「いつも挫折していたダイエットに成功した」「生活習慣病のスコアが改善した」など、使うと習慣化が成功すると評判のアプリが『みんチャレ』だ。過去3回にもわたり「Google Play ベストアプリ」を受賞。登録ユーザー数は100万人を突破している。
ウェルビーイングな暮らしを送るうえで、まず何より大切なのが健康的な生活習慣。しかし、頭では分かっていても、言葉でいうほど習慣化は簡単ではない。
そこで『みんチャレ』を開発・運営するエーテンラボ株式会社の代表取締役・長坂 剛さんに、『みんチャレ』ではなぜ習慣化が身に付きやすいのか、ウェルビーイングな暮らしに向け習慣を続けるためのヒントを伺った。
ゲーム好きの自分と、病に倒れた父の存在が『みんチャレ』開発の原体験
- まずはじめに、エーテンラボさんの事業内容を教えてください。
長坂:5人1組で互いに励まし合いながら行動変容を実現する習慣化アプリ『みんチャレ』の開発・運営をしています。『みんチャレ』では、習慣化のテーマ別にグループチャットがあり、全員匿名(ニックネーム)の5人1組で毎日の習慣化の報告をポスト。楽しく習慣化に取り組めます。
他の一般的な習慣化アプリでは、ユーザー自身で記録をつけたり、金銭的な報酬が得られる機能が見られます。しかし『みんチャレ』は、ゲームのように人が楽しく続けられる「ゲーミフィケーション」の仕掛けを導入。また、ユーザー同士で支え合う「ピアサポートテクノロジー」の概念が特徴的な部分です。
- なぜこのようなサービスを立ち上げようと思われたのですか? 長坂さんの原体験をお話しいただけますか?
長坂:私は前職でPlayStationで有名なソニーに勤めており、私自身ゲーマーでもありました。ゲームをしている間はとても幸せな気分。だけどゲームが終わると、その楽しさや喜びも終わってしまいますよね。
ゲームの外の生活においても、このゲームの仕掛けを応用して人に幸せを届けることができないかと考え始めたのがきっかけです。そうして2015年に、ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」から『みんチャレ』をリリース。2年後の2017年に、ソニーから独立しエーテンラボを立ち上げました。
- 『みんチャレ』では、生活習慣病に関するカテゴリがメインですがこれは何か理由があるのですか?
長坂:実は、私は若い頃に父を亡くしているんですね。脳幹梗塞という急性の病気で、職場で息を引き取ったんです。そんな父は脂質異常症や高血圧といった生活習慣病を抱えていました。
本人も私たち家族も生活習慣病であることは知ってはいましたが、「お医者さんからもらったお薬を飲んでいるだけで大丈夫だろう」と、さほど向き合っていませんでした。もし早めに生活習慣を正していれば……と今でも思います。
父が亡くなったあと調べてみると、日本では入院患者の3人に1人が7大生活習慣病とその予備群であることを知りました。生活習慣病は本人に痛みがないまま進行し、あの日の父のように突然病に倒れることがあります。でも、早期に生活習慣を見直せばそんな不幸を避けることができるのです。
亡くなってしまった父のような人を、これからの社会では一人でも減らしていきたい。そんな想いから、生活習慣病のカテゴリに力を注いでいます。
他者に貢献し、振り返りを言葉にする仕掛けが習慣化を促す
- ダイエットや睡眠習慣の改善、キレイになるための美容習慣など、どれもウェルビーイングな暮らしにつながっていくとは思いますが、頭では分かっていてもなかなか習慣化できないという人は多いと思います。『みんチャレ』の利用でどんな体験が得られますか?
長坂:『みんチャレ』では同じ目標の匿名の5人1組がグループとなり、その日の習慣化の取り組みを共有し合います。そして、メンバーの投稿を一定数“承認”しないと先に進まないという仕組みです。この自分の習慣化だけでなく、他者の習慣化にも自分が関わっているというゲーム性が『みんチャレ』独自の習慣化が身に付きやすい一つの理由です。
また、取り組みを投稿する際には必ず振り返りのコメント入力が必要になります。こうして、“自分のその日の行動を言葉にして振り返る”という行為は、認知行動療法の視点からも習慣化にとても効果があるといわれています。
『みんチャレ』にはゲーミフィケーションの仕掛けを数多く実装。堅苦しく習慣化をレコメンドするのではなく、「にゃんチャレンジャー」というユルいキャラクターによって、メンバー同士のコミュニケーションを活性化し、楽しく続けられる仕掛けにしています。
- 学生時代の「みんなで試験勉強を頑張ろう!」みたいな空気が流れていますよね。
長坂:習慣化って本人の意思が相当強くないと、なかなか個人の意思では身に付かないと思っていて。ほとんどが環境要因なんですね。どんな環境で習慣化に取り組んでいるか、どんな人たちと目標に向かっているかということが大事。
ただ、個人の悩みや目標を開示するのは勇気がいるという人も多いかと思います。そうした気持ちを配慮して『みんチャレ』では、全てのユーザーが匿名のニックネームで登録するルールとなっています。匿名だからこそ、自己開示しやすく、心理的安全性が高く保たれているのです。
- では、入室したグループが自分に合わないな……と思ったら、どうすればいいのでしょうか?
長坂:その時は気楽に退室して、また新しいグループを見つけてみてください。『みんチャレ』は会社組織のように、共通の目的や関心をもつ人たちが集まるアソシエーションだと思っていて。会社も自分の目的や性格に合わなくなったら転職しますよね。
『みんチャレ』は匿名のサービスだから、見栄を張る必要もありませんし、他メンバーを気にしすぎる必要もありません。ありのままの自分で、あなたに合ったグループを探してみてください。
習慣化への過程こそがウェルビーイング。みんなで歩む道のりで心が豊かに
- 一人だけで自分を変えるために習慣化を目指すのはある意味、孤独な部分もあるかと思います。その点で『みんチャレ』のように、他者と共通の目標に向かっていくからこそ、人はウェルビーイングな気持ちになれるのでしょうか?
長坂:それはまさにおっしゃる通りだと思っていて、実は『みんチャレ』が一番大切にしているのは習慣化によって得られた結果ではなく、“過程”の部分。グループで互いに励まし合ったり、情報交換しながら習慣化を目指すその過程でこそ、ウェルビーイングな気持ちになれるのだと思うんです。
どれだけ小さなことであっても、1日1日、自分に約束していた習慣を達成できる。そしてみんなにシェアして、承認のリアクションが返ってくる。この日々の積み重ねで、「私だってやればできる!」という自己効力感が増していく。習慣化による成果がどうということではなく、この過程こそが本質的にウェルビーイングな体験だと考えています。
実は過程の大切さに気づいたからこそ、『みんチャレ』のロゴは「にゃんチャレンジャー」の肉球に変えたんです。習慣化に向かう“足跡にこそ価値がある”というメッセージを込めて。昔は「達成」を意味する旗のマークでしたからね。
- 確かに、私自身の過去の体験を思い返しても、みんなで共通の目標に向かっている時こそ、良い思い出として心に残っている気がします。
長坂:『みんチャレ』には、例えば産後のママさんが集まっているグループがあるのですが、産後のママさんは社会とのつながりを感じづらく、孤独感を抱きがちです。でも、『みんチャレ』のグループで、「産後ダイエットで5kg痩せよう」という目標に向けて、お互いにダイエット法をシェアしながら習慣化を目指す。このピアサポートの流れは、ウェルビーイングですよね!
また、シニア層の人は会社を定年で退職すると、これまでの人とのつながりが急になくなってしまうことがある。それに年を取ると「あれもできないだろう、これもできないだろう」と自分の可能性を閉ざしがちです。
一人で自分の殻を破るのはなかなか大変ですから、他者に認められる、他者とともに前進しているという体験が、人をウェルビーイングにすると思います。
ウェルビーイングと習慣化の関係を自覚している人はまだ少数。これから共にその世界を作りたい
- 生活習慣を見直して、よりウェルビーイングな暮らしを手にしたいと思っているものの、なかなか習慣化が続かないという人にアドバイスをいただけますか?
長坂:誰だって習慣が続かないことはあると思います。そんな時は自分の中でルールを決めておくといいですよ。「2日間できない日が空くのはOK。でも3日目はスケジュールを調整して必ず実行する」みたいな。逆に良くないのは1日続けられなかった時に「もうダメだ」と気持ちを切らしてしまうこと。ストイックに捉えすぎることは、かえって逆効果かなと。
『みんチャレ』にも習慣化を実行できたかを一定期間投稿しないでいると「自動退室」となる機能があります。でも退室してもまた別のグループに入り直せばいいじゃないですか。気楽に構えて自己効力感を下げないことが大切です。
- 確かに、ストイックに考えすぎる傾向が強いと逆に悪い方向に向かってしまうこともありますよね。
長坂:あとは、他の人の成功体験を知ることも重要かなと。同じような立場から習慣化に成功した人に話を聞くと、みんな同じようなところで躓いた経験があり、そして苦しんだことがあるはずです。「みんな同じような体験をしてきたんだな」と気づけることで、自分だけが苦しいんじゃないと連帯感やつながりを感じられるでしょう。
『みんチャレ』では、自分の少し前を進んでいるメンバーに気軽に質問することもできますので、気軽にコミュニケーションして刺激を受けてみてください!
- なんだか私でも新しい習慣を、挫折せず身に付けられそうな気がしてきました! では最後に、『みんチャレ』を通じて今後実現していきたいビジョンを聞かせてください!
長坂:エーテンラボでは『みんなが行動変容できる世界をつくる』をビジョンに掲げています。この『Wellulu』でも取り上げていただいているように、習慣化とウェルビーイングな暮らしにはとても密接な関係があると考えています。
でも、まだまだウェルビーイングな状態になりたいと自覚している人や、そのために自身の習慣を見直している人は少ない印象です。だからこそ、一人が隣の一人を。そしてまた隣の一人が影響を受けて巻き込まれることで、ウェルビーイングな世界は広まっていくのかなと思います。
『みんチャレ』を通じて、みんなでウェルビーイングな世界を作っていきたいですね!
本記事のリリース情報
長坂 剛さん
エーテンラボ株式会社・代表取締役 CEO