
整体というと、肩こりや腰痛などの不調がある時に駆け込む場所というイメージが強いのではないだろうか? しかし近年は健康意識の高まりとともに、定期的に身体を整える「メンテナンス」という考え方が広がりつつある。
この新しい整体の潮流を捉え、大規模チェーンでありながら、各店舗の特色や施術家の個性を活かし、施術以外の整体のあり方を追求している企業がある。整体サロン「カラダファクトリー」を運営する株式会社ファクトリージャパングループだ。「町の保健室」というブランドプロミスのもと、施術家一人ひとりの働き方や“自分らしさ”を大事にしながら、心も身体もリセットできる場所を目指している。
今回お話を伺ったのは、代表取締役社長の髙橋健介さん。2024年5月に社長に就任して以降、「施術家ファースト」の取り組みやサービスのパーソナライズ化を推進。2025年3月には「健康経営優良法人」の認定も取得し、離職率の改善に向かっている。Wellulu編集長の堂上研が、異業種連携による「町の保健室」構想の最前線に迫っていく。

髙橋 健介さん
株式会社ファクトリージャパングループ 代表取締役社長

堂上 研
株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
「町の保健室」構想と施術家ファーストの働き方改革
堂上:本日はよろしくお願いします! 身体の不調について調査をしたことがあるのですが、「肩こり」や「腰痛」を訴える方が多く、整体やマッサージについてお話をお伺いできるのはうれしいです。
今朝は朝礼をしてからいらしてくださったんですよね。社員の方々に向けてどんな話をされるのでしょうか?
髙橋:よろしくお願いします。本部スタッフとエリアマネージャーには月に1回、私からメッセージを伝えています。業績を振り返ったり、「町の保健室」という会社理念に立ち返ろうという話をしたりしています。
堂上:「町の保健室」という表現が面白いです。朝礼の時間を活用して、社員の声や現場のことを聞く機会にしているのでしょうか?
髙橋:月1回の本部朝礼では私からの話しがメインになりますが、現場では各エリアで毎週朝礼をおこなっており、現場の声はそこで聞いています。私自身も店舗の朝礼にリモートで参加することがありますよ。
堂上:理念である「町の保健室」というのは、身体や心の不調を感じたときに気軽に立ち寄れる、まさに“駆け込み寺”のような存在を目指しているということでしょうか?
髙橋:その通りです。学校の保健室のように、誰でもふらっと立ち寄れて、身体だけでなく気持ちもリセットできる場所でありたいと考えています。
整体を必要とする方の多くは、病院では“病名がつかない”ような不調を抱えている方なんです。ここに来れば気軽に相談でき、施術によって心身がすっきりし、リフレッシュしていただける「第3の居場所(サードプレイス)」としての役割があると感じています。
堂上:施術だけでなく、対話を通じてお客さま一人ひとりに向き合うことを大切にされているのですね。整体は継続的なメンテナンスが必要なのでしょうか?
髙橋:そう思います。運動習慣がしっかりあって、骨格や筋肉のバランスが良好な方は、頻繁な調整は必要ないかもしれません。ただ、姿勢による悩みなどは、定期的に整えていかないと日常生活に悪影響が出てしまいます。
堂上:一部の歪みが放置されると、他の部位にも連鎖して不調が広がりますよね。僕も腰痛から坐骨神経痛や足首の不調が出てしまいました。
髙橋:そうなんです。そこで、当社では「カラダ習慣プログラム」という5回セットの施術プランを提供しています。最初の5回を集中的に通っていただくことで、くせがついた身体の状態を整え、それを維持する土台を作るんです。「調子が良い状態」が自然と日常の一部になれば、不調が出にくくなっていきます。
堂上:わかっていても、つい後回しになってしまう方は多いと思います。継続して通う「習慣づくり」が大切なんですね。
海外で強く意識した、日本人としてのアイデンティティ
堂上:髙橋さんご自身のこともお伺いさせてください。2024年にファクトリージャパングループの社長に就任される前は、どのようなお仕事をされていたのですか?
髙橋:直前は、180店舗ほどある美容室チェーンの経営を7年ほどしていました。その前にはフィットネス関連の会社を数社経営しており、トータルで5〜6年ほど携わっていました。
堂上:業種こそ違いますが、「身体を整える」「美を追求する」という意味では、いまの整体事業とも近い領域ですよね。子ども時代はどのように過ごしていたのでしょうか。
髙橋:私は父の仕事の都合で、海外生活が長かったんです。2歳でフランスに渡り、5〜10歳はアルジェリア、12歳から高校卒業まではベルギーに住んでいました。大学ではじめて日本に帰ってきたような感覚です。
堂上:それはユニークな環境ですね。海外で長く暮らしていたからこそ、日本人としてのアイデンティティについても特別な意識があったのではないでしょうか。
髙橋:そうですね。日本人が少ない環境では、自分のルーツが曖昧になるような感覚がありました。日本に帰ろうと強く思ったきっかけが、インターナショナルスクールの歴史の授業です。第二次世界大戦をテーマに、勝戦国と敗戦国それぞれの出身者で分かれてディベートするという課題が出たのですが、アメリカ人やイギリス人から、「なぜあの時に日本はそういう判断をしたのか」と問われても、全くわからなかったんです。私自身は英語のほうが得意で、半分アメリカ人のような気持ちでいたのですが、相手からは「日本人」として見られている。そのギャップに衝撃を受けました。
堂上:まさに「アイデンティティ」に深く向き合う衝撃的な体験ですね! 海外で生活すると、日本の良さも客観的に見えてくることがありますよね。
髙橋:日本に帰ってきたときは、おもてなしや接客の細やかさに驚きました。同じグローバルチェーンの店でも、接客の姿勢や店舗の清潔さなどがまるで違う。これは誇るべき日本のホスピタリティだと感じたし、サービス業は本当におもしろいと感じました。日本人の繊細さと誠実さは世界に誇れると思っています。
新卒で商社に就職したときには、「日本の文化や技術をグローバルに広げる役割を担いたい」と考えていました。その想いは今も変わっていません。
堂上:海外生活が長かったからこそ、日本の良さに気づけたというのは非常に共感します。以前、和文化研究の齊木由香さんと対談した際に、日本のよさに関して「慮る(おもんぱかる)」という言葉を使っていたのが印象的でした。日本には利他の精神や相手への気遣いが根底にあると思うので、髙橋さんが日本に帰ってきて実感されたこともすごく理解できます。
元気なのに「お大事に」? 画一的なルールの変革へ
堂上:ファクトリージャパングループの社長に就任されて、まずどのようなことを感じられましたか?
髙橋:最初に感じたのは、すごくマニュアル的だということでした。就任前、リサーチも兼ねて店舗に足を運んだのですが、施術後の会計時にスタッフから「お大事に」と言われたのが印象的で。私は元気な状態で施術を受けて、「身体が軽くなった、よし、また仕事がんばろう」と前向きな気持ちになっていたんです。なのに「お大事に」と言われることに違和感を覚えました。確認すると、マニュアルにそう記載されていたんですね。
堂上:なるほど。痛みや不調があるお客さましか来ないという前提だったのでしょうか?
髙橋:いえ、実際にはリラクゼーション目的のお客様も3〜4割ほどいらっしゃいます。ですから、すべての方に一律で「お大事に」と言うのはサービスとして致命的なズレになると感じました。
「ナショナルチェーン」として全国どこでも一定の安心を届ける強みは当たり前ですが、同じ満足感を得られるという定義は違うと思いました。同じメニューでもお客様の状態は異なりますし、施術家も手の大きさや力の具合も違います。
そもそも同じものは提供できないという前提に立って考えるべきだと感じたんです。もっとパーソナライズされた、一人ひとりに寄り添うサービスを目指すべきだと強く思いました。
堂上:なるほど。結局は“人対人”の関係だからこそ、互いを知ろうとする姿勢が大切なんですね。美容院でも整体サロンでも、結局「人と人の対話」から関係をつくることで、ファンになったり、リピーターになったりするのは同じですね。この人は、相性が良い、と思うには相手を知ることと、自分をオープンにすることからですね。ウェルビーイングの考えにも通ずるように思います。どのように変革していったのですか?
髙橋:そこで大事にしているのが「施術家ファースト」という考え方です。一人ひとりの施術家が自分のありたい姿を追求して、お客さまにとって最適なサービスを提供できる環境を整えることが重要です。
これまでは施術の流れや声掛けなど、細かいところまでマニュアル化されていました。それを大幅に緩和し、施術家一人ひとりが自分の個性や強みを活かせるようにしたんです。
また、「感動創出休暇」という制度も導入しました。自分が感動できる体験をするための休暇制度です。好きなアーティストのライブに行ったり、趣味に没頭したりする時間を会社が応援します。そうした体験が、施術の質にも良い影響を与えると考えています。
堂上:施術家自身が充実した生活を送ることで、お客様にも良い影響が広がるわけですね。コミュニケーション力を育てるうえでも、自分が多様な経験をしていないと会話ができませんよね。素敵な制度があると、お互いがお互いを気遣いながら、お互いのプライベートやB面を共有することができる。最高ですね。
髙橋:そうなんです。私が就任する前は離職率が業界平均より高かったんです。特に若手の施術家が「自分の個性を発揮できない」と感じて辞めてしまうケースが多かった。でも「施術家ファースト」の考え方を導入してからは、離職率が改善に向かっています。
堂上:「感動創出休暇」は、じつは「職場環境」のコミュニケーションにおけるナレッジにもつながっているのですね。ECOTONE社でも「ウェルビーイング休暇」と言って、熱中しているものや、推しの時間のために休暇を取れる制度をつくりたいです。真似させてもらいます。
堂上:店舗ごとの個性も大事にされているのでしょうか?
髙橋:はい。「カラダファクトリー アトレ秋葉原店」は“サブカルチャー×整体サロン”にコンセプトをリニューアルいたしました。
アニメ、ゲーム、アイドル等のサブカルチャーの聖地である世界の「秋葉原」が持つ特色と、整体サロンを融合させた「コンセプト整体サロン」です。カラダファクトリーがこれまで培ってきた整体×骨盤の技術とノウハウを活かしつつ、秋葉原のカルチャーに深く寄り添います。秋葉原を愛するサブカルチャーファン(通称:オタク)の皆様が「推し活」に没頭できるよう、整体の技術でお身体をケアしています。
堂上:それは面白いですね! 整体とエンターテイメントの融合というか。
髙橋:そうなんです。スポーツが得意な施術家が多い店舗では、アスリート向けのメニューを強化したり。各店舗や施術家の「得意」や「好き」を活かすことで、お客様の選択肢が増え、施術家自身もやりがいを感じられる好循環を生み出したいと考えています。
堂上:社員ひとりひとりの個性に基づいて、自分たちにあった環境を主体的につくる。素晴らしいですね。価値が高まって、ファンが生まれている。そして、そこで新たな価値を提供していく。この好循環は発明ですね。僕も家の近くの店舗に行ってみたいなと思っていたので、ぜひそこにエキスパートを配置してください(笑)!
ウェルビーイングの調査でも、働きたい会社として需要が高いのは「挑戦できる環境がある」「自分と向き合ってくれる」ということです。御社はそれをきちんと実践されていて、すごく明快だと感じます。
施術家自身が、好きなことを好きな形で活かせる職場に
堂上:御社は健康経営優良法人2025の認定も取得されていますね。健康経営の観点から、どのような取り組みをされているのでしょうか?
髙橋:健康経営は「施術家ファースト」の考え方と密接に関わっています。施術家自身が健康でなければ、お客様の健康をサポートできませんから。
具体的には、定期的な健康診断、メンタルヘルスケアの充実、運動習慣の促進などを行っています。
堂上:社員の健康を守ることが、サービス向上にもつながるわけですね。
髙橋:その通りです。健康経営の考え方を社外にも広げていきたいと考えています。企業向けの出張整体サービスも強化しています。オフィスに施術家が出向いて社員の身体のケアをする。これは企業の健康経営の一環としても注目されています。
堂上:企業の健康経営支援という点では、どのような反応がありますか?
髙橋:非常に好評です。デスクワークが多い企業では、肩こりや腰痛に悩む社員が多いですから。最近では単発のイベントだけでなく、定期的な契約を結ぶ企業も増えています。社員の健康維持は生産性向上にも直結します。
また、健康保険組合と連携した取り組みも始めています。特定の健保組合の加入者には、当社の施術を特別料金で受けられるプランを提供しています。
堂上:異業種連携による新たな価値創造も積極的におこなわれているようですね。
髙橋:はい。西川寝具専門店との「カラダシエスタ」のような取り組みを始めています。睡眠と身体のケアは密接に関わっていますから、お互いの専門性を活かした新しい価値を提供できると考えています。スポーツ、美容、リラクゼーションなど、私たちの技術を活かせる分野があれば展開していきたいですね。
堂上:めちゃくちゃ共感できます。ECOTONE社でも、多様な企業や価値観の交わりで、ウェルビーイングなライフスタイルが習慣化できるのでは、ということにトライしております。ぜひ、いっしょにいろいろ動きたいですね。いろいろな会社との共創、お手伝いしたいです。
髙橋:ぜひ! 異業種同士の掛け算で、私たちの技術がより特徴的になることがあります。さまざまな企業と連携して、健康という価値をより多角的に提供していきたいと考えています。
海外展開や異業種とのコラボで、幸福で健康な社会を目指す
堂上:従業員個々が主体的に活躍できる職場をつくるのは大変ですね。「感動創出休暇」のような仕組みは、周囲の理解があってこそ成り立つのでしょう。
髙橋:「お客様を感動させるには、自分自身が感動に出会う必要がある」という考え方で始めた制度です。スタッフ同士の思いやりや応援体制にもつながっています。好きなアーティストのライブや趣味のために休み、得た感動を施術に活かす。その循環が社風を明るくしてくれます。
堂上:社員それぞれが“推し活”ができる余白があるからこそ、仕事にも熱がこもるわけですね。
髙橋:おかげで人材の応募が増えてきています。離職率も下がり、新卒や中途問わず多様なメンバーが「人を喜ばせたい」という思いで集まってくれています。
堂上:「感動創出休暇」以外にも、ユニークな制度や取り組みはありますか?
髙橋:毎年自社で開催している技術コンテスト「匠の技コンテスト」も好評です。店舗表彰だけでなく、個人賞において各部門の技術・接客を競い合い切磋琢磨しています。
また、技術レベルはもちろんのこと、コミュニケーションやアイデアも評価しています。たとえば今年2月より開始した「エキスパートメニュー」です。一定以上の技術・接客スキルを持つスペシャリストが、それぞれの知見と経験を活かして考案した内容も価格もオリジナルの施術メニューを展開しています。
こうした取り組みがプロフェッショナルと個性をはぐくんでいます。
堂上:最後に、30年先を見据えたビジョンを聞かせてください。
髙橋:「日本発のパーソナライズド・ウェルネスカンパニー」として世界的なプレゼンスを確立し、多くの国で「町の保健室」を実現することです。日常的な不調を自然に整える文化が根づけば、健康寿命も幸福寿命も変わります。日本独自の繊細な施術を広げ、一人ひとりが自分らしく生きられる社会を目指します。
堂上:30年後の社会では、整体の位置づけはどう変わっていると思いますか?
髙橋:整体が「特別なもの」ではなく「日常の一部」になっていると思います。歯磨きのように、身体のメンテナンスも当たり前になるでしょう。「整体のエンタメ化」も進み、施術自体が楽しい体験として定着すると思います。
テクノロジーとの融合も進み、AIが身体の状態を分析して最適な施術プランを提案したり、遠隔で専門家のアドバイスが受けられるようになるかもしれません。どんなに技術が進化しても、「人の手による触れ合い」の価値は変わりません。その本質を大切に、多くの人の健康と幸せに貢献したいです。
堂上:日々の暮らしを豊かにし、予防やメンテナンスを最適化するプラットフォームになるわけですね。この取材をきっかけに、地元の店舗を予約してみます。ありがとうございました。
髙橋:こちらこそありがとうございました。リラックスや対話が目的でも構いませんので、ぜひ一度お越しください。
堂上編集長後記:
髙橋社長との対談の後、僕はさっそく地元のKA・RA・DAファクトリーの予約をした。実は、数年前に一度、息子のサッカーの練習中に、四十肩の症状があったので、別の店舗にお伺いしたのだが、髙橋社長のおっしゃっていたマニュアルぽい感じでの対応に「やはりチェーン店」ってこういう感じだな、と感じていたので、次の機会はなかったのである。
とはいえ、ここでご縁をいただいたので、再度行ってみることにした。長年問題になっている坐骨神経痛にもつながる整体を通して、身体のバランスを見直したかった。
髙橋社長の話を聞いた後だったからかもしれないが、なんと「人と人」のコミュニケーションからはじまり、僕の身体の状態をきちんと聞いてくださり、僕に身体の状態に合わせた施術をしていただいた。前に体験したときと違い、感動すら覚えたのである。早速、僕は5回分のチケットを購入させていただき、自身の身体をメンテナンスすることで、より身体の不調がないように努めようと思った。
運動不足と暴飲暴食をなおさない限り、ダメだと感じつつ、僕はまた自分と向き合うために新しい出逢いをつくることができた。髙橋社長との対談がなければ、僕の骨盤や坐骨はゆがんだままで、他の箇所にも影響を与えていただろう。素敵な出逢いに感謝である。Welluluを通して、僕は自身の身体メンテナンスをする大切さにもう一度気づかせてもらった。ありがとうございました。
大学卒業後は大手総合商社で海外営業に携わった後、外資系経営コンサルティング会社へ転職。2008年に独立し、地域活性化コンサルティング会社を起業。その後、フィットネスクラブやヘアサロンチェーンの代表を歴任し、2024年5月に株式会社ファクトリージャパングループの代表取締役社長へ就任。
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