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妊婦の調理済み食品の摂取頻度と妊娠帰結との関連について【名古屋市立大学・杉浦教授】

料理の手間を省いてくれる、便利なお弁当やお惣菜。調理済み食品と健康にはどんな関係があるのだろうか?

名古屋市立大学大学院医学研究科の杉浦真弓教授、玉田葉月研究員らが、妊婦の調理済み食品の摂取頻度と妊娠帰結との関連について調べた研究によって、調理済み食品のうち、市販のお弁当や冷凍食品の摂取頻度と死産に関連があることがわかった。

今回は杉浦教授に、研究の詳しい内容と妊婦の食生活についてお話を伺った。

杉浦 真弓さん

名古屋市立大学大学院医学研究科 産科婦人科教授

文部科学省共同研究拠点 不育症研究センター長。1985年3月 名古屋市立大学医学部卒業。1986年8月 国立浜松病院産婦人科勤務。1987年10月 名古屋市立緑市民病院産婦人科勤務。1993年7月 名古屋市立大学産科婦人科にて研究に従事。2006年1月 名古屋市立大学大学院医学研究科 産科婦人科教授就任。2015年4月 名古屋市立大学医学部不育症研究センター長 兼任

調理済み食品がもたらす身体への影響とは

── まず、今回の調査はどのようにおこなわれたのでしょうか?

杉浦教授:今回の研究では、子どもの健康と環境に関する全国調査である「エコチル調査」のデータを使用しました。環境省によっておこなわれている、全国約10万組の親子を対象とした大規模な疫学調査です。

調査開始当初は、“2011〜2014年に登録いただいた妊婦さんに、妊娠中から生まれた子どもが13歳になるまでご協力いただく”という計画でしたが、2022年度に子どもが40歳程度になるまで調査を進めていく方針が打ち出され、まずは18歳になるまでの参加同意をいただけるように基本計画が改定されました。

この調査結果をもとに、産婦人科医や小児科医、精神科医など、さまざまな専門の先生方が論文を書き、すでに300本以上も発表されています。

今回は「エコチル調査」のデータを使い、調理済み食品と死産・早産などの妊娠帰結の関係を研究させていただいたという流れです。

── とくに“調理済み食品と妊娠帰結の関係”に着目されたのはなぜでしょうか?

杉浦教授:私自身、流産・死産を繰り返し生児が得られない“不育症”をライフワークとして長年研究を進めています。

1回の妊娠で流産する人が約15%、流産・死産を繰り返す人が約5%、つまり20人に1人は流産や死産を繰り返しており、決して珍しいことではないのです。しかし、流産や死産をカミングアウトする人が少ないため、頻度が高いということもあまり知られていません。

そのため、自分だけが大変な病気にかかってしまったのではないかと孤立してしまい、うつ状態になってしまうなど、すごくつらい病気なんです。

今回の研究結果でも、死産との関連を明らかにしたのですが、ここが私の研究テーマなんです。

── 杉浦教授は長年“不育症”の研究に取り組まれているのですね。

杉浦教授:また、身体の機能調節のために重要な役割をもつ「内分泌系」に悪影響を与え、身体に異常を起こす「内分泌かく乱物質」というものがあります。

過去に“不育症”の患者さんたちの血液を調べたところ、その物質の1つである「ビスフェノールA」の濃度が、普通に出産をしている人と比べて高いことがわかり、「ビスフェノールA」は世界中でかなり規制されるようになりました。

ですが、今でも「ビスフェノールA」に似たような化学物質は使われていて、身近なものだとプラスチック容器などに含まれています。そして、このような物質がプラスチック容器から溶け出す場合があるのではないかと心配する声があるんです。

そこで、プラスチック容器が使われているお弁当なども“身体への影響があるのではないか”と考え、料理学を専門としている玉田葉月先生と協力し、食生活に着目した研究をおこないました。

市販のお弁当・冷凍食品の摂取頻度が死産と関連

── 「エコチル調査」のデータを用いて、どのように研究をおこなわれたのでしょうか?

杉浦教授:「エコチル調査」の中に“最近1ヵ月、朝食や昼食、夕食に主としてコンビニエンスストアやスーパー、お弁当店などで買ったお弁当を食べることはどのくらいありましたか”のような質問があり、【週1回未満、週1〜2回、週3〜4回、週5〜6回、毎日】の選択式で、妊婦さんに回答してもらっています。

調理済み食品(市販のお弁当、冷凍食品、レトルト食品、インスタント食品、缶詰食品)と、市販の飲料(コーヒー豆や茶葉から抽出されたもの、ペットボトルや缶で販売されているコーヒーや茶類)の摂取頻度と妊娠帰結の関連について、94,062組のデータを参考に調べました。

妊娠帰結とは、妊娠がどのような結果となったかということで、今回の研究では【死産、早産、SGA(在胎週数の標準出生体重と比較して出生体重が小さい新生児)、低出生体重】を妊娠帰結としています。

── 研究の結果、どのようなことがわかったのでしょうか?

杉浦教授:早産、SGA、低出生体重について目立った関連はみられませんでしたが、市販のお弁当または冷凍食品の摂取頻度が死産と関連していることが明らかになりました。

死産との関連を細かく見てみると、市販のお弁当を週1回未満食べている人に比べ、週1〜2回食べている人は約2倍、週に3〜7回以上食べている人は約2.6倍。冷凍食品では週1回未満の人に比べ、週1〜2回の人が約2.2倍、週3〜7回以上の人が約2.1倍という結果になりました。

ちなみに、そのほかの調理済み食品(レトルト食品、インスタント食品、缶詰食品)の摂取頻度と死産との関連はみられませんでした。

── レトルト、インスタント、缶詰食品では関連がみられず、市販のお弁当と冷凍食品で死産との関連がみられたのには、どのような理由が考えられるのでしょうか?

杉浦教授:今回の研究ではメカニズムまでは解明できていません。ですが、死産との関連がみられた市販のお弁当と冷凍食品の共通点として“プラスチックの容器に入った食品を電子レンジで温めて食べる場合が多い”ということが挙げられます。

缶詰食品はそもそもプラスチック容器に入っていませんし、レトルト食品、インスタント食品に関しても、湯煎で温めたり、お湯を加えたりすることはありますが、電子レンジのように瞬間的に高温になることはありません。

ほかにも要因がある可能性は否定できませんが、現時点ではプラスチック容器に入った食品を電子レンジで温めたとき、高温になり化学物質が食品に溶け出したことで、身体に何らかの影響があらわれたのではないかと予測しています。

神経質になりすぎず、バランスのよい食事を心がけよう

── そうなると、妊娠中は市販のお弁当と冷凍食品を避けたほうがいいのでしょうか?

杉浦教授:いえいえ、市販のお弁当や冷凍食品を食べること自体が悪いのではなく、あくまでもプラスチック容器を電子レンジの高温で温めることに原因があったのではないかと考えています。

ですので、お弁当は温め直さずに常温で食べるようにする、一度陶器に移してから電子レンジで温めるなどの工夫をしていただくことをおすすめしています。

お仕事でお忙しい方もいらっしゃると思いますし、毎食調理をするのも大変ですよね。無理に食生活を制限しようとせず、便利な市販のお弁当や冷凍食品を取り入れてもらってよいと思います。

市販のお弁当と冷凍食品も、工夫しながらうまく活用してください。

── 市販のお弁当・冷凍食品を取り入れる際の工夫についてお伺いしましたが、そのほか妊娠中の食生活でどのようなことに気をつければよいでしょうか?

杉浦教授:すでに知られている話ではありますが、葉酸は二分脊椎や無脳症を予防する作用があるので、WHOを含め世界的に妊婦さんに推奨されています。

葉酸は緑の野菜に含まれていますが、必要量を食品のみから摂取するのは大変ですので「サプリなどで補うのがいいですよ」とアドバイスしています。

また、前からさまざまな研究でいわれていましたが、今回の研究結果でも、妊婦さんのカフェイン摂取は死産、早産、SGA、低出生体重と関連があるという結果が得られました。

ですが、コーヒーや紅茶は嗜好品なので「0にして!」というとすごくストレスですよね。
具体的な摂取量の目安などはわかっていないので、「0じゃなくていいけれど、1日の量を2杯までにとどめてください」のようなアドバイスをおこなっています。

── 妊娠中は葉酸を補うようにして、カフェインの摂取量に気をつけておくのが望ましいのですね。

杉浦教授:ほかにもさまざまな食品に関する情報やうわさを聞いた方もいらっしゃるかもしれませんが、妊娠中の食事に関しては「この食べ物に効果がある」と発表されたあとで、否定的な情報がでてくるようなことが繰り返されるケースが多いんです。

あまり神経質にならずに、バランスのよい食事をとっていただけるといいなと思っています。

【妊娠中の食生活のポイント】

  • プラスチック容器入りの食品を電子レンジで温めるときは陶器に移す
  • 二分脊椎や無脳症を予防する作用がある“葉酸“はサプリメントで効率よく摂取できる
  • カフェインの摂りすぎには注意する
  • あまり神経質になり過ぎず、バランスのよい食事をとる

意味のない制限はやめて、妊娠生活を楽しんで

杉浦教授:多くの方に知っていて欲しいのが、多くの流産は妊娠初期に起こり、その原因の多くは“胎児の染色体の数の異常”なんです。「16番目の染色体が3本ある場合が最も多く、21番目の染色体が3本ある場合は」その2割がダウン症のお子さんとして生まれますが、8割は流産します。

妊娠初期で流産した方が「精神的ストレスが多かったからではないか」「私が仕事や運動をしすぎたせいじゃないか」「食事に気を遣わなかったからか」など、自分を責めてしまうことがあるんですが、そうではありません。単に流産した赤ちゃんが染色体異常だったんです。

── 自分の妊娠中の過ごし方を責めて、つらい思いをする必要はないということですね。

杉浦教授:多くの流産は10週未満で起きるのですが、この時期は普通にお仕事をしていただいて問題ありません。22週以降でお腹も大きくなってくると子宮に負荷がかかってしまうので、長時間の立ち仕事や、夜勤などがある不規則なシフトワークは制限するほうがよろしいかと思います。

また運動に関しても、妊婦健診を受けた上でお医者さんと相談にはなりますが、マタニティビクスやマタニティスイミングなども積極的におこなわれたりするくらいなので、基本的には自分のやり慣れているスポーツなど、運動をしていただいて構いません。

そして28週で身体にあまり負担をかけないほうがよい時期になってくると、育休を取ることができるので、育休・産休のタイミングにもちゃんと理由があるんです。

妊娠したらずっと仕事を制限しなくてはいけない、運動はできない、重いものを持たなくてはいけないと、やみくもに制限するのではなく、妊娠周期に合わせた過ごし方を心がけて、妊娠生活を楽しんでいただいて欲しいです。

そして、育児が終わったらお仕事を復活して…ということができるといいですよね。

── ほとんどの流産は妊娠中の過ごし方に原因があるものではないので、神経質に何でも制限する必要はなく、周期に合わせた過ごし方を心がけるといいのですね。本日は貴重なお話ありがとうございました。

Wellulu編集後記

今回は名古屋市立大学大学院医学研究科の杉浦教授に「妊婦の調理済み食品の摂取頻度と妊娠帰結」の関連についてお話を伺いました。

詳しいメカニズムは明確になっていないものの、市販のお弁当や冷凍食品を食べることが悪いわけではなく、プラスチック容器を電子レンジで温めることを避ければよいとのこと。すべて制限してしまうのではなく、陶器に移して温める、常温で食べるなど、工夫しながらお弁当や冷凍食品を取り入れていきたいと感じました。

また“不育症”を長年研究されている杉浦教授に、妊娠中の食生活や過ごし方についてのポイントもお話しいただきました。制限ばかりの生活で苦しくなってしまうのではなく、正しい知識を得ることで、周期に合わせて楽しく妊娠生活を過ごせる妊婦さんが1人でも増えるといいなと感じます。

本記事のリリース情報

妊婦の調理済み食品の摂取頻度と妊娠帰結との関連について

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