
世界最大規模の国際NGO「ワールド・ビジョン」。「すべての子どもに豊かないのちを」というビジョンを掲げ、約100カ国で開発援助、緊急人道支援、アドボカシー(政府・社会への働きかけ)に取り組んでいる。
主な活動のひとつが、毎月の寄付で子どもたちの成長を支える「チャイルド・スポンサーシップ」。通常は、スポンサー=大人側が支援する子どもを選ぶ仕組みだが、現在展開中のキャンペーン「Chosen(チョーズン)」では、“子どもがスポンサーを選ぶ”という(2025年5月31日まで期間限定で実施)。
その逆転の発想が生んだ、思いがけないドラマと気づき、支援を通して花開く子どもたちの夢とは——。
「選び、選ばれる」ことで人生が変わった瞬間を目の当たりにしてきた、ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)の木内真理子理事・事務局長と、「Chosen(チョーズン)」担当者・山下泉美さんにお話を伺った。

木内 真理子さん
特定非営利活動法人 ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)理事・事務局長
青山学院大学非常勤講師、JICA事業評価外部有識者委員、国際協力NGOセンター(JANIC)理事、日本NPOセンター副代表理事

山下 泉美さん
特定非営利活動法人 ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)
マーケティング第1部 新規ファンドレイジング課
ラジオ番組ディレクターとして、文化放送、J-WAVEなどで音楽番組の制作に従事。東日本大震災を機に「命を助ける仕事がしたい」と2011年ワールド・ビジョン・ジャパンに入団。テレビ番組「世界の子どもの未来のために」の制作を担当し、テレビクルーとともにアジア、アフリカ各国の支援地域を訪問。途上国の子どもたちの現状や想いを伝え、支援の輪を広げるべく活動している。
東日本大震災が私たちの人生を変えた
——本日は「Chosen」の取り組みを中心に、子どもたちへの支援や、それによって生まれるウェルビーイングな体験について伺いたいと思います。まずは経歴と現在の活動について教えてください。
木内:「ワールド・ビジョン・ジャパン」(以下WVJ)の理事・事務局長を務めております、木内真理子です。大学卒業後、ODA(政府開発援助)に携わる政府関係機関で、円借款による社会インフラ支援を担当していました。出産を機に柔軟な働き方を求めて東京大学へ転職しましたが、やはり現場に携わりたい思いが強く、2008年にWVJへ入団しました。子どもたちの顔が見える支援に魅力を感じたのがきっかけです。
入団後は、アフリカ、中南米、ウズベキスタン等の担当として充実した日々を送っていたのですが、2011年の東日本大震災を機に仕事が一変しました。同年5月、東日本緊急復興支援部長に任命されたのです。
——どういった職務だったのでしょうか?
木内:ワールド・ビジョン(以下WV)は、約100カ国に拠点があり、どこかで災害や紛争が起こると、他の拠点が支援を募ります。普段は「支援する側」のWVJも、この時は「支援を受ける側」となり、国内外から40億円を超える寄付をお預かりしました。
円借款業務でも億単位の資金を扱ってきた経験はありましたが、「いますぐ届ける」には迅速な判断と実行力が求められました。いまだに忘れられないのですが、東日本緊急復興支援部長になると決まった当初、グローバルチームのメンバーからこう言われたんです。
「今日からあなたは指揮官だ。判断の正しさよりも、その時々に即断することが大切。迷っていてはメンバー全員が迷う」
このアドバイスはものすごく正しかった。厳しい状況でしたが、背中を押してくれるプロフェッショナルな仲間や言葉があったからこそ、あの局面をなんとか乗り越えられたのだと思います。すべての拠点でミッションとビジョンが共有されている。それがWVの大きな強みだと実感しました。

——山下さんは東日本大震災が起きた2011年に、WVJに入団されていらっしゃいます。
山下:はい。現在は、新たな支援者の輪を広げる「新規ファンドレイジング課」に所属しています。まさに私も東日本大震災で大きく人生が変わったんです。もともとはラジオ局で音楽番組のディレクターをしていて、震災当時は東京でマーケティングの仕事をしていました。イベントは次々中止、計画停電もあったなか、変わらず出社する自分にもどかしさを感じていたんです。「現場で支援にあたっている人たちがいるのに……」と。
——どんなきっかけでWVJに?
山下:ある日、テレビでタレントが「いま僕たちに何ができるだろう」と義援金を呼びかけている姿にものすごく感銘を受けて。私も寄付をしようと検索した時にWVJと出会ったんです。すると「マーケティング職募集」の告知が目に飛び込んできて。「えっ、私でも役立てるかも!」と一晩で履歴書を書いて応募しました(笑)。
——すごい行動力ですね。それほどまでに突き動かされた理由はなんだったのでしょう?
山下:幼い頃から正義感は強くて、理不尽なことに怒りを感じるタイプでした。今でも根底には“怒り”があるんです。児童婚の問題にしても、女の子たちが置かれている理不尽な状況に対して、なぜこんなことがまかり通るんだという強い憤りを覚えています。
すべての人は価値あるものとして生を受けている
——WVのビジョンである「すべての子どもに豊かないのちを」。その“豊かさ”とは、どういった状態を指すのでしょうか?
木内:これはもう「待ってました」のご質問ですね。私は“豊かである”ことは、すなわちウェルビーイングな状態だと考えています。具体的に掘り下げると、4つの豊かさがあると思うんですね。
1つ目は、生計が安定しており、十分な食事や医療を受けられる「物質的な豊かさ」。
2つ目は、学びや対話を通じて自分らしさを育みながら生きられる「精神的な豊かさ」。
3つ目は、社会と安心して関われる「社会的な豊かさ」。自分を取り巻く人々と良い関係を築けているか。さらに、必要なときに守られ、支えられる安心感も含みます。
これら3つは、Welluluさんが提唱する「21の主観的ウェルビーイング因子」にも通じると思います。
WVならではの視点が、4つ目の「スピリチュアルな豊かさ」。一見スピリチュアルという言葉に抵抗がある人もいるかもしれませんが、これは自然や宇宙、信仰といった“自分を超越した何か”とのつながりを意味します。
木内:この4つ目の豊かさを一言で表すなら、「すべての人は価値あるものとして、愛される存在としてこの世に生を受けた」ということ。このことを、子どもたち一人ひとりが心の底から信じられて、人生を歩んでいける状態だと思うんです。物質的、精神的、社会的な豊かさに加えて、人智を超越した存在から「価値ある尊いもの」とされている。それが主観的ウェルビーイング21因子の根底を、横から串を刺すようにして支えているのではないでしょうか。
これら4つすべてが備わった状態こそ、子どもにとって真にウェルビーイングな状態なのだと私たちは考えています。
——とても心に響きました。日本は学校にも病院にも通える安定した国家ですが、一方で子どもの孤立や自ら命を絶つなど胸が痛む現実もあります。土台となるべき大切なものが足りていないのではないか、大人もそこをきちんと与えられていないのではないか……と考えさせられます。
木内:現代では「承認欲求」が高まっていると言いますよね。人から愛情を受け取ることはもちろん大切ですが、他者に寄りかからないと立っていられない状態は、とても不安定です。だからこそ、「自分は価値ある存在なんだ」「絶対的な存在にそう認められているんだ」と確信を持てることは、日本社会においても、終わりの見えない紛争のなかで生きている子どもたちにとっても必要だと感じますね。
“選ぶ権利”を子どもたちに取り戻そう
——子どものウェルビーイングにも深く関わる「Chosen」という取り組みについて教えてください。
山下:「Chosen」は支援の“始め方”なんです。私たちは「チャイルド・スポンサーシップ」といって、子どもが健やかに成長できる環境を目指して、1日あたり150円、月々4,500円の支援金により、地域の水衛生や保健・栄養、教育、生計向上に取り組む継続支援を行っています。
通常はチャイルド・スポンサー(支援者。以下スポンサー)が子どもを選ぶ仕組みですが、「Chosen」では子どもがスポンサーを選ぶという“逆転の発想”から生まれました。2019年にアメリカで始まり、日本では2021年から展開しています。子どもたちに選ばれたスポンサーは世界で15万人にのぼります。
——子どもたちはどうやってスポンサーを選ぶのでしょうか?
山下:スポンサーの写真だけが渡されるんです。名前もプロフィールも一切なし。それでも子どもたちは「この人!」と選ぶんですよね。「お母さんに似ている」「笑顔がすてき」など理由もさまざまでおもしろいんですよ。
「この人は守ってくれそう!」と決めた子もいました。そのスポンサーさんはなかなか強面なので、支援地域に行っていただいた時に子どもたちが逃げてしまって……(笑)。でも今春、支援地を訪問していただいて、「Chosen」で彼を選んだ子に対面した際、子どもが彼を見つけると一直線に駆け寄って来たんです。この子はスポンサーの写真を家の目立つところに飾って「日本のお父さんができた」と嬉しそうに話していたそうですよ。
——子どもたちは思いがけない角度から、大人たちを見つめてくれるのかもしれませんね。自分では思いがけなかった一面も魅力と捉えてくれるとか。
山下:そうなんです。とある男性は、中学生の男の子に「カッコよくて憧れる」と指名してもらったんですね。その言葉を受けてすごく自信がついたそうです。「Chosen」の“選ばれる喜びをあなたに”というコンセプトを象徴する出来事でした。
よく「私は選ばれないんじゃないか」と心配される方もいますが、絶対に大丈夫です。子どもたちはちゃんとあなたを見つけてくれます。
——ビビッとくるというか、大人が失ってしまった直感力を子どもたちは持っているのでしょうね。自分を目がけてまっしぐらに愛をくれる体験は、得難い喜びでしょうね。
山下:子どもとスポンサーが一対一で繋がるので、「支援を通じてすごく元気をもらえる」というお声もよく聞きます。身の入り方が違いますよね。
木内:“選ばれる”ことで、責任感が芽生えるんですよ。「選んでくれた子がいる」と思うと、背筋が伸びる。気が引き締まるというか(笑)。
「絶対に我が子に選ばせる」と待ち続けた母
——「Chosen」の後、チャイルド・スポンサーシップでは、子どもたちとはどのように関係を育んでいくのでしょうか?
山下:まず「あなたを選んだ理由」が書かれたお手紙が届きます。これがまた胸に迫る瞬間で……。その後も年に1回、成長報告が写真と共に届き、希望すれば手紙のやり取りも可能です。アルバムのように、子どもたちが大きくなっていく過程を見守れるんです。
——そうした交流を見つめるなかで、印象深かったエピソードはありますか?
山下:昨年の夏、支援地域でパーティを開いたんです。そこで現地の子どもたちが「児童婚はだめだよ」というメッセージを込めた歌を披露してくれました。その作曲を手掛けた子がとても音楽の才能にすぐれていて。本人が「僕は音楽をやっていいんだ、作曲できるんだ」と自分の価値を信じて挑戦した。
それができたのはチャイルド・スポンサーシップの支援があってこそだと思うんです。支援を通して、やりたいことをやってみていいんだ! という自己肯定感が養われ、家族やコミュニティにも子どもの選択や挑戦を後押しする考え方が醸成されていったからだと思うんです。ああ、こういう変化が実際に起こっているんだと胸が熱くなりました。
「Chosen」はあくまで始まりのアクションですが、やがて振り返った時に「あれが大きな一歩だったな」と感じてもらえたら嬉しいです。日本でも子どもの選択権を尊重するようになってきましたよね。自分で選んで自分の人生を切り拓いていく、そのスタート地点になってくれたらと。
木内:それでいうと、あのお母さんの話もすごく印象的だったよね?
山下:ああ、忘れられません。3歳くらいの女の子が、お母さんに連れられてスポンサーを選びに来たんです。でも、年齢的にまだ自分の意思をはっきり示せず、「何すればいいの?」と戸惑っていて。ものすごく暑い地域だったのもあって、周りで見守っていた大人も消耗して「もうお母さんが選んであげては……」という雰囲気になってきたんです。でもお母さんは一切口を出さず、じっと待ち続けたんです。
木内:お母さん、すごい決意ですよ。そもそも途上国では、子どもが選ぶというチャンス自体が、日本では想像できないぐらい劇的に少ないんです。「何を買う? 何がしたい?」という問い以前に、「今日のご飯を食べられるか/食べられないか」という非常に現実的な二択が立ち塞がるので。
山下:アフリカで出会った子に「夢を書いてみて」とボードを渡したことがあるんです。そうしたら「ご飯」と書かれて……。お腹が空きすぎて、食べ物のことしか考えられない状態だったんです。ビスケットを食べて落ち着いたあと、もう1回夢を訊ねたら「学校に行きたい」と書いてくれました。まずは夢を見られる環境が必要なんですよね。
木内:選ぶという機会が限られた地域だからこそ、「この体験はきっと娘の人生に大きな意味を持つ」と信じていたのだと思います。周りには長老たちもいただろうに、プレッシャーに屈しなかった。母の覚悟を感じましたね!
“意識の変容”こそが、支援の本質
——「Chosen」から始まるチャイルド・スポンサーシップは、約15年の月日をかけて、子どもたちの生育環境を整えていくのですよね。
山下:支援を続けていくと、子どもたちの表情やリアクションまで大きく変わっていくのを感じます。先ほどお話しした辛抱強く待ち続けたお母さんと3歳の娘さんとは、支援が開始されたばかりの地域で出会いました。外国人を見るのも、椅子を並べて座るのも、みんなで歌うのもすべてが初体験。
木内:それは戸惑ってしまうよね(笑)。
山下:ところが支援を15年続けてきた地域では、同じ3歳の子どもたちが自然に歌に合わせて手を叩いたりジャンプしたりできるし、スポンサーを選ぶことへのためらいもないんです。環境によって人は変わるのだ、と目の当たりにしました。
木内:支援地域は僻地が多く、首都から国内線に乗ったり、でこぼこの荒れた道を車で何時間も走らせてようやくたどり着けるところもあります。フェアな立場で関われるようにその地域と縁故のないスタッフが駐在するケースがほとんどなので、現場には、日曜の夜に出発して金曜まで現地で寝泊まりする生活を続けるスタッフが多くいます。
かなりハードですが、現場で生活を共にすることで少しずつ“伴走者”として信頼を得られる。そうして、物質的な支援だけでなく、子どもたちや人々の内面や意識の変容を後押しすることが何よりも大切だと感じています。
木内:「Chosen」の“子どもに選ぶ力を与える”というコンセプトは、まさにそうした支援の神髄を物語っていると思います。人間ってそんなに簡単には変われないじゃないですか。体に悪いと分かっていても、夜中にお菓子を食べてしまうし(笑)。でも、意識が変わり、考え方が変われば、行動も変わっていく。変容した行動は私たちがいなくなった後も、地域に、人々の中に残ります。「自分は大切な存在なんだ。物事を考える力もちゃんとあるんだ」という自信、未来を切り拓こうとする意志と営みが刻まれるんです。
そうすれば、未来に何かが起きても、彼ら自身で解決していける。それこそが支援の本質です。水を通すことも大切だけれど、井戸が壊れた時にどうすれば直せるのか。そこに向き合う力をつけるためには、やはり15年という時間が必要になります。半世代かけてようやく定着する、正直、果てしなく地道なプロジェクトです。
——魚を与えるだけではなく、釣り方から考えられるようにしていくと。
木内:もっと手前の、「私も釣れるんだ!」という気づきからですね。釣り竿を渡されても「自分にはできないもん」と思い込んでいれば川を眺めて終わってしまう。だから「ここには必ず魚がいる。自分は釣れるんだ」と意識を変えていくんです。これはかなり難しいミッションですし、そうした取り組みをみなさんにお伝えするのもハードルが高いんです。SNSの30秒動画などではなかなか伝えきれない深さがあります。
寄付の多寡ではなく「ウェルビーイング」を基準に
——日本では、寄付やボランティアといった支援活動に参加すること自体に、少しハードルの高さを感じます。「偽善」や「意識高い系」で括られてしまう風潮があるというか……。
木内:そうですね。「みんながやっていないから私もやめておこう」という空気、つまり同調圧力のようなものがあると感じます。一方で、韓国や台湾では、寄付をした人が「いいことをやってるぞ!」と堂々と表明する文化があります。日本でもそこのバリアを崩せると、市民社会のパワーや寄付文化の在り方がもっと力強くなるはずです。
——誰とでもカジュアルに、支援について語れる社会になったらいいですよね。
木内:おっしゃるとおりですね。WVJではご支援者向けのカフェイベントを開催していて、活動内容を報告したあと、テーブルごとにご支援者同士のシェア時間を設けています。「あなたが支援しているチャイルドはどう?」「私はこんな手紙をもらって嬉しかった」といったやり取りがとても盛り上がるんです。ここでは「意識高い系」とか揶揄されないという、心理的安全性があるんでしょうね。あんなふうに、自由に語り合える場がもっと増えたら、世界はもっと変わっていくと思います。
そして、そこに寄付の多寡は持ち込まれないんです。「私はこれだけ寄付をした」という話で盛り上がるテーブルは、私が見た限りありません。大切なのは金額ではなく「この支援が自分の豊かさにどう関わっているのか」という視点。ウェルビーイングな価値観でお互いに活動を表現し、分かち合えたらとても素敵ですよね。
支援がいらない未来へ。目指すのは「WVがなくていい社会」
——たとえば10年・20年後、子どもたちにはどのような未来を生きていてほしいですか?
木内:以前、20代のスタッフに同じ問いをしたところ、彼は「WVが必要ない社会にしたい」と答えてくれました。その言葉に、私自身とても勇気をもらったんです。私もまったく同じ気持ちで、すべての子どもに「豊かないのち」がもたらされれば、WVはお役御免になりますから。
でも悲しいことに、現実は非常に厳しい状況です。極度の貧困にある人口は減少傾向にありましたが、今は各地で紛争が勃発しています。欧米諸国も自国の安全保障を優先し、他国への支援資金はどうしても減っていく。このままでは再び貧困人口が増加してしまうのではないかと、危機感を持っています。
それでも、支援についてウェルビーイングに語らうサークルがどんどん広がっていけば、戦争のような悲劇が起こりにくい、強くしなやかな社会が実現するのではないかと思うんです。だからこそ、やっぱり市民の力が強くなっていかないとね。
山下:私がWVJに入団して2年目の頃に取材・制作した『世界の子どもの未来のために』というドキュメンタリー番組があるんです。ギャラクシー賞という放送業界の名誉ある賞をいただいたのですが、その授賞式でまさに「WVがいらない世界をつくりたい」とスピーチしました。
誰ひとり取り残されることなく、みんなが豊かに生きられる世界。その実現のために、この地球に生きるすべての人が“子どもたちの豊かないのち”を思いやる心を持ってほしい。そう願っています。
木内:WVには、「すべての人の心にこのビジョンを実現する意志を」というステートメントがありますよね。
山下:はい。その言葉がいつか当たり前になる社会を、本気で目指していきたいですね。
——本記事が、読者の心に支援の灯をともす一助になれたら嬉しいです。WVJのブログや動画で、子どもたちが自分の夢を描いたボードを掲げている姿を見ましたが、みんな生きるだけでも精一杯のはずなのに「お医者さんになりたい」など、“誰かの力になりたい”と願っている子がとても多くて……。胸を打たれました。
山下:現地の子どもたちは、たとえお菓子やジュースを渡しても、絶対にその場で口にしないんです。開け方が分からないわけではなくて、みんな「家族に持って帰る」と言って……。それくらい、周りのことを想っているんですよね。
昨年の夏に訪れた地域では、子どもたちが演劇を披露してくれました。現地の言葉だったのですが、ある女の子が英語に訳してくれて。それがまた流暢でおどろきました。インターネットを活用して独学でマスターしたそうで、その原動力を尋ねたら「私を支援してくれている日本のスポンサーに、手紙を書きたいんだ」と。
さらに、「将来は精神科医になって、児童婚によって心に傷を負った人の力になりたい」と語ってくれたんです。そう確かな英語で語る姿に、胸が震えました。
——「支援される側」から「支える側」へ。そんな意識のバトンが、確かに渡され始めているのを感じます。
山下:はい。彼女が夢を抱けたのはチャイルド・スポンサーシップの支援をきっかけに、「私も好きなことをやっていいんだ」と意識が変わったからでした。子どもたちの願いや才能を花開かせるために、まずは一歩、関心を寄せてもらえたら嬉しいです。
——取材を通じて、支援とは“与える”ことではなく“信じて託す”ことだと思いました。子どもたちのまっすぐな眼差しと、夢に向かう力強さに、わたしたち大人も背中を押された気がします。本日は心温まるお話をたくさんお聞かせいただき、本当にありがとうございました!
〈5月31日(土)までの期間中、400人限定でChosenの参加者を募集しています。詳しくはこちらから。〉
堂上編集後記:
この取材は僕が実施したかった。子どもたちのウェルビーイングを考えたときに、世界中の子どもたちとどう向き合うべきか考えるきっかけをいただいた。
実際、この取材のきっかけは、僕が通っていた大学(ICU)の同級生がWVJで働いていたことからだ。たまたま僕自身が、この時間に別の取材があって、こちらには来れなかった。
僕らは何ができるのだろうか?
先日、娘(高校3年)と一緒に、練馬区で開催されている難民•移民フェスに参加した。そこには「隣で生きる人ともっと知り合う」と書かれていた。まずは、社会や地政学に関心を持って、現状を知ることから、はじめられるのだろう。
娘と帰り道、こんな会話をした。「世界を見たときに、宗教も価値観も、当たり前の概念も全然違うということ。そして、行動しないと知らない世界がたくさんある。この世界を、分断や孤立から、つながりある社会へ変えるために、まずは何ができるか考えていきたいね。こうやって、たくさんの選択肢と可能性を探ることができるのは恵まれている。考えるきっかけを持てたのはよかったね。まずは自分ができることからやるのが良いよ。」
世界中の子どもたちは「未来を自分で変えられる」と信じて欲しい。WVJのみなさまが、世界や未来を信じることにつながる活動をしていることに感謝です。Welluluでお話しおうかがいさせて頂きありがとうございました。
青山学院大学を卒業後、国際協力銀行(JBIC)前身のOECFに入社。英国LSE(社会政策学)、オックスフォード大学(開発経済学)での修士号取得をはさみ、アフリカ、インドネシア、フィリピンにおいて円借款業務を担当。母になったことを契機に転職。東京大学にて気候変動、環境、貧困など21世紀の課題に対応するSustainability Scienceの研究教育拠点形成に従事。「現場に戻ろう」をキーワードに08年10月よりWVJに勤務。2011年5月より、東日本緊急復興支援部長。2013年4月より副事務局長。2017年4月より事務局長。2020年4月より現職。