細胞でのエネルギー産生に不可欠な役割を担うとともに、抗酸化作用により細胞を活性酸素から守るなど、身体全体の健康を保つうえで重要な役割を果たしている「還元型コエンザイムQ10」。最近の研究では、疲労感の軽減や睡眠の質の向上、肌のターンオーバーを促進する可能性も示唆されている。いわば、QOL(生活の質)を向上させる新たなカギとして注目されているのだ。そこで今回は、還元型コエンザイムQ10の働きやライフスタイルで摂取するポイントなど、株式会社カネカの細江さんに詳しく伺った。
細江 和典さん
株式会社カネカ Pharma & Supplemental Nutrition Solutions Vehicle
Supplement Strategic Unit 企画チーム
本記事のリリース情報
ウェルビーイングに特化した「Welulu」にて取材を受けました。
細胞でのエネルギー産生を助け、活性酸素から細胞を守り、身体全体の健康を保つ
──まず、コエンザイムQ10について教えていただけますか?
細江さん:コエンザイムQ10の「コエンザイム」とは、英語で補助という意味の「コ(co)」と、酵素の「エンザイム(enzyme)」が由来で、酵素を助けるという意味を持ちます。
コエンザイムQ10は、酵素を助けるはたらきに留まらず、さまざまな作用を持っていて、私たちの身体に不可欠なビタミンのような重要なはたらきも持っています。ビタミンが欠乏すると多くの病気になることが知られていますが、コエンザイムQ10も同じくらい重要な物質なんですよ。
──コエンザイムQ10のはたらきについて、具体的に教えてください。
細江さん:私たちの身体には約37兆個の細胞があると言われているのですが、コエンザイムQ10はその細胞のエネルギーを作るために欠かせない物質です。
体内では、細胞内のミトコンドリアという細胞小器官が、主に食事から摂取した糖質(グルコース)や脂質を原料として、呼吸で取り入れた酸素を使って「ATP」というエネルギーを作っています。この過程でコエンザイムQ10が重要な役割を果たすんです。
ミトコンドリアでATPを作る際には、副産物として活性酸素が発生します。この活性酸素は細胞やミトコンドリアにダメージを与えるのですが、コエンザイムQ10は抗酸化作用を持っていて、この活性酸素から細胞とミトコンドリアを守りつつ、細胞でのエネルギー産生を高めるはたらきをしてくれています。
──体内の細胞とミトコンドリアを活性酸素から守ってくれるんですね。
細江さん:そのとおりです。コエンザイムQ10は抗酸化作用があることから、美容やアンチエイジングのイメージを持っていらっしゃる方が多いのですが、身体への影響はそれだけにとどまりません。
ミトコンドリアは、体内のすべての細胞が生きていくために必要なエネルギーを作る場所ですので、コエンザイムQ10はミトコンドリアと全身の細胞を活性酸素などから守ることで、身体の細胞を元気に保ち、ひいては身体全体の健康を保つ重要なはたらきをしているんです。
たとえば、健常人の運動能力を高める、疲労感やストレスを軽減する、睡眠の質や認知機能を改善する効果なども報告されています。
──運動能力の向上や疲労感の軽減にも効果が期待できるんですね。
コエンザイムQ10は酸化型、還元型の2種類
──コエンザイムQ10は体内で作られるのですか?
細江さん:はい、コエンザイムQ10は体内で作られます。原料となるのは食事から摂取した栄養素(糖質や脂質など)で、ミトコンドリアやゴルジ体などの細胞内のさまざまな場所で合成されています。
コエンザイムQ10には「酸化型」と「還元型」の2種類があり、体内で作られるコエンザイムQ10は還元型です。
──酸化型と還元型には、どのような違いがあるのでしょうか?
細江さん:一番の大きな違いは還元型にのみ抗酸化作用があるということでしょうか。コエンザイムQ10は小腸で吸収されるのですが、吸収される過程で還元型に変換されることで、初めて抗酸化作用を発揮します。酸化型を摂取した場合にも還元型に変換することは可能ですが、還元型に変換するためには酵素の力が必要で、この力は加齢などの原因によって低下することが示唆されています。一方、還元型コエンザイムQ10は、体内でそのまま抗酸化作用を発揮します。
また、還元型のコエンザイムQ10は酸化型よりも吸収性が高く、小腸から効率よく吸収されることもわかっています。
──抗酸化作用を発揮するために変換が必要かどうか、そして吸収率の違いがあるんですね。
細江さん:活性酸素は体内でエネルギーを作る際に発生するだけでなく、紫外線や放射線にさらされることでも発生します。日焼けは紫外線によって体内で活性酸素が発生し、皮膚が酸化される例の1つです。放射線を浴びると身体にさまざまな障害が発生することにも、活性酸素が関与しています。
還元型コエンザイムQ10はミトコンドリア内でのエネルギー産生を助けるだけでなく、酸化によってもたらされるさまざまな身体の不調にも対抗する重要な役割を果たしています。
──コエンザイムQ10が不足するとどうなるのでしょうか?
細江さん:還元型コエンザイムQ10が不足すると、ミトコンドリアでのエネルギー産生力や活性酸素から細胞を守る力が低下してしまいます。その結果、細胞が元気に働く力が低下し、肌の調子が悪くなったり、疲れやすくなったり、ストレスに対する耐性が低下したりすることが考えられます。
また、さまざまな体調不良や病気の発症につながる可能性もあります。実際、高齢者やストレスの多い職業の方々、心臓病や糖尿病などの病気の方々では、血液中のコエンザイムQ10の濃度が健康な人に比べて低いことが報告されています。
── コエンザイムQ10は美容やアンチエイジングに効くものというイメージでしたが、日々の健康維持に欠かせないものなんですね。
細江さん:そのとおりです。また、生まれつき還元型コエンザイムQ10を体内で作る能力が低い人もいます。遺伝子の変異によって十分な量の還元型コエンザイムQ10を作れないという病気があり、このような患者さんでは筋力低下や筋萎縮、運動失調、腎機能低下などの重篤な症状が見られ、場合によっては死に至ることもあるんです。
そのため、還元型コエンザイムQ10はビタミンと同様に、身体に欠かせない重要な物質です。
疲労感の軽減・睡眠の質改善・ストレス軽減!還元型コエンザイムQ10の研究でわかったこと
ストレスや疲れ、心の健康維持にも寄与
──カネカさんが、還元型コエンザイムQ10の研究を始めたきっかけについて教えてください。
細江さん:私たちが還元型コエンザイムQ10の研究を始めたのは、1990年代以前の研究結果に基づいています。当時の研究ですでに、コエンザイムQ10の重要な作用の1つである抗酸化作用は還元型にのみ存在することがわかっていましたし、体内に存在するコエンザイムQ10の多くが還元型であり、酸化型を摂取すると体内で還元型に変換されることも報告されていました。
この当時はもっぱら酸化型のコエンザイムQ10が売られていましたが、「還元型を作ってそれを摂取した方が身体にとって、もっと利点があるんじゃないか」と考えたのが、還元型コエンザイムQ10の研究をはじめたきっかけです。
──酸化型より還元型の方が身体にメリットがあると考えられたのがきっかけだったんですね。ちなみに体内にあるコエンザイムQ10の還元型の割合はどのくらいなのでしょうか?
細江さん:体内の部位ごとにも割合が異なりまして、血液中では約95パーセントが還元型ですが、健康な方では約98パーセントにも達します。心臓では約60パーセント、肝臓では約90パーセントが還元型です。脳や肺など空気に触れる臓器ではやや低くなりますが、それ以外の臓器では約60〜90パーセントを占め、これらの割合をみても還元型が体内で広く存在していることがわかります。
──還元型コエンザイムQ10のはたらきについて、これまでの研究成果を教えていただけますか?
細江さん:さまざまな研究をおこないましたが、1つ例を挙げますと、日本人の健康な中高齢者を対象にしたものがあります。この試験では48名の中高齢者を、還元型コエンザイムQ10を摂取する群(25名)とプラセボ群(23名)に分けて、8週間摂取してもらい、QOL(生活の質)スコアを測定しました。1日150ミリグラムの還元型コエンザイムQ10を摂取した群では、活力や心の健康が向上していました。
── 身体も心も元気になるなんて、すばらしい効果ですね。
細江さん:別の試験で、日常的にストレスを感じてる健常成人の男女60名を対象に、1日100ミリグラムの還元型コエンザイムQ10を8週間摂取してもらった結果、還元型コエンザイムQ10の摂取がストレスの軽減や睡眠の質の向上、疲労感の軽減に寄与することが確認されています。
── ストレスや睡眠、疲労にもよい効果がみられたんですね。
細江さん:はい、そうですね。この試験では、参加者の中でも、とくにストレスが高い人において、還元型コエンザイムQ10の摂取がストレス軽減や睡眠の質向上において統計的に有意な効果を示しました。また、疲労に関しては、朝起きたときの疲労感も軽減されることが確認されていますよ。
ターンオーバーの促進にも
── 他に最近おこなわれた研究でわかったことがあれば教えてください。
細江さん:最近の臨床研究では、肌の不調を自覚している健常女性85名(48歳前後)を対象に、還元型コエンザイムQ10を1日100ミリグラム、8週間摂取してもらったところ、肌のターンオーバーと肌のうるおい(水分量)が有意に改善されることが確認されました。
肌のターンオーバーが遅くなると、古い角質が残り、肌の状態が悪化しますが、還元型コエンザイムQ10を摂取することでターンオーバーが促進され、肌の健康に役立つ効果が認められました。
──ターンオーバーを促進する効果があるんですね。具体的にはどのように測定したのですか?
細江さん:皮膚にテープを貼り付けて剥がし、剥がれた細胞を染色して顕微鏡で観察しました。この方法で細胞の面積などを測定し、ターンオーバーの状態を評価しました。また、肌の水分量も測定しており、右の頬や左の頬、足のすね、右足の甲などで有意に水分量が上がったことが確認できています。
──コエンザイムQ10で、肌の健康を維持できるんですね。
細江さん:先ほど、コエンザイムQ10には、疲労感や睡眠の質、ストレスの改善にも効果があるとお伝えしました。これらは肌にも悪影響を与えることが知られていますので、睡眠やストレスの改善によって肌のターンオーバーを促進できることも間接的なメカニズムとして考えられます。
コエンザイムQ10の摂取がストレスの多い社会を元気にする
──コエンザイムQ10を多く含む食品や食材にはどのようなものがあるのでしょうか?
細江さん:コエンザイムQ10はほとんどすべての食材に含まれていますが、含有量には差があり、とくに肉や魚に多く含まれています。中でも、含有量が多い食材は、イワシやサバなどです。また、心臓の部分などには、相対的に多くのコエンザイムQ10の量が含まれています。これは、コエンザイムQ10が細胞でのエネルギー産生を助ける物質のため、エネルギーを大量に使う臓器に多く含まれるためです。
──日本人の平均的な食事からは、1日どれくらいの量を摂取できているのでしょうか?
細江さん:日本人は平均的な食事からは、1日に約5ミリグラムのコエンザイムQ10を摂取していると考えられます。しかし、これは非常に少ない量です。
たとえば、先ほど紹介した肌のターンオーバーや疲労感の軽減に関する研究では、1日に100ミリグラムを摂取してもらっていました。例えばイワシから100ミリグラムを摂取しようとすると16匹、豚肉や牛肉では約3キロ、卵では25キロも必要です。食品だけで100ミリグラムを摂取するのは難しいため、サプリメントや還元型コエンザイムQ10を加えたヨーグルトなどで補うことが現実的です。
──確かに、食品から摂取するのは現実的ではなさそうですね。1日の摂取目安量はどのくらいでしょうか?
細江さん:一般的には1日に100ミリグラムが目安とされていますが、これは年齢や生活状況によっても異なります。
例えば、加齢とともに体内のコエンザイムQ10の量は減少し、とくに心臓で顕著に低下します。この原因のひとつは還元型コエンザイムQ10の体内での合成量が加齢によって減少することであるとされています。
また、加齢や紫外線、身体的・精神的なストレスなどによって体内の酸化ストレスが増加すると、コエンザイムQ10の消費量が多くなってしまいます。
若い人でも、激しいスポーツや強いストレスを感じる状況では体内のエネルギーが不足したり、体内の酸化ストレスが増加したりすることにより、普段より還元型コエンザイムQ10を多く摂取することが必要です。たとえば、マラソンの前後には200〜300ミリグラムに増やすことが推奨されます。自分の年齢や状況に応じて摂取量を調整することが重要です。
──コエンザイムQ10を摂取するおすすめのタイミングはありますか?
細江さん:コエンザイムQ10は油に溶けやすい性質があります。そのため、空腹状態では吸収されにくいです。医薬品でも「食後に摂取する」と指示されているものは油に溶けやすい成分が多いです。コエンザイムQ10も食事と一緒に、あるいは食後30分以内に摂取するようにしましょう。
──最後にローションやクリームなどの塗布タイプと、経口摂取の違いについて教えてください。
細江さん:コエンザイムQ10は、皮膚からもある程度吸収されることがわかっています。塗布の場合、コエンザイムQ10は直接皮膚の細胞に浸透し、ターンオーバーを促進する効果があります。一方、経口摂取ではコエンザイムQ10は血流を通して皮膚の組織に移行し、内側から作用します。ですので、肌の健康を考える場合は、塗布と経口摂取を併用することで、内側と外側からのより効果的な作用が期待できます。
Wellulu編集後記:
還元型コエンザイムQ10の取材を通じて、その驚くべき効果と重要性を再認識しました。ミトコンドリアでのエネルギー産生を助け、抗酸化作用で細胞を守るこの物質は、美容やアンチエイジングだけでなく、運動能力の向上、疲労感の軽減、睡眠の質改善など多岐にわたると考えられています。日常の健康維持に欠かせない成分として、今後より注目したいと感じました。