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【岩手県】地域のコミュニティを守り、広げる!震災を乗り越え、個人の幸福を追求するために

県民一人ひとりの幸福追求権を重視する政策の一環として、岩手県が推進している「いわて県民計画(2019~2028)」。東日本大震災に直面し、さまざまな課題や問題に対応するために推進し続けてきた岩手県の多様な取り組みの内容やその背景について、岩手県政策企画課の加藤さんにお話を伺いました。地域のコミュニティを守るため、個人の幸福感を高めるため、今回のお話を通じて、多くの知見や現地の想いを垣間見ることができました。

※今記事は、2023年12月19日に取材を実施しました。

加藤 真司さん

岩手県政策企画部政策企画課総括課長

岩手県の総合計画「いわて県民計画(2019~2028)」の推進のほか、総合計画の理念
である幸福(ウェルビーイング)の理解促進、人口減少対策の企画を担当。

本記事のリリース情報

ウェルビーイングに特化した「Welulu」にて、いわて県民計画(2019~2028)が紹介されました。

東日本大震災を乗り越えて。個人の幸福を支える公共政策とは?

──加藤さん、本日はありがとうございます。早速ですが、「いわて県民計画」の策定の経緯について教えていただけますか?

加藤さん:この計画の起点は、2011年の東日本大震災です。震災後、被災者一人ひとりの幸福追求権の保障を基本原則としました。その後、2015年の知事選挙で、現知事が幸福度を行政評価の指標にすると公約しました。これを受けて、岩手県では幸福に関する研究会を設置し、この研究会の報告を基に2019年に現在の「いわて県民計画」を策定しました。

──策定にあたっての研究会の議論や県民意識調査の内容についても教えていただけますか?

加藤さん:策定にあたって研究会で大事にしていたポイントが二つあります。一つ目に、短期的な感情などの個人的な要素ではなく、多面的な観点から「よい状況(well-being)」を保てるかどうかという視点で指標を策定すること。そして二つ目に、幸福を定義するものではなく、多くの県民の幸福に関係していると思われる項目の集合体(最大公約数)として指標を策定することです。

加藤さん:外部の有識者を交えた研究会では、幸福やウェルビーイングに関する世界的な研究、熊本県など他の自治体の取り組みや国内の幸福に関する研究などを参考に議論しました。さらに、5000人の県民を対象にした意識調査を実施し、県民が幸福を感じる要因を調べました。幸福感と相関が高い12領域別実感として、家族関係の良好さや余暇の充実、健康状態などが大きく寄与していることが明らかになりました。

出典:岩手県立大学 和川准教授作成

加藤さん:意識調査を通じて、「主観的幸福感」は家族や健康など非経済的要素と相関が高いが、「生活満足度」は収入との相関が高かったという点です。幸福と満足を構成するものは少し異なるということがわかり、新たに主観的幸福感を測定する意義も見出しました。

──主観的幸福感は非経済的要素と相関が高い、というのは新たな気づきですね。

加藤さん:はい、基本的に主観的な幸福感はあまり変動しない傾向があります。しかし、大きな出来事が起こると幸福感に大きな変動が生じることがあります。例えば、安全に関連する指標です。災害などのリスクが報じられると地域の安全に関する幸福度が低下する傾向があります。

──実際の意識調査から大切な示唆がみて取れますね。それらを踏まえ、岩手県が設定した幸福度の指標についても詳しく教えていただけますか?

加藤さん:これらを元に12の領域実感をベースとした主観的幸福感を設定し、さらにその下支えとしてソーシャルキャピタルを位置付けています。県民の主観的幸福もとらえながら関連する客観的指標を定めることで、政策の策定や測定に役立てています。

客観的指標の例としては、仕事に関連する指標ですと完全失業率、健康に関してだと健康寿命といった数値です。これらは、研究会でまとめられた指標体系に基づいており、岩手県の幸福度を測定する上で重要な指標です。県民の幸福感を多角的に捉え、それに基づいた政策策定をしていく基盤となっています。

──県民の幸福感を多角的に捉えるとのことですが、ベースの考え方になっている幸福の重層的な構造に基づいた考え方についても教えていただけますか?

加藤さん:アドバイザーの京都大学の広井先生にまとめていただいた「幸福度指標をめぐる展開と課題」の考え方があります。幸福の概念は個人個人で主観的であり、多様ですが、その下支えとなるのは、コミュニティ、すなわちつながりとしての幸福、そしてさらに生命・身体の安全といったものも幸福のベースになっていると考えています。公共政策としては、特にこの「生命・身体」と「コミュニティ」への積極的な関与が重要です。これらをベースに、個人の多様な主観的幸福が実現できるようになります。

──あくまで政策は自己実現のベースとなる「身体・安全」や「コミュニティ」のためのものなんですね。これらを踏まえた政策推進の基本目標の設定において重視された点は何ですか?

加藤さん:我々の基本目標は「東日本大震災津波の経験に基づき、引き続き復興に取り組みながらお互いに幸福を守り育てる希望郷いわて」としています。

この「幸福」は12の領域別実感に基づき、10の政策分野を設定しました。政策の推進に際しては、県民意識調査の結果も参考しながら、幸福に関連する客観的な指標を設定し、それをもとに具体的な取り組み検討しています。このアプローチにより、政策の効果を客観的に評価し、必要に応じて見直しを行うことが可能です。

岩手の仕事と暮らしを守る。会社組織や地域コミュニティを維持・拡張するために

──東日本大震災による影響と、政策への反映について詳しく教えてください。

加藤さん:東日本大震災後、岩手県は一人ひとりの幸福追求権の保障という考え方を掲げ、仕事や暮らしに焦点を当て施策を行ってきました。例えば、震災によって打撃を受けた代表例が水産加工会社です。ただそれだけでなく、関連する業者全体、例えば魚を入れる箱を作っている会社、氷を作っている会社、そして運送会社といったように、業界全体を支援するグループ補助金というものを提案しました。水産加工会社を支援するだけでは業界全体としては回復しません。この「グループ補助金」を国に提案したのがまさに岩手県でした。

──ある一面だけではなく、俯瞰してひとりひとりの県民や業界をみたからこそ動けた制作ですね。他にも個人の幸福に着眼したものはありますでしょうか。

加藤さん:県民一人ひとりの暮らしや仕事をみていくのがとても大切で、まさに先に説明したような幸福の基盤の部分として政策が介入できる部分だと思います。他には住宅再建にあたっての補助なども挙げられます。震災でかなりの方が自宅を失いました。そこで自宅再建をされる方には補助金を交付しました。地元に残りたい、そう思ってくれる人にできる限り応えるための政策です。

──まさに、岩手県というコミュニティを守るために大切な政策ですね。他にもコミュニティに関する具体的な介入について教えていただけますでしょうか?

加藤さん:コミュニティに関する政策としては、会社組織や地域コミュニティに焦点を当てています。働き方改革の推進や、デジタル化も例として挙げられます。誰もが働きやすい環境へ整えていくために特にデジタル化は推進しており、デジタル化を進めている会社には補助金を支援したり、優れた取り組みを行う企業は表彰したりといった取り組みも行っています。これらは、働きやすい環境の構築や、地域コミュニティの維持強化を目指す政策です。

公営住宅の空き家を移住検討者に貸し出し

──他に岩手県で実施されている具体的な取り組みはございますでしょうか?

加藤さん:最近注目されている取り組みの一つに、「お試し居住」プロジェクトがあります。これは元々震災を機に住宅が必要な方のために用意をした住宅なのですが、10年経って空きも出るようになりました。この空室を、移住を検討している方へ向けて提供する取り組みを始めました。月額1万円で家具やWi-Fi環境が整っており、さらに岩手県のお米を1ヶ月分提供するという特典があります。この取り組みは、特に東京圏での移住定住促進の一環として行われており、40件の空き家を提供しています。現状かなり好評をいただいています。

──とても魅力的なプロジェクトですね。具体的にどんな人が利用しているのですか?

加藤さん:様々な家族形態や職業の方が県外からいらして利用しています。1ヶ月から最長1年の滞在が可能なのですが、多くの方が期間終了後も岩手県に残ることを選んでいます。移住を検討している人にとって良い選択肢になっているのではないかと考えています。

──復興の際に地元の方々を助けるために作った公営住宅が、こうして新たに移住を決めてくれる方々の入り口となっているというのは、とても素敵です。具体的に移住者からはどんな声が聞こえているのでしょうか?

加藤さん:そうですね。こうした公営住宅での暮らしをきっかけに移住を決めてくれる方がいるのは嬉しいことですし、岩手県として新たな人々も迎え入れながら拡張していけている証だと思っています。移住された方の中にはやりたかった農業にチャレンジしている方、東京でIT企業で勤めていた方が仕事の距離の壁を感じずに地元岩手に戻ってストレスのなく暮らせるようになったなど、多様な暮らしの形を体現している方がいます。

──みなさん自分らしい暮らしを岩手で見つけられていますね。そのほか、環境や住みやすさに関する政策にはどんなものがありますか?

加藤さん:震災を経験してからこそ行なった政策もあり、河川の整備の重要性が認識されました。津波が川を遡上することによる広範囲な浸水のリスクがあるため、海岸近くだけでなく中流域の整備も必要であるという認識が高まりました。災害はまたいつ起こるかわかりません。震災の経験を機に、人々の暮らしの安心安全を追求し、学べることは学んで政策に落とし込んでいます。

未来の担い手となる高校生とともに、地域を考え、創り、残していく

──教育・育児に関する取り組みについても教えていただけますでしょうか。

加藤さん:岩手県では、特に県立高校の魅力化に取り組んでいます。岩手県内で若者が進学や就職のために県外に出ることが多いため、高校生の時から地元との関わりを深めることが重要だと考えています。たとえば、授業の形態を変更したり、地域活動や地元の人々との交流を促進したりしています。この取り組みは、地元愛の育成や復興の理解を深めることにも繋がっています。

例えば高田高校の「空き家維持・整備活動」です。年々空き家が増えているのが問題ですが、高校生とその活用方法について議論し、NPO「高田暮舎」さんと共に「泊まれる古本屋・山猫堂」の整備を行いました。大槌高校では2013年から継続して、変化する街並みを定点観測する授業も行なっています。大槌町内180ヶ所の変遷を後世に伝えるための大切な取り組みになっており、高校生の「記憶を風化させないために取り組んでいきたい」という決意を紡いでいます。

これらの活動が、高校生が地元での学びや活動を通して多様な経験を積む機会を提供し、将来的に地元に戻る動機づけとなることを期待しています。

──地元の事業所とも連携しながら、かなり実践的かつ岩手県の未来を考える授業を行っていますね。

加藤さん:はい、こうした取り組みこそ、地元を深く考えるきっかけになり、岩手に残ろうと思うきっかけ、または一度進学等で県外へ出てもまた戻ろうと思うきっかけになってくれたらいいなと考えています。

また、岩手県には高校が80校ほどあり、岩手県の高校生が自分たちの活動を発信するnoteを運営しています。各高校がそれぞれのカラーや特色に合わせて取り組みを行っているのがみて取れますが、例えば、葛巻高校では町が運営する学習塾との連携や、他地域からの生徒も受け入れるなどの取り組みをしています。畜産関係の仕事に就く生徒の事例もあります。

このように高校間を横断して各校の様々な活動が一堂に会する場となっています。これにより、高校生の地域愛や学校間のコラボレーションが促進されるという利点があります。

──県の高校を横断した高校生が運営するnoteというのは、大変魅力的ですね。今後の取り組みで注目しているものはありますか?

加藤さん:今後の注目点として、海外展開への取り組みがあります。特に、物産の海外展開や外国人観光客の誘致を進めていきたいと考えています。具体的な物産としては、加工品やお酒、南部鉄瓶などがあり、特に南部鉄瓶は中国での引き合いが強いです。これからの時代、地方が直接海外と繋がる重要性が高まっているため、岩手県としても積極的に海外展開を目指しています。

──岩手県に昔からある伝統産業や伝統工芸で海外と繋がっていくというのは、文化の存続にも寄与しそうですね。本日は多方面から岩手のウェルビーングを考える取り組みをお聞かせいただき、ありがとうございました。

復興のシンボル、子どもたちの活動拠点…、岩手県のおすすめスポット

──最後に岩手県のウェルビーイングスポットで特におすすめの場所はありますか?

加藤さん:はい、いくつかおすすめの場所があります。まず、安藤忠雄さんが古い町家をリノベーションして設計した文化施設「こども本の森 遠野」は、親子で楽しめるスポットです。遠野市は、日本民俗学の創始者である柳田國男さんが岩手県遠野地方に伝わる逸話、伝承などを記した『遠野物語』の舞台となった町であり、震災後は後方支援基地としても機能していました。その後、復興の一貫として「こども本の森 遠野」が新たに誕生し、学校帰りの子どもたちが本を読んだり、勉強したりする場所として地域に親しまれています。

加藤さん:続けてですが、2019年にアジア初開催のラグビーワールドカップ日本大会の会場の一つとなった「釜石鵜住居復興スタジアム」も訪れて欲しいスポットです。ここは、津波に襲われた「釜石市立釜石東中学校」の跡地に建設され、復興のシンボルとしてもご覧いただければと思います。

加藤さん:そして、「岩手県立児童館 いわて子どもの森」は、子どもたちが自然の中で自由に遊べる施設です。学びと遊びの場として、多様なワークショップやアクティビティが提供されており、キャンプ場も完備されています。子どもたちが安全に楽しめる環境が整えられています。

このスポットは、子どもが主役となり、地域の人々や訪れる家族にとっても学びや発見のある場所です。大型児童館としては珍しく、地域における子育てのサポートとしても重要な役割を担っています。

──加藤さん、本日はありがとうございました。震災以降、岩手県がどのように地域の方々とともに歩んできたのか、すごく興味深いお話でした。

Wellulu編集後記:

今回のインタビューを通じて、岩手県がどのように東日本大震災を乗り越え、どのように地域を盛り上げてきたのか、そのお話に胸を打たれました。補助金を交付して県民の仕事や暮らしを守るだけでなく、地域のコミュニティを存続させるための取り組み、子どもたちが地域愛を育めるような拠点づくりやワークショップ企画など、県民ひとり一人の幸福感を支えるためのサポートに創意工夫がありました。また、加藤さんのお話をお伺いして、地域独自の文化やコミュニティを存続させること、そして地域住民の方々と共に拡大させていくことの重要性なども改めて感じることができました。

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