乳製品加工過程で自然発生するオリゴ糖の一種であるラクトビオン酸は、同時に酸としての特性も持つことで、腸や骨、肌など、身体の多方面での健康効果を持つ。そのラクトビオン酸のはたらきと、日本人の食生活には欠かせない大豆食品に含まれる大豆イソフラボンとの相乗効果とは…?株式会社ダイセルが追究するラクトビオン酸の健康食品としての展望など、今回詳しく話を伺った。
大江 健一さん
株式会社ダイセル ヘルスケアSBU
本記事のリリース情報
【お知らせ】 ウェルビーイングに特化した「Welulu」にてラクトビオン酸の取材を受けました
健康から美容まで?ラクトビオン酸の働きとは
──まず、ラクトビオン酸がどのようなものか、またそのはたらきについて教えていただけますか?
大江さん:ラクトビオン酸は、乳糖を原料として、牛乳の発酵過程で蓄積することが知られています。また、オリゴ糖の一種であり、同時に有機酸(酢酸)の特性も持っているという非常にユニークなものです。その構造は、オリゴ糖の一部として糖の構造が含まれている一方で、酸の構造も持っているため、多様な生理活性が期待されています。
主な機能は二つあり、まず一つ目は、オリゴ糖としての効果。腸内の善玉菌を増やし、消化を助け、免疫機能のサポートをすることによって、とくに腸内環境の改善に寄与します。二つ目は、有機酸としての効果。カルシウムの吸収を促進し、結果として骨の健康をサポートして、骨粗鬆症の予防に寄与します。
──腸だけではなく骨の健康にも繋がるのですね。これらの効果のメカニズムについても教えていただけますか?
大江さん:ラクトビオン酸は消化管に入ると、オリゴ糖として腸内細菌を活性化します。とくに重要なのがエストロゲン様の作用を持つイソフラボンとの相互作用です。イソフラボンは大豆に含まれる成分で、女性ホルモンに似た作用を持つのですが、ラクトビオン酸と組み合わせることで、その効果が強化されるんです。具体的には、腸内細菌がイソフラボンを代謝することにより、エクオールという物質を生成しますが、ラクトビオン酸はこの働きを強め、さらに健康効果を高めるとされています。
次に、カルシウムの吸収を促進する効果についてですが、ラクトビオン酸は、とくにラクトビオン酸カルシウム塩として体内で働く場合、その水溶性の高さから、カルシウムが消化管で溶解しやすくなります。これにより、カルシウムの吸収率が向上し、体内での利用効率が高まるのです。つまり、普通のカルシウム塩と比較して、ラクトビオン酸カルシウム塩はより効果的にカルシウムを体内に供給することで、骨の健康に寄与します。
──これら以外に、ラクトビオン酸が持つ健康によい効果にはどのようなものがあるのでしょうか。
大江さん:他にも、生活習慣の改善にも役立つといわれています。とくに、カスピ海ヨーグルトなどに含まれるラクトビオン酸は、糖として吸収されず、腸に届き、腸内細菌の餌になります。そのため、血糖値が気になる方も安心してラクトビオン酸を摂取していただけます。
さらに、当社の研究では、カルシウムのみならず、鉄、マグネシウム、亜鉛など他の重要なミネラルの吸収も助けることが確認されています。鉄は赤血球の形成に必須なもので、マグネシウムは心臓の健康や筋肉機能に関わるため、これらのミネラルが効率よく身体に吸収されることは、総合的な健康増進に直結します。そのため、全体的な栄養素のバランスが改善され、とくに骨密度の増加、免疫機能の強化、エネルギー代謝の効率化などが期待されるということです。
──イソフラボンの効果を高める「エクオール」という成分について詳しく教えていただけますか?
大江さん:エクオールは大豆イソフラボンから生成される成分で、とくに女性ホルモンと似た働きをすることで知られています。体内では、大豆イソフラボンが腸内細菌によって変換されることで生成されます。この過程で、ラクトビオン酸が重要な役割を果たしていて、腸内細菌の活性を高めることでエクオールの生成を促進します。ラクトビオン酸が腸内環境を改善し、エクオールの産生をサポートすることにより、イソフラボンの効果をさらに高めることにつながっているのです。
──エクオールを産生できる腸内細菌の量には個人差があるのでしょうか。
大江さん:最近の研究によると、日本のような、大豆製品や海藻を積極的に摂取する人々が多い国では、そうでない国の人々と比べてエクオールを産生する腸内細菌を持つ人が多いとされています。日本人のうち約半分はエクオールを効率的に生成できる腸内細菌を持っていると報告されていますが、近年では素の割合が低下しているという報告もあり、背景には食生活の変化による影響が大きいと考えられます。
たとえば、伝統的な日本食をよく食べていた60歳以上の日本人では約半数が腸内でエクオールを産生できますが若い世代では20%以下という研究結果もあります。
また、腸内環境については幼少期からの食習慣が与える影響が大きく、成長してから腸内細菌を改善することはなかなか難しいと言われています。そのため、ラクトビオン酸を含む食品の摂取が効果的であり、とくに女性の更年期症状の緩和や骨粗しょう症の予防に役立つとされています。
ラクトビオン酸と大豆イソフラボンの組み合わせが美肌効果をもたらす?
──大豆イソフラボンとラクトビオン酸の組み合わせに注目したきっかけは何だったのでしょうか?
大江さん:20年ほど前、ラクトビオン酸の持つ可能性、とくに大豆イソフラボンの効果をどのようにしてさらに向上させるかという点に注目しました。ラクトビオン酸は、イソフラボンが腸内でエクオールという物質に変換される過程を促進する働きがあること、女性ホルモンに似た効果を持つエクオールの生成を増やすことができれば、イソフラボンの健康への寄与をより高めることが可能という、我々の研究での知見をもとに、日本の食品メーカーであるフジッコ様との共同研究をおこなうことにしました。
──今回の研究の方法とその結果を教えていただけますか?
大江さん:今回の研究ではイソフラボンとラクトビオン酸を併用したグループと、プラセボ群に分けて比較しました。摂取については、自由摂取で、特別な制約は設けず、日常的な食事に組み込む形で行われました。肌の状態については、さまざまなパラメータを用いて詳細に測定しています。
とくに、肌の水分量に関しては、肌に存在する水分の量を示す「角質水分量」という指標を用いました。結果として、併用群はプラセボ群と比べて肌の水分量が顕著に高いことが確認され、これが4週間、8週間、12週間と継続していることが明らかになりました。また、水分蒸散量については、併用群は水分蒸散を抑え、より多くの水分を肌内に保持していることが示されました。さらに、肌弾力の指標である、肌を押したときにどれだけ早く元の形状に戻るかという「戻り率」についても、併用群では改善が見られました。
このようなデータから、大豆イソフラボンとラクトビオン酸の組み合わせは、肌の保湿、弾力、そして潤い(肌のバリア機能)を保持する能力において明らかな改善効果があるということがわかりました。とくに8週目から12週目にかけての効果が顕著で、4週目からすでに効果が見られる傾向があると考えられます。
──研究結果を踏まえて、今後の展望についてどのような計画をお持ちですか?
大江さん:ラクトビオン酸は腸内細菌を活性化するデータが得られているため、それについて今後さらに研究していきたいと考えています。
とくにシニア層では、イソフラボンの利用により骨の健康をサポートする一方、女性ホルモンのはたらきが活発な若い世代には、生理不順といった悩みに対処するイソフラボンとラクトビオン酸を組み合わせた健康補助食品を提供するなど、幅広い年齢層に向けて、さまざまな機能性を持つ製品を提供していくことが今後の目標です。ラクトビオン酸を用いた新しい形の健康サポートを提案していきたいですね。
ラクトビオン酸×大豆イソフラボンで肌の「水分量、バリア機能(潤い)、弾力」を守る!
──ラクトビオン酸と大豆イソフラボンが多く含まれる食品を知りたいです。
大江さん:まず、大豆イソフラボンは、大豆製品に広く含まれているため、豆腐や納豆、豆乳など日常的に利用される食品から容易に摂取することができます。
一方、ラクトビオン酸に関しては、カスピ海ヨーグルト以外の一般的なヨーグルトには含まれていないのが現状です。そのため、食品での摂取はカスピ海ヨーグルト以外では難しいため、簡単に継続して摂取できるサプリメントがおすすめです。
──ラクトビオン酸の1日の摂取目安やタイミングなど教えてください。
大江さん:これに関しては、特定の目安量が定められているわけではないのですが、私たちの推奨する摂取の目安をお話しいたします。
ラクトビオン酸は、とくにミネラルの吸収を助けるのに有効なため、たとえば、カルシウムやマグネシウムなどといったミネラルを含む食事の際、そのミネラル量にもとづいてラクトビオン酸の摂取量を調整することをおすすめしています。年齢に関係なく、もっとも多いミネラルの量に1.1倍の割合でラクトビオン酸を摂ることを基に計算するようにしてください。また、サプリメントの場合は、食事の前のタイミングで摂取することで、食事からの栄養素の吸収を最大限に高めることが可能です。
──ラクトビオン酸やイソフラボンの健康効果を感じるまでには、どのくらいの期間を目安に摂取をすればよいのでしょうか?
大江さん:もちろん個人差はありますが、多くの方が4週間である程度の変化を感じることができると考えています。さらに肌の新陳代謝のサイクルも考慮すると、2週間程度で変化を感じる方もいるかもしれません。また、日々の食事にラクトビオン酸やイソフラボンを含むサプリメントを取り入れることで、より早く変化を感じる可能性もあります。
そのためにも、最低でも4週間は継続して摂取することをおすすめします。
──ラクトビオン酸を摂り過ぎた場合のデメリットや注意点について教えてください。
大江さん:ラクトビオン酸はオリゴ糖の一種であり、一般的にオリゴ糖の過剰摂取はお腹が緩くなる可能性があります。しかし、一般的なオリゴ糖の摂取量が5gや10gに対して、ラクトビオン酸は数百mg程度のため、あまり心配する必要はありません。
ただし、私たちのラクトビオン酸製品に関しては、牛乳由来の成分を使用しているため、牛乳に対するアレルギーがある方は使用に注意が必要です。また、イソフラボンとの併用についても、大豆アレルギーがある方は同様に注意してください。
Wellulu編集後記
ラクトビオン酸は腸内環境を改善し、カルシウムの吸収を促進することにより骨の健康をサポートするだけでなく、大豆食品に含まれる大豆イソフラボンと組み合わせることで、エストロゲン様の作用を持つエクオールの生成を促し、私たちの肌の健康も支えてくれることがわかりました。
骨粗鬆症のような骨の健康や肌の健康の維持は、とくに女性にとって重要な健康における課題です。そのため、ラクトビオン酸単体での健康効果はもちろん、大豆食品という普段の食事で簡単に取り入れられる方法でさらなる健康効果が期待できるというのは、嬉しい発見だと感じました。今後さらなる健康への貢献を期待しています。