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乳幼児期のメディア視聴が発達に与える影響。上手なメディアとの付き合い方とは?【千葉大学・山本助教、国立成育医療研究センター・目澤リーダー】

メディア視聴は大人だけに留まらず、子どももたのしむ現代。メディアとは切っても切れない社会だからこそ、上手く付き合いながら利用したいもの。千葉大学予防医学センター山本助教と国立成育医療研究センターエコチル調査研究部の目澤リーダーが取り組んだ研究によると、乳幼児期の子どものメディア視聴時間と発達の関連性が明らかになったという。

メディア視聴時間が長くなると、発達にどのような影響を与えるのか。また、メディアの上手な利用方法や親が意識するとよい点などのお話を伺った。

山本 緑さん

千葉大学予防医学センター 助教

博士(医学)、修士(薬学)。専門は小児環境疫学、研究倫理学。千葉大学薬学部卒業、同大学院薬学研究科、同大学院医学薬学府(医学領域)修了。製薬会社等の勤務等を経て2017年より現職。環境化学物質や生活習慣が子どもの健康や発達に与える影響について研究している。エコチル調査千葉ユニットセンターの副センター長として調査を運営するとともに、講演・広報誌を通じて調査の成果を伝えるなどのコミュニケーション活動も行っている。

目澤 秀俊さん

国立成育医療研究センターエコチル調査研究部 リーダー

2007年東京慈恵会医科大学医学部卒。2013年東京慈恵会医科大学大学院医学研究科小児科学専攻博士課程修了(医学博士)。専門は小児発達、小児環境疫学。2014年より子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参与する。主に、精神神経発達領域のアウトカム測定、標準化を行い、データマネジメント、遺伝子解析の計画に参与している。

本記事のリリース情報
当センターの山本緑助教が、ウェルビーイングWebメディア「Wellulu」にて取材を受けました。

メディアの視聴時間と子どもの発達

── はじめに、今回の研究に取り組むきっかけや背景を教えていただけますか?

山本助教:私たちは、テレビやDVDなどのメディアの普及に着目して研究を行っています。現代社会ではメディアを完全に排除することは不可能であり、ほとんどの家庭で、子どもは生まれて間もない時期からメディアに触れる機会があります。しかし、その影響については社会的にも学術的にもさまざまな意見がある中、多くの親は、十分に理解していない可能性があります。日本では、この分野の研究はまだ発展途上で、具体的なデータが不足しているため、このギャップを埋めるべく、保健師などの専門家とも協力しながらメディアの使用と子どもの発達に関するデータを収集し、その関連性を調査しているというのが経緯です。

── 現状でのメディアと子どもの発達の関係について教えてください。

目澤リーダー:過去の研究ではメディアの視聴時間が長い場合、子どもの発達、特に言語の発達に遅れる相関関係を認めることが複数の研究で報告されていました。しかし、相関関係では発達が遅れる子がメディア視聴時間が長くなっている懸念を払拭できませんでした。そのような中、カナダの研究では、テレビだけでなくDVDなどのメディアも含め、視聴時間が長いと発達が遅れることを因果関係が検討可能な解析方法で報告しています。今回、私たちも同様の方法を用いて、より低年齢から大規模に日本の子どもたちのデータを分析しました。

テレビ・DVD の視聴時間が発達の遅れに影響する

──今回の研究の方法について教えていただけますか?

山本助教: 子どもの発達において重要な5領域で(コミュニケーション、粗大運動(足の大きな動き)、微細運動(手の細かい動き)、問題解決、個人-社会)、メディア視聴時間との関連性を調べました。

目澤リーダー:1歳、2歳、3歳の各時点でのテレビやDVDの視聴時間を調査し、同時にそれぞれの年齢での子どもの発達状況も調べています。これまでの研究では、視聴時間が長い子どもは発達が遅いという全体的な傾向はありましたが、家庭環境や遺伝的要因な影響を含んでいる視聴時間や発達の個人間差となる部分と、それぞれの個人間差を除いた上で各年齢での視聴時間や発達の個人内差となる部分を区別していないため、視聴時間が発達に影響するかの因果関係は不明でした。私たちの研究では、エコチル調査を用いて子どもたちを追跡し、1歳、2歳、3歳でのデータからこのような個人間差と個人の中での変化を分け、個人の中で各年齢の視聴時間と発達がどのように関連しているかをより詳細に解析しました。

── 研究の結果、何がわかりましたか?

山本助教:個人の中での変化を解析したところ、1歳の時点で視聴時間が長い子どもは、2歳での発達が遅れる傾向があり、2歳で視聴時間が長い子どもは3歳での発達が遅れる傾向がありました。これは、疾患の診断されていないお子さんにおいて、過剰な視聴時間は発達を遅らせることを示しています。

また、1歳の時にメディア視聴時間が長い子どもは、2歳や3歳になっても同じ傾向が引き継がれる可能性が高いこともわかりました。また、親がスクリーンを見せやすい環境にある場合、その習慣が子どもに引き継がれやすいのかもしれません。

── 研究結果についてもう少し詳しく教えていただけますか?

目澤リーダー:発達は5領域で評価しています。その5領域全体の点数で分析した結果、視聴時間が長い子どもは1年後の発達が遅くなる傾向を1、2歳ともに認めました。それぞれの発達領域ごとにみると、1歳時のメディア視聴が長いほど2歳時のコミュニケーション領域の発達が遅れる傾向がありました。他の領域では、2歳時のメディア視聴が長いと3歳時の粗大運動(体の大きな動き)や微細運動(手先の細かい動き)や個人-社会の発達が遅れる傾向がありました。

── 特に、どの年齢層で顕著に影響が見られるのでしょうか?

山本助教:この研究では1歳から2歳の視聴時間の影響について調べていますが、どちらの年齢でも影響が見られていることが重要です。幼児期早期では、個人個人さまざまな体験を通して、言葉を含めた他者とのコミュニケーションや食事の仕方のような社会性、階段上り下りなどの粗大運動、絵を描くような微細運動、片付けのような問題解決が発達していきます。メディア視聴に過剰な時間を割くことは、発達を遅らせる影響を1歳から今回認めました。これは、さまざまな活動に割ける時間が減少していることが関与している可能性があります。

── 今回の研究を通じて、他に気づいた点などはありましたか?

山本助教: 特に不安やうつ傾向が強いお母さんの子どもは、発達スコアが低いほど、テレビ視聴時間が長い傾向も見られました。あくまで推測ですが、ストレスを抱えやすいお母さんは、子育てに苦労し、テレビに頼らざるをえない状況となっている可能性があります。そのため、こうしたお母さんたちへのサポート体制が重要だと考えています。

子どもの発達を妨げないために。メディアとの上手な付き合い方

──メディアの視聴時間が長くなることによって、先生が懸念している問題などありますか?

目澤リーダー:メディアの視聴は基本的に受動的な行為になります。そのため、メディア視聴に長く時間を割くことは、子どもの身体を伴った遊びの機会、特にトライアンドエラーの機会が減少することが懸念されます。さまざまなことを体験し、失敗から学び、試行錯誤をする機会は発達には不可欠です。しかし、現在社会においてメディアが全て悪いとすることは過剰な反応と考えています。メディアから得られる様々な情報は適切に使用することで日常生活を豊かにできるような工夫や配慮の方がより重要と考えています。例えば、乳幼児期であっても親子で一緒にメディアを観て、笑ったり、話しかけたり、歌ったりする機会にすることで、メディアをコミュニケーションの機会に変え、良い影響を与えるような工夫も考えられます。幼児期以降も時間や内容について子どもとの対話や関わりを大切にしながら各家庭で大きくなったら子どもも含めてルールを定めていくことが、長期的に健全なメディア利用につながっていくと考えます。

──親が普段の生活で行えること、意識すべきことを教えてください。

山本助教:子どもとの会話や体を動かす機会を作ることも大切です。外で遊んだり、他の子たちと交流することが苦手な子どもの場合でも、家の中で子どもとしっかり会話をする、でも大丈夫です。

──そのほか、子どもの発達に影響を与える要素はありますか?

山本助教:個人間差を起こす要因を検討したところ、年上の兄弟や保育園、読み聞かせ、睡眠時間は発達の促進に関連することがわかりました。特に、言葉の発達には多くの会話の機会が必要となります。先ほどもお伝えしましたが、体を動かすこと、話すことが基礎技能を身につける基盤となり、結果として発達スコアを伸ばすことにもつながります。

──現代では、メディアは避けられない存在です。うまく付き合うにあたって重要なポイントを教えてください。

目澤リーダー:そうですね、各家庭でできることとして、自分たちのメディアの利用実態を把握し、どのように使用したいか計画を立て改善していくることが、とても重要なことです。アメリカ小児科学会では、「ファミリーメディアプラン」というサイトを運営し、各家庭で自分たちが1日の時間をどのような目的にどの程度使用したいのかを計画し実態と比較することで、各家庭の時間管理の支援するサイトを運用しています。メディア視聴時間の影響は、今回の検討は子どもの発達に関してですが、そのほかに睡眠時間、肥満、メンタルヘルスなど多岐に渡り、また年齢により影響を与える領域が異なると考えられています。幼少期からメディアとの良い関わり方を検討する習慣をつけ、自分たちが望ましいと思う時間配分に生活習慣を変えていくことは、子どもが成長し自律していくにあたってもとても重要なことであり、メディアと接することが必須となった社会では重要な視点です。

──メディアを利用する際、どのようなバランスが重要だと考えますか?

山本助教:年齢に応じた課題に対応し、育児や家庭の方針に沿ったメディアの利用を計画することが重要です。まずは、メディアを見る時間を意識的に減らすことも良いかもしれません。例えば、小学生の高学年から高校生にかけて、スマホやゲーム依存が見られますよね。これらの子どもたちは自己コントロールが難しく、ついついやってしまう。自分がメディアを利用する理由を理解し、家庭内でのルール作りを行い、小さいうちから習慣づけることが重要です。計画が難しい場合は、専門家に相談するのも大切です。また、子どもにか関わる専門家も各家庭に合わせたルールや計画づくりを支援できるようなトレーニングや体制構築が必要になります。

──最後に、今後の研究の方向性や展望について教えていただけますか?

山本助教:現在は、エコチル調査のデータから様々な研究を行っています。社会や子育ての変化に追いつくように、研究を進めています。今後は特に、スマホや他のメディアと子どもの発達との関係、成長期の子どもに焦点を当てた研究を行いたいと考えています。
最後に、エコチル調査にご参加いただいているお子さん、保護者の方々にお礼を申し上げさせてください。2011年から開始されたエコチル調査ですが、今回のような妊娠中からの時系列でデータを収集することでこのような解析が可能となりました。このような大規模で長期にわたるコホート研究が実施されていることは世界的に貴重であり、日本に生まれたお子さんの実態を正しく理解し日本で必要なアプローチを示していく上で、重要な資料を提供することができます。エコチル調査は今後も続き、学童期や思春期での影響を解析していきます。参加者の方々には心から感謝を申し上げると共に、生まれてから成人に至るまでのライフコースで見た時に関連を調査できるよう引き続きのご協力をお願い申し上げます。

──本日はありがとうございました。

編集後記:

今回、メディア視聴時間が子どもの発達に及ぼす影響について、貴重なお話を伺いました。特に1歳からのメディアとの付き合い方が発達への影響が大きいというのは驚きでした。現代社会でメディアを避けることはできないからこそ、どのように上手く付き合っていくか、メディア利用の計画を立て、習慣づけていくことの重要性を感じました。

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