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【ブランド責任者のB面】ブランド価値を伝える鍵はネーミングにあり! 三方が満足できる商品を作るために必須なコミュニケーション術

よいものづくりをするために必要なこと、それは人とのコミュニケーションなのかもしれない。専門店の味を高いクオリティで商品化し、冷凍ラーメンを世の中に定着させたキンレイの「お水がいらない」シリーズも、こだわりがあるからこその苦労があったという。

今回は、株式会社キンレイで、「お水がいらない」シリーズを中心に企画を担当する大倉孝志さんにインタビューを実施。「お水がいらない」シリーズを支える大倉さんが、よいものを作り続けるために企画者として何を心がけているのかについて聞いてみた。

大倉 孝志さん

株式会社キンレイ 企画部 マネージャー

2023年7月入社。以来、商品の企画・デザインやブランドのコミュニケーション設計などを担当。育ちは京都、社会に出てからは東京・奈良などで暮らす。旅先で器やアンティークを物色するのが趣味。

目次

「冷凍うどんの会社」というイメージは、入社初日で覆った

── まず、大倉さんの現在のお仕事について教えてください。

大倉さん:企画部企画チームのマネージャーをしています。業務は多岐にわたり、ブランドや商品の長期的な戦略、商品企画、開発部門とともに味づくりに取り組み、最後はパッケージのデザインやカタログ制作などの販売に向けたコミュニケーション全般にも関わっています。

たとえば、熊本ラーメンの企画を担当したときは、開発部門とともに現地に足を運び、ルーツとされる久留米ラーメンを始め、福岡から熊本まで2日間で7~8店舗を巡りました。もちろん関東でも参考になりそうなお店には、可能な限りまわりました。

── 2日間で7~8店舗とは、すごい数ですね!

大倉さん:味の特徴や違いを確認して、キンレイが表現したい「熊本ラーメンらしさ」の輪郭を掴むために必要な工程なんです。

多くのお客様に評価していただくにはどこに寄せるべきか。開発部門とともに目指すべき味の方向性を言語化するのも企画部の仕事です。

── キンレイは3社目だと伺いました。どんな印象がありましたか?

大倉さん:正直に言うと、入社前は「冷凍うどんを作っている会社」というカテゴリや市場などが、少し狭くて広がりがない老舗中小メーカーというイメージでした。

実際に入ってみたら、ものづくりに対してすごく誠実に向き合っていて、最先端の味づくりに挑戦し続けていることを知り、驚きました。

開発部以外の部門も含めて、全員が誇りを持ってものづくりに取り組んでいて、そこに高いポテンシャルを感じた記憶があります。

── ものづくりに誠実に向き合う姿勢は、キンレイのどんな部分から感じましたか?

大倉さん:まさに「入社して最初のころに受けた研修」がきっかけでした。開発部門が主力工場の岸和田にあり、そこで研修を受けるんです。

まずは、弊社のベストセラー商品である鍋焼うどんの歴史を文献から学ぶ座学からスタートします。

──文献からの学習とは、大学の授業のようですね。

大倉さん:ほかにも、素材の違いについても学んでいきます。たとえばかつお節も食べ比べてみると、産地によって味が全然違う。昆布も同じ種類でも浜が違うだけで味が違う。そういうことを、一つひとつ自分の舌で体感していくんです。

そうやってきちんと鍋焼うどんのルーツから紐解いて、ベストな素材、工程、構成などを理解し、ポイントを取捨選択した上で、高いクオリティの味をスーパーマーケットなどで手に取れる価格帯で実現しているんです。その意識の高さを研修であらためて実感しましたね。

── 食文化から素材、調理工程への誠実な向き合い方を徹底して学ばれたことが想像できました。そうした会社のものづくりへの姿勢は、大倉さんご自身の仕事のスタイルにも影響していますか?

大倉さん:そうですね。これは前職から意識していることでもあるのですが、自分の中で大事にしているのは、どんな仕事に対しても当事者意識を持つことです。他責にしない、自分ごとにする。そして「自分ごとの範囲を自分で決めつけない」ようにしています。

その業務に対して、誰々がどうとか自分がどうかなどは関係なく、自分が何をすればよりよい成果につながるのかを考えることを大事にしていますし、企画のメンバーにもよく話しています。

あと、なるべく普通の生活者としての視点を持つことも大切にしています。競合と比較したり、スーパーマーケットのラインナップをチェックしたり、常に企画者目線で生活していると、かえって視野が狭くなってしまうかなと。

一人の生活者として、「もうちょっとこうだったらいいのにな」と気付けるアンテナを持っておくことが、逆に企画に活かせるのではと思っています。

── 一人ひとりの意識の高さが、商品のクオリティにつながっているんですね。

技術は50年前からあった。足りなかったのは「ネーミング」

── ここからは、ブランドの裏側を伺います。そもそも「お水がいらない」シリーズは、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

大倉さん:ブランドが誕生した経緯は、私が入社する前の話なので、歴史としてご説明します。

キンレイは1974年創業で、もともとは関西のガス会社が液化天然ガスを輸入後、気化する工程で発生する冷熱を有効活用しよう」というところから始まった会社なんです。

だから当初は麺や和食に絞らず、シチューや中華料理、みかんまで、和洋中のさまざまな冷凍食品を手がけていました。

新規事業をトライアルする感覚で手がけてきた中で、鍋焼うどんが大きくヒットして今に続いている、というのがキンレイの歴史です。

── 冷凍というジャンルから始まった会社なんですね。「お水がいらない」冷凍技術はいつ生まれたのでしょうか?

大倉さん:実は、「お水がいらない」技術は50年以上前からキンレイにあったんです。

スープ・麺・具材を凍らせて、そのまま鍋に入れて火にかけるだけで、スープの味も麺の硬さもちょうどよく出来上がるという二段凍結三層構造自体は、創業当初に生み出された弊社の独自技術なんです。

実際にこの技術を使って、1978年には、アルミ鍋入りの鍋焼うどんとして、関西のコンビニエンスストアで販売を開始しています。

── 「鍋焼うどん」はかなり歴史がある商品なんですね!関西のコンビニエンスストアから、どのように販路を拡大していったのでしょうか?

大倉さん:「鍋焼うどん」はコンビニエンスストアで人気の高い商品でした。会社としては、スーパーマーケットでの販路拡大を図ろうと、チャレンジしていたもののうまくいかず……。

アルミ容器からご家庭の鍋でつくっていただく袋入りの形態に変えて挑戦したのですが、当初はなかなか売れませんでした。

── 味も技術も申し分なかったはずなのに、意外です。

大倉さん:今思えば、当時の「お鍋で簡単」といったキャッチコピーが、お客様には伝わりにくかったのかもしれません。

お客様が使っていた言葉が「商品名」になった

── そこから、どのように状況が変わっていったのでしょうか?

大倉さん:「鍋焼うどん」がコンビニの定番商品だった時代に、「水がいらない・アルミ鍋ごと火にかければいい」商品としてお客様が認知してくださっていたのがきっかけでした。

商品を思い出すときに、お客様が「水がいらない」という言葉を使っていることに気づいて、そのまま採用しました。

結果的に商品の特徴と作り方を一言で表す最適なネーミングになりました。

── お客様の言葉が、そのまま商品名になったんですね!

大倉さん:はい、2010年に「お水がいらない鍋焼うどん」として正式に発売してからは、販売も軌道に乗っていきました。

大々的な広告を打ったわけではなく、ネーミングの力で売れていった商品なんです。このブランドを軸に、それまでキンレイのラインナップになかったジャンルにも挑戦していくことになりました。

未踏の地だった「ラーメン」への挑戦

── ラインナップになかったジャンルとは、何でしょうか?

大倉さん:ラーメンです!当時、冷凍食品市場では「冷凍ラーメンは売れない」という認識がずっと続いていました。

── えっ!?冷凍ラーメンが売れないというのは意外でした!

大倉さん:ラーメンは専門店という存在があるからこそ、「家庭の鍋で加熱するだけで専門店のような味になる」というイメージが世間的には持たれにくかったのかもしれません。

スーパーマーケットでは醤油ラーメンそのものの販売があまり伸びていない、という空気もありましたし。

それを覆したのが、60回以上の試作を経て2014年に発売した「ラーメン横綱」です。監修いただいた「ラーメン横綱」様と同じ熱量を持って、切磋琢磨しながら作り上げた味と、キンレイが持っていた冷凍技術。

この2つが組み合わさったことに加えて、2010年から定着していた「お水がいらない」というわかりやすいブランドも追い風になり、ヒットにつながりました。

キンレイにとって、鍋焼うどんに続く第2の柱になれたのはうれしかったですね。

100%理解できなくてもリスペクトはできる

── これまでの3年間で、企画開発の面で難しさを感じたことはありますか?

大倉さん:よいものづくりを極めてきたからこそ、開発、営業、企画で足並みを揃えることの難しさを実感することがありました。

コロナ禍で内食需要が増えた追い風もあり、「お水がいらない」シリーズの売上が伸び続けてきた経験から「プロダクトアウト」、つまり作り手側の発想を優先する姿勢がすごく強くなってしまったんです。

「自分たちの作りたいものを作ればいい」という考え方が正当化されすぎてしまって、「よいものを作っていれば気づいてもらえる」という、職人のような考え方が強くなっていました。

一方で、お客さんや販売店と向き合っている営業からは「お客様はそこまで求めていません」という声が出てくる。

── 自分たちの仕事に真剣に向き合っているからこそ、開発と営業で意見がわかれてしまうのかもしれませんね。

大倉さん:よい商品を届けたいのはどちらも同じだからこそ、強いこだわりがあるんですよね。でも、一人ひとりのこだわりが強いから、属人的な部分も増えてきて、全体の方針が見えづらくなり、役割分担もうまくいかなくなってしまって。

関わる人がやりがいを感じづらい状態になっていました。

── 部署をまたぐと同じ方向を向けなくなってしまう状況を、どのように乗り越えていったのでしょうか?

大倉さん:結論としては、互いにリスペクトを持って理解しようとするしかない、というところに行き着きました。

100%理解はできなくても、相手がなぜそれを大事にしているのか、何を見てそう思っているのかを理解しようとして、ある程度の共通言語で会話ができるところまで落とし込んでいく。

これは開発に対してもそうですし、営業に対してもそうです。相手の姿勢や考え方に対して、まずはリスペクトを持ってコミュニケーションを取ることが大切だと痛感しました。

── まずは相手のこだわりをリスペクトし、リスペクトが伝わるコミュニケーションを心がけるということでしょうか?

大倉さん:そうですね。たとえば、開発部門には「なぜその素材にこだわるのか」「スープの配合1%にこだわっているのか」など細かい部分に対する理解を示す。

そして、こだわりをきちんと理解した上で、営業部には味という感覚的な部分の言語化、可能な場合はデータで示して、大事にすべき部分はどこなのかを論理的に説明することを意識しています。

企画部は開発部門と営業部門の架け橋になる立場でもあるんです。ただ右から左に意見を伝えるのでなく、開発と営業のそれぞれが大事にしたいことを理解して、重なりを見つけていけるようなコミュニケーションを心がけています。

お互いの見ている部分を尊重し合うからこそ、新たなアイデアが生まれて、キンレイらしいものづくりができるのではと思っています。

── よいものづくりをするために、まずは人と向き合うことが大切なんですね。

仕事に夢中になることで、キャリアが築かれていく

── これまでの経験の中で、仕事の礎になっている考え方はありますか?

大倉さん:上司から「自分のキャリアのために仕事をするな」と言われたことがあり、それが強く印象に残っています。

前職で、工芸をベースにメーカーのコンサルティングや店舗設計、SV(スーパーバイザー)の仕事をしていたときに、僕は「自分のやりたいこと」「できること」「会社が求めること」の3つが重なるところを探そうとしていたんですね。そうしたら「そんなに綺麗に考えるな」と。

── 「自分のキャリアのために仕事をするな」ですか……。深いですね。

大倉さん:実は言われた当時はうまく理解できなかったんですが、最近になって身に染みるようになりました。

自分のキャリアのために仕事をしようとしても、そのとおりにうまくいくことばかりではないし、自分のためだからか熱意がうまく人にも伝わらないんですよね。

会社の事業のために「自分は何ができるか」ということに夢中になれないと、結局、うまくキャリアを築けないのかなと思います。

逆に、夢中になれさえすれば、自ずと今やっていることが自分のキャリアになっていく。そして、仕事に夢中になるために必要なのは、事業がうまくいくことで誰かが幸せになり、それが自分の自信にもつながっていくのだと思います。

「専門店を超える専門店」をつくる

── 最後に、大倉さんが感じている、生活者にまだ十分に伝わっていない「お水がいらない」シリーズの魅力やこだわりを伺いたいです。

大倉さん:なんでこんなにこだわってるの?」と言いたくなるほど、細部までこだわり抜かれていることが、なかなか伝わっていないというもどかしさがあります……!

先ほどお話しした、味の違いを認識した上での素材選びもそうですし、調理工程でもどの段階でどの温度の素材を組み合わせたらどう変化するかを科学的に突き詰めて考え抜いています。

メニューの背景にある歴史や文化の理解、素材選び、調理の叡智を結集すれば、専門店を開くことができてしまうくらいの思考や知見があると思っています。

── たしかに、キンレイさんが商品に詰め込んだこだわりにはとても驚かされました。

大倉さん:しかも、そのクオリティを維持した上で、価格を抑えながら大量生産するにはどうすればいいかまでを考えて、企画や開発をしているんです。

まさしく、弊社のビジョンである「専門店を超える専門店になる」という言葉を体現したものづくりをおこなっています。

冷凍麺というジャンルを伸ばしてきた代表として

── 今後、「お水がいらない」シリーズをどのようなブランドに育てていきたいですか?

大倉さん:「お水がいらない」シリーズの「キンレイ」と会社名まで覚えてもらうことを目指したいですね。

弊社は、ここまで冷凍麺というジャンルを伸ばしてきた代表だという自負があります。

とはいえ、まだ十分に認知・理解されていない部分があるので「キンレイとは何か」ということを、単純な商品の認知だけでなく、技術が詰まった商品として、他社との違いをしっかり伝えていく必要があると思っています。

── そのために大切なのは、よいものを作り続けることでしょうか?。

大倉さん:キンレイはよいものづくりをするために、存在する会社ですから。

よいものづくりを続けるために、自分たちの強みをきちんと出して独自のポジションをとり、さらによいものづくりにつなげていくという循環を早めに作っていく必要があると思っています。 

── 今日のお話を聞いて、今後キンレイさんがどんなものづくりをしていくのか、楽しみになりました。

大倉さん:ありがとうございます。よいものづくりに取り組んできたことから、ご当地メニュー(うどん・ラーメン)など地域の食文化を含めた、より大きな食文化の発展や啓発という部分でも、一定の役割を担えるのではないかと思っています。 

長いスパンの話にはなりますが、そういった社会貢献も意識しながらやっていくことが、社会とつながっている実感になり、仕事のやりがいにも結びついていると思います。

── 仕事がどのように社会と結びついているかを意識することが、仕事にやりがいを感じるための第一歩だということが伝わりました。高い理想があるからこそ、部署を超えた相手へのリスペクトとコミュニケーションが大切であることも印象的でした。

Wellulu編集後記

大倉さんのお話は、よいものづくりの鍵が、技術やこだわりだけでなく「伝え方」と「人とのコミュニケーション」にあることを教えてくれます。

かつお節や昆布を一つひとつ舌で確かめる研修。数多くの専門店を巡り商品化するメニューの「らしさ」の輪郭をつかむ企画。そして、開発と営業のあいだに立ち、100%理解できなくてもリスペクトを持って重なりを見つけていく姿勢。その積み重ねの先に、「専門店を超える専門店になる」というビジョンを体現した商品が生まれています。

「自分のキャリアのために仕事をするな」。目の前の事業に夢中になれば、キャリアは自ずとついてくる——壁にぶつかったとき、まず向き合うべきは商品でも数字でもなく「人」なのかもしれません。

相手のこだわりを尊重し、当事者意識を持って夢中になる。その先に、誰かの幸せにつながるものづくりの道がひらけているのだと、大倉さんの歩みが教えてくれました。

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