
今回Welluluが取材したのは、2025年2月12日にUNIVERSITY of CREATIVITY (UoC)で開催されたイベント「Regenerative Urban Design~人・地域・文化・経済を再生するアーバンデザイン~」。持続可能な環境維持を目指す「サステナブル」に対して、自然が持つ再生力を活用し、地域の生態系や文化、経済の再生につなげていく「リジェネラティブ」という考え方をテーマに、都市デザインについて様々な事例紹介・交換がおこなわれた。
デンマーク・コペンハーゲン市に本社を置く世界的な都市デザイン会社であり、博報堂DYグループの一員でもあるGehl社から、Sophia Schuffさん、Leon Legelandさんの二人、国土交通省都市環境課の今佐和子さん、UoCの近藤ヒデノリさんが登壇した講演の内容をレポートする。

Sophia Schuffさん
Gehl社 Portfolio Director

Leon Legelandさん
Gehl社 Project Manager
都市計画、サステナビリティ、環境科学にまたがる学際的なバックグラウンドを持つプロジェクトマネージャー。ベルリンとコペンハーゲンで複数の都市計画プロジェクトに携わり、大規模な都市開発コンセプトや公共空間のデザインガイドラインから、モビリティコンセプトやプレイスメイキング戦略まで、幅広い経験を持つ。計画プロセスにおいて、彼は常に都市、公共スペース、または建物のユーザーに焦点を当てる。社会的な交流を促進する都市設計を支援し、地域、環境、経済の問題を慎重に考慮しながら、グローバルなトレンド、構造変化、技術的進歩への適応性を視野に入れている。

今 佐和子さん
国土交通省 都市環境課 課長補佐
IT企業を経て、2014年国土交通省入省。新潟国道事務所に配属。本省異動後に育休を経て、2018年都市局街路交通施設課を担当。車中心から人中心、ウォーカブルなまちづくりを全国に広める政策に携わる。2024年4月より都市環境課の立ち上げ準備室を経て7月より現職。環境×まちづくりをどう広め、進めていくか模索中。プライベートでは、地元小山市で子どもも大人も双方が楽しめる公共空間活用に挑戦。

近藤 ヒデノリさん
UoC サステナビリティ研究領域フィールドディレクター/クリエイティブプロデューサー
CMプランナーを経て、NYU/ICP(国際写真センター)修士課程で写真と現代美術を学び、9.11を機に復職。近年は「サステナブルクリエイティビティー」を軸に企業・自治体・地域のブランディングや広報、商品・メディア開発、イベントや教育に携わり、2020年にUNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)サステナビリティフィールドディレクターに就任。「Tokyo Urban Farming」「Circular Creativity Lab.」を主宰し、領域を越えて持続可能な社会・文化をつくる創造性の教育・研究・社会実装を行っている。監修•編著に『Urban Farming Life』.『都会からはじまる新しい生き方のデザイン-URBAN PERMACULTURE GUIDE』等。「Art of Living」をテーマとした地域共生の家「KYODO HOUSE」主宰。グッドデザイン賞審査員他、審査員・講演多数。湯道家元で元バックパッカー、ハンモックとサウナとお酒が好き。
「維持」から「再生」へ。変わり始めた日本のまちづくり
ーー初めにマイクを手に取ったのは、UoCの近藤さん。自身の活動内容について話し始めた。
近藤:はじめに、UoCと私の活動について説明させていただきます。UoCのフィロソフィは「すべてのニンゲンは生まれながらに創造的である」です。様々な領域の創造性をかけあわせて、社会を変えていくことを目指しています。
私が担当する領域は「サステナブル」、「都市と地方の循環」が中心です。その中で「TOKYOを食べられる森にしよう」とスローガンを掲げて、「アーバンファーミング」というライフスタイルを都市に普及させていく活動を2021年に発足させました。地域を、都市を、環境を再生するコモンズ(共有財)という考え方は、本日の「Regenerative Urban Design」というテーマにも繋がるのではないでしょうか。
例えば、武蔵野大学の有明キャンパスの屋上では、学生たちと教授が一緒になり、コミュニティファームを作っています。ほかにも、ビジネス街である大手町のビルの屋上やカルチャータウン・下北沢の駅前の一角、金融街・茅場町など、ここ数年で東京にコミュニティファームが増えてきました。コモンズをみんなで取り戻していこうという動きが日本各地で広がりつつあると感じています。
また、アーバンファーミングを盛り上げていくためには、アートなどのクリエイティビティと関連させていくことも大切です。2025年7月に、池尻の旧中学校跡地でオープン予定の「HOME/WORK VILLAGE」では、屋上に「THE ART FARM IKJ」というアーバンファームを準備中です。人と自然の共創により、野菜やハーブなどを育てるだけでなく、マルシェや様々なワークショップ、イベントなどが開催できる、新しい都市のカルチャーをみんなで育てていける実験場、コモンズを目指して、仲間たちと活動しています。
ただ現状を維持する活動ではなく、人と関わることで都市を再生していく「リジェネラティブ」という考え方を、これからもみなさんで一緒に進めていければ幸いです。
ーー続いて、バトンを受け取ったのは国土交通省の今さん。ここ5年の間で大きく変わり始めたという「日本のまちづくり」について語り始める。
今:日本は、地方都市だと4割近くが街路で占められているといわれています。街路が変わると、街の在り方が変わってしまうくらい、インパクトが大きい部分だといえるでしょう。
戦後、日本の街路は自動車交通量を基準に造られてきました。そのような都市整備によって、日本は経済成長してきました。しかし、ここ5年で日本のまちづくりは大きく変化してきたと私は捉えています。
例えば、大阪の中之島通は、2020年に歩行者空間へと変わりました。仙台市では仙台駅前の通りの車線を減らして、歩行者空間を広げるという社会実験がおこなわれました。群馬県前橋市の馬場川通りはレンガで舗装されて、車がゆっくり走り、川のせせらぎを聴きながら街の人たちがくつろぐような通りに再整備されています。愛知県豊田市では、市役所が駅前の通りや広場などの公共空間を開放する「あそべるとよたプロジェクト」という取り組みで、街をより面白くしようとしています。
このような日本の動きは、ニューヨークから大きな刺激を受けていると感じています。ニューヨークのブロードウェイも歩行者専用になり、世界的な観光地に変わりました。2019年にそのニューヨーク変革の立役者が来日し、多くのまちづくり担当者がインスパイアされて、動きが大きくなったと見ています。
ですが、さらに遡ってみると、2014年にGehl社の創立者であるヤン・ゲール氏が来日し、「ヒューマンスケールのまちづくり」という講演会を開いていたんです。このときの動きが源流となって、現在の流れへとつながっているのではないでしょうか。
「人の行動と、建築を結びつける」Gehl社の都市デザイン
ーー次に、ソフィアさんがGehl社の都市デザイン方法について話し始める。
ソフィア:2014年のヤン・ゲール氏の来日から日本の新しいまちづくりがスタートしていたというのは、とても嬉しいお話でした。私たちGehl社には現在150名の社員がいて、アーバンプランナーや建築家、社会科学者、分析者、データサイエンティストやエコロジー分野のエキスパート、環境調査員など様々な専門家がいます。私は社会学と考古学のバックグラウンドを持っています。
私たちの会社の創立者であるヤン・ゲール氏が考えていたのは、科学と建築を統合して何かができないかということです。そこから彼の妻が調査センターを設立し、「人々の行動と、建築を結びつける」という考え方が生まれたのです。
Gehl社は、市の公共機関やデベロッパー、そして個人団体などと仕事をさせていただいています。私たちは、基本的に5つのプロセスでプロジェクトを構築しています(下図)。まずはコミュニティの中でデータを集めて、その文脈を理解し、環境への影響を考えていくこと。次にストーリーを創って、わかりやすく可視化していきます。次の実践・実証段階では、いきなり大きな投資をするのではなく、小規模なことから始めて、システムの中での影響を見ていきます。さらに実践・実証の中からデータを収集して、その結果を評価する。人々の反応を確認しながら、プロジェクトをスケールアップし、持続する変化を創っていくのです。

私たちが都市から情報を集める際に活用している方法が、「Gehl Lens」というものです。モビリティや土地の使い方、設置物の影響、そして人々がどういったことで時間を使っているのか、どう動き、どう関わりあっているのか、バックグラウンドはどういった人たちなのかを調査し、わかりやすいレポートを作成します。そのレポートを基に、地球に優しい都市というのを考えながら、空間のデザイン・建物のデザインと生物多様性、経済エコシステムへと繋げていくわけです。
再生都市デザインが、生態系・社会的なつながり・経済を強化する
ーー続いて、レオンさんが本日のテーマである「都市の再生」について、様々な事例を紹介する。
レオン:都市は気候問題のほかにも、自動車への依存やCO2の排出量、エネルギー問題、フードロス問題、カーボンシンクの減少など、大きな課題を抱えています。
「Regenerative Urban Design(再生都市デザイン)」は、都市の生態系、社会的なつながりや経済的な活力を回復させ、強化するものです。人間中心のデザインを優先し、ウォーカブルや社会的な交流、公共の暮らしを育みます。また、自然に根ざした解決策やサーキュラーエコノミーの原則、コミュニティ主導の進め方を融合させることで、ポジティブな影響を人や場所、そして地球に与えるような都市を創造するのです。
再生都市デザインが私たちの暮らしにどう影響するのか、いくつか例を交えて説明したいと思います。私たちが上海市と共同して進めたプロジェクトでは、川沿いを、人が散策したい場所へと変化させていきました。現在、上海では500万人近くの人にとって、この場所がたった15分で行けるパブリックスペースになっているんです。東京でも、さらに大きな効果を期待できると思います。
もうひとつ、シドニーのプロジェクトは2007年からスタートして、今も続いています。当初は車やバスの通行が多く混雑していましたが、パブリックスペース・モビリティプランの見直しをおこないました。さらに「サスティナブルシドニー2050」という戦略を策定しています。実際に、通り沿いには100本の木が植えられ、歩道やベンチも増えています。

リジェネラティブな未来へとつながる都市の在り方
ーーここでソフィアさんが、とても興味深い研究内容について話を切り出した。
ソフィア:私たちがコペンハーゲン大学と共同で進めているプロジェクトを紹介します。都会の食の動向をどうやったら変えることができるのかという研究です。
「もっと体にいいものを食べましょう」と人から命じられても、食生活の見直しが上手くいくわけではありません。命令ではなく、都市の環境を変えることで、さりげなく無意識に人の食生活を変えていくことを目指しています。
実際には、食へのアクセスと意識の向上、新しい食の機会を提供すること。そして、公共空間をより楽しい場所に変えて、人が時間を過ごしたくなるようにしていきました。大切なのは、最も健康的な選択肢を、最も簡単に選べるようにすることです。
例えば、コペンハーゲンでの実証実験では学校の近くにあるスーパーマーケットを見つけ、そのスーパーで学校の子どもたちが健康的ではない食事を購入していると知りました。そこでスーパーの近くに、安くてヘルシーな食事を提供するフードトラックを置き、近くのベンチでは子どもたちとのワークショップを開催したんです。その結果、3〜4カ月の検証期間で、食生活の動向に変化が起きてきたんです。さらに年間1,262tのCO2削減につながることもわかりました。「食生活の変化だけで」です。この小さなプロジェクトを拡大して、デンマーク国内1,000カ所に展開すると、デンマークの温室効果ガスの排出量を8〜20%も減らせるという結果につながることもわかりました。

ーーさらに、魅力的なまちづくりについて、そしてサステナブルな未来の創造について、二人の話は進んでいく。
レオン:最後にご紹介したい再生都市デザインの方法は、ひとつの用途しかない建物から、より柔軟で複合用途に使える建物へと切り替えていくことです。東京は、実はこの模範です。用途がミックスされ、ビルの各階が別々の使い方をされている建物が多く存在します。しかし、それと同時に東京には緑地が少なく、パブリックスペースもあまりありません。
私たちが住んでいるコペンハーゲンを例にすると、1960年代までは同じようにパブリックスペースが少なかったんです。1962年に最初の歩行者専用ゾーンが生まれ、特にウォーターフロントが楽しく過ごせる場所に変わっていったことで、コペンハーゲンは都市として魅力的になりました。パブリックライフが素晴らしい都市は、人を惹きつけるのです。
ソフィア:再生都市デザインを考えたときに、ウォーターフロントを美しく造りかえるというのは、経済戦略のひとつです。水辺にオフィスや宿泊施設を造るなど、ビジネス的な観点ですね。次にレクリエーション施設を設けるなど、人々の生活改善や観光地化できないかを考えていきます。
再生都市デザインは、未来へとつながっていくと私たちは思っているんです。魅力的なまちづくりを考えるときに、サステナビリティを同時に実現するのは難しいことだと考えられています。しかし、サステナブルな未来はもっと遊び心を持って創っていけることでもあるのではないでしょうか。
近藤さんが手がけているアートとアーバンファーミングをつなぐプロジェクトを、公的機関がサポートしていけるような体制を作っていくことも考える必要がありますね。
近藤:東京や日本全体にもつながる話が多くあったと思います。では、続いてディスカッションへと移っていきたいと思います。
様々な可能性を秘めた「リジェネラティブ」の本質
ーーイベントは4人によるディスカッションパートへと進んでいく。最初のディスカッションテーマは、「リジェネラティブの定義と重要なポイントは?」。
近藤:「リジェネラティブ」は、世界的にもまだそれほど浸透している言葉ではないと思います。あらためて、「リジェネラティブ」という言葉をどう定義されているのかをお聞かせください。
ソフィア:私たちが「リジェネラティブ」を考えるときは、経済の再生、コミュニティの再生、環境問題・エコロジーについて、そして私たちの社会的な生活。これらを統合して、どう再生していくかが大切だと思います。強い定義はなくても、オープンな定義があることで、クリエイティビティが保たれるはずです。
私は先日、兵庫県豊岡市を訪れ、そこでおこなわれている地域再生プロジェクトを拝見しました。豊岡市は人口減少に直面する地域として、劇場を設けるなど様々なクリエイティブな施策を取り入れています。これは、アートやクリエイティビティを現実的な問題とかけあわせて、解決策を見出している例だと思います。そうすることで、人口減少に歯止めがかかり、さらにエコロジーや文化を組み込んで、最終的には大きな社会的なインパクトを創り出していく。このような素晴らしい試みを、ほかの地域や都市にも反映していければと期待しています。
レオン:私は「リジェネラティブ」という言葉を聞いたときに、私の母国であるドイツにも当てはまるのではないかと感じました。ドイツも日本と同じく、高齢化社会へと向かっています。高齢化社会は問題だと認識されていることが多いと思いますが、実はネガティブなことだけではなく、チャンスでもあるのではないでしょうか。
年齢の高い方は、それだけ多くの経験を持っています。そういう方々が、子どもたちに何かを伝えていくことは可能です。再生という意味では、シニア世代こそ次の世代を教育していくことができると考えています。
今:リジェネラティブと聞いて、私は環境のことだと捉えていました。ソフィアさんから、リジェネラティブが環境だけではなく様々なものを包摂した概念だとお聞きして、ハッとしました。
日本で環境問題に取り組もうとすると、「頑張らなければならない」「義務的にやらなければならない」という感覚を抱く人が多いです。しかし、お二人の話の中から「環境問題に取り組むことで、人の暮らしを良くしていきたい」という思いが伝わってきて、大きな学びがありました。環境とクリエイティブを結び付けていくためのポイントというのはどこにあるのでしょうか?
近藤:私も環境だけでなく、人の暮らしや文化の両方を再生していくことが、リジェネラティブにとって大切なポイントで、そこにクリエイティビティが欠かせないと感じています。
ソフィア:私がよく考えるのは、ブランディングの問題です。サステナビリティやリジェネラティブについて、「個々が真剣に取り組まなければならない」と考えるのは間違った概念だと思うんです。
企業や公共団体、規制を設ける方々にも考えていただきたいのは、それぞれが頑張ることよりも、クリエイティビティや楽しいアクティビティこそがサステナブルにつながるということです。純粋な心を持つ、子どもたちの自由な発想も取り入れるのもいいかもしれませんね。
近藤:リジェネラティブは緑の話だけではなく、高齢者や子どもたちの発想も取り込むことで、例えば高齢者施設や保育園といった場に、新しいリジェネラティブなものが生まれていくかもしれないですし、様々な産業に広がる可能性を秘めていると思います。
リジェネラティブな都市デザインが生む経済への大きな効果
ーー続いてのディスカッションテーマは「これからの人間中心主義とは?」。
近藤:ヤン・ゲール氏が提唱した人間中心のまちづくりですが、時代の変化につれて同じ言葉を使いつつも、その実は変わりつつあると感じていますがいかがでしょうか?
レオン:人間中心のまちづくりというのは、少し概念が変わっているかもしれませんね。ヤン・ゲールが開発した手法は、当時はとても斬新でした。彼は人の移動や、公共スペースをどう楽しんでいるかを見ていたんです。しかし地球には限界があり、エコシステムをさらに活用しなければならないという気づきもありました。
私たちの会社の手法も次第に変わっていきました。エコロジカルで、環境的なパラメーターをプランに取り入れています。メンバーもより多様性にあふれ、都市デザイナーや建築家のほかに、景観設計や交通デザイナー、今では生物学者や医療・栄養学の分野をバックボーンに持つメンバーもいます。
今:Gehl社では都市のプランニングがメインだと思いますが、その後の維持管理・都市の運営にも携わっていらっしゃるのでしょうか? 日本において、街の中に緑を増やしていこうとすると、維持管理の問題がつきものです。街路樹がクルマを傷つけてしまったり、落ち葉が下水溝に詰まったりなどの問題が発生して、そこに維持管理費がかけられなくなり、結果的に街路樹を伐採してしまう。地方では獣害の問題も生じます。そういった問題に対して、参考になる取り組みはありますか?
レオン:私たちはビジョンを打ち出し、デザインして、分析からアドバイスまでをしていきますが、それを維持して運営していくことは本当に大変ですよね。そこに暮らしている人が、「自分の生活を守りたい」という動機が必要不可欠です。
ソフィア:私たちがどのように優先順位をつけているのか、というのも参考になるかもしれません。例えば、私たちはどうすれば維持管理費を捻出するように予算編成ができるのかについて、プランニングしています。
ひとつの例として、バンクーバーでは市民参加の予算策定を進めています。自治体の予算編成作業に、市民が関わるんです。市民にとって何が大切なのか直接意見が伝わるので、予算をどこに振り分けるべきなのか、新しい答えが見えてくるかもしれません。
もちろん言うのは簡単で、そもそもの予算が足りないということはあります。ニューヨークで私が見た施策では、市のコミュニティメンバーに木の剪定を教えるんです。トレーニングをしっかりと受ければ、その方もソリューションの一部になれるかもしれませんよね。
近藤:日本では公共空間は公のもので、誰のものでもない、触れてはいけないという意識がありますが、住んでいる人たちも参加していいという意識が芽生えると、変わっていくかもしれませんね。
ーー近藤さんは次のディスカッションテーマ「リジェネラティブアーバンデザインは経済をどう再生させるか?」へと話を進めていく。
近藤:緑化したり生態系を再生していくことは、環境面だけでなく、どのような経済効果を生んでいくのでしょうか?
ソフィア:もちろんです。例えば汚染の問題について、緑化が豊かな都市であれば、大気汚染などの環境問題の軽減につながります。そうすれば、ぜんそく患者が減り、病院に行く人数の減少効果にも期待ができます。これは行政の予算にとってもいいことですよね。
緑が増え、水質が改善すれば、ビジネスにとっても効果があります。企業と共同で参加型イベントなどが開催できれば、ROI(投資収益率)も高まります。健康への効果や環境への効果を考えても、素晴らしいリターンがあるのではないでしょうか。
今:おっしゃるとおりですね。ソフィアさんの話を聞いて、緑化を進めるにあたって、ビジネスや医療に関する複合的な経済効果もあるということを見せていかなければならないと感じました。
ソフィア:実はコペンハーゲンがとても良い事例だと思います。コペンハーゲンでは、数年の間に12本の橋を作りました。川の上に橋が完成して移動が容易になったことで、病院患者の通院回数や企業の病欠の数が減ったんです。
企業にとってもリターンがあったということですね。今、コペンハーゲンの大学や自治体で、この事例のモデル化を進めています。物理的なインフラ投資がもたらす効果として、健康や各企業のポジティブなインパクトを公開しているんです。詳細はコペンハーゲンの自治体のウェブサイトをぜひご覧ください。
今:高齢化の進む日本では、医療費が大きな社会課題になってくるはずなので、「健康」とつなげていくと進めやすいかもしれませんね!
近藤:最後に、お二人は今回東京に来て、コペンハーゲンやヨーロッパの都市とどんな違いがあると印象を持ちましたか? そしてどんな東京のリジェネラティブな未来を想像しますか?
レオン:まず、ほかの都市との大きな違いは、東京ほど規模の大きい都市はないということです。巨大都市でありながら、各地域に魅力があり、小さな道でも五感が刺激される感動がありました。大きな都市のなかに、ヒューマンスケールの地区があるというのが、東京の特徴ではないでしょうか。
ソフィア:東京のリジェネラティブな未来を創造すると、私は「参加」がキーポイントになると思っています。都市の行政とローカルコミュニティの接点に、まだ乖離があるように感じます。ヨーロッパでは、変革を求めて市民が声をあげますが、日本では少ないように感じますね。東京にも市民参加の都市づくりを進めていく必要がありますね。
近藤:ヨーロッパに比べ、日本では市民が声を上げるデモなどは少ないと思いますが、各地で産・官・民の絡む事例が続々と増えているように感じていますし、単純な緑化だけでなく、人の健康やよろこび、経済効果にもつながるリジェネラティブなアーバンデザインをますます広げていきたいですね。本日はありがとうございました!
ーー最後は会場からの質問に4人が回答する場が設けられ、イベントは大盛況のうちに幕を閉じた。
「再生する都市」のデザインは、そこに住む人たちにとって、健康的で心地よい、ウェルビーイングな暮らしへとつながっていくはずだ。
開催場所:UNIVERSITY of CREATIVITY
自治体などの公的団体や慈善団体の戦略づくりを担うチームで主に慈善団体のクライアントの案件を率い、「人と地球の幸福を最優先するまちづくり=Making Cities for People & Planet」というGehl社の哲学のもと、地域やコミュニティがより健康的に変化するよう指揮をとる。人類学者としての経歴と、環境における人間の経験に対する深い理解のもとに、都市変革のプロセスが持続的な社会的・健康的影響を促進することに貢献する。