている「価値」「コスト」「意図」の3つにも注目しました。これらの要因は従来の研究(※5)(※6)でも多く取り上げられており、多くの研究者が感謝の強さとの関連性を認めているのですが、今回の研究でも、これらの要因と感謝の強さとの間には相関が見られました。特に「価値」と「意図」が感謝の強さと強く関連していることが確認されました。

──具体的にどのような結果が出たのでしょうか?

山本研究員:ギフトとしてボールペンをもらった場合、「そのボールペンに価値がある」と感じるほど、そして「送り主が誠実に私のためを思ってくれている」と感じるほど、感謝も強くなりやすいことが今回の研究でも確認できました。逆に「送り主がコストを被った」と感じる程度に関しては、今回の研究ではそれほど強い関連性は見られませんでした。これらの結果は、今回の研究の論文の付録としても報告しました。

──相手の気持ちやニーズを考慮することが最も重要ということですか?

山本研究員:はい、その通りです。人は、自身の欲求やニーズに応えてくれているような行いに対して感謝を感じやすいということです。例えば、相手がどんなことをすれば喜んでくれるだろうかとよく考えたことが伝わるようなサプライズやプレゼントは、感謝してもらいやすいと思います。逆に、自分本位のサプライズやプレゼントは、相手の気持ちを考慮していないため、あまり感謝されない可能性があります。

──現在進行中の研究内容や、これから研究しようと思っていることについて教えていただけますでしょうか?

山本研究員:はい。私がこれまで検討してきたのは、感謝の度合いがどのような理由で変わるのかということです。しかし最近では、感謝を感じた人がどのような行動を取るのか、つまり感謝が原因となってどのような結果が生まれるのかを中心に研究しています。

感謝を伝えることや感謝を感じることは、ウェルビーイングの研究や教育の中でも重要視されています。例えば、「感謝日記」や「感謝介入」などと呼ばれる研究(※7)では、毎日感じた感謝の出来事を記録することで、その人のウェルビーイングが向上することが示されています。

しかし、感謝には副作用もあると考えています。例として、誰かに優しくされて感謝を感じると、その恩人のためを思うあまり、不必要な自己犠牲を払ったり(※8)、嘘をついたりする(※9)ことがあるのです。このような現象は、感謝によって人間関係が強化される一方で、感謝を感じた人自身や社会全体の秩序が犠牲になることを示しています。

──それは興味深いですね。感謝は素晴らしいものであると同時に、その背後にはさまざまな側面があることを改めて認識しました。

山本研究員:感謝は確かに素晴らしい感情ですが、その影響は多面的です。私は、感謝がもたらすポジティブな側面だけでなく、その潜在的なリスクや影響についても深く探求していきたいと考えています。

──最後に、今後の展望について教えていただけますか?

山本研究員:感謝の感情は、私たちの日常生活や人間関係において非常に重要です。今後もさまざまな状況や条件下での感謝の度合いの変動や、感謝が人類にもたらすものは広い意味で何なのかを調べていきたいと考えています。サプライズに関する今回の研究も、たとえばシナリオを用いる以外の方法も含めて、多角的に調べていくことが必要です。

Wellulu編集後記:

「感謝」という言葉は、私たちの日常生活の中で頻繁に使われるものです。誰しもが、感謝の気持ちを持った経験があるでしょう。しかし、その感謝の背後には、予想外の多面的な側面が隠れていることを、今回のインタビューを通じて学びました。また、感謝の気持ちが強いほど、その人が不必要な自己犠牲を払ったり、嘘をついたりする可能性があるというのは、驚きもありつつ、そういう体験をしたこともあるなと感じました。

何よりも身近な人にプレゼントを贈る際に大切にすべきことを改めて見つめ直すことができました。

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