早起きが苦ではない、夜になると勉強や仕事が捗る…など、快適な活動時間は人によって異なるが、いわゆる“朝型・夜型”のタイプは、生活習慣だけではなく、実は生まれつきの要因(遺伝的要因)も関係していることが分かっている。
朝型・夜型遺伝子の人それぞれの身体活動量を調査した島根大学の宮崎亮准教授らによると、両者の間に平日の活動量に差はみられず、遺伝的な朝型・夜型の影響は、学業や仕事などの社会的要因で抑えられていることがわかった。
今回は、島根大学の宮崎准教授に、研究の背景と内容、朝型・夜型の特徴やベストタイムの個人差について詳しいお話しを伺った。
宮崎 亮さん
島根大学人間科学部 准教授
本記事のリリース情報
身体活動・健康科学コースの宮崎 亮准教授の研究が紹介されました
夜型は治らない?朝型・夜型を決める要素は遺伝子が約50%
── まず、宮崎准教授がこの研究をおこなったきっかけを教えていただけますか?
宮崎准教授:“オリンピックの世界記録の多くは、午後か夕方に破られている”という話をご存知でしょうか?
2020年五輪水泳のデータを調査したところ“ベストタイムは午後5時”という結果がでており、運動に関しては夕方ころにパフォーマンスが上がりやすいといわれています。
近頃は、早起きをして運動や勉強をおこない、朝の時間を有効活用する「朝活」が推奨されていますが、僕はどうしても苦手で。ほかにもそういう方は多くいらっしゃるのではないかと思います。
事実、全員が夕方に最高の成績を挙げるわけではありません。それは、人には「朝型」「夜型」があるからです。その違いは科学的に立証されており、起床・就寝時刻などの社会的要素だけではなく、遺伝的要素も大きく関係しています
これら「朝型」「夜型」のタイプがあることなどを踏まえると、必ずしもすべての人が朝や夕方などの活動にこだわる必要はなく、自分に合った時間で活動するのが最適なのではないかと考えました。
運動でも仕事でも”よいパフォーマンスを出せるベストタイムは人それぞれ違う”ということをデータで示せればと取り組んだのが、今回の研究です。
── 「朝型」か「夜型」かは、どのように決まるのでしょうか?
宮崎准教授:朝型か夜型かは「遺伝的要素」「年齢」「光」の3つの要素が大きく関係し、それに生活習慣が加味されて決まります。3つの要素の中でも「遺伝的要素(時計遺伝子多型)」が約50%を占めており、この部分は一生変わることはありません。残りの2つの要素については、「年齢」と「光」によって変化します。
「年齢」については、子どもは朝型が多く、年齢を重ねるにつれ徐々に夜型になり、20歳前後で夜型の傾向がピークに達します。そのあとは、年齢とともに朝型に変わっていくということが、統計的にも明らかになっています。
「光」に関しては、私たちの身体は、朝に光を浴びることで体内時計のスイッチが入ります(オンになる)。仕事や学校に行くために、毎朝早起きして光を浴びるという生活を続けていくと、体内リズムが調整されていき、身体が朝型の生活に慣れていきます。
そのため、遺伝的には夜型であったとしても、今の年齢や生活スタイルによっては朝型の生活が快適と感じる場合もあります。遺伝子のみで朝型・夜型が決まるというわけでなく、3つの要素や生活習慣などを含む総合的な結果と捉えてください。
夜型は太りやすい・不健康は本当か?そのメカニズムは不明
── 今回の研究では、どのようなことを調査したのですか?
宮崎准教授:多くの先行研究で、いわゆる夜型者が不健康であることが報告されています。肥満者や生活習慣病該当者が多い、睡眠の質が低い、運動量が少ない、などです。しかし、お伝えしたように、朝型・夜型は遺伝的要因と社会的要因の両者で決まるため、その両者のどちらがどの程度健康に関係するのかメカニズムが不明でした。今回は身体活動量に焦点を当て、遺伝的要因と社会的要因との関係を調査しました。
今回の実験では、大学生の男女81名(男14名、女67名)に調査に協力してもらいました。口腔粘膜から採取した「時計遺伝子多型サンプル(今回はCLOCKという時計遺伝子の多型を調査しました)」をもとに、「朝型」遺伝子を持つ人「夜型」遺伝子を持つ人の2群に被験者を分類し、週末を含む 7日間、加速度計をつけてもらい、起床時から就寝時までの身体活動量を解析しました。
また、食生活や睡眠時間、朝型・夜型の好みなどの生活習慣についてのデータも質問紙から集めました。
朝型と夜型の割合とは?主観と遺伝子にズレがあることも!
── 朝型・夜型を分類するデータから、どのような結果がでたのでしょうか?
宮崎准教授:まず、時計遺伝子多型サンプルで分類した「朝型」「夜型」についてですが、朝型が61名、夜型が20名となっており、夜型のほうが少ないという結果でした。しかし、この割合は、日本人におけるCLOCK遺伝子多型における一般的な割合とほぼ同じでしたので、一般的な大学生の集団と言えると思います。
しかし、主観的な視点で朝型・夜型の嗜好性を割り出すテスト「朝型夜型質問票(MEQ)」に回答してもらったところ、スコアに差が見られませんでした。
つまり「自分は朝型だ」「僕は夜型」と思っていても、遺伝子的には違うという場合も多く、主観と遺伝子的な「朝型」「夜型」とは必ずしも一致しないということです。
朝型・夜型の特徴と身体活動量の違い
──「朝型」遺伝子と「夜型」遺伝子を持つ学生の間で、1週間の活動にはどのような違いがみられましたか?
宮崎准教授:起床・就寝時刻には、はっきりと違いが現れていました。
「朝型」遺伝子と「夜型」遺伝子を持つ人の起床時刻を比較したグラフですが、「朝型」遺伝子を持つ人は早起きし、「夜型」遺伝子を持つ人は遅くまで起きているということがわかりました。
深夜にバイトがあったり、飲み会に出かけたり、大学生は生活習慣が整っていない人も多いので、このデータだけで起床・就寝時刻にこんなに差が見られたのには驚きでした。「時計遺伝子」の働きはけっこう強いんだなと感じましたね。
遺伝的要因が社会的要因でマスクされ、夜型人間は平日にリズムを乱す?
宮崎准教授:私が最も関心のあった1週間のトータル活動量に関する調査も行いました。
しかし、「朝型」・「夜型」遺伝子の間ではまったく差が見られませんでした。遺伝的要因は関係ないのか、と結果が出ずにガッカリした記憶があります。
しかし、根気強く解析を続けたところ、「土曜日」と「日曜日の午前」だけ、活動量は夜型の人のほうが少ないことがわかりました。
さらによくデータを見てみると、「夜型」遺伝子を持つ人は週明けの月曜日の起床時刻も少々遅いんです。
これらの結果から、私は以下のように解釈しています。
「夜型」遺伝子を持つ人は、学校があり早朝に起きなければいけないなど、平日は自身の夜型リズムと異なった生活を強いられています。そのため、週末に休息をとって、平日の疲れを取っているのではないかと理解しています。
さらに、月曜朝の起床時刻が遅くなるのは、彼ら彼女らはもともと「夜型」遺伝子を持っているので、月曜日に平日の社会的リズムに戻りきれていないのではないかと推察できます。夜型者にとっては体にきつい一週間のリズムなわけですね。
朝型と夜型のベストタイムは違う
── 平日に「朝型」のリズムで生活した疲れを、週末に活動量を下げることで調整しているということですね。
宮崎准教授:はい。この研究から、いわゆる「夜型」の人の身体活動量の減少には、遺伝的な要因と、社会的な要因(平日・休日の違いなど)のどちらかではなく、両者の組み合わせが絡み合って決まっていることがわかりました。夜型遺伝子を持つ人は確かに活動量が低下しているようですが、その低下は「平日の学校生活」という社会的要因によってマスクされていたのです。つまり、「平日の姿を見ていても朝型・夜型かはわからない」のです。
ただ、この結果をもって、「夜型者はだらしない」と決めつけるのは明らかに早計です。夜型者は学校生活が朝早いので苦手なだけ、かもしれないのです。
今回の結果だけで決めつけるわけにはいきませんが、「夜型」の遺伝子を持っている子どもが週末になかなか起きてこないことに対して、「早く起きなさい」と叱ることは、生活リズム的にはその子に無理をさせる可能性もありますよね。
親や教育者は“ベストタイムは人によって違う”ということを知り、個性に応じた接し方ができるといいでしょう。
スポーツや勉強、仕事に取り組むにあたって、自分で考えている「朝型」「夜型」ではなく、遺伝的な「朝型」「夜型」の個性も考慮した“自分のベストタイム”に取り組むと、パフォーマンスの向上につながる可能性も大いにあります。
遺伝的な朝型・夜型はキットで検査可能
── 主観での判断が難しいとのことでしたが、遺伝的に「朝型」「夜型」かどうかを調べる方法はあるのでしょうか?
宮崎准教授:「時計遺伝子」を調べることのできる民間キットが数千円~数万円程度で販売されています。口腔粘膜を採取する簡単なテストで調べることができるので、興味がある人は調べてみてください。
ただし、遺伝子検査のみでいわゆる「朝型夜型タイプ」を決めるのは早計です。私どもの研究で明らかになったように、「朝型」「夜型」は遺伝子検査だけでなく、社会的要因と絡み合って決まることを認識しておいてください。夜型遺伝子を持つ人であっても、朝に作業がはかどる人も実際に存在しています。
── そうなんですね。一般的には、「朝型」「夜型」は、それぞれ何時ごろに起床・就寝するのが良いと考えられているのでしょうか?
宮崎准教授:具体的な時間帯に関しては、「朝型」「夜型」の中でも個人差があるため一概には答えられないですね。
ただ、3~4日ほどアラームをセットせずに過ごしてみて、自分が自然に目覚める時間が最も自分自身の生活リズムに適しているといわれています。
学校や会社がある人だと、なかなかチャレンジするのが難しいかもしれませんが、長期休みなどのタイミングで挑戦してみるのもおすすめです。
理想は生まれつきの夜型遺伝子に逆らわない生活リズム
── 「夜型」の人が週末の活動量を落とさないためには、どのようなことを意識するといいでしょうか?
宮崎准教授:土日の効率的な活用を考えるというよりも、平日の過ごし方を自分の「夜型」生活スタイルにできるだけ合わせることのほうが重要ですが、学校や会社の時間を変えるということはなかなか難しいですよね。
夜型の人が今の朝型者中心社会で生活すると、睡眠不足になります。そういった点も踏まえ、「夜型」の人が週末の活動量を落とさないようにするためには、まずは平日の睡眠不足を解消することが大切だと思います。
夜にコンビニに行ったり、ネットサーフィンをするのを控えることです。そのほか週末も、時間的に自由であっても過度な夜更かしをしないなど、自身で生活習慣を改善することでアクティブな週末を送ることもできそうですね。
── なるほど。週末の活動量を増やす工夫はできるけれど、土日の休息時間を活動に充てるよりは、平日を本来のリズムで過ごすのが理想ということですね。
宮崎准教授:そうですね。最近はフレックス制なども増えていますが、「夜型」の人には負担が大きいケースがあります。
とくに経営者の方々には、この「朝型」「夜型」の違いがあることを知り、それぞれが働きやすい職場環境づくりを意識してもらいたいと思います。
実際に、アメリカの小児学会は2014年に“学業と心身の健康のためには毎日8.5〜9.5時間の睡眠時間が必要で、睡眠不足を昼寝や週末の寝坊で調整するのは困難”、“思春期は人生で最も体内時計が夜型化する年代なので、23時前に寝て、朝8時前に目覚めるのは難しい”などといった声明を出しているんです。
登校時間を遅らせたところ、授業中の居眠りや集中力が顕著に改善され、成績が向上するケースや児童が自動車事故に遭う確率が7割減った学校もあったそうです。
無理せず自分の体内時計に優しい生活を!
── すでに「朝型」寄りのシステムを改善している例もあり、利点も多く見られているとのこと、やはり一概に“「朝型」がいい”というわけではないんですね。
宮崎准教授:そうですね。9時-5時勤務は、約100年前の大正時代からはじまっているそうです。当時は電気などの設備も今より充実しておらず、日が昇っているうちに仕事や勉強をすませるなどの理由があったと考えられますが、今はかなり生活スタイルが異なりますよね。「朝型」「夜型」のどちらの人も、仕事や勉強を気持ちよくおこなえる時間帯に取り組めるようにシステムを変えるなどの工夫があってもいいのかなと感じます。
── 今後、日本の会社や学校でも、そういった取り組みがはじまるといいですね。
宮崎准教授:はい。年齢や生活習慣によっても「朝型」「夜型」は変化していきますが、それでもやはり半分ぐらいは遺伝的な影響が占めていると言われています。
一人ひとりが最適と感じる生活リズムやベストタイムは異なるので、自分の体内時計に優しい生活を送れるようになるといいなと思います。
朝活などの流行もあり「朝型」を美徳とする風潮もあったかと思いますが、いろんな生活リズムの人がいることを知り、個人差を尊重できる社会になるといいですね。
── 今回の研究を踏まえ、これからさらに研究をしたいことや取り組まれていることなどはありますか?
宮崎准教授:こういった研究の結果を、病気の予防につながるようにしていきたいと考えていて、今は中高齢者に着目をしています。
私たちは、それぞれの体内時計を維持するために、毎日体内時計をリセットすることでリズムを保っているのですが、老化するとその「スイッチ」のリセット機能も低下してしまいます。例えば、本人が「早起きで健康だ」と思っていても、それは体内時計リセットの質が下がり、必要以上に朝型にシフトしている状態かもしれません。
それなのに、自身の朝型夜型タイプにこだわった生活をしていると、リセット効果が下がり、結果として「超早起き」や「夜更かし」がより悪化してしまうかもしれません。中高齢者になると多くなる、筋肉の減少や睡眠の悪化も、そのリセット機能低下が関係していると予測しています。
そのため、個人ごとの朝型・夜型タイプ別に、運動、食事、睡眠などを通じて、「体内時計リセット効果」を呼び起こす健康法を開発したいと思っています。自身の体内時計に優しい生活は、単に健康増進だけでなく、会社などのパフォーマンス向上にもつながるはずです。
── 宮崎准教授、本日はどうもありがとうございました!
Wellulu編集後記
朝型・夜型がどのように決定するのか、また遺伝子的な影響がどのくらいあるのかなど、詳しいお話を伺うことができ、大変勉強になりました。
主観では、遺伝子的な朝型・夜型を見分けることは難しいという点も、とても興味深かったです。
宮崎准教授がおっしゃっていたように、“朝活”という言葉の流行で、朝の活動が美徳とされ、通学・通勤も「朝型」寄りの生活リズムで設定されているケースが多くあります。
「夜型」の人でも心地よく働けるような社会をつくるためには、まず1人でも多くの人が“ベストタイムは人それぞれ違う”ことを知り、お互いを尊重し合あっていくことが大切だなと感じました。
専門は応用健康科学、時間運動学。2012年に博士(理学)を取得(同志社大学大学院)。国立病院機構京都医療センター臨床研究センター研究員、東亜大学准教授などを経て、2017年4月より現職。島根大学地域包括ケア教育研究センター教員も兼任している。「体内時計機能の個人差に優しい時間運動学」を目標に、子どもから後期高齢者に至るまで、個人差に着目した健康増進プログラム開発を進めている。モットーは「現場に役立つ、明日から使えるエビデンス」。