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妊娠中の食物繊維摂取が、子どもの発達を支える【山梨大学・三宅准教授】

今回、山梨大学疫学・環境医学講座の三宅准教授による研究チームが調査した「妊娠中の母親の食物繊維摂取と3歳時の発達との関連」についてインタビューを実施。本研究チームによると3歳時の「コミュニケーション能力」・「微細運動能力」・「問題解決能力」・「個人・社会能力」などが、妊娠中の食物線維摂取と関連している可能性が高いという。

妊娠中の環境要因が子どもの成長になぜ影響を与えるのか?また、なぜ栄養素の一つとして食物繊維が重要なのか?気になることを聞いてみた。

三宅邦夫さん

山梨大学大学院総合研究部 疫学・環境医学講座 准教授

山梨大学大学院医学工学総合教育部修了(医科学博士)。山梨大学医学部環境遺伝医学講座の助教、社会医学講座の講師・准教授を経て現職。エピジェネティクス、分子疫学を専門に、さまざまな疾患における遺伝−環境相互作用の研究に従事している。

本記事のリリース情報
三宅准教授のインタビュー記事『妊娠中の母親の食物繊維摂取と3歳時の発達との関連』が 「Wellulu」に紹介されました

妊娠中の環境要因が遺伝子のスイッチを変える

──先生が今回の研究テーマに取り組むきっかけについて教えてください。

三宅准教授:元々、私は「エピジェネティクス」という領域の研究を行っていました。「エピジェネティクス」についてご存知でしょうか?

──エピジェネティクス…?わからないです。

三宅准教授:それでは、まず「エピジェネティクス」についてご説明しますね。

「エピジェネティクス」は“遺伝子のスイッチ”のようなものを研究する領域です。私たちの体の特徴や機能は、遺伝的特性をコード化した「DNAの塩基配列」によって決まるのですが、どの遺伝子が活性化され、どの遺伝子が非活性化されるかという、遺伝子のオン、オフを制御する仕組みがエピジェネティクスです。「DNAの塩基配列」は変わらないのに、母親の低栄養やストレスなどの環境要因が子供の健康にも影響を及ぼすという現象について研究しています。

例えば最近では、妊娠中の母親のストレス、喫煙、化学物質の曝露などが、生まれた子どもの生活習慣病や喘息リスクを高めるということがわかってきています。

──妊娠中の環境要因が、遺伝子のスイッチをオンにしたり、オフにしたりするということですね。

三宅准教授:はい。ただ環境要因による影響は他にも考えられ、そのひとつとして、今回は「腸内細菌」に注目しました。腸内細菌が産生する代謝産物は、私たちの免疫機能や脳機能に影響を与えていることが知られ、腸内細菌叢の研究も最近は盛んにおこなわれています。

──腸内細菌叢の研究、確かに最近よく見る気がします。

三宅准教授:そして、腸内細菌叢に影響を与える代表的な栄養素のひとつが「食物線維」です。動物研究では、妊娠中の食物繊維摂取が少ないと子マウスが肥満になりやすいことや脳神経機能を損なうことが報告されています。「腸内細菌叢」に影響する因子として食物繊維に焦点を当て、ヒトでも妊娠中の母親の食物繊維の摂取量が、子どもの発達に関連してるのではないか、と考え研究することにしました。

ちなみに、妊婦さんの食物繊維の摂取状況についてご存知でしょうか?

──……、知らないです…。

三宅准教授:厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、女性は1日あたり18g以上の食物繊維摂取が目標量と推奨されています。しかし、今回の調査対象となった妊婦さんの中でこの数値を満たしている人は全体の8.4%しかいませんでした。また、食物繊維の摂取が不足している方は、ビタミンC、葉酸、亜鉛などの他の栄養素においても摂取不足の傾向が見られます

──なぜ、食物繊維が不足しがちなのでしょうか?

三宅准教授:要因の1つとして、若い女性のダイエット志向の強さです。多くの女性が体型を気にし過ぎるあまり摂取カロリーを制限していたり、栄養バランスが偏っているケースが多いと考えられています。

ビッグデータで紐解く!食物繊維と3歳時の発達との関連とは?

──今回の研究について詳しく教えていただけますか?

三宅准教授:環境省を中心に2010年から開始された「エコチル調査」という大規模な調査で、日本全国15地域からの参加を得て実施しています。今回の研究で利用したのは7万6207組の3歳時点のデータです。

普段の食事状況や栄養摂取状況についてのアンケート調査「食物摂取頻度調査票(FFQ)」を使い、妊娠初期・中後期の食品や飲料の1週間の摂取頻度・摂取量などを回答してもらい、食物繊維の摂取量を算出しました。

──妊娠中の栄養摂取状況の調査についてわかりました。子どもの発達に関する調査はどのようにおこなわれたのでしょうか?

三宅准教授:保護者が「乳幼児発達検査スクリーニング(ASQ3)」と呼ばれる調査票に回答することで、子供の発達状況について測定しました。こちらの調査票に関する評価には5つの領域があります。一つ目は、話す、聞くといった基本的な「コミュニケーション能力」。二つ目は、走る・歩くといった大きな動きの能力を評価する「粗大運動」。三つ目は、細かい動きや指先での操作などの能力を評価する「微細運動」。四つ目は、行動の前に手順を考える能力などを評価する「問題解決能力」。最後の五つ目は、他人との関わりについて評価する「個人・社会的能力」です。各領域の合計点がカットオフ値未満の人は発達遅れが疑われる児として判定されます。

FFQとASQ3で集計した大規模なデータを用いて、妊娠中の母親の食物繊維摂取量と生まれた子どもの3歳時の発達の遅れの有無との関連について調査しました。その際に、妊娠中の栄養摂取および子どもの発達に影響する関連要因を考慮し、予測した上でグラフ化したものがこちらになります。(食物繊維の摂取量が最も多いグループを「Q5」、最も少ないグループを「Q1」として、5つのグループに分けています)

3歳時の「コミュニケーション能力」を例に上げると、妊娠中に食物繊維摂取量が最も少ないグループから生まれた子ども(Q1)は、最も多いグループの母親から生まれた子ども(Q5)と比べて、オッズ比が1.51倍となっています。

──他4つの領域でも差が出ていますね。

三宅准教授:はい。「コミュニケーション能力」や「微細運動能力」の領域での影響が顕著でした。このグラフを基に考えると、食物繊維の摂取量が少ないほど3歳時の発達の遅れが出やすい傾向にあることを示しています。

──食物繊維の影響力は侮れないですね。

三宅准教授:ただ、今回の調査結果について、他の栄養素も影響している可能性は多いにあります。それに、サプリメント等による食物繊維摂取を考慮できないこと、自己報告式のアンケートのため個人的な解釈や理解が結果に影響していることなども考慮しないといけません。

水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよく摂取しよう

──妊娠中の母親の食物繊維摂取について、具体的にはどのようなタイミングや方法で摂取するのが最適でしょうか?

三宅准教授:朝、昼、晩とバランスよく摂取することが重要です。また、妊娠が判明して急に食生活を変えることは難しいので、妊娠前から日常の食事で食物繊維を含め栄養バランスを考えた食生活を意識していくことが重要です。ただ、つわりなどで食事が取りづらい時は無理をせず、体調が良い時にバランスの良い食事を心がけることが大切です。食事だけで十分に摂取するのが難しい場合、サプリメントや補助食品を活用して補うのも一つの方法です。

──食物繊維の摂取量には上限がありますか?

三宅准教授:食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があります。水溶性食物繊維は昆布やわかめなどの海藻に多く含まれ、腸内をゆっくりと移動し血糖値の上昇を緩やかにする効果、腸内細菌の活動をサポートする効果があります。一方、不溶性食物繊維は主に穀物、野菜、豆類などに含まれ、保水性が高く、腸を刺激してぜんどう運動を活性化することで便秘の予防に効果的です。両方の食物繊維をバランスよく摂取することが重要です。もちろん、過剰な摂取は便秘や下痢を引き起こし、腸内環境が悪化する可能性があるので避けるべきです。

──食物繊維以外に、こどもの発達のために意識して摂取すべき栄養素はありますか?

三宅准教授:葉酸や鉄、マグネシウム、ビタミンB、C、Dなどのビタミン類や、オメガ3脂肪酸のDHA、EPAなどです。また、タンパク質の摂取も重要で、過剰な脂質の摂取は避けるべきです。PFCバランスと呼ばれる、タンパク質、脂質、炭水化物の摂取のバランスなども考慮してみてください。

──ありがとうございます。最後に今後の研究について教えてください。

三宅准教授:現在、山梨県の参加者から便を提供していただき、腸内細菌を調査しています。神経発達だけでなく、肥満や花粉症などのアレルギーと腸内細菌叢の関連を明らかにしたいと考えています。

Wellulu編集後記:

「妊娠中の母親の食物繊維摂取と3歳時の発達との関連」についての今研究は、私たちが日常的に摂取する食物繊維が未来の子供たちの発達に与える影響、栄養摂取そのものについて見つめ直すきっかけとなる内容でした。

また近年では、腸内細菌が私たちの健康や発達に与える影響が注目されています。これらの研究を通じて、あらゆる人のライフスタイルを支えている食生活について、新たな知見が得られることに期待したいと思いました。

 

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