
ピアニストであり、AI企業の経営者でもある木村 仁星(きむら にせい)さん。ピアノ演奏を軸に、AIとアートを融合させた独自の表現活動を展開しながら、筋トレ、美容、語学、そして健康に至るまで、興味を持ったものにはなんでも飛び込んでいく。
そんなスタイルで、人生そのものを“アート”として生きている人だ。
今回は、難病との向き合い方や「経年優化」という哲学をはじめ、好奇心のままに進み続ける仁星さんの生き方のデザイン”に迫る。

木村 仁星さん
アーティスト

堂上 研
株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
自分だけの世界を探していた。好奇心旺盛な子ども時代
堂上:仁星さんとは、共通の知り合いの紹介でお会いして、先日は伊勢神宮にもご一緒させていただきました。フットワークが軽くて、何にでも好奇心旺盛にチャレンジされている印象が強いです。
今日はそんな仁星さんの生き様やルーツを深掘りできたらと思っています。仁星さんはピアニストでありながらAI事業にも関わっていらっしゃる仁星さんですが、肩書きを聞かれたら何と答えますか?
木村:一言で言うなら「アーティスト」です。ピアニストというよりは、アーティストなんですね。ピアノは表現の手段のひとつであって、さまざまなジャンルを掛け合わせた人生自体が「アート」であるという感覚で生きています。
堂上:社会や人生をクリエイティブするとか、新しいものを創造するというのもアートに含まれるわけですね。ちなみに、仁星さんが得意なことや趣味ってなんですか?
木村:ピアノ、筋トレ、美容、旅行、サウナ、外国語……。語学は、中国語・英語・スペイン語、それと津軽弁がネイティブです(笑)。
堂上:仁星さんは青森県出身なんですよね。ピアノは何歳から始めたんですか?
木村:4歳の頃からです。兄の木村イオリがピアニストなのですが、その影響で自然に始めました。家にはグランドピアノがあって、両親はピアノ経験者ではなかったんですが、クラシックやジャズがいつも流れているような音楽好きな家庭でした。
堂上:“仁星”に“イオリ”と、名前にもご両親のこだわりが感じられますね。グランドピアノがある家庭って、それだけで感性が育ちそうで素敵です。ご両親の教育や子育て方針はどんな感じでしたか?
木村:好きなことをのびのびとやらせてもらえる環境でした。勉強しなさいとは言われましたが、何かやりたいことがあったときに、「これをやってはダメ」と制限されることはありませんでした。
堂上:ご両親もアーティストだったんですか?
木村:いえ、父は公務員、母は専業主婦でした。ただ、母は元々デザイナーで天真爛漫な性格、父は実直で堅実な人。自分の中には、両方のエッセンスがあると思っています。祖母も趣味で人形づくりをしていて、そういったクリエイティブに触れていた環境だったのかもしれません。
堂上:なるほど。てっきりご両親がアーティストかと思っていました。じつは僕も幼少期にピアノに憧れたことがあって、「ピアノを習いたい」と言ったんですが、母から「スペースがないから小さいのならいいよ」と言われて届いたのが、中古のオルガンだったんですよ(笑)。中古なので、鍵盤にシールの跡が残っていて、感触もイメージと違って……すぐにそのオルガンは置物になってしまいました。もう笑い話ですが、幼少期に音楽に自由に触れられる環境は素敵だなと思います。
木村:本当に両親には感謝しています。僕は大学は音大に進みませんでしたが、兄が定期的に「一緒にコンサートをやろう」と誘ってくれたことがきっかけで、ピアニストとしても活動するようになりました。
今年の4月には、AIとピアノを掛け合わせたコンサート「世界のスケープ – AI×アートがもたらす 次の時代の表現の形」も開催しました。
堂上:ピアノの即興演奏に、生成AIの映像がリアルタイムで重なるという新しい体験でしたよね。仁星さんらしい挑戦だなと感じました。そういった好奇心が旺盛な性格は、昔からですか?
木村:そうですね。小さい頃はスーパーで迷子になるのが日常でした。親は迷子のアナウンスが流れると、「あ、またうちの子だな」とすぐに分かったそうです(笑)。
堂上:気になったものを追いかけて夢中になっていたら、いつの間にか迷子になってるんですね(笑)。それこそが好奇心の原点なのかもしれない。仁星さんは、根っからのウェルビーイングな人なのかもしれないですね。
先日の伊勢神宮もそうですが、知人からの富士登山の誘いにも一番に手を挙げていましたよね。
木村:体験を「自分の言葉で語りたい」という思いがあって。本で読むだけではわからないことも、一度経験すればその場の空気や感情を持って語れる。だから、そこまで興味を持っていないことでも「まずは経験してみよう」と思います。
以前、落語を観に行ったことがあるんですが、正直それまではそこまで興味なかったんです。でも、あれだけの熱量を持ってその魅力を語ってくれる人がいるってことは、何か面白さがあるはずだと。実際、行ってみたらすごく面白くて。いい経験でしたね。
堂上:いろいろなことに興味を持ってチャレンジするって、一見すると「目移りしやすい人」と見られてしまうこともあると思うんです。でも、仁星さんは一つひとつを深掘りして、自分の糧にしているのが印象的です。それはやっぱりご両親が価値観を押し付けず、自由にやらせてくれた影響が大きいんでしょうか。
僕自身も、子どもに「やりたいことを尊重したい」と思いつつ、つい口を出してしまうんですよね。意思を尊重しようと思いつつも、「もっと成長できる選択があるんじゃないか」とか、「これは楽をしていないか?」なんて思ってしまって。
木村:確かに、両親から強く口出しされることは少なかったと思います。そのぶん、学校ではちょっと型にハマらないタイプだったので、「変わっているよね」と言われることが多くて、それがコンプレックスだった時期もありました。悔しさから「見返してやりたい」という気持ちが芽生えて、そこから始めたこともたくさんあります。
堂上:おお、負けず嫌いな一面もあるんですね。
木村:そうなんです。そこから自然とスキルが身についていったのかもしれません。そうやって自信がついてくると、不思議と競争心もなくなっていきました。
経年劣化ではなく「経年優化」でありたい
堂上:「コンプレックス」が、「原動力」になり、やがて「自信」へと変わっていく。それこそが“経年優化”のプロセスそのものかもしれませんね。いろんな経験を経て、自分なりの軸が育っていく。とてもウェルビーイングだと感じました。
仁星さんはいろんなことにチャレンジされていますが、何をしているときが一番楽しいですか?
木村:少し矛盾しているかもしれないのですが、カフェのテラスでただ“ぼーっとしている時間”が幸せです。いろいろなことをやっているからこそ、あえて何もしない時間を意識的に確保するようにしています。
堂上:「余白の時間」ですね。マインドフルネスにも近い感覚かもしれません。そういうときって、どんなふうに感じているんですか?
木村:自然と一体化している感じがします。気づけば1〜2時間、ぼーっとしていることもありますよ。
堂上:僕は生き急いでしまうタイプなので、羨ましいです。時間に追われる感覚って、ウェルビーイングの大敵ですよね。児童文学『モモ』(ミヒャエル・エンデ作)にも出てくる時間泥棒のように、現代社会は気づかないうちに私たちの時間を奪っていく。でも仁星さんは、上手く時間を管理している感じがします。もしかすると、それも自分自身を“作品”として創っているからなのではないでしょうか。
木村:確かに、それはあるかもしれませんね。完成することのない、自分という“作品”を永遠に磨き続けている感覚があります。
堂上:いろんなことに挑戦しながらも、自分自身を見失わない。その軸になっているものは何ですか?
木村:最近とても共感している言葉があります。三井不動産が使っている「経年優化」という考え方です。僕自身も「経年劣化」ではなく「経年優化」を目指したい。去年の自分よりも今の自分がより良い成長をしているか、心身ともに日々ブラッシュアップしていたいんです。むしろ、止まってしまうことが少し怖いと感じることもあります。
堂上:なるほど。会社の先輩に、「今日の自分は昨日の自分を超えられているかという問いを常に立てろ」と言われたことがあります。たとえ1ミリでも成長していれば、1年後、3年後にはとんでもない差になる。仁星さんはまさにそれを実践されているんですね。
木村:ものすごく意識していることです。人生において特に大事なもののひとつに「複利」があると思います。短期的に得たものって、案外すぐに消えてしまう。でも、バランスシート的にコツコツ積み上げて、長い時間をかけて築き上げたものは、簡単にはなくならない。
堂上:それって、まさにウェルビーイングにも通じる考え方ですよね。「自分がどうありたいか」というのは点で見つかるものではなく、いろんな試行錯誤のなかで、ようやくこうなのかなとだんだん輪郭がはっきりしてくる。
だから未来に向けて意思を持つというよりも、日々の過程を通じて、自分自身が育っていく感覚。振り返ったときに、「ちゃんと進んでいたな」って思えることが、本当の意味でのウェルビーイングなんじゃないかなと感じます。
難病から生まれた健康への意識
堂上:仁星さんは、美容や健康にも関心が高いんですよね。
木村:そうですね。たぶん、自分が衰えていくことへの“恐れ”みたいなものが強いんだと思います。
堂上:病気になったり、物忘れがひどくなったり……そういう将来の変化が不安で、だからこそ予防しているということですか?
木村:はい。じつは僕、もともと2つの難病を抱えているんです。ひとつは「強直性脊椎炎」という、運動しないと背骨がどんどん固まってしまう病気。もうひとつは「潰瘍性大腸炎」で、食生活の乱れが引き金になります。潰瘍性大腸炎はまさに乱れた食事が原因だったので、それをきっかけに健康への意識が高まりました。
ただ、それを不幸とは捉えていなくて。僕にとっては“ちょっと厳しめのコーチ”のような存在だと捉えています。
堂上:その経験が、自分のライフスタイルや習慣を見直すきっかけになったんですね。最近取り入れている習慣ってありますか?
木村:最近は小麦を控えるようにしています。昔はラーメンも大好きだったんですけれど、仕事で高い集中力を求められるようになってから、小麦を取ると“思考の持久力”が落ちる感覚があって。それよりも米や肉などの炭水化物とタンパク質をしっかり摂ったほうが、パフォーマンスが上がると実感しました。
それから睡眠も6〜7時間はしっかり確保していますし、「リカバリーウェア」などのアイテムも試しています。
堂上:睡眠もウェルビーイングには重要ですよね。僕はすぐに暴飲暴食してしまいがちなので、しっかりと食生活を整えている仁星さん、本当に尊敬します。誘惑に負けちゃうことって、ないんですか?
木村:もちろん、ありますよ(笑)。でも「完璧を目指しすぎないこと」も大切にしています。
堂上:なるほど、チートデーもちゃんとあるわけですね。僕は毎日がチートデーなので何とかしないといけません(笑)。
仁星さんは、自分をすごく冷静に客観視されていますよね。もう一人の自分が司令塔のように見守っているというか。自己コントロール力が高い印象です。
木村:「自分の人生は、最終的に“自分ごと”である」という節があります。調子が悪くなっても、時間は待ってくれないし、社会は普通に動き続けてしまう。そのとき歯止めをかけられるのって、自分しかいない。もちろん周囲の方が助けてくれることもあります。でも、それを頼りにしないというのも大事だと思います。
以前は人に期待してしまって、「自分はこれだけやっているのになんでこうしてくれないんだろう」と思うこともありましたが、今はないです。
堂上:でも仁星さんは、すごく人が好きなイメージもあります。1人で閉じこもってるわけではないですよね。
木村:そうですね、人は大好きです。ただ、何かしてもらったときは、「そんなことまでやってくれて、ありがとうございます」と素直に受け取るようにしています。人はお互いにギバーであることが大事だと思っています。
堂上:謙虚さもあって、仁星さんは人生何周目なんだろう? と思います(笑)。僕らは「恩送り」と呼んでいたりするんですけれど、ギブしてる人って、見返りを期待しているわけではなく、「自分が育ててもらっている」という感謝の気持ちでギブしているんですよね。だからこそ、仁星さんは良い出会いにも恵まれるんだろうなと感じます。仁星さんのギバーであろうという姿勢が、さまざまな良いものを引き寄せているのだと思います。
一人ひとりが“余白時間”を持てる社会に
堂上:仁星さんは、どんな社会で生きていきたいと思いますか?
木村:多様性が当たり前に受け入れられる社会だと嬉しいですね。「普通はそうしないよね」といった言葉に、ちょっとした違和感を持ってしまいます。
堂上:わかります。先ほどコンプレックスについてもお話いただきましたが、「変わってるね」とか「普通はこういうことはやらないよ」という言葉は、あまり嬉しいものではないですよね。
木村:そうなんです。たとえば、僕は真夏になるとすぐに汗をかいてしまうので、タンクトップを着ていたいんです。でも、筋トレをしているせいもあってか、筋肉を強調しているように見えてしまうようで。友人にも発見される率が上がってしまいます(笑)。
堂上:確かに、日本ではタンクトップ姿の男性って少ないかもしれませんね。海外では当たり前のように見かけるのに、文化やバイアスによって行動が制限されてしまうことって多いですよね。そういった社会の中で仁星さんご自身はどんな行動を意識していきたいと考えていますか?
木村:一人ひとりが“余暇を楽しめる社会”をつくっていきたいです。たとえば、自分のための時間や、いわゆる“無駄な時間”、そして心の“余白”みたいなもの。
そういう時間を大事に生きていきたいですね。僕も仕事が好きなので、つい土日にも仕事を入れようとしてしまうのですが、だからこそ、旅行の予定を入れたり、カフェでゆっくりする時間を作ったりしています。
幸せや余白の時間というのは、先延ばしにしているうちに戻ってこなくなってしまうと思うんです。気づいたらいつの間にか忙しいまま終わってしまった、とならないように「余暇」を大事にできるようにしたいです。
堂上:まさにウェルビーイングの観点でも大切なことですね。いまこの瞬間に余白をどう確保できるかがすごく大事だなと、あらためて感じました。スタートアップで日々時間に追われがちな僕にとって、とても刺さるお話でした。今日は楽しい時間を、ありがとうございました!
堂上編集長後記:
仁星さんとは、近藤さんの縁繋ぎの会でご紹介いただきお会いした。そこで、伊勢神宮に参拝に行くけれど、いっしょに行くか聞いたら、速攻で「行きます」とおっしゃった。行動する人が計画的偶発性理論のもと、新たな可能性を見つけていく。伊勢志摩にいっしょに行ったメンバーのひとりだ。
仁星さんの魅力は、ゆっくりと自分と対話しながら人生を楽しむことだろう。そして、ひとりひとりの出逢いが大きな可能性をつくっていく。ウェルビーイングな人は、ウェルビーイングな人を呼んでくる。そんな出逢いが仁星さんにあった。アーティストである仁星さんといろいろとプロジェクトを組んで、また新しいセレンディピティに出会いたい。
どうもありがとうございました。
1991年3月29日生まれ。青森県出身。4歳からクラシックピアノを学び、12歳で川上源一メモリアルコンサートに作曲で出演。2022年にアーティスト活動を本格的に開始し、全国ツアーも実施。Webエンジニア、東京大学松尾研究室におけるAIコンサル、総合系コンサルティングファームを経て法人向けのAI活用自走支援を事業とする企業の経営者としての仕事もしながら、アーティスト活動も精力的に展開。
https://niseikimura.com/