女性のライフステージにおける課題を解決するため、フェムテック・フェムケア企業が一堂に出展する『Femtech Tokyo』。そして女性のウェルビーイング向上につながるサービス・製品が一堂に会する『女性のウェルビーイング推進 EXPO』。そんな2つをあわせた総合展『Fem+(フェムプラス)』が2024年10月、東京ビッグサイトにて初開催された。2024年のテーマは「一緒に踏み出そう」。
今回は、女性のウェルビーイングを追求すべく『Fem+(フェムプラス)』で体験取材を実施。さらに当イベント内では、Wellulu編集長の堂上が「Fem+ セミナーパーク ~メディア・協力団体が届ける!女性の健康と活躍応援セミナー〜」に登壇した。
各ブースの様子と、博報堂キャリジョ研プラス&博報堂Woman Wellness Programのリーダー 白根由麻さんをゲストに繰り広げられた“とっておきのウェルビーイングトーク”をお届けする。
堂上 研
株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長
女性ならではの課題を認知&解決する
『Fem+(フェムプラス)』の会場に入ると、そこには所狭しとブースが出展されていた。「生理・月経ゾーン」「妊活〜産後ケアゾーン」「プレ更年期・更年期ゾーン」「女性のメンタルヘルスケアゾーン」「女性の健康全般ゾーン」の5つのゾーンに分かれ、各企業のサービスや体験コーナーが並ぶ。
Welluluチームがまず向かったのは、ロート製薬株式会社のブース。
ここでは、女性の更年期をサポートする生薬製剤『ラフローラ』などの様々な医薬品が展示されている。ブース内には「更年期とは?」という解説パネルが設置されていたり「更年期に対してどんな気持ちを抱いているのか」というアンケートが実施されていたりして、更年期をより身近に感じられる工夫がされていた。
続いて向かったのは、オンライン・ピル処方サービス『smaluna(スマルナ)』を運営している株式会社ネクノイのブース。ここでは電磁波による生理痛体験が可能。すでに体験した女性スタッフは「生理痛の『重たい感じ』がすごく表現されていた」と言う。
もっとも弱いレベル1から体験するが、徐々に腰は丸まり、レベル3に達した頃には「こんなに痛いの!?」「もう限界」とMAXレベル(レベル4)を前に断念してしまった。
次は、会場内でも行列が目立っていた株式会社フロムナウインターナショナルのブースへ。ここでは、1日15分座るだけで骨盤底筋を鍛えることができるマグネット(電磁パルス)トレーニングチェア『BIJIRIS(ビジリス)』が体験できる。
いざ座って「ヒップケアモード」のスイッチをONにしてみると、お尻に電磁波が伝わり、確かに普段使わない筋肉が刺激されているような感じがする。「骨盤底筋モード」では、腸の動きを活発にしたり冷え性対策ができたりするほか、姿勢ケアやいわゆる「膣トレ」などもできるのだそう。
最後に寝具メーカーの西川株式会社のブースへ行くと、『まもら騎士(ナイト)』と書かれた可愛らしいPOPが目に入ってきた。
『まもら騎士(ナイト)』は、生理中にモレが気になって何度も目が覚めてしまう悩みを解消するべく開発された商品。防水加工のシーツやレギンスは、寝具や衣類を守る“おまもり”として使用することで、心軽やかに眠りにつけそうだ。
写真上は、肌にあたる面に保湿性に優れた天然素材のシルクを使用した枕カバー。摩擦による肌や髪へのダメージを軽減してくれるそうで、眠りながら美容ケアも出来るという優れモノだ。
他にもたくさんのブースを回って感じたのは、男性はもちろん、同じ女性でも知らなかった悩みがとても多いことである。また同時に女性にとっては、「悩んでいたのは自分だけじゃなかった」と安心感を得られる場所でもあっただろう。そして、これまで悩んでいたことの多くが、製品やサービスによって解決できるということである。
『Fem+』2025年開催情報
【会期】2025年6月25日(水)~27日(金)
【会場】東京ビッグサイト 南3・4ホール
https://www.femtech-week.jp/
オープンになることで生まれる新たな発見
ここからは、女性の健康やウェルビーイングをテーマに行われたセミナーの様子をお届けする。白根由麻さんをゲストに迎え、女性ならではの悩みや心配事、またそれを解決するための糸口についてざっくばらんに語り合った。
白根 由麻さん
株式会社TEKO LEVERAGE グロースパートナー 株式会社博報堂DYベンチャーズ ベンチャー・キャピタリスト 博報堂キャリジョ研プラス&博報堂Woman Wellness Program リーダー
堂上:今日のセミナーは女性の健康やウェルビーイングがテーマということで、僕がわからないことを白根さんにお伺いするという形で進めていきたいと思います。白根さん、どうぞよろしくお願いします。
白根:こちらこそよろしくお願いします!
堂上:早速ですが、白根さんが進めているプロジェクトについてお伺いしてよろしいでしょうか?
白根:もちろんです。私は博報堂のなかで「働く女性」をテーマに独自調査などを進めるプロジェクト、「博報堂キャリジョ研」に参画しています。2023年に「博報堂キャリジョ研プラス」という名前に変更。今は働く女性(キャリジョ)を社会課題と捉えて、様々な研究をしています。今日はその派生チームであり、女性の健康課題に特化した「博報堂Woman Wellness Program」のリーダーとして参加させていただきました。
白根:「博報堂 Woman Wellness Program」では、女性の健康課題の解決を目指した事業やサービスを進めたいという企業に対して、女性の健康にかかわる有識者などの知見も取り入れながらサポートを行っています。最近は更年期など女性特有の悩みに関するウェビナーも開催していて、そのアフタートーク(※)がWelluluでも公開されているのでぜひ覗いてみてください。
※更年期、PMS、妊活……女性の人生をフルサポートするメンバーが見つけた「自分史上、最高のウェルビーイング」
堂上:ありがとうございます。今日は白根さんのプライベートについても突っ込んでしまうかもしれませんが、ご容赦ください。
白根:もちろんです。私も普段、プロジェクトを進めるうえで「言いたいことは言ってね」とメンバーに伝えるようにしています。もちろん言いたくないことは言わなくても問題ないという心理性安全性を担保しながらですが、オープンに話し合うことで発見することもたくさんありますからね。今日も話せる限り話そうと思います。
堂上:心強いです。よろしくお願いします!
「言い慣れること」と「聞き慣れること」
堂上:早速ですが、普段男性には言いにくい女性ならではの悩みにはどんなものがあるのでしょうか。
白根:まずは仕事と出産・育児の両立ですね。キャリジョ研でも、20代のメンバーに「仕事をしながらでも子どもは産めますか?」とよく相談されます。実際にメンバーのなかには出産を経験しつつキャリアを積んできた女性も多いので「心配しなくて大丈夫だよ」と伝えているのですが、やはり心配する女性は多いですね。
堂上:なるほど。上長が男性だと、やっぱり相談しづらいものですか?
白根:私が社会人になりたての頃は、社内に女性が少なかったこともあって、あまり相談できませんでした。でも、この15年くらいで雰囲気は確実に変わっていて、昔に比べたらだいぶ言いやすくなったんじゃないかな。実際、私の周りにも妊活していることを上司に伝えたうえで、一緒に異動を検討したりキャリアプランを練ったりしている女性もいますよ。
堂上:素敵ですね! 女性に限らず、ウェルビーイングな職場には透明性や心理的安全性、つまり立場に関わらずオープンに話せる環境が欠かせません。僕は余計なことまで全部オープンにしてしまうのですが(笑)、女性ならではの悩みももっと気軽に話せる環境を作れたら良いですよね。
白根:本当にそう思いますね。女性ならではの悩みは大きく分けて3つ、「月経」「妊娠」「更年期」に分類されます。もちろん男性にも悩みはありますが、女性が生きていくうえでは課題が付きものなのだと、私も以下の調査結果を見て改めて思いました。
堂上:生理による不調「PMS(月経前症候群)」で悩まれる方はやはり多いですか?
白根:そうですね。身体的なものから精神的なものまで症状は人それぞれではあるものの、調査をした女性の半数以上がPMSによる何らかの症状を自覚していました。なかには「PMDD(月経前不快気分障害)」という不安・緊張、情緒不安定、怒り・イライラなどの精神症状を伴う方もいらっしゃいますし、更年期による不調も約半数が自覚しています。つまり、成人女性の2人に1人が何かしらの不調に悩まされているということです。
堂上:なるほど。これを言ったら怒られちゃうかもしれませんが、たまに妻がイライラしているのはPMSや更年期が影響していると考えて良いのでしょうか……?
白根:それは十分に考えられますが、シンプルに堂上さんに何か怒っているだけの可能性も……(笑)。
堂上:片付けをしないとか人の話を聞かないとかよく言われるので、我が家の場合はそっちの可能性のほうが高いかも(笑)。
白根:職場はもちろん、家族からでさえ女性特有の悩みが理解されにくいこと、つまり、社会的スティグマについては今後もしっかり考えていかなければいけません。職場の雰囲気や、世代間のギャップによって理解してもらえないと感じている女性は多いんですよ。 それから、そもそも女性自身が自覚できていないという課題もあります。例えば、更年期は症状が出てから自覚するまでに、約半年から1年かかるといわれています。婦人科には行きづらいということも、これまた課題のひとつなんです。
堂上:なんとなくわかるような気がします。きっと、そもそも女性特有の悩みは「恥ずかしいことではない」と自覚してもらうことも大切ですよね。10年後にそういった考え方・環境が当たり前になるためには、教育も関係してくると思います。
白根:おっしゃる通りです。オープンに話すことで周囲の方も慣れていきますし、「言い慣れる」「聞き慣れる」ことが大事ですね。
女性がウェルビーイングに働くために欠かせない周囲の支援
堂上:僕は『Wellulu』を通じて、「ウェルビーイングな働き方」についても注目しています。ここ数年、数十年で女性の働き方も変わってきているとはいえ、まだ「働きづらいな」と感じている方もいますよね。白根さんは、どういった職場環境が女性のウェルビーイングにつながると思いますか?
白根:現在は女性が会社に常駐する時代になりましたよね。共働き世帯も約1,200万世帯あるといわれていますし、キャリジョ研の調査では、女性の98%が「ライフステージが変わっても何らかの形で働く」と答えています。
白根:その一方で、女性特有の健康課題が原因で仕事を諦めることを考えたり、実際に諦めてしまう方も多いんです。特に、不妊治療と仕事の両立は本当に大変で、それが原因でキャリアを諦めた方もいます。最近は不妊治療に専念することを理由に、1年間休職できる制度を整えた企業が話題になっていますが、そういった企業がもっと増えてほしいですよね。
堂上:そうですね。会社を辞めたり変えたりしなければ自分の身体としっかり向き合えないという現状は、変わるべきですよね。
白根:はい。そしてそのためには、大きく分けて4つのサービスが必要になります。 1つは、気づきを促すといった意味で「エディケーション分野」。若いうちから“誰でも”情報を得られるような、メディアなどからの発信はかなり重要です。
2つ目は、「医療アクセス」。地域によっては、婦人科の数はまだまだ少ないです。婦人科へ行くことのハードルを下げられるようなオンラインサービスのさらなる普及も必要ですよね。
それから、「周囲の心身のサポート」や「セルフケア商品」なども、今後もっと増えていくといいなと思います。何かしらの不調を自覚していても我慢してしまう方が多いので、サービスや商品に頼りながらもっと気軽に自分の身体について理解できる環境が整ったら、きっとウェルビーイングな人は増えていくはずです。
大切にしてほしいのは「我慢しない」こと
堂上:白根さんは、女性のウェルネスの未来はどんなふうに変わっていくと思いますか?
白根:ここ10年で「更年期」に関するSNSでの発話量が2倍以上になっていたり、その内容も多様化していたりしているように、女性特有の課題はオープンなものになりつつあります。
白根:このことを踏まえると、これからは2つの軸でのアプローチが大切だと考えています。
1つ目は、教育や情報のアプローチ。まずは個人が自分の身体について深く知れるように、若年教育が欠かせません。自分の身体を見直すという意味では、健康診断の整備なども必要です。 それから、「フェムテック」「フェムケア」という言葉がトレンドワードで終わってしまったら嫌だなと思っています。そのために、今日のようなイベントや、『Wellulu』などのメディアを通じて発信し続けること、女性だけでなく男性に語っていただくことも重要です。
2つ目は、企業へのアプローチです。すでに制度の導入が進んでいる企業では利用者を増やすこと、まだ導入が進んでいない企業では経営者の理解を広げながら、自治体や地域医療などとも連携しながら導入を進めることが大切だと思っています。
堂上:多くの個人と企業が活動を進めるようになったら、今よりもはるかにウェルビーイングな社会をつくれそうです。 では最後の質問になりますが、女性が生き生きと働くために、白根さんが女性自身に変わってほしいと思うことをひとつだけ挙げるとしたら何でしょうか?
白根:「我慢しないこと」ですね!!
堂上:なるほど。やっぱり、周囲に頼ることは大切ですよね。
白根:はい。一人で抱えるのは絶対やめましょう! 「これは言っちゃダメなんじゃないか……」と考えず、周囲の人に対してはもちろん、自分に対してもアクションを起こしていくことがウェルビーイングににつながるのではないでしょうか。まずは婦人科の先生をはじめ、会社のメンバーや家族、そしてモノやサービスなどにも頼ることを意識してほしいですね。
堂上:今回は、女性のウェルネスをテーマに対談しましたが、まず人がウェルビーイングに生きるためには他人に対してオープンになることが欠かせません。自分がオープンになることで、周りの人がきっと助けてくれる。そうすると、そこには自然と「ありがとう」が生まれ、組織全体がさらにウェルビーイングになっていくーー。僕らはそういう社会を目指したいと思っています。白根さん、今日はどうもありがとうございました!
白根:「ありがとう」という言葉は、言った側も、言われた側も、幸せな気持ちになりますもんね。こちらこそ、ありがとうございました!
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
https://ecotone.co.jp/