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「心理的リソース」で紐解く、ウェルビーイングな組織と社会の創造。互いの願いを尊重し合える未来への挑戦

「なぜ、今の職場や日々の生活にこれほどまで疲弊してしまうのか」。その答えは、私たちが無意識のうちに互いの精神的なエネルギーを奪い合っている構造にあるのかもしれない。

2026年1月、名古屋で開催された「Tech GALA 2026」。「ウェルビーイングは守りから攻めへ。成長戦略としての人材のあり方」と題して行われたパネルセッションでは、株式会社コーチェット代表の櫻本真理さん、ビジネス インサイダー ジャパン ブランド編集長の高阪のぞみさん、そしてWellulu編集長の堂上研が登壇し、これからの組織に求められる“経営資源”としてのウェルビーイングについて熱い議論が交わされた。

今回は、登壇を経た三者が再び集結。組織を、そして社会を健やかに保つ鍵となる「心理的リソース」のマネジメントから、お互いの「願い」を尊重し合える家族のあり方、そして優しさが循環する2050年の未来像まで、深く語り合った。

 

櫻本 真理さん

株式会社コーチェット 代表取締役

2005年、京都大学教育学部卒業。モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券のアナリストを務める。2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotreeを設立。2020年に株式会社コーチェットを設立し現職。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング・コーチング両面でのアプローチに強みを持つ。

https://coached.jp/

高阪 のぞみさん

株式会社メディアジーン執行役員/ビジネス インサイダー ジャパン ブランド編集長

プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント(現・日本IBM)に入社し、コンサルタントとして従事した経験を持つ。その後、プレジデント社に入社し「プレジデント」や「dancyu」など、複数誌の編集に携わる。2018年よりビジネス インサイダー ジャパンに参画。ブランドスタジオ、アワードイベント、バーティカルメディアの立ち上げを行う。2022年より共同編集長・ブランド編集長、2024年より執行役員に就任し現職。

https://www.businessinsider.jp/

堂上 研

株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。

https://ecotone.co.jp/

目次

「心」と「関係性」の探求に行き着いた理由

堂上:本日は、2026年1月28日に名古屋・ナディアパークで開催された「Tech GALA 2026」で共に登壇させていただいたお二人にお話を伺います。どうぞよろしくお願いいたします。

まずは改めて、お二人のご経歴からお聞かせください。

櫻本:私は現在、株式会社コーチェットを経営しています。コーチェットでは、リーダーが周囲とより良い関係を築き、その人らしい能力を発揮するための伴走型トレーニングや、コーチングプログラムを提供しています。

堂上:会社を設立されるまでには、どのような経緯があったのでしょうか。

櫻本:もともとは証券会社のアナリストとして働いていました。しかし、仕事に打ち込むあまりオーバーワークが重なり、睡眠障害やメンタル不調を経験したんです。

それがきっかけとなり、まずはメンタルヘルスケア事業の株式会社cotree(コトリー)を立ち上げました。事業を進める中で痛感したのは、「個人のメンタル不調の背景には、周囲との関係性が大きく影響している」ということでした。

堂上:人間関係は心に多大な影響を与えますよね。そこから、組織の土壌を整えるためのリーダー育成事業へとつながっていったのですね。

櫻本:ちょうどその頃、第1子の妊娠・出産を経験しました。さらにコロナ禍における1社目の急成長と2社目の立ち上げが重なり、両立の難しさに直面したこともあって、1社目を譲渡するという選択をしました。現在はコーチェットの経営に全力を注いでいます。

堂上:ありがとうございます。続いて、高阪さんのご経歴もお願いいたします。

高阪:私は現在、経済メディア「ビジネス インサイダー ジャパン」のブランド編集長を務めています。ビジネス インサイダーは2007年にニューヨークで誕生した経済・ビジネスニュースメディアで、2017年に日本版がローンチされました。私は2018年から参画しています。

堂上:高阪さんは、長くメディアの世界を歩まれてきましたよね。

高阪:前職でも経済誌の編集に携わってきました。「ミレニアル・Z世代のために、より良い未来を創るニュースを伝える」というビジネス インサイダー ジャパンのビジョンに深く共感し、今の環境に身を置いています。

多様な世界と出会い、自らの声でルールを変えてきた原体験

堂上:お二人の現在地がよくわかりました。では、さらに時間を遡って、今の仕事観につながる「原体験」について伺わせてください。櫻本さんは、どのような子ども時代を過ごされたのですか?

櫻本:中学時代はテニスに没頭していました。スマッシュが決まった瞬間の爽快感が忘れられず、ほとんどテニス中心の生活を送っていました。

堂上:もともと、ひとつのことに深くのめり込むタイプだったのでしょうか。

櫻本:当時はかなり集中するタイプでした。ただ、中学3年生の夏にアメリカへ短期留学をしたことで、価値観がガラリと変わったんです。

それまで知らなかった世界の広さに触れ、「こんなにも多様な生き方や可能性があるのか」と強い衝撃を受けました。その経験から高校でも1年間の留学を経験し、ひとつのことだけでなく、多種多様な物事に興味を持つようになりました。

堂上:「Wellulu」でも、自分らしく心地よく生きるためには、複数の選択肢を持っていることが大切だと考えています。まさにその原体験ですね。

櫻本:本当にそう思います。あの時に得た「多様な視点」が、さまざまな背景を持つ人と関わる今の仕事の根底にあるのかもしれません。

堂上:ありがとうございます。では、高阪さんの子ども時代についても教えていただけますか。

高阪:私は子どもの頃、とてもマイペースな性格で、一人で本を読んで過ごすことが多いタイプでした。

転機になったのは、中高一貫の女子校に進学したことです。非常に自由な校風で、生徒会長や学校行事のリーダーなど、あらゆる役割を女性が担うのが当たり前の環境でした。女性が主体となって物事を進める姿を日常として見ていたことは、今振り返ると大きな影響を与えています。

堂上:学校生活で、特に印象に残っている出来事はありますか?

高阪:当時、校則では「黒い革靴」のみが許可されていました。でも、生徒たちは「もっとおしゃれを楽しみたい」と思っていて、私も含めて茶色の靴を履いて登校する子が多かったんです。ある日、先生による靴箱チェックが行われ、茶色の靴を履いていた生徒たちの名前が記録される事態になりました。

堂上:それは一大事ですね。

高阪:ですがその後、驚くことに校内放送が流れ、「校則を見直し、茶色の靴も認めることにしました」と発表されたんです。

堂上:柔軟で、対話のある学校だったのですね! 一方的にルールを押し付けるのではなく、納得感を大切にする文化があった。それは今の組織における「心理的安全性」にも通じる、とてもウェルビーイングな体験だと思います。

高阪:「ルールは絶対不変なものではなく、合理性があれば変えられるのだ」と肌で感じた瞬間でした。社会の仕組みも同じで、人々の行動や声によって変えていける。その感覚は、現在の私の仕事観に強く結びついています。

堂上:お二人とも、若い日の経験が現在のキャリアの指針になっているのですね。自分の意志で環境をより良くしていけるという実感は、自分自身の幸せだけでなく、周囲を巻き込んで社会を動かしていく大きな力になります。

組織を救う共通言語。有限なエネルギーとしての「心理的リソース」

堂上:櫻本さんは2025年に、著書『なぜ、あなたのチームは疲れているのか? 職場の「心理的リソース」を回復させるリーダーの思考法』(ダイヤモンド社/2025年)を上梓されました。この本を執筆されたきっかけについて教えてください。

櫻本:メンタル不調に悩む方々と向き合う中で、メンバー層だけでなく、じつはリーダー層も同じように苦しんでいる実態を目の当たりにしたことがきっかけでした。多くの場合、どちらか一方が悪いという単純な構図ではありません。

お互いに「より良く働き、より良く生きたい」と願っているだけなのに、構造上のズレから結果として傷つけ合い、疲弊してしまっている。この負の連鎖をなんとか改善したいという思いが、執筆の出発点になりました。

堂上:現場で苦しむ人たちの声を聴き続けてきたからこそ、目に見えない「疲れ」の正体を言語化する必要性を感じられたのですね。

櫻本:人によって「痛みを感じるポイント」は異なるため、良かれと思って放った言葉が、無自覚に相手を傷つけてしまうことがあります。だからこそ、お互いに「今、自分は消耗しています」と素直に開示できることが重要なんです。

堂上:そこで「心理的リソース」という共通言語を提示し、対話のきっかけを作ろうとされた。「疲れた」を個人の責任にするのではなく、チーム全体で管理すべき「資源(リソース)」として捉え直す視点は、ウェルビーイングな組織につながっていきますね。

櫻本:心理的リソースとは、例えば「少し面倒だけど、よしやるか!」と心を奮起させるためのエネルギーを指します。

組織の中で、何がメンバーやリーダーのリソースを削っているのか。それをチームの共通認識として話し合い、「リソースを生むもの」と「奪うもの」を整理していく。そのプロセスこそが、チームをより良い方向へ導くと信じています。

堂上:僕も拝読して、自分自身の振る舞いを振り返りハッとさせられる場面が多くありました。編集部を率いる立場である高阪さんは、心理的リソースという観点から意識されていることはありますか?

高阪:非常に共感する部分が多いですね。リソースという観点では、特に企画会議の際のコミュニケーションで意識していることがあります。

メディアの現場では、どうしても「この企画を通すか、ボツにするか」という二元論的な判断に終始しがちです。しかし私は、できる限りその人が「なぜ、今この企画をやりたいのか」という動機を深く掘り下げて聞くようにしています。

堂上:企画の良し悪しだけでなく、その背景にある「動機(想い)」を大切にされている。「Wellulu」でも「Do(何をするか)」の前に「Be(どうありたいか)」が重要だと考えていますが、まさにそれが体現されていますね。

高阪:例えば、あるメンバーが「地方の鉄道」についての企画を出したとします。その理由を深掘りしていくと、じつは本人が地方出身者で、故郷の現状に対する切実な思いが根底にあることがわかったりします。そうなると、それは単なる一過性の企画ではなく、その人の「人生のテーマ」そのものなんですよね。

櫻本:それはまさに、心理的リソースに深く関わるお話ですね。自身の原体験に基づいた大切なテーマを安易に否定されてしまうと、人は驚くほど大きくリソースを消耗してしまいます。

高阪:人生のテーマに根ざした企画は、たとえ今すぐ形にならなくても、10年単位でその人の中に残り続けるものです。だからこそ、目先の短期的な事業判断だけで切り捨てるのではなく、その熱量をどう守り、育てるかを大切にしたいと考えています。

共感と対話でお互いの願いをすり合わせる。心理的リソースを最適化する知恵

堂上:櫻本さんは、企業から組織改善の相談を受けた際、まずどのような問いかけをされるのでしょうか。

櫻本:私はまず、「このチームの中で、心理的リソースを奪っているものは何だと思いますか?」とお聞きするようにしています。

例えば「楽観的なリーダー」という存在は、ポジティブな空気を作るという意味ではリソースを増やす要因になり得ます。しかし一方で、タスク管理が疎かになれば、周囲にとっては消耗要因になることもある。性格そのものに善悪があるのではなく、その特性がもたらす「プラスの影響」と「マイナスの影響」を冷静に分解していくことが重要なんです。

堂上:同じ特徴であっても、文脈や環境次第で毒にも薬にもなり得るということですね。

櫻本:だからこそ、「どう解決するか」という手法に飛びつく前に、まずは「何が消耗を生んでいるのか」という真因を特定することが欠かせません。

堂上:実際に、心理的リソースを大きく奪う原因として多いものは何ですか?

櫻本:主に「人間関係」と「未来への不安」です。この2つに共通するのは、自分ひとりの力ではコントロールすることが極めて難しいという点にあります。

堂上:自分の力だけではどうにもならない不確実なものだからこそ、より大きなストレスとなってリソースを削っていくのですね。組織やコミュニティにおいて、まずは「リソースを奪っているものの正体」を言語化し、対話を通して共通認識を持つことから始めるのが大切だと感じます。

櫻本:そもそも「心理的リソースの奪い合い」は、お互いがそれぞれに「願い」を持ち、その願い同士を両立させることが難しい時に発生します。

人は願いが叶えばエネルギーが湧きますが、叶わなければ枯渇していくもの。異なる願いを持つ複数の人間が共存する以上、お互いの思いをすり合わせながら、納得できるひとつの現実を作っていく必要があるんです。

高阪:その視点は、職場だけでなく「家族」の間でも全く同じことが言えますよね。家族間のコミュニケーションが希薄になり、相手の「願い」が見えなくなると、知らず知らずのうちにリソースを奪い合う原因になりかねません。

櫻本:実際、私の著書を読んだ方から「家族との関係が良くなった」という声をいただくこともあるんですよ。

堂上:それは面白いですね! 例えば片付けひとつとっても、「常に綺麗に整えたい人」と「物を出しっぱなしにしたい人」が一緒に暮らせば、リソースの奪い合いが起きてしまいますよね。

櫻本:双方にイライラが募り、負の連鎖が起きてしまいますよね。そんな時こそ、解決策を一方的に押し付けるのではなく、「自分は何に消耗しているのか」という内面を共有することが大切です。そうすることで、家族全体のリソースを最適化していく道が見えてきます。

高阪:「誰か一人が無理をして消耗している」という状況をみんなで理解し、お互いを気遣い、尊重し合う。その姿勢こそが、ウェルビーイングな関係性の土台になりますね。

堂上:職場も家族も、お互いの「願い」を否定せずに聴き合う。身近な関係性に悩んでいる方にとっても、この考え方は「ウェルビーイングな暮らし」を叶えるための大きなヒントになりそうです。

「奪い合い」から「満たし合い」へ。優しさが循環する未来を目指して

堂上:最後に、お二人の「今」と「未来」について伺わせてください。まず、今この瞬間、お二人が「ウェルビーイングだな」と感じるのは、どのような時でしょうか。

櫻本:私はやはり、5歳になる子どもと、これから新しく家族に加わる子の存在ですね。子どもが日に日に新しいことができるようになり、世界が広がっていく姿を見るのは、何にも代えがたい喜びです。未来への希望を肌で感じさせてくれます。

また仕事面では、クライアントさんが自ら変化し、一歩踏み出す瞬間に立ち会えることが、私にとってのウェルビーイングな瞬間です。

堂上:成長を実感できる瞬間というのは、本当に尊いものですよね。私も最近、子どもたちの卒業式や、サッカークラブの卒団式が重なっているのですが、入場行進を見ただけで号泣してしまって(笑)。

高阪:そのお気持ち、よくわかります。私も卒業式の校歌斉唱で、まだ何も始まっていない段階から泣いてしまいます(笑)。

堂上:涙腺が弱くなりますよね。高阪さんにとってのウェルビーイングな瞬間はいかがですか?

高阪:私は2つあります。ひとつは「静かな朝の読書時間」です。家族がまだ寝静まっている1時間ほど、一人で本を読む時間がとても贅沢に感じられます。

もうひとつは「丁寧に料理を作ること」ですね。共働きで忙しく、普段はつい効率を優先してしまいますが、たまに時間をかけて一品を作れると、自分自身の心が整っていく気がします。

堂上:料理はクリエイティブな作業ですし、自分のため、誰かのために「時間」というリソースをかけること自体が、心の余白を生みますよね。まさに、効率化だけでは得られない「時間の豊かさ」こそがウェルビーイングの鍵だと感じます。

では少し先の未来、2050年にはどのような社会になっていてほしいですか?

櫻本:私はやはり、心理的リソースの観点から、世界が「奪い合い」ではなく「満たし合い」のループに入っていてほしいと願っています。争いや消耗の負の連鎖をどこかで食い止め、お互いのリソースを補い合い、満たし合える。そんな温かな循環が、社会の当たり前になっていてほしいですね。

堂上:そのループが生まれると、お互いの存在を認め合いリスペクトできる社会になっていきますね。高阪さんはいかがでしょうか。

高阪:私たちはメディアとして「Better Capitalism-やさしさがめぐる経済をつくろう」というビジョンを掲げています。誰かを蹴落として一人勝ちするのではなく、みんなで幸せになれる社会です。

テクノロジーの力も借りながら、誰もが自分らしい形で社会に参加し、優しさが自然と循環するような、多様でポジティブな変化が形になっていてほしいですね。

堂上:「巡り合う」と「満たし合う」。お二人の言葉に、これからの社会が向かうべき温かな方向性が見えた気がします。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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