「電気代が高い」そう感じていても、電気代を安く抑えられる方法を検討するには、何から考えたらいいか分からないという人もいるのでは。
実は今、電気は買う時代から自宅で作って節約する時代に変わりつつある。 しかし、ただパネルを置くだけでは安心できない。長く使い続けるには、定期的なメンテナンスが必要だ。 もし放置してしまうと、数年で壊れてしまったり、怖いことに火災の原因になったりすることも。
今回は、太陽光発電所の運用・保守(O&M)分野で業界をリードする株式会社スマートエナジー代表取締役社長・大串卓矢さんに、実際の現場を知る立場から、生活者の皆さんにも知ってほしい再生可能エネルギーの新常識について伺った。

大串 卓矢さん
代表取締役社長
再生可能エネルギーへの転換を急ぐ理由は、二酸化炭素排出量を少しでも減らすため

── 最近、再生可能エネルギーという言葉を耳にする機会が増えました。なぜ今、これほど世界中で注目されるようになったのでしょうか?
大串さん:理由はシンプルで、再生可能エネルギーが人類にとって便利で合理的だからです。もちろん環境問題も大きいですが、各国のリーダーたちが再生可能エネルギーを推進するのはメリットが大きいからなんですよ。
太陽光発電や風力発電は、1度設備を作ってしまえば燃料代をかけずに、電気を生み出すことができます。石油のように産出国からの輸入に頼る必要がないので、輸送にかかるコストもありません。国を治める立場からすれば、コストをかけずに、他国の情勢に左右されずに、エネルギーを確保できる技術なんです。
── なるほど。必要不可欠な電気を生み出すためのさまざまなコストが抑えられるのは、たしかにありがたいですね。
大串さん:ええ。それに加えて、やはり地球温暖化への対策という世界共通のゴールがあります。
パリ協定という言葉を聞いたことがあると思いますが、これは世界の平均気温上昇を抑えることを目的として二酸化炭素の削減を進めるため、196の国と地域が参加している巨大な約束ごとです。2016年にパリ協定が発効されて以降、世界中のお金と技術が再生可能エネルギーに集中し、急ピッチで導入が進んでいます。
パリ協定とは
2020年以降の気候変動問題に関する、国際的な枠組み。批准した国では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をすることを目的に、温室効果ガス排出削減を目指す取り組みが行われている。
── ちなみに、温暖化の影響って実際どれくらい深刻なんでしょうか?
大串さん:実は、地球の平均気温の上昇って、わずか1度前後の上昇なんです。1度前後と聞くと大したことないと思うかもしれませんが、人間の体温で考えてみてください。平熱が毎日1度も高かったら、体調に影響を及ぼしますよね。地球も同じで、わずかな上昇でも異常気象などが起きている状態になります。
この上昇をプラス1.5度以内に食い止めないと、地球環境は暴走してもとに戻らなくなるといわれています。だからこそ、2050年までに二酸化炭素排出を実質ゼロにする必要があるんです。
とはいえ、再生可能エネルギーによる発電設備の建設で、森や海の環境を破壊してしまうのは本意ではありません。現在ある設備で再生可能エネルギーによる発電比率を最大限引き上げるためにも、発電効率のよい利用方法を考えていく必要があります。そのうちの一つが、当社の事業であるメンテナンスです。
私たちが知らないプロが教える太陽光パネルの守り方

── 太陽光パネルは1度設置すれば、あとはなにもしなくても電気を作ってくれるイメージがあります。メンテナンスが必要なんですか?
大串さん:メンテナンスが必要ないというのは、太陽光発電でよくある誤解なんです。実は、適切なメンテナンスが行われない状態が続くと、数年で不具合が生じたり、発電効率が大きく低下したりすることがあります。
車でたとえるとわかりやすいですが、車検もオイル交換もしない車に乗り続けたら、数年後には故障して走れなくなりますよね。
太陽光パネルも同じで、なおかつ雨風や紫外線、汚れにさらされる屋外にずっと置いてある状態です。メンテナンスをまったくしなかったら、パネルの汚れや半導体の劣化で、早ければ2〜3年でダメになってしまうこともあるんです。
── せっかく高いお金を出して設置したのに、それではもったいないですね。
大串さん:もったいないだけでなく、管理が行き届いていない場合にはリスクが高まります。太陽光パネルで発電した電気が、うまく流れずに溜まってしまうと熱を持ちます。パネルの裏側に枯葉などが溜まっていると、火災につながる危険性もあるんです。
だからこそ、定期的にプロの目で点検することが必要になります。
── 火災の原因に!それはとても怖いですね。具体的にはどのようなメンテナンスをするのでしょうか?
大串さん:具体的には、大きく分けて3つのことをしています。
1つ目は監視。24時間体制で発電状態を見守り、止まっていたらすぐに駆けつける。2つ目は予防。部品が壊れる前に交換して、トラブルを未然に防ぐ。そして3つ目は効率化。パネルの汚れを洗浄したり、設備自体を交換したりして発電量を最大まで引き上げるんです。
── 監視に予防に効率化まで……。単に「直す」だけではなく、常にベストな状態を保つための管理がおこなわれているんですね。
大串さん:そのとおりです。太陽光パネルにおいて、とくに重要なのが3つ目の効率化ですね。パネルって、鳥のフンやホコリで汚れるだけで発電効率がガクンと落ちるんですよ。その汚れを専用の機械で洗浄してあげるだけで、本来の性能を取り戻せます。発電量が増えれば売電収入も増えますし、無駄なコストも減らせますから。
当社は、大規模太陽光発電所のメンテナンスも請け負っています。きちんとメンテナンスをおこなうことで、現在設置されている発電所のポテンシャルを1.5倍まで引き上げられることもあります。太陽光発電の設備をこれ以上増やさずに、発電量を上げていくためにも、メンテナンスはとても重要です。
太陽光で作った電気はどう届く?知っているようで知らない電気が届く仕組み

── 太陽光で作られた電気は、私たちの家までどのようなルートで届いているんですか?電気の発電過程ごとに分かれているのでしょうか?
大串さん:電線の中で発電方法ごとに分かれているわけではありません。イメージとしてはダムが近いですね。水の場合、雨や雪解け水、川などから流れ込んだ水がダムに溜まり、取水設備を通じて家庭に供給されます。
電気も各地のさまざまな方法の発電所で発電された電気が流れ込み、1つの送電網に溜まります。そこから各家庭へ必要な分だけ電気を流しているんです。だから、各家庭のコンセントから使用している電気がどこで作られたものかは誰にもわかりません。
地域の世帯数や各家庭のアンペア数をふまえて、時間ごとの電気の需要を把握し、それに応じられる量の電気を供給しています。需要と供給のバランスが崩れると、電圧が乱れて安定した供給ができないため、日々細かい調整がおこなわれています。
── さまざまな発電所で発電された電気がミックスして家庭まで届いているんですね。雨の日に太陽光発電所での発電量が減った場合は、どんな調整がおこなわれているんですか?
大串さん:実は電力会社が明日の天気を見て、1日前に発電計画を決めているんですよ。「明日は晴れるから太陽光発電所の発電量が多くなりそう」「雨だから火力発電所の発電量を増やそう」など、予測をしています。
それでもズレた分は、待機させている別の発電所や蓄電池を稼働させて、埋め合わせているんです。
同じ再生可能エネルギーでも、太陽光・風力・水力はどう違う?

── 生活者が気づかないところで、そんな綱渡りのような調整がおこなわれていたんですね。ちなみに、同じ再生可能エネルギーでも、太陽光と風力や水力ではどのような違いがありますか?
大串さん:コストと導入のしやすさが全然違いますね。結論からいうと、太陽光発電は比較的少ない初期費用で導入できる点が、特徴のひとつです。
太陽光発電のパネルそのものは、個人向けに10〜20万円程度の製品も流通しています。屋根に設置する場合は工事費が必要ですが、簡易的な設置方法を選べば、初期費用を抑えられるケースもあるんですよ。個人が手軽にエネルギーの作り手になれるのは、太陽光ならではの大きな魅力ですね。
一方、風力発電や水力発電は、家庭規模では設置が不可能です。事業所規模になるため、建設に巨額のコストと時間がかかってしまいます。風力発電所を1基作るのに数億円、期間も10年以上かかることもあります。
── 最近は街中でも太陽光パネルを見かける機会が増えました。実際どれくらい普及しているのでしょうか?
大串さん:実際、20年前と比べると太陽光発電の導入量は大きく増えていて、身近な存在になってきました。その背景の一つが、経済面でメリットを感じる方が増えていることです。
たとえば、電力会社から購入する電気は地域や契約にもよりますが、1kWhあたり30〜40円程度かかります。一方、自宅で発電した電気を自家消費するときの実質コストは、1kWhあたり10〜20円程度になるケースもあるんです。
最近は、日本の火力発電の主力燃料である天然ガス(LNG)の価格が、ウクライナ情勢や円安の影響で高騰しているのもあり、電気代が高騰傾向にあります。そうしたなかで、電気を「買うだけでなく、自分でつくる」という考え方が、現実的な選択肢の一つになってきていると思います。
1kWh(キロワットアワー)とは
電力の使用量(電力量)を表す単位。1kW(1000W)の電力を1時間使ったときの電気の量を表す
── 太陽光(燃料)はタダなのに、なぜお金がかかるんですか?
大串さん:発電の燃料となる太陽の光はタダですが、パネルなどの機器代や設置工事費、メンテナンス費といったコストがかかるためなんです。そうした中で、電気を「買うだけでなく、自分でつくる」という考え方が、現実的な選択肢の一つになってきています。
── なるほど、太陽光発電をするうえで重要なメンテナンス費用も含めた単価なんですね。それでも買うより半額近く安いなら、十分魅力的です。
大串さん:そうなんです。自宅で発電する場合も初期費用はかかりますが、自治体によっては補助金を使うことで設置時の負担が抑えられ、長い目で見れば電気代の節約分で十分回収できます。
東京都や川崎市では、延床面積によって新築住宅建設時にソーラーパネルの設置が義務付けられました。これからは標準装備になっていくでしょうね。
次世代に胸を張れる選択を。私たちが今日から始められるエネルギーの見直し

── ソーラーパネルは設置されていて当たり前の設備になっていきそうですね。では最後に、私たちが再生可能エネルギー由来の電気を選ぶことは、未来にどんな影響を与えると思いますか?
大串さん:少し大げさに聞こえるかもしれませんが、再生可能エネルギーの技術は人類にとっての救世主だと思っているんです。人間はもう電気なしでは生きていけませんよね。
昨今、技術革新が目覚ましいAIだって膨大な電気を使います。必要不可欠な電気の発電燃料をこれまでのように石油や天然ガスだけに頼っていたら、値段はどんどん高くなりますし、最終的に各国での奪い合いになってしまいます。
それぞれの国で再生可能エネルギーの利用について考えていくことが、世界全体で地球のことを考えることにつながると思うんです。
── 再生可能エネルギーの利用を検討することは、最終的に地球環境に貢献することになるんですね。
大串さん:その通りです。次世代を生きる人たちに「昔の人たちが地球を壊したよね」って言われないようにしたいと思っています。今現在の気候変動を食い止めるためにも、未来の環境を守るためにも、まずは電気のことから考えてみてほしいです。
── 再生可能エネルギーが、環境だけでなく家計を守る合理的な選択だとよくわかりました。再生可能エネルギーを支える技術(O&M)の重要性と、次世代のためにという言葉を胸に、まずは電気から考えてみたいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました!
東京大学農学部環境学専攻卒。公認会計士資格取得後、PwCで環境・気候変動分野のコンサルティングに従事した。2007年にスマートエナジーを設立。現在は太陽光O&M契約量で全国1位*を達成し、環境ビジネスを推進している。*(業界誌『PVeye』2025年5月号)
公式HP:https://www.smart-energy.jp/