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在宅ワークやオフィス勤務のヒントに!作業環境が変われば、生産性はどこまで変わるのかを検証【法政大学・川久保教授、荒田研究員】

オフィス環境が変われば、生産性はどれくらい変わるのか?オフィス環境が作業効率やプレゼンティーイズム(出勤しているが健康問題で本来のパフォーマンスを発揮できていない状態)に与える影響について、川久保教授の研究チームが実施した調査によって明らかになった。

そこで今回、従来から現代に至るまでのオフィス環境の変化やこれからのオフィス設計、作業効率を改善するための具体的な方法について、川久保教授・荒田研究員に取材を実施。温熱環境、空気環境、光環境、音環境など、最適なオフィス環境を考える上で重要な要素や、職種に応じた最適なオフィス環境とは?

川久保 俊さん

法政大学デザイン工学部建築学科 教授

2013年に慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程を修了。同年4月より法政大学デザイン工学部建築学科助教。その後専任講師、准教授を経て、2021年4月より教授。2023年6月より大阪大学社会ソリューションイニシアティブ招へい教授を兼任。専門はサステナビリティサイエンス。近年は、SDGsを原動力とした社会課題の解決に関する研究を進めている。主な受賞歴に、建築学会奨励賞、都市計画学会論文奨励賞、文部科学大臣表彰若手科学者賞、グリーン購入大賞・環境大臣賞など。

荒田 史朗さん

法政大学大学院デザイン工学研究科 研究員

オフィスや住宅などの建築環境が居住者の生理心理状態に与える影響についての研究を行っている。法政大学大学院デザイン工学研究科 川久保研究室所属の研究員。

本記事のリリース情報

Well-beingに特化したメディア「Wellulu」上で研究成果が紹介されました

オフィス環境における重要な要素と、これからのオフィス設計とは?

──川久保先生、まずはじめに、今回のオフィス環境についての研究に取り組まれたきっかけを教えてください。

川久保教授:私たちの研究室では、人間がどういう環境にいると快適性や集中力、健康状態が変わるかというところに関心を持って研究を行っています。その中で、住環境、オフィス環境、都市地域環境など、さまざまな環境を対象に研究を行っていますが、今回はオフィス環境に注目しました。

──オフィス環境の研究は、これまでどのように進められてきたのでしょうか?

川久保教授:これまでの研究では、オフィス環境における適切な温湿度や低いCO2濃度などがワーカーのパフォーマンス向上に関連していると言われてきました。ただ、これまでの多くの研究はケーススタディであり、得られた結果の普遍性については疑問がありました。実際にどの程度ワーカーのパフォーマンスが向上するかを分析するためにはさまざまな職種の人々を対象にした大規模な調査が必要なのですが、多くの人を巻き込む難しさが課題でした。

──なるほど。ちなみにですが…、ずらっと横並びでデスクが並んでいるような、従来型のオフィス環境についてはどう思われますか?

川久保教授:従来型のオフィス環境は一概に悪いとは言えませんが、職種によっては不適切かもしれません。従来型のオフィス環境はその場に長く滞在する方に配慮することが多いため、例えばオフィスを出たり入ったりする営業職の方にとっては、伝統的なデスクワーク中心のレイアウトは不向きかもしれません。また、昔ながらのオフィスは空調を細かくコントロールできないため、窓際の席だと冬は寒く、夏は暑くなるなど、オフィス環境を適切に保つことができないことがよくあります。

──最近のオフィスにもトレンドはあるのでしょうか?

川久保教授:最近は「アクティビティベースドワーキング(ABW)」がひとつのキーワードになっています。これは、仕事の内容に応じて適切な環境を選択するという新しい働き方ですが、そのような新しい働き方に適した柔軟なオフィス設計をするケースも増えています。例えば創造的な仕事をする人にはリラックスしたり会話が弾むカフェのような空間、黙々と作業を行いたい人にはブース席など、それぞれのワーカーが選べるようなオフィスです。これからのオフィスは、仕事内容に合わせて空間を柔軟に変化させることが重視されています。

個人の考え方も多様化して「ダイバーシティ」が重要視されるように、オフィスにもダイバーシティが求められています。その中でアクティビティベースドワーキングを実現するためのオフィス環境の進化が求められている状況です。日本の企業でも徐々にこのような動向に対応するところも出てきていますが、海外の企業、特に欧米のオフィスに比べると、まだ遅れている部分もあります。

──快適なオフィスを実現する上で、重要な要素があれば教えてください。

川久保教授:利用者の快適性や健康状態などを維持できる機能を持つオフィスを「ウェルネスオフィス」と呼ぶのですが、良好な温熱環境、空気環境、光環境、音環境の実現が重要視されています。今回の調査では、特に温熱環境と空気環境、音環境を深く掘り下げました。

一人あたり年間約100万円の経済便益に!オフィス環境で仕事の生産性はどこまで変わるのか?

──今回の研究では、どのようなアプローチをとられたのでしょうか?

荒田研究員:東京都内のオフィスビルのテナント企業61社と、その従業員1600名以上の方々にご協力いただき、オフィスで2つの調査を行いました。

1つ目は、室内環境の実測調査を行いました。これは、温熱環境は温度と湿度、空気質はCO2濃度で、そして音環境は音圧レベル(いわゆるデシベル値)を測定するものです。2つ目は、ワーカーを対象としたアンケート調査を実施しました。

ワーカーのパフォーマンスや健康状態に関する設問に加えて、オフィス環境を主観的に評価してもらいました。その評価には、CASBEEオフィス健康チェックリストという計51問で構成されているツールを用いました。このチェックリストの得点を使い、相対的に良いオフィス環境で働いているワーカーと、相対的に悪いオフィス環境で働いているワーカーのパフォーマンスや健康状態の差を統計的に分析しました。

──得られたデータから、どのような結果が見えてきましたか?

川久保教授:温熱環境、空気環境、光環境、音環境のうち、今回の調査においては温熱環境による影響が最も大きいことがわかりました。特に温度は非常に重要で、暑すぎる場合や寒すぎる場合にパフォーマンスに大きな影響を及ぼします。

今回は夏季に調査をおこなったのですが、28度のクールビズに対応した温度設定よりも、25度から26度あたりが最も快適で生産性も高いことが明らかになりました。男性と女性では若干の違いがあるものの、一般的にはこの温度範囲が適切であることが確認されました。しかし、人間の快適性や生産性は非常に複雑で、職種によっても大きく異なる可能性もあり、これに関しては今後詳細な分析を行う予定です。

例えば、営業職の方々が外で活動された後にオフィスに戻ってきた際には、空調が効いた室内でも暑く感じる時があると思います。一方、内勤の方々も最初は涼しくて快適に感じていても次第に寒さを感じて、不満につながることもあるでしょう。このような快適性の「非定常性」を考慮して、オフィス環境を最適化する必要があります。オフィス環境を改善することで、ワーカーの生産性が向上し、結果として経済的にも大きな影響を与えます。

──オフィス環境を改善することで、どう生産性に結びつくのでしょうか?

川久保教授:今回の研究では、オフィス環境の改善がワーカーの作業効率やプレゼンティーイズムに与える影響を明らかにしています。オフィス環境に満足しているグループは作業効率が高く、プレゼンティーイズム(出勤しているが健康問題で本来のパフォーマンスを発揮できていない状態)の割合が低いことがわかりました。逆に、オフィス環境に不満を持っているグループは作業効率が低下し、プレゼンティーイズムの割合が高い傾向にありました。オフィス環境が良いグループと悪いグループの間では、経済便益にして一人あたり年間約100万円の差が生じることが分析から明らかになっています。

これらの結果から、オフィス環境がワーカーのパフォーマンスや健康状態に影響を与えることが明らかになりました。例えば、適切に温湿度が調整され、空気質が良好で、明るさが適切で静かな環境で働くことは、ワーカーの作業効率を高め、健康問題を減らすことに寄与します。

──今回の研究で特に影響が大きかった要素について、さらに詳しく教えていただけますか?

荒田研究員:この研究では、CASBEEオフィス健康チェックリストの項目の中から、作業効率とプレゼンティーイズムに大きな影響を与える要素を抽出し、その経済便益を推計ました。作業効率に影響を与える要素としては、働きやすい内装やインテリアが最も重要で、これが改善されると1人当たり年間約22.5万円の経済便益が生じることが明らかになりました。また、ビル全体の清潔さも重要で、衛生的に管理することで一人あたり年間約22.1万円の経済便益が生じることが明らかになりました。

プレゼンティーイズムに関しては、特に作業場所の明るさが大きな影響を持っており、適切な光環境がプレゼンティーイズムの程度と関係があることを示しています。これは、サーカディアンリズム(体内時計)に合わせて光環境を調節することの重要性を示唆しています。一定の明るさを維持するのではなく、これからのオフィスでは昼間は明るくして、夕方に向けて徐々に明るさを下げていくことが求められています。

これらの要素を改善することで、作業効率の向上とプレゼンティーイズムの低減による経済便益を得られることが、今回の研究で明らかになりました。これは、オフィス環境を良好に保つことが、結果的に会社全体の生産性向上や、収益の向上にも大きく寄与することを意味しています。

──研究を通じて、特に印象に残った面白い発見や考察があれば、お聞かせいただけますか?

川久保教授:温熱環境に関する男女差の存在は興味深いです。昔から男性と女性で快適に感じる温度には差があると言われています。実際に、男性は涼しい環境で生産性が高まる傾向があり、女性はやや暖かい環境で生産性が向上することがわかりました。これは、オフィスの温熱環境の設計において非常に重要な再発見です。ワーカー全員に快適なオフィス環境にするためには、温度設定を一様にするのではなく、さまざまなニーズに対応できるような柔軟な温熱環境の設計が求められることを示しています。

また、ワーカーの健康状態を維持向上させることの重要性も再認識されました。オフィス環境がワーカーの健康に与える影響は大きく、結果的に生産性、経済便益のさらなる向上にも繋がります。

これらの発見は、オフィス環境の設計において、ワーカーのニーズをより細かく理解し、対応することの重要性も示しています。それにより、作業効率の向上や健康の促進を実現することが可能になるということです。

CO2濃度が集中力の低下に!生産性を上げる環境をつくるコツ

──ちょっとした一工夫で生産性を上げる方法ってあるのでしょうか?

川久保教授:まずは「CASBEE-オフィス健康チェックリスト」を試しにご自身でも回答してみて、職場の環境を見つめ直していただくのはいかがでしょうか。オフィスだけでなく、自宅用の「CASBEE-すまいの健康チェックリスト」もありますので、併せてご活用いただければと思います。これらのチェックリストは日本サステナブル建築協会(JSBC)のホームページにて無料で公開されています。

また、リモートワークを行っている方々は、自宅の環境において空気質に注意を払うことも重要です。多くの人が無頓着になりがちなのが、自宅でのCO2濃度です。換気を行わずに部屋にこもっているとアッという間に室内のCO2濃度がオフィスの1.5倍、2倍…と高くなってしまいます。高いCO2濃度は集中力の低下や健康問題に繋がる可能性があるので、定期的に空気質を測定し、必要に応じて換気を行うことをおすすめします。自宅の温度、湿度、CO2濃度を計測できる機器は比較的手軽に購入できるので、快適で健康的な環境をつくるためにも意識していただきたいです。

荒田研究員:オフィスでの作業については、定期的に作業場所を変えることも効果的です。同じ場所でずっと作業を続けると、思考が凝り固まることがあります。先ほどお伝えした、最近のオフィス設計のトレンドであるアクティビティベースドワーキング(ABW)の考え方にならい、作業内容に応じて異なる環境や場所で作業することで、効率的に仕事を行うことができると思います。

──ありがとうございます。最後に今後の研究について教えてください。

川久保教授:今後の研究では、オフィス環境が長期的な健康に与える影響に焦点を当てたいと考えています。今までの研究で、短期的な作業効率やプレゼンティーイズムについての結果は明らかになっていますが、健康状態に対する長期的な影響についてはまだ因果関係が明確に証明されていません。将来的に、ウェルネスオフィスが疾病の発症リスクをどの程度減少させるかを証明することが目標です。

これは、オフィス環境が単なる快適性の問題ではなく、従業員の健康と直結していることを示す重要な研究になると考えています。この研究により、オフィス選びが従業員にとってより重要な要素となり、健康的で生産的な環境を提供する企業が選ばれるようになることを期待しています。

Wellulu編集後記:
今回の取材では、オフィス環境と働き方の進化に焦点を当て、最新の研究成果とその応用についてのお話を伺った。川久保教授と荒田研究員による研究は、単にオフィスの快適性を向上させるだけでなく、従業員の生産性や健康にも深く影響を及ぼすことを明らかにしました。特に「アクティビティベースドワーキング」や「ウェルネスオフィス」といった最新のオフィス設計理念に注目し、それぞれの業種や作業内容に応じた環境の最適化が重要であることを示唆しています。
リモートワーカーの皆さん!まずはCO2濃度を意識することから取り入れてみてはいかがでしょうか?

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