
福井県の県名に込められた願いの通り、福井県ではウェルビーイングに関するさまざまな取組みをおこなっている。「都道府県幸福度ランキング」をはじめ、国、大学、民間のさまざまなランキングで高い評価を受けながらも、「住民一人ひとりの幸福実感はさらに高めていくことができる」と未来創造部の飛田さんは話す。
年代別の幸福感の分析やライフステージに合わせた施策など、個々人の幸せを追求するために、地域住民と共にどのような取り組みをおこなっているのか?福井県が目指す将来像について詳しくお話を伺ってきた。

飛田 章宏さん
福井県庁未来創造部幸福実感ディレクター・ウェルビーイング政策推進チームリーダー

小林 慶さん
福井県庁産業労働部政策推進グループ 主事
本記事のリリース情報
ウェルビーイングに特化したWebメディア「Wellulu」にて福井県が取り上げられました
“主観的な幸福感”を重視した福井県のウェルビーイング施策
──本日はよろしくお願いします。まず初めに未来創造部がウェルビーイングに着目した理由について教えてください。
飛田さん:福井県の幸福度やウェルビーイングについてお話する前に、まず県名の由来についてお話させてください。福井の地名は、江戸時代初期の頃までは「北庄(きたのしょう)」と呼ばれていました。当時、「北」は敗北を連想させる文字とされていたため、1624年に徳川家康の孫、松平忠昌が治める際に“福居(諸説あるが、その後、福井に変わる)”という地名に改称したと伝えられています。「福」は幸せ、「居」は住む所、という意味がありますので、そうした想いが込められたのかもしれません。
──素敵な由来ですね。その話を聞くと、福井県って、江戸時代初期の頃からウェルビーイングや幸福に対する想いが強かったのかもしれませんね。
飛田さん:そうかもしれませんね。先人たちの積み重ねがあって、福井県は、一般財団法人日本総合研究所が実施している「都道府県幸福度ランキング」で5回連続(10年間)をはじめ、国や大学、民間のさまざまな幸福度や豊かさのランキングにて日本一を獲得しています。
これらのランキングは、統計などの客観的なデータから、医療や福祉、家族や地域のつながり、優れた子育て・教育環境、充実した産業・雇用などを総合的に評価いただいたものです。福井県では、こうした客観的な幸せ指標に加え、杉本知事のリーダーシップのもと、主観的な幸せの実感、すなわちウェルビーイングを高める取り組みにも力を入れています。
──労働環境も全国的に見て高い評価を受けているんですね。
小林さん:私は元々関東圏に住んでいて、職場は東京都内でした。福井県に移住して一番感じたのは、通勤の違いでした。都内だと満員電車が当たり前で、出社するだけで心身ともに疲れることも多かったのですが、福井県だと混み具合がだいぶ緩やかで人疲れや移動時のストレスなく過ごせます。
──もっと移住者の声、聞きたいです!
小林さん:あとは自然が豊かで水がきれいなので、ご飯がとにかくおいしいです。もちろん、東京にはおいしいご飯屋さんも多いのですが、お米や食材の鮮度などが良いので家庭料理も文句なしに良いなと感じています。そういった意味でも生活しやすさは感じていますね。
──ありがとうございます。話を少し戻しますが、未来創造部は、福井県で暮らす人たちにどういった幸せを提供したいと思っているのですか?
飛田さん:福井県では、「幸福度日本一のその先へ」を掲げ1人1人の個性や価値観を尊重し、それぞれが自分らしく豊かに生きられる社会を実現することを目指しています。具体的には、多様性を尊重し、各個人が充実した暮らしを送れるような社会の実現を目指して、さまざまな取り組みをおこなっています。
私自身も令和5年5月から「幸福実感ディレクター」として活動しているのですが、客観的な統計データに加え、住民の方々の“主観的な幸福感”に注目しています。
──客観的なデータに加え“主観的な幸福感”を重視しているとのことですが…、考え方として、どう違うのでしょうか?
飛田さん:福井県では、毎年、県民を対象としたアンケートで、とても幸せを「10」、とても不幸せを「0」の11段階で幸福実感を聞いています。福井県民の平均的な幸福実感は7程度と、全国的に見ても高い水準です。ただ、年代別に見ると、20〜50代の働き世代が少し低い傾向が見られます。
客観的データでみると、福井県は、失業率が低く、正規雇用割合が高く、すでに優れた雇用環境があり取り組みの余地は限られているように見えますが、働きがいや働きやすさといった、働き世代の主観に寄り添うことで、さらに幸福実感を高めることができると思います。
最近では、新しい経済ビジョンに幸せ実感(ウェルビ-イング)を位置づけ、社員の働きがいを高める「ウェルビーイング塾」の開講や、働きやすい職場環境づくりを進める「社員ファースト企業」の拡大などにも精力的に取り組んでいます。
このように、客観的なデータだけではなく、若年層から高齢者まで世代別での幸福実感を分析したり、ライフステージに合わせた課題を明確化することで、県民一人ひとりの“主観的な幸福感”に目を向けられると考えています。
世代交流にもつながる!デジタルでアナログな健康増進事業
──多様性の尊重や一人ひとりの幸せなど、「幸福度日本一その先へ」に込められた想いについてよくわかりました。続いて具体的な取り組みについて教えてください!
飛田さん:はい。住民の健康増進や幸せ実感の向上を目指して、今年度から、池田町や慶應義塾大学医学部と連携し、「健康ポイント実証事業」もスタートしています。このプロジェクトでは、健康アプリで計測した歩数に応じて、県内のお店で使える、デジタル地域通貨「ふくいはぴコイン」を付与します。健康アプリを通じて、歩数データやアンケートなどを収集し、例えば、地域通貨を付与することで歩数がどう変化するかや、歩数が増えたことで主観的な健康感や幸せ実感が高まったかなどを分析していきます。
また、結果を住民にわかりやすく見える化することにより、運動の継続性を高めていきたいと考えています。あわせて、池田町では、「走っちゃだめよ 歩こう!運動会」など、健康アプリを使いながら、子どもから高齢者まで気軽に参加でき、大学や企業なども一緒に交流できる企画なども行っています。
──「走っちゃだめよ 歩こう!運動会」おもしろそうなイベントですね。どういった内容だったんですか?
飛田さん:歩く借り物競争、歩く一升貯蓄リレー、歩くしっぽ取り競争など、むりなく楽しく歩くことがルールで、走るとイエローカードがでます(笑)。4人一組がチームで、友人や職場、老人会などから参加していました。私も子どもと一緒に家族で参加し、健康アプリの写真投稿機能を使って、笑顔で歩く写真を共有したり、幅広い世代の人たちとの交流ができました。会場では、減塩のおむすびやお味噌汁のふるまい、血圧・血液検査などもあって、健康への意識が高まりました。
──健康や交流を促進する取り組みの中でも、運動会などのイベントからデジタルツールの導入など幅広いですね。
飛田さん:こうしたデジタルなどの新しい技術も活用して、健康増進やつながりのある地域づくりなどにつなげ、県民の幸福実感を高めていきたいと考えています。
福井はふく育県!子育てサポート体制・探究学習のススメ
──続いて、子育て・教育面での取り組みについて教えてください。
飛田さん:福井県では、日本一幸福な子育て県「ふく育県」を目指し、子育てに「ゆとり」を、子育てを「もっと楽しく」、子育てを「お得」にをキーワードに、子育て支援に取り組んでいます。なんといっても保育所の待機児童はゼロですし、独自に第2子以降の保育料無償化を拡充していて、来年9月からは所得に関係なく無償になります。
男性の育休取得も進めていて取得率は全国平均を上回る20%まで伸びましたが、長期間の男性育休が当たり前になるよう、日本一の男性育休支援(代替人員の確保など企業に最大600万円超の支給)もはじめました。また、子どもが雨の日でも遊べるよう、全市町に全天候型の遊び場の整備を進めたり、県内1,800店舗以上で割引などを受けられる「ふく育パスポート」も発行しています。
福井県では、三世代同居の割合が全国に比べ高くて、こうした世帯では祖父母と子育てで協力しやすい環境がありますが、福井にはじめて移住する核家族も安心して子育てできる環境を目指し、学校の送迎など、子どもだけでも利用できる「ふく育タクシー」の普及や、福井独自のキッズ・ベビーシッター「ふく育さん」の派遣など、地域全体で若い世代をサポートする体制を整えています。
──現地に知り合いがいない子育て世帯の移住者からしたら、地域全体でサポートする体制があるのはうれしいですね。学校などの教育面はいかがでしょうか?福井は「教育県」という言葉も聞いたことがあるのですが…。
飛田さん:福井県の小・中学生の学力・体力は常に全国トップクラスで、中高生の英語力は5回連続で全国1位です。福井県では、一人一人の個性が輝く、ふくいの未来を担う人づくりを基本理念に、教育をもう一段階高めていく取組みを行っています。
学校の授業では「探究的な学習」と呼ばれる学習活動を積極的に進めています。探究的な学習では、児童生徒が自ら問いを立て、自らその答えにたどり着く経験を重ねていきます。例えば、海岸のゴミ問題に対する対応を考えるなど、自然に関するテーマも多く取り上げられていますね。
飛田さん:近年では、児童生徒が主体性を持って課題に取り組む教育は全国的に見られますが、福井県でも力を入れており、学校と行政・企業が連携し、さまざまなワークショップを実施しています。私も、県内金融機関の若手職員とともに小学生向けの動画を制作し、「2040年の福井県はどうなってると良い?」という問いかけから、児童たちに福井の未来を考えてもらうワークショップを企画しました。
小林さん:これは私見なのですが、大都市と比べて教師と生徒との距離感が近いなという印象があります。先生と生徒の距離感が近いため、先生に対する信頼感も高いと感じていますね。あとは、地域の特色的な学習も多く、例えば海辺の学校だったら海に行く課外学習だったり、地元で取れた魚をさばくワークショップみたいな学びもあるようです。
──他にも教育面で力をいれていることはありますか?
飛田さん:教育面でもデジタル化を進めています。小・中・高校で1人1台のタブレット等の端末を整備していて、共有ノートアプリでの協働学習や、デジタル教科書などでも活用しています。また、採点作業の効率化など、先生の業務負担を軽減する取り組みもおこなっており、子どもたちも先生も楽しく快適なICT教育を進めています。
豊かな自然の中で、幸せを見つめ直す。地域住民主体のイベント
──福井県には、天然記念物に指定されている「東尋坊」などの豊かな自然があると思うのですが、地域の方々と一緒になって自然資源を活用した取り組みはあるのでしょうか?
飛田さん:海・山・川・湖など自然との距離が近いので、県内に住んでいる方々は気軽にアウトドア活動を楽しんでいます。敦賀湾に浮かぶ透明度の高い水質が特徴の無人島「水島」での海水浴や、「釣りの聖地」と呼ばれる九頭竜川での鮎・サクラマス釣り、西日本最大級のゲレンデで楽しむスキー、樹の間に浮かぶテントでのキャンプ、「日本一美しい星空」にも選ばれた六呂師高原での星空観察など、福井ならではの自然体験ができます。
また、県では、桜の名所等を巡る「ふくい桜マラソン」の開催や,五色の湖「三方五湖」と若狭湾のダイナミックな景観を楽しむサイクルツーリズムの推進など、自然を活かした取組みにも力を入れています。
私も、最近だと「焚き火×幸福実感・ウェルビーイング」というイベントを地域のまちづくり会社と一緒に開催しました。福井市中心市街地にも流れる足羽川の河川敷で、焚火を囲みながらさまざまな人と交流できる内容で、「暖かいって幸せ」をテーマに、ヨガインストラクターや心理カウンセラー、アーティストなど、福井県在住のゲストの方々と一緒に、様々なワークショップを行いました。
──心からゆっくり安らぐことができそうなイベントですね。
飛田さん:はい。日頃、仕事や子育てなど頑張っている人たちの幸せ実感を少しでも高めることができればいいなと思い企画しました。ヨガのストレッチや、マインドフルネス、お好みのスパイスでつくるチャイづくりを体験してもらったり、アコースティックギターの弾き語りを聞いてもらったりしました。「こころ」と「からだ」をあたためてもらったら、見知らぬ人同士の会話も弾んで、あたたかい人のつながりもつくっていただけたのかなと思っています。
──福井県ではまちなかの公園でのミュージックフェスなどの大がかりなイベントも定期的に開催されていますが、「焚き火×幸福実感・ウェルビーイング」のような“人とのつながり”や“安らぎ”を体感できるようなイベントは他にもあるのでしょうか?
飛田さん:そうですね。足羽川の河川敷ではいくつかの焚火を囲むイベントが週替わりで開催されていましたし、住民の方々が主体となって開催しているイベントも多いと思います。福井駅前を中心としたまちなかでの学びの場として、「ふくまち大学」という取り組みが行われています。自分の好きなことや得意なことを持つ住民が「せんせい」となって、例えば、「まちのボードゲーム学科」や「まちの着物サークル」、「まちの健康学部」など、まち全体でさまざまな人の関わりを生み出す活動が行われています。
また、今年10月には、県内有志の方々が中心となり、アップルのスティーブ・ジョブズ氏も影響を受けた禅の聖地である、永平寺町にて、「ZEN×Well-being ダイアログ」が開催されました。ジョブズ氏の13回忌の命日に合わせ、地域社会やテクノロジー、命など、様々なテーマで、今の時代における幸福について、ディスカッションが行われました。福井だけではなく、県外や海外からの参加もあり、参加者同士のつながりが育まれていました。
──行政の皆さんが主催するイベントもあれば、地域の方々が主体となって進めているイベント、それに豊かな自然…、すごくうらやましいです!
癒し、体験、学び…、福井県のウェルビーイングスポットとは?
越前がにに越前蕎麦、若狭牛、オリジナルの酒米「さかほまれ」を使った地酒をはじめ、豊かな自然に囲まれた環境だからこそ楽しめる海・里・山の幸。それに、マリンスポーツやウインタースポーツなど、観光スポットとしても人気な福井県。来年3月16日の北陸新幹線の福井・敦賀までの開業で都内からのアクセスも向上し、気軽に福井県に訪れることができる。そこで、「ウェルビーイングスポット」をテーマに、福井県の魅力的な場所を未来創造部の飛田さんに教えてもらった。
親子で楽しめる恐竜王国ふくい
飛田さん:一つ目のおすすめは、世界三大恐竜博物館のひとつ「福井県立恐竜博物館」です。令和5年7月にリニューアルオープンし、日本初公開となる草食恐竜ブラキロフォサウルスの実物のミイラ化石の展示、実物大の恐竜が躍動する「3面ダイノシアター」、化石クリーニングなどの研究体験など、大人も子どもも、楽しみながら学べる人気のスポットです。
福井県は恐竜化石の一大産地としても有名で、実際の恐竜化石発掘現場の観察や化石発掘体験ができる野外恐竜博物館もおすすめです。恐竜電車や恐竜バス、恐竜ホテルなど、移動も宿泊もワクワク・ドキドキです。
職人の本物の技に触れる
飛田さん:丹南地域もおすすめです。歴史と伝統のあるものづくりが盛んな地域で、越前漆器、越前和紙、越前打刃物、越前焼、越前箪笥の伝統的工芸品の産地として知られています。また、福井県で全国の9割以上を占めるめがねフレームの生産や繊維業も盛んです。もちろん、時代に合わせたものづくりも進んでおり、伝統的な技術と新しいデザインの融合も感じていただけると思います。
毎年、職人の技を間近で見られる工房見学イベント「RENEW」や、丹南地域はじめ全国から職人が集まる「千年未来工藝祭」など、職人の手しごと、本物の技を実際に見て体験していただくと、手に取る商品が違って見えてくると思います。
──豊かな自然においしいごはん。それに、親子で楽しめるスポットやさまざまな伝統工芸、ちょっとした国内旅行としてれるのも良さそうですね。
飛田さん:はい。また、永平寺もおすすめです。曹洞宗の大本山であり、道元禅師によって開かれた、700年以上の歴史と伝統を受け継ぐ禅の道場です。実際に、多くの修行僧が日々修行に励んでいます。禅は海外では“ZEN”として広まっており、注目度が高まっています。33万㎡もの広大な敷地には70を超える諸堂が存在し、うち19の建物は国の重要文化財にも指定されています。
一般の方も坐禅の修行体験をすることができ、禅の世界観を体感していただけます。また、四季折々の美しさも感じられます。あわせて門前町の散策もおすすめです。
──なるほど。飛田さん・小林さん、本日はありがとうございました。
Wellulu編集後記:
福井県が取り組むウェルビーイングな取り組みをお伺いして、地域住民一人ひとりの幸福実感を高めるための独創的なアプローチが印象的でした。都道府県幸福度ランキングで上位に位置しているものの「幸福度日本一のその先へ」と掲げ、住民の健康増進や地域コミュニティの活性化、教育面での探究学習の重視など、多角的な取り組みがありました。特に、健康ポイント実証事業や「走っちゃだめよ 歩こう!運動会」のようなイベントを通じて、住民の健康を促進し、世代を超えた交流の場を創出しているところに感激しました。これらの取り組みは、住民が自らの健康を意識し、同時に地域コミュニティとの絆を深める機会を提供しているんだろうと思います。
早稲田大学政治経済学部卒業後、2003年4月より福井県入庁。産業や観光行政のほか部局横断的な政策づくりを担当後、管理職等に積極登用する人事のチャレンジ制度に手を挙げ、2023年5月から現職。大学・企業などと連携し、県民の幸福実感を高めるプロジェクトを進めている。中小企業診断士。