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【大成建設 田中康夫氏】リベラルアーツの学びで人財育成改革に挑む

企業の成長には、「人」の成長が欠かせない。そんな考えのもと、大成建設株式会社で人財育成の改革に挑んでいるのが田中康夫さんだ。

彼が手がけている施策のひとつに、株式会社ドコモgaccoが提供する『リベラルアーツ思考ビジネスプログラム』の導入がある。ドコモgaccoはこのプログラムについて、「固定観念にとらわれずに難局を乗り切るためのビジネス創造力を養成すること」と定義している。大成建設は、今まさに、このプログラムを通じて、社員一人ひとりが主体的に考え、学び、成長する環境づくりに取り組んでいる。

今回の対談を通じて何より素晴らしいと感じたのは、田中さん自身が「仕事がものすごく楽しい」と語っていることだ。そんな田中さんに、楽しく働くためのコツや、大成建設の人財育成改革の裏にある想い、組織のウェルビーイングのために大切にしていることについて、Wellulu編集長の堂上研が話を伺った。

 

田中 康夫さん

大成建設株式会社 人事部 人財研修センター長

2000年に新卒で大成建設に入社、国内外の建設現場での事務業務から本社の戦略プロジェクトまでを幅広く経験。積み重ねた知見と革新力で、事業の効率化と価値向上に貢献。2023年7月より、TAISEI VISION 2030の実現に向け、人財育成制度の改革を統括。リーダーシップを発揮し、未来を切り拓く組織の礎を築くべく、戦略的施策を推進中。
趣味は筋トレとゲームで、心身のバランスを重視。

堂上 研

株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu編集長

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。

https://ecotone.co.jp/

目次

横のつながりを大切にした制度で人財育成に改革を

堂上:田中さんは、大成建設さんで人財育成の制度改革をおこなっていらっしゃるんですよね。それまでも様々な部署の立ち上げに携わっていらっしゃったそうですが、もともと新しいことを始めることに興味があったのでしょうか。

田中:小さい頃から現状維持するよりも、変化が大好きなタイプでした。仕事においても変革などにすごく興味があります。ゴールを作ったうえでミッションに落とし込んだり、具体的な策を練ったりするのが本当に楽しいんです。

堂上:素晴らしいですね。僕は、田中さんみたいに「仕事がものすごく楽しいです!」という人がどんどん増えたらいいなと思うんです。ウェルワーキング(ウェルビーイングに働ける状態)な人が増えれば、社会全体が良くなりますよね。今日は、仕事を楽しむコツやノウハウなども伺わせてください!

早速ですが、田中さんが人財研修センター長に着任されてからの一年半は、具体的にどんな改革をおこなわれたのでしょうか。

田中:育成制度を大きく変えました。たとえば、従来の研修では「建築は建築、土木は土木、事務は事務」というように、部門ごとに縦割りにしてそれぞれ専門的な内容でおこなっていました。現在はこれを撤廃し、部門の垣根をなくしています。

堂上:なるほど。ある意味ではカオスな状態になったわけですね?

田中:はい。同じ考えで同じ仕事をしている人たちで固めてしまうと、どうしても発想に限界が出てきます。いろいろな属性、幅広い年代の社員が議論することで生まれるイノベーションがあるはずです。また、連携することで組織としても強くなりますよね。

堂上:おっしゃるとおりですね。部門関係なくいろいろな人との接点を増やすことで、会話も増えそうです。

田中:まさに。そうするとお互いの仕事を尊重することにもつながります。研修以外にも、報酬制度やOJTのやり方なども大きく変えました。

田中さんが実施した育成制度改革の詳細

堂上:素晴らしいですね。もともと大成建設さんには、新しいことにどんどんチャレンジする文化があったのでしょうか?

田中:グループ理念を追求するため、グループ全役職員が大切にする考え方に“大成スピリット”があります。「自由闊達」「価値創造」「伝統進化」は、我々が大切にしている3つの考え方で、チャレンジ精神や風通しのよさが当社のスピリットです。2023年8月には、企業風土改革への取り組みがスタートしました。社長からの直接のメッセージもあり、本気で会社が変わろうとしているのだと感じたことを覚えています。

堂上:経営陣がそういったメッセージを発信できるのは良いことですね。ただ、ゴールをトップが決めてしまうと、価値観の押し付けということになりかねません。社員のなかにはモチベーションが上がらない方もいると思うのですが、どのように対処するのが良いのでしょうか?

田中:私たちは変わる方向性、つまり「こうしたいよね」ということを社員と話し合って作りました。それでも、やっぱりまだまだ変わりきれていない部分もありますよ。

堂上:ちなみに田中さんの人財育成改革計画は、ゴールが富士山の頂上だとすると今は何合目くらいのイメージですか?

田中:今は2合目くらいですね。大成建設では2030年にありたい姿をゴールとした「TAISEI VISION 2030」を設定していて、今はその真っ只中です。ちょうど今年度(2024年度)が「【TAISEI VISION 2030】達成計画・中期経営計画(2024-2026)」の一年目ですから、まずは何をやるかの道筋を立てたところで、これからさらにどんどん変わっていきますよ。

堂上:ビジョンがあって、スピード感を持って動かれていて、さらにご自身が一番楽しんで仕事に取り組まれている……。素晴らしいですね!

リベラルアーツプログラムを通じて強い組織を作る

堂上:人財育成制度改革のなかでドコモgaccoさんが提供する『リベラルアーツ思考ビジネスプログラム』を導入された背景を教えてください。

田中:当社は育成の方針として、人間力と専門性を上げています。人間力の育成にはリベラルアーツは欠かせないと思っています。とはいえ、学ぶ方法がわからないという課題があったんです。であれば、研修として実施できないかと考えていたときにドコモgaccoさんのプログラムを見つけ、導入を決めました。

堂上:僕はリベラルアーツを取り入れている大学を卒業したのですが、そこで、幅広い教養とそれらのつながりを感じられたのはすごく良い経験でした。とはいえ、リベラルアーツという概念はまだ一般的なものとは言えないですよね。社内での反応はいかがでしたか?

田中:「一般的な教養」というイメージを持っていて「今さら学ぶものでもないのでは?」と思う人もいたようです。現在はプログラムを通して、少しずつリベラルアーツの重要性や学び方を社内に浸透させています。

堂上:「リベラルアーツ思考ビジネスプログラム」は、具体的にどのようなプログラムなのでしょうか。

田中:文学や美術、サイエンスなど約100講座から好きなものを選んで、動画で講座が受けられます。弊社ではそれを、約6,000人の社員向けに導入しました。さらに、新任の部長や室長などの役職者は月1回、指定した講座を受けてもらったうえで、みんなで集まり、意見を言い合うという場を設けました。

これには私も参加しましたが、すごく面白いですよ。講座そのものも大学教授や書籍著者などバラエティに富んだ講師陣がそろっています。その動画を見た中で、当社の各分野の高い専門性を持った人同士が議論すると、本当に様々な意見が出てきます。話す側だけでなく他者の視点を知るという意味でもよい学びになります。

堂上:面白いですね。ちなみに、そもそも会社としてリベラルアーツを導入しようとした背景はどんなものだったのでしょうか。

田中:人財育成は未来への投資です。リベラルアーツの学びなどを通して、人間力を磨きながら技術力のみならず全人格的な育成がなされるような教育機会を提供します。幅広い知識や教養は組織の品格を高め、ウェルビーイングな環境を築くことで、社員が多様な価値観に触れ、成長できる場を提供したいと考えています。

堂上:なるほど。リベラルアーツを学んで、多様な人たちと触れ合うことで、自分が気づかなかったり知らなかったりしたことを知れるのも良いですよね。新しい価値観や、自分の当たり前がそうではないことに気づけることは、成長にもつながります。そういう意味では、大成建設さんのようにリベラルアーツを導入することが、社員のウェルワーキングにもつながると思います。

田中:そうですよね。弊社の社長はよく、「お客様の課題を解決するだけではなく、お客様が想像すらしていない潜在的な課題に対して提案するのが我々の役割だ」と言っています。そのためには、専門性だけでなく、もっと広く学ぶことが大事ではないかと思うんです。

堂上:リベラルアーツを通して、いろいろなことを広く学ぶことが重要とはいえ、広すぎると興味のあるものしか見なくなってしまう気がします。

田中:おっしゃるとおりで、弊社内でも講座の人気は偏っています。でも、なかにはそこから派生して10個、20個と講座を受講する社員もいて、まずはそこの層を応援しています。

まずは対象となる社員に広く機会を提供していましたが、今後学びを深めるフェーズでは希望制を考えています。のどが渇いていない人に無理やり水を飲ませても意味がありませんよね。ですから、学びたい人にしっかりと向き合いつつ、多くの社員が「自ら学びたい!」と思うような会社にすることに注力するのが大事だと考えています。

堂上:希望制なのがポイントですね。自分のなかで無理やり感が芽生えてしまうと、なかなか身になりませんから。

田中:そうですね。新たに導入した自己啓発支援の仕組みなどは研修費用の8割を、会社で負担するようにしています。語学や資格、MBA速習等多くの講座を準備しています。

堂上:完全に自腹でもなく、会社持ちでもなく。たしかに、すべて会社が出してくれるとなると、サボってしまうかも……。

田中:まさにそのとおりです。会社が全てを出すタイプの自己啓発は途中でやらなくなってしまう人も多いので、だったらやりたい人を全力で応援する方向へシフトしています。

堂上:実際にこの研修に参加した社員さんからは、どんな感想がありましたか?

田中:「学ぶことが楽しい」という声をよく聞きます。これまで自分が興味を持っていなかった分野を学んで、「自分が知らないことってこんなにあるんだ」と気づくきっかけにもなっているようです。なかには休みの日に動画を観ている社員もいますよ。

堂上:素晴らしいですね。ウェルビーイングのためには、仲間やコミュニティが大切だと言われています。他者と対話できる場所や、新しい価値観と触れ合う機会をどう作っていくかがとても重要です。大成建設さんでは、このプログラムを通じてそれを実現しているわけですね。

田中:はい。しかし、新しいことを始めようとすると失敗も多いんです。ただ、私の上司はありがたいことに「失敗してもいいじゃないか」「小さく失敗して、それを次に活かそう」と言ってくれるので、新しいことでも一歩ずつ前に進めています。

堂上:素晴らしいです! ウェルワーキングのためには、チームが挑戦や失敗を受け入れてくれることも欠かせません。リベラルアーツを導入したことで、社内の雰囲気も変わりつつあるのかもしれませんね。

楽しそうなリーダーが、組織をウェルビーイングに導く

堂上:つい最近、エコトーン社でウェルワーキング調査をしました。そのなかで「現在ウェルビーイングに働けていますか」という問いに「はい」と答えるビジネスパーソンは、約3割しかいないことがわかったんです。約7割の人がウェルビーイングに働けていないことに驚いたのですが、田中さんは仕事をとても楽しまれていますよね。モチベーションを保つコツはありますか?

田中:「G-POP®シート(※)」を活用しています。まず自分の人生のゴールを決めて、それを一年間(今期)の目標、そして今月の目標(GOAL)に落とし込みながら、それぞれのフェーズで成し遂げたいことを書き出します。これをもとに、毎週「自分はGOAL達成のために何をやると決めるか」「やると決めた事の内、今週は何ができて何ができなかったのか」そして、「なぜできたのか/なぜできなかったのか」その要因を振り返り、自身への教訓や業務の成功の再現性を高めます。
※G-POPシート:株式会社中尾マネジメント研究所 中尾隆一郎氏が提唱している振り返りの型

田中さんのG-POPシート。ある1週間の振り返り

堂上:すごい……! ちなみに、組織のウェルビーイング度を高めるには、リーダーがしっかり睡眠を取っていることも欠かせません。田中さんは毎日ぐっすり眠れていますか?

田中:毎日22時に寝て、朝5時に起きて筋トレをするという生活をしています! そして興味があることにはものすごくのめり込むタイプで、気づいたら家にホームジムを作っていました(笑)。

田中さん宅のホームジム。最近購入したという可変式ダンベルと、1本足で自立するチンニングバーが大のお気に入り

堂上:面白い……! 実は僕、社会人になってほとんど運動していなかったので最近ジムに通い始めたんですが、週に1回通うのもつらくて。筋トレの面白さはどこにありますか?

田中:筋肉は決して裏切りません。やった分だけきちんと結果が出ます。筋トレは、まさに私がウェルビーイングを感じる瞬間ですね。

堂上:そう考えると、筋トレも楽しめそうです! 田中さんとお話ししていると、何に対しても前向きに楽しんで取り組まれていることが伝わってきます。そういうリーダーがいる組織は、メンバーも伸び伸びと働いていそうです。

田中:仕事を楽しそうにしていると、ご縁も広がり、「協力しよう」と思っていただけることも多くなりますよ。

堂上:僕たちは、ウェルビーイングな共創社会をどう創っていくかをテーマにしています。まさに、田中さんのように楽しく働ける人が増えれば世の中がもっと良くなり、経済も活性化するのでしょうね。とはいえ、世の中には会社に行きたくない人も多いと思うんですよ。田中さんのそのポジティブな感じを少しでも分けてもらうためには、どうしたら良いのでしょうか?

田中:私は、やらされた仕事は楽しくありません。だから、ゴールを自分で決めることが大切だと思います。たとえば上司から「これをやって」と言われた場合、動機を「上司に指示されたから」では楽しくないので、「この仕事は、会社が〇〇を達成するに必要だ」とGOAL(目的)を考え設定するようにします。

堂上:なるほど。「なぜやるのか」を考えるわけですね。主体性を持つことで、より前向きに取り組めますもんね。

社会全体で人を育てる世界をめざして

堂上:田中さんが取り組まれている人財育成制度改革、そしてその中心にあるドコモgaccoさんの『リベラルアーツ思考ビジネスプログラム』は、今後どのように展開していく予定ですか?

田中:現在は大成建設のみでおこなっているので、今後はグループ会社にも展開していきたいです。そして、これまでは一定の年齢で区切って実施していましたが、もっと若い世代にも実施していきたいと考えています。

堂上:素晴らしいですね。大成建設さんの取り組みは、様々なメディアで取り上げられていますが、それによって社員のエンゲージメントや愛社精神が高まる効果もあるのではないでしょうか。

田中:まさにそのとおりで、社内の取り組みを外に発信することは、「うちの会社はこういう取り組みをしているんだ」「良い方向に変わっていくんだ」という期待感にもつながります。私は社員が「この会社で仕事をしていきたい!」と思ってもらえるような会社にしていきたいです。

堂上:素敵です。田中さんが描いているゴールにたどり着くために、今後どんなチャレンジをしたいのか、展望をお聞かせください。

田中:新しいことへの挑戦は続けていきます。一方で、今まで作ってきた新しい制度や仕組みを安定化させていくことにも取り組み、利用者にとって使いやすい育成の仕組みを実現していきます。

具現化するにあたっては、様々な運用の工夫も必要となるでしょうし、社内外への周知活動も一層おこなっていく必要があります。このような、地道な活動と新しいチャレンジを両立させ、描くゴールへと一歩ずつ近づいていければと考えます。

堂上:仕事を全力で楽しまれている田中さんなら、きっと実現されるのでしょうね。

田中:私はセンター長という立場なので、これからも先頭に立ち、楽しんで仕事をしている姿を見せたいと思います。そうすることで、社員のウェルビーイング度が少しでも上がれば嬉しいですね。

堂上:素晴らしいです! 今日は貴重なお話をありがとうございました!

田中:こちらこそありがとうございました!

堂上編集長後記:

ドコモgaccoのみなさまとご挨拶をさせていただいたのは、一般社団法人人的資本経営推進協会の主催する「人的資本経営サミット」。そこで、ドコモgaccoの素晴らしい取り組みをおうかがいして、ぜひWelluluで掲載させていただきたい、とお願いさせていただいた。

そこでご縁をいただいたのが、大成建設の田中さんである。田中さんは、出逢った瞬間に「まわりを巻き込む」起業家の気質を持ったウェルビーイングな方だと感じた。つまりは「改革者」なのである。建設会社ならではの古い体質をどんどん打ち壊して、新たな刺激を社内外で発信し続ける。

田中さんのような方が、たくさんの企業に生まれていくと、Well-Workingな環境が生まれて、ドコモgaccoのようなサービスをどんどん受ける方がでてくる。リベラルアーツとウェルビーイング、全部がつながっているとあらためて実感する時間でした。ありがとうございました。

撮影場所:大成建設株式会社 横浜支店ビル

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