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米麹のストレス軽減メカニズム。酒粕・甘酒にも同様の効果が?【新潟⼤学・岡本准教授、柿原助教】

新潟大学大学院医歯学総合研究科の岡本准教授と柿原助教の研究により、米麹の摂取がストレスによる不安や痛みを軽減する可能性があることが明らかになった。この研究は、モデルマウスを用いて行われ、米麹に含まれるエルゴチオネインが脳神経の興奮性や機能の発現を調節し、ストレス軽減作用を示すことを示唆している。

そこで今回は、これらの研究結果だけでなく、米麹やその他の米発酵食品の健康効果について、岡本准教授と柿原助教にお話を伺った。

岡本 圭一郎さん

新潟大学歯学部口腔生理学 准教授

現在、新潟大学歯学部口腔生理学にて歯学研究および教育に携わっている。九州歯科大学を卒業後、歯科医師として和歌山県立医科大学歯科口腔外科にて臨床活動を行った。以降、同大学、米国ブラウン大学医学部、ミネソタ大学歯学部にて、痛みとストレスの脳メカニズムに関する基礎研究活動を行なった。2015年より新潟大学に赴任、以降、心理ストレスが誘発する歯科領域の慢性痛の脳メカニズムの解明と、その制御法として生活習慣の工夫をテーマとして、現在、米発酵エキスに注目し、そのストレス軽減作用について研究活動を行なっている。

柿原 嘉人さん

新潟大学歯学部歯科薬理学 助教

現在、新潟大学歯学部歯科薬理学にて歯学研究および教育に携わっている。山口大学工学部、奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科、大阪大学大学院医学系研究科、トロント大学(カナダ)にて酵母をモデル生物とした分子生物学的研究を行った。2014年より新潟大学に赴任、以降、口腔がんや骨粗鬆症のメカニズム解明とそれらの治療薬開発や食品素材探索を行っている。

本記事のリリース情報
口腔生理学分野の岡本圭一郎准教授、歯科薬理学分野の柿原嘉人助教のインタビュー記事がWebメディア「Wellulu」に掲載されました

目次

「米麹」「酒粕」の効果とは?

──今回、なぜ⻭学部の岡本先生と柿原先生が「米麹」の研究に取り組むようになったのでしょう?

岡本准教授:「痛みやストレス」の研究に関心があったことにありますし、また以前、歯科臨床医として難治性の慢性痛患者を診察した経験が大きいです。歯科臨床で見られる慢性痛の多くがストレスの影響を受けることも示されています。以降、約20年以上、慢性痛やストレス状態がもたらす不安などの脳メカニズムを明らかにすることを目的に、基礎的な観点から探究してきました。

またストレスは日常生活に大きな影響を与え、QOLを低下させることはよく知られていますが、ストレス解消や予防の重要性に注目して基礎的に研究を進めていました。

──ストレス解消の方法として、特に何に焦点を当てたのでしょうか?

岡本准教授:ストレスの原因は、日常的です。一般的に、健康障害は、多くの場合、基本的に原因を除去すれば改善します。ところがストレスの場合、原因が複雑です。例えば、人間関係や仕事、お金、といったストレスの原因と考えられる存在自体を私たちの日常生活から除去することができません。そうなると、ストレスを軽減させる効果が期待できる方法を探る必要があると考え、食生活に注目しました。

──食生活の中でも今回「米麹」に注目されたのはなぜでしょうか?

岡本准教授:約8年前より、新潟大学歯学部でお世話になっております。本学で研究活動を実施する上で、できれば新潟らしさを生かした形で健康増進に繋がる研究を行いたいという想いがありました。その中で新潟らしさといえば、日本酒も含め米、酒粕、米麹といった類のものが知られています。これらの食品が健康にどのように影響するかを調査することで、健康増進につながるだけでなく地域活性化にも貢献できますし、酒粕など日本酒の醸造で生成される産物をうまく利用できれば、持続可能な食習慣の発展に繋がっていくと考えました。

美肌やストレス軽減、腸内環境の改善、炎症抑制などの効果

──米麴や酒粕にはどのような効果があるのでしょうか?

柿原助教:米麹や酒粕には多様な成分が含まれていて、美肌やストレス軽減、腸内環境の改善、炎症抑制などの効果があるとされています。これらは主に細胞や動物実験における研究に基づくもので、ストレス軽減効果のある機能性成分が米麹に含まれることは知られています。

実際に米麹を摂取しようとすると、身近なものでは味噌や甘酒、塩麹やしょうゆ麹などの米発酵食品があります。

「米麹」が”予期せぬストレスへの対処”に効果あり?

「エルゴチオネイン」を含む米麹がストレスを軽減

──今回の研究方法について具体的な内容を教えていただけますか?

岡本准教授:研究では主に動物実験と培養細胞を用いた実験を行いました。ストレス状態のマウスに対して米麹を投与し、ストレスに関連する行動や痛みの行動がどのように変化するかを観察しました。次に、ストレス軽減効果があると言われている米麹の成分「エルゴチオネイン」を単独で投与するとどうなるのかというのも並行して観察しました。

柿原助教:培養細胞の実験では、神経系由来の細胞に米麴のエキスを添加し、BDNF(脳由来神経栄養因子)の発現にどのような影響があるかを調査しました。

──研究結果について教えていただけますでしょうか?

岡本准教授:研究の結果、米麴を投与すると神経活動に良い影響を与え、行動レベルで不安や痛みを抑制することが示唆されました。まず、心理身体的にストレスを抱えている状態のマウスは、健常マウスと比べ、不安様行動や疼痛(関連)行動が増大していましたが、米麹を毎日投与するとそれらの行動が軽減しました。また、それだけでなく不安や痛みに関連する脳内各部位の興奮性に関しても、米麹を毎日投与することで軽減しました。

柿原助教:培養細胞を用いた実験では、⽶麹エキスがBDNFの発現を調節するなど、細胞レベルでの機能発現に影響を与えることも明らかになりました。 これらと同様の現象が、ストレス軽減効果があると言われている米麹の成分「エルゴチオネイン」の投与によっても見られています。

「酒粕」「甘酒」にもストレス軽減効果がある?

──研究結果やその課程で興味深かった点はありましたか?

岡本准教授:この研究を通じて特に興味深かったのは、米麹に健康促進効果があることでした。感覚的には理解していましたが、実際に研究を通じてその効果を科学的に確認できたことは大きな発見でした。また、地域の特性を活かした研究が地域のアピールや社会的な後押しに繋がる可能性もあると感じました。私たちは同様の実験結果が酒粕を用いた場合でも見られることを以前、報告しています。

──柿原先生はいかがでしょうか?

柿原助教:甘酒が女性の間で一時期人気になった背景にも、米麹のような発酵食品に期待できるストレス軽減効果が、多少なりとも影響していたのかもしれないなと感じました。特に女性はストレスに敏感で、心理的な影響を受けやすかったり身体も壊しやすいということが科学的にも言われています。甘酒などの人気にはそういう点が背景にあるかもしれませんし、美肌効果などスキンケアの側面での注目もあるかと思います。

ストレス状態になると「米麹」がパワーを発揮!

岡本准教授:他にも興味深かったのは、米麹が正常な状態のマウスには特に影響を与えず、ストレスや異常な状態に対して効果を発揮する点です。これは「健康な時に気づかない作用が、ストレス状態において大きな意味を持つ」可能性を示しています。つまり、普段からの食生活に発酵食品を取り入れることが、ストレス状態が引き起こす(例:不安や慢性痛など)に対処するための一助となるかもしれません。

──健康な時には気づかず、ストレス状態の時に米麹のパワーが発揮される。面白い発見ですね。

「麹」のある食生活を取り入れてみよう

うま味がUP!「米麹」や「酒粕」を料理に取り入れる

──米麹や酒粕を摂取する方法として、おすすめはありますか?

柿原助教:いくら健康に良いと言われても、美味しくないと長続きはしませんので、毎日の食生活の中で上手に美味しく愉しみながら取り入れていくことが一番良い方法だと思います。味噌や塩麹、しょうゆ麹といったもので野菜や肉、魚を調理するのも良いですし、最近はスーパーなどで魚を塩麹につけたものが売られていますよね。米麴や酒粕を使った料理は、プロテアーゼ(タンパク質を分解する酵素)の効果で食品を柔らかくして、うま味を増し、素材を美味しくする効果があります。普段の料理にひと手間かけることで、簡単に美味しく食べられますし、味はもちろん風味や食感の変化を愉しみながら摂取されると良いと思います。

──できるだけ食生活に米麹を取り入れていくのがいいのですね。

岡本准教授:はい。ストレスは、日常生活の工夫によって軽減できる可能性があるということを提案したいです。とりわけ食生活の工夫なら、比較的簡便にストレス状態を軽減していくことが期待できます。

柿原助教:「甘酒」のルーツは奈良時代のようで、当時から日本人に好まれてきた食品なのでしょうね。特に昔から摂取されている麹のような発酵食品は、長い歴史の中で代々受け継いでこられたという意味でも、健康面などで何か良い理由があったのだろうと考えても良いかもしれませんね。

──今後の研究について教えていただけますか?

岡本准教授:今後の研究では、実験で得られた結果を人間で確認できればと思っています。これらの食品のストレス軽減効果の具体的なメカニズムをさらに詳細に解明し、それを通じて人間の体の機能についての理解を深めたいと考えています。これらの研究が新潟県を含む日本全体の食文化の発展に、歯科医学的な観点から貢献できればと思っています。

柿原助教:現在私は骨粗鬆症に関する研究を進めており、これまでの成果をまとめて報告する予定です。また、米発酵食品に関する研究はまだまだ発展し続けていくと思います。特に麹や酒粕を使った製品については、歴史的な背景も含めてさらに探求していきたいと考えています。

江戸時代には酒粕から作った「赤酢」という酢が開発され、それが江戸前鮨に使われてきたという歴史があります。そのような伝統的な知恵や技術を現代の科学的視点で再検証し、新たな価値を見出すことにとても興味を持っています。それらをさらに発展させ、新しい現代版の”伝統的”機能性食品を作れるといいですね。

──地域特性もとらまえながら歴史のある食品・食材に着目していくというのは、ウェルビーングのみならず地域産業などの面でも大きな役割を果たしそうですね。お二人とも歯学部というバックグラウンドにも関わらず多様な研究を進めておられて、大変興味深かったです。

Wellulu編集後記:

新潟大学の岡本准教授および柿原助教とのインタビューを通して、米麹と酒粕の健康への影響について深く探求することができました。二人の研究によって、米麴にはストレス軽減や痛みの緩和といった効果があることが動物実験を通じて示されています。これらの効果は、米麹に含まれるエルゴチオネインという成分による可能性が高いとのことでした。

お二人の研究は、米麹や酒粕といった伝統的な食品が現代の健康増進にどのように貢献できるかを示唆しています。これらの研究成果は、日本の食文化をさらに豊かにし私たちの健康にも役立っていくことが期待できそうです。

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