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【ブランド責任者のB面】「おいしい」が原動力。270年以上の歴史を持つ【山内本店】が積み重ねてきた伝統と挑戦

1751年の創業以来、270年以上にわたり味噌と醤油をつくり続けてきた山内本店。店舗運営から商品開発、広報までを担うのが、山内裕子さんだ。

もともと食が好きだった山内さんは、現在直営店の運営を通して、あらためて「おいしい」という言葉の価値を実感しているのだそう。歴史ある企業が、重ねてきたおいしさとこだわりを伝えるための工夫について聞いた。

山内 裕子さん

熊本市出身。千葉大学園芸学部を卒業後、熊本県内の食品メーカーに勤務。結婚を機に、創業275年を迎える山内本店に入り、家業に携わるようになる。

入社当初は研究室で商品開発や品質管理に従事し、現在は取締役として店舗運営や商品開発、広報などを担当。

おいしいものを食べることやお酒を楽しむこと、人とお話しすることが好き。

目次

小さいころから身近にあった食と発酵

── 初めに山内本店とは、どのような会社なのか教えてください。

山内さん:江戸時代の1751年、熊本城下の新町で創業し、現在は熊本県菊陽町で味噌と醤油をつくっている会社です。「まぼろしの味噌」を看板商品に、味噌や醤油、麹関連の商品を販売してきました。

現在は「日々麹舎」という飲食も含めた直営店も運営しています。

── 山内さんは、10代目の代表・山内卓さんの奥様とのことですが、もともと食にご興味があったのでしょうか?

山内さん:そうですね。熊本のなかでも自然豊かな場所で生まれたこともあり、父が釣ってきた魚や祖母の畑から採れた野菜などを食べて育ちました。

当時はそれが当たり前だったので意識することはなかったのですが、今振り返るとそうした「自然の恵みを食する環境」が私のルーツにあったのかな、と思います。

── 素敵ですね!大学では発酵の分野を学ばれていたと伺いました。

山内さん:はい。祖母が味噌や漬物をつくることもあったので、発酵食品とも距離が近かったんです。ちょうど進路を決めるころに、バイオテクノロジーが注目され始めていて、おもしろそうだなと思いました。

また、もともと食べることが好きで、食を通して人がつながることにも魅力を感じていました。

発酵によって生まれる味や香りにも興味があり、発酵や微生物についてもっと学んでみたいと思い、大学では微生物の研究室に進みました。

── 山内さんのルーツには、食と人のつながりがあるんですね。

山内さん:やっぱり食べ物は人を幸せにすると思うんですよね。子どもが小さいころは、ホームパーティーもよくしていましたね。シンプルに人が集まって食事を囲む時間が好きなんです。

「まぼろしの味噌」の秘密

── 山内さんは結婚を機に山内本店に関わるようになったとのことですが、はじめて山内本店の味噌を食べたときの印象はいかがでしたか?

山内さん:手前味噌ですが、香り高く、まろやかな味わいで、抜群においしいなと思いましたね。

現在販売している「まぼろしの味噌」は、1995年に「現代の名工」として厚生労働大臣表彰をうけた職人・永田富浩さんが試行錯誤しながらつくり上げたもので、品評会で審査員から「これは幻だ」と評されたことが、「まぼろしの味噌」という商品名の由来になっています。

その技術を継承して、現在も味噌づくりを続けています。

── 「幻だ」なんて、最高の褒め言葉ですね。どんなところが特徴的なのでしょうか?

山内さん:まずは原料ですね。大豆の煮え具合や水に浸ける時間が、職人によって細かく管理されています。

大豆と合わせる麹は、徹底した温度管理をしながら3日間かけて、蔵のなかでつくり上げます。山内本店の中核ともいえる蔵では、蔵に棲みつく麹菌や酵母により、山内本店の味と香りを生み出しています。

この最終的な麹の出来具合は、今も職人が手で見極めているんです。

その後、大豆と麹を混ぜ合わせて仕込み、発酵・熟成の状態を見極めながら「天地返し」と呼ばれる作業もおこないます。これをすることで、麹が働きやすくなり、発酵が進むと言われています。

また、味噌の仕込み水には阿蘇外輪山から湧き出る伏流水を使用しています。技術だけでなく、自然の恵みがあるからこその味なんです。

── 継承された製造過程と阿蘇の自然が、変わらない味を支えているんですね。

受け継がれる品質第一のものづくり

── 270年以上にわたって、山内本店らしい味と品質を守り、磨き続けられたのはなぜだと思いますか?

山内さん:やはり職人の方たちが、味にこだわり続けてきたというのが大きいですね。私の主人の曽祖父である6代目が、お客様の立場に立った妥協しないものづくりの基盤をつくったと言われています。

昔の話になりますが、戦時中や戦後、味噌や醤油は配給制で、なかには薄い醤油をつくるメーカーもあったそうなんです。6代目は「それではダメだ、しっかりしたものづくりをしなければいけない」と。

そこから「買う人の気持ちでつくれ、良い製品」という言葉が生まれました。現在も山内本店のものづくりの原点として受け継がれています。

── 素晴らしい考えですね。商品に込められたこだわりを伝えるのに、苦労したこともあるのでしょうか?

山内さん:そうですね。とくに「まぼろしの味噌」は少し価格が高めなこともあり、価値を理解してもらうのに苦労したそうです。

── その状況をどのように乗り越えていったのでしょうか?

山内さん:東京や大阪など都市圏での展示会や商談会への出展、百貨店催事での試食販売を何度も繰り返すことで、ファンを増やしていったと聞いています。

── 実際に食べてもらうことで、味の良さとこだわりを伝えることができたんですね。

「おいしい」と言ってもらえることがとにかくうれしい

── 山内さんはどのように山内本店の業務に関わっていったのでしょうか?

山内さん:はじめは、研究室で品質管理や食品表示にまつわる書類づくりや、電話・メールの対応業務をしていました。現在は商品開発、マーケティング、SNSなどの広報、人材育成など、さまざまな業務をおこなっています。

「日々麹舎」に関しては、売り場の設計や販促戦略を考えることもあります。

── 多岐にわたる業務をご担当されているんですね。「日々麹舎」は、はじめての直営店の運営ということで、大変さはありませんでしたか?

山内さん:大変でしたね……。山内本店として、接客業がはじめてだったのもあり、レジの管理も売り場のつくり方もわからない、本当にゼロからのスタートでした。最初は「畑のど真ん中のお店に、来ていただけるんだろうか」と不安もありましたね。

そこから、イベントをやったりして、少しずつお客様を増やしていくことができました。

── 山内本店での仕事はどんなところにやりがいを感じますか?

山内さん:「シンプルにおいしい」と言ってもらえるのが、何よりうれしいですね。店舗運営を始めるまでは、なかなかお客様の生の声を聞く機会がなかったんです。

「日々麹舎」をオープンしてからは、目の前で「お味噌がおいしい」「だご汁がおいしい」と言ってもらえて。家族連れの方や若いカップルなど、さまざまなお客様に来ていただいています。

日々麹舎でだご汁を召し上がった若いお客様が、「お味噌がおいしいから、家でも味噌汁を作ってみよう」と味噌を手に取ってくださることがあります。

そんな姿を見ると、日本の食文化を次の世代へ伝えることにつながっているようで、とてもうれしいですね。

そういった方に「おいしかった、また来るね」と言ってもらえるのが、やりがいです。今は山内本店にまつわる仕事が本当に楽しくて、天職だなと感じています。

お客様の感動を創造するために

── 素敵ですね。山内さんが楽しくお仕事するためのマイルールを教えてください。

山内さん:マイルールは「基本の徹底」です。元気なあいさつや丁寧な盛り付け、接客など、毎日取り組む業務一つひとつをないがしろにせず、しっかりおこなうことが大切だと思っています。

山内本店は「お客様感動創造」を理念に掲げており、目の前のお客様に感動してもらえるように、魂を込めた笑顔やあいさつ、接客を大事にしています。

── お客様感動創造……。すごくいい言葉です!

山内さん:山内本店としても「春の大感謝祭」や「秋の大創業祭」などを通してお客様へ感謝を伝えています。

お味噌の詰め放題や屋台の運営、ステージイベントなど、スタッフたちがいきいきと運営している姿を見てもらうことで、お客様に感動を与えられているんじゃないかなと思います。

また、お客様から「おいしい」「また来るね」と言っていただけることが、スタッフのやりがいや喜びにもつながっています。

お客様はもちろん、働く社員やスタッフもいきいきと幸せに働ける会社にしていきたいと思っています。

── 山内さん個人だけでなく、山内本店全体でお客様の感動を生み出そうとしていることが伝わってきます。

発酵文化の価値を伝える

── もっと多くの人に伝わってほしい「山内本店の魅力や価値」を教えてください。

山内さん:やはり味噌のおいしさですね。ただ、味噌単体ではおいしさを伝え切ることは難しいとも思っていて。だからこそ、直営店に足を運んでいただき、体感してもらいたいです。

また、山内本店としては味噌を売るだけでなく、発酵文化を伝えていきたいと思っており、工場見学やみそ玉づくりのワークショップもおこなっています。

味噌を食べるだけでなく、学びや体験からも魅力を伝えていくことで、味噌や醤油、麹をもっと身近に感じていただきたいです。

──  最後になりますが、今後、さらに挑戦したいことを教えてください。

山内さん:私は「おいしい」って言われることが、本当にうれしくて、それが原動力になっているんです!

これからも、もっとたくさんのお客様にそのおいしさを知っていただいて、手に取っていただくためにできることを試行錯誤していきたいです。

味噌や醤油、だしのおいしさからお客様の笑顔が生まれ、豊かな食生活につながっていけばうれしいですね。

そして、熊本から全国へ、さらに世界へ、味噌・だし・醤油の本物の価値と日本のおいしさを伝えていきたいと思っています。

Wellulu編集後記

幼いころから食を身近に感じてきた山内さんの人生が、長い歴史を持った山内本店と重なり、新たなストーリーがつくられていく。歴史が更新されていくのを目の当たりにしているようなお話を聞かせてもらいました。

印象的だったのは、山内さんが「おいしい」からもらうエネルギーの大きさです。困難なことも、誰かが喜んでくれれば、頑張ることができる。

真剣に仕事に取り組むために、確固たるやりがいを持つことの大切さを実感しました。

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