
疲労がたまる現代社会で、あなたの「休養」は十分でしょうか?「運動」や「栄養」と並ぶ健康の三本柱の一つとして、見落とされがちな「休養」の重要性が、近年再び注目されています。株式会社ベネクス創業者・最高製品責任者の片野さんによると、休養は単なる睡眠や休憩ではなく、心身を回復させ次の活動に備える「攻めの休養」として捉えるべきだといいます。本記事では、7つの休養タイプやリカバリーウェアなど、実践的な休養法を通じて、疲労感を軽減し活力を回復させるためのヒントをご紹介します。

片野 秀樹さん
博士(医学)/休養学者/一般社団法人日本リカバリー協会 代表理事/株式会社ベネクス 執行役員
本記事のリリース情報
Webメディア「Wellulu」にて、攻めの休養に関するインタビュー取材を受けました。
休養のリテラシーを高めよう!休養難民にならないために知っておきたいこと
── 健康づくりにおける「休養」の位置づけと、「休養」が注目され始めた経緯について教えてください。
片野さん:健康づくりの基礎となる3本柱は、運動、栄養、休養です。この考え方が初めて国の政策として明確に打ち出されたのは、1978年のこと。当時の厚生省(現・厚生労働省)が「第1次国民健康づくり対策」に取り組み始め、令和6年度からは「第5次国民健康づくり対策」をスタートしています。
運動、栄養についてはすぐに重点課題として対策がとられ、「休養」が注目されるようになったのは、2000年に始まった第3次の頃からです。
しかし、その際も「休養」はメインではなく、9つの重点項目の1つとして扱われました。「休養」の目標として掲げられたのは、主に睡眠時間を延ばすことと、労働時間を短縮すること。この方針はその後も変わらず、現在も継続されています。
── 50年近く前から政策として取り組まれているのですね
【疲労感調査】8割以上の人が「疲れを感じている」と回答
片野さん:私が所属する日本リカバリー協会では、毎年、全国の男女10万人を対象に健康状態や疲労感について調査を行い毎年はリカバリー白書として発行しています。その結果を見ると、1999年当時は「疲れを感じている」という回答が全体の6割程度でした。しかし2024年の調査では、8割以上に増加しており、ここ25年で悪化しています。
一方で「元気です」と答える方は減少傾向。2017年時点で2割強だったのが、現在では2割を切る状況です。このままでは疲労感を持つ人が9割、10割に達しかねないと懸念しています。
調査の結果から「休養」に関する具体的な知識や実践方法が不足していることが課題として浮上しました。つまり、「休養の取り方を知らない」「意識していない」という現状が、問題の根幹にあるのです。
休養と休憩は違う!まずは意識改革から
── 休養の重要性が理解されていないというのは意外です。具体的にどのような解決策が考えられますか?
片野さん:まず必要なのは、「休養」を単なる睡眠や休憩だと捉えるのではなく、心身を回復させる包括的なプロセスとして再定義することです。たとえば、質の高い睡眠を確保するための生活習慣の見直し、ストレスマネジメントのためのリラクゼーション法、適切な運動との組み合わせなど、多面的なアプローチが必要です。
また、働き方改革も欠かせません。長時間労働を見直し、個々のライフスタイルに合った柔軟な働き方を導入することが、社会全体の疲労軽減につながると考えています。その一方で、正しい休養の取り方に関する情報提供を積極的に行い、一人ひとりが自分に合った方法を実践できる環境づくりが必要です。
── 運動や栄養に比べて、確かに「休養」についての知識や実践は不足してそうです。
──具体的にはどのような問題があるのでしょうか?
片野さん:私たちは学校教育で運動や栄養については学ぶ機会があるものの、「休養」についてはほとんど教わったことがありません。そのため、疲労感や不調をどう改善するかは、個人の経験や記憶に頼るしかないのが現状です。しかし、これには大きな課題があります。
成長期の体力や免疫力を基準にした過去の記憶は、加齢によって変化する体には通用しません。30代、40代、50代と年齢を重ねれば代謝は落ち、回復力も低下しますが、未だに若い頃と同じ方法で疲労を乗り越えようとしている方が多い印象です。
── 疲労に関して、社会全体のリテラシーが不足しているということですね。
片野さん:その通りです。発熱や痛みなどの症状が出た場合、これらは比較的わかりやすく、社会的にも「休むべきだ」と認識されています。その一方で、疲労は「怠けている」「みんな同じだ」と軽視されてしまう。これが大きな問題です。
例えば、医療の分野では「未病」という考え方があります。未病には「健康に近い未病」と「病気に近い未病」の2種類があります。病気に近い未病では検査で異常値が出るため、医療の介入が可能です。しかし、健康に近い未病の場合、数値的には異常が見られないため、医師も診断を下せません。
こうしたケースでは、自分自身でセルフケアを行う必要があります。しかし、休養に関する情報やソリューションが不足しており、疲労や休養に関する研究や書籍も乏しい。対策として「マットレスを変える」「枕を買い替える」といった商品頼みのアプローチに終始することになります。こうした現状から、多くの人が「休養難民」という状態に陥っているのです。
現代人は「疲労感=体からの警告信号」をマスキングしがち⁉
── 日常的に多くの人が感じる疲労にはどのような種類や特徴があるのでしょうか?
片野さん:「疲労」は誰もが経験する感覚ですが、その本質は意外と理解されていません。
疲労は大きく分けて3種類あります。まずは急性疲労です。運動や活動によって一時的に体や脳が疲れ、休めば回復するものです。例えば、筋肉痛や短時間の精神的な負荷による疲れが該当します。
二つ目に一週間程度疲れが続いて、日常生活に支障が出てくるような亜急性疲労。
最後に問題となる慢性疲労で、これは半年程度の長期的な疲労の蓄積によって心身に不調をきたす状態です。慢性疲労は、先ほどお話した体からの警告信号を無視することで引き起こされる場合が多いです。そうした状態が長く続くと、自律神経の乱れや免疫機能の低下などを引き起こし、最終的には病気に至る可能性があります。
── 疲労感を軽視する風潮が根強い中で、社会全体の疲労に対するリテラシーをどのように向上させるべきでしょうか?
片野さん:一つの鍵は、「疲労」と「疲労感」を区別して考えることです。疲労とは、過度な活動により身体や脳の活動能力が低下した状態のことです。一方で、疲労感はその状態に伴う不快感や違和感を指します。この区別が曖昧なため、多くの人が疲労感を覚えても行動を止めることなく、むしろ活動を続けてしまいます。
特に問題なのは、現代の社会には疲労感を「隠す」手段があふれている点です。
例えば、エナジードリンクといった商品や、達成感、報酬などで疲労感を一時的にマスキングしてしまいます。これは、いわば「動物的な本能」を覆い隠してしまう行為。本来、疲労感を感じたときは動きを止め、安全な場所で回復を図るべきなのですが、人間は意識的にそれを無視してしまう傾向があります。
その結果、活動能力が低下したまま無理を続け、病気につながるリスクが高まっているのです。この状況を改善するためには、疲労の本質についての知識を広めることが不可欠です。
受動的な休養ではなく“攻め”の休養を!
── 疲労感を「休むべきサイン」として捉える社会的な仕組みが必要ですね。効果的に「休養」を取るにはどうしたらいいのでしょうか?
片野さん:多くの人が「休養=睡眠」と考えていますが、これは大きな誤解です。もちろん睡眠は重要ですが、それだけで十分とはいえません。私たちは「休養」を、次の活動に向けて活力を回復させるプロセスと捉えています。この視点を取り入れることで、従来の「疲れたら寝る」という受動的な休養から、「主体的に回復を図る“攻めの休養”」へとシフトできます。
私たちが提案しているのが攻めの休養のための行動モデル「7つの休養タイプ」。これには身体的なリラクゼーション、趣味や娯楽を通じた精神的な回復、人との交流による社会的な疲労解消などが含まれます。重要なのは、自分のライフスタイルや疲労の種類に応じて適切な休養方法を選択し、複合的に組み合わせることです。
また、「活力」の概念も取り入れるべき。単に疲労を軽減するだけでなく、次の活動に向けてエネルギーを充電するという発想が必要です。現代社会では、休養後も十分な活力が得られないまま活動に戻る「悪循環」に陥る人が少なくありません。このサイクルを断ち切り、活動→疲労→休養→活力という持続可能な四角形のサイクルを意識することが大切です。
7タイプの「休養モデル」で活力を回復!
── 休養の新しい行動モデルについてお聞かせください。
片野さん:「休養」というと、睡眠や安静をイメージする方が多いでしょう。しかし、それは休養の一部に過ぎません。私たちは休養を「生理的な休養」「心理的な休養」「社会的な休養」の3つに分類し、さらに7つのタイプに分けて考えています。このモデルは、生活の中で多様な形で休養を取り入れることができるように設計されたものです。
片野さん:7つのタイプは次のようなものをイメージしてみてください。これらを自由に組み合わせることで、活力を養えます。
休息タイプ:体を動かさず安静にする。睡眠や休憩が該当します。
運動タイプ:軽い運動で血液循環を促進。ウォーキングやストレッチが効果的です。
栄養タイプ:体を内部から休ませる。例として、食事を軽くしたり、ファスティングを取り入れることが挙げられます。
親交タイプ:人との交流や自然との触れ合い。友人との会話や森林浴が該当します。
娯楽タイプ:映画鑑賞やゲームなど、楽しむことでストレスから離れる。ただし、やり過ぎには注意が必要です。
創造タイプ:何かを作ることで没頭し、ストレスを軽減。日曜大工や絵を描くなどの創作活動です。
転換タイプ:環境を変えることで気分を一新。旅行や部屋の模様替え、衣類を着替えることも含まれます。
──このモデルはどのように日常生活に活用できるのでしょうか?
片野さん:例えば、「スープを飲む」というシンプルな行為でも複数のタイプを組み合わせることができます。
冷蔵庫の食材を使ってオリジナルスープを作る(造形・創造タイプ)。
家族や同僚と一緒に準備する(親交タイプ)。
出来上がったスープを持って公園に行く(運動タイプ)。
公園の自然の中でリラックス(親交タイプ)。
温かいスープを飲むことでリラックス(栄養タイプ)。
これだけで4つのタイプを同時に活用できます。日常生活の中で少し工夫をするだけで、休養をより豊かにすることができるのです。
──このモデルがどのような効果をもたらすのでしょうか?
片野さん:従来の「休養=ただ休む」という考え方から、「休養=攻める」という意識への転換を促します。この7つのタイプを活用すれば、心身の活力を積極的に回復させ、より豊かな生活を送ることができます。また、自分に合った休養の方法を見つけることで、より効率的で楽しい時間の過ごし方ができるようになります。
──休養の方法はどのように見つければ良いでしょうか?
片野さん:まずは7つのタイプを参考に、自分が取り組みやすいものから試してみてください。例えば、「最近疲れが取れない」と感じているのなら、軽い運動を取り入れてみるのも一つの方法です。また、これらを複合的に組み合わせることで、効果が倍増します。この時のポイントは、自分に合ったペースやスタイルを見つけることです。
着て休むだけで疲れが癒える⁉︎ リカバリーウェアの魅力とは
── 着るもので休養をするというのも良いそうですが、どうなのでしょうか?
片野さん:休養において、衣服はとても重要な要素です。私たちの体は外部環境と内部環境の境目に「皮膚」があります。その皮膚への刺激が、心身の状態に大きな影響を与えることがわかっています。
昔から、皮膚には「痛み」「かゆみ」などを感じる神経末端が集中しているといわれてきました。しかし、2000年以降の研究で、新たに「皮膚の受容体」というセンサーが存在することが明らかになっています。この受容体は、特定の刺激を受けると交感神経を抑制し、副交感神経を優位にする働きがあります。副交感神経が優位になると、体がリラックス状態に入り、疲労回復を促す効果が期待できるのです。
私たちが開発した素材は、この皮膚の受容体を意識的に刺激する設計になっており、交感神経を抑制する仕組みを持っています。これにより、現代人が陥りがちな「過緊張」を和らげ、心身をリラックスさせる効果があります。
──ベネクスのリカバリーウェアに使用されている「PHT」という特殊素材についても詳しく教えていただけますか?
片野さん:PHTは、ポリエステルをベースにプラチナや鉱物を独自配合して作られた特許素材を繊維1本1本に練り込んでつくった特殊繊維です。プラチナ成分を練り込み、均一に混ぜ合わせることで作られているため、洗濯などにより効果が劣化することはありません。そのため、半永久的な素材となっています。
この繊維が皮膚の受容体に働きかけることで、リラックスしやすい環境に整えてくれるのが特徴です。
── このリカバリーウェアをどのようなシーンで活用すると良いのでしょうか?また、どんな方に特におすすめですか?
片野さん:リカバリーウェアは、主に「オフの時間」に着用していただくことを想定しています。具体的には、仕事が終わってから翌朝の勤務開始までの時間、いわゆる勤務間インターバルの時に着用するのがおすすめです。この時間に副交感神経を優位にすることが大切になるため、しっかりとリラックス状態に入ることで、翌日のパフォーマンス向上につながります。
また、特におすすめしたいのは、20代から30代の女性です。私たちの調査によると、この世代は育児、家事、仕事と多くの役割を抱えており、疲労を感じている割合が約9割にも上ります(※調査データ)。こうした方々にこそ、過緊張からの解放のためにリカバリーウェアを活用して心身のリラックスに役立てていただきたいです。
また、シンプルに寝るときのウェアとしても優れています。肌触りや締め付け感にも配慮しており、快適な着心地を実現しています。締め付けが強い衣服は交感神経を刺激してしまうため、デザインや素材選びにも細心の注意を払っています。
──リカバリーウェアの活用を含めた「オフ時間」の考え方を教えてください。
片野さん:「オフ時間」を充実させることで、生産性を高めるという考え方が重要です。欧州では、勤務間インターバルを11時間以上取ることが法律で定められており、これが生産性向上に大きく寄与しています。一方で日本では法規制がないため、自分自身で休む時間をしっかり設計する必要があります。その中で、リカバリーウェアはオフのスイッチを入れ、緊張を和らげる助けとなります。また、自分の「理想のオフ時間」を見つけるために、睡眠やリラックスタイムのルーティンを試行錯誤することが大切です。
Wellulu編集後記:
取材を通じて「休養」というテーマが、いかに現代人にとって重要であるかを改めて実感しました。「休養難民」という言葉が示すように、多くの人が適切な休養の方法を知らないまま、疲労感に悩まされています。一方で、片野さんが提唱する「攻めの休養」という発想には、従来の受動的な休養の枠を超えた可能性を感じました。
特に印象的だったのは、7つの休養タイプとリカバリーウェアを活用した休養法です。一つの行動が複数の休養タイプをカバーできる点や、ウェアを着るだけでリカバリーを促進できるという手軽さは、忙しい現代人にとって大きな助けになるはずです。