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静けさの中にこそ、真の豊かさが満ちている。ヨガ哲学から学ぶ「心地よさ」の選択【よりみちYoga】

日々の喧騒から少し距離を置き、自分の呼吸に意識を向ける。すると呼吸が深まるにつれて、頭の中の雑念や体の緊張が、静かに解きほぐされていく。

このように呼吸を通じて、自分自身の心と体の声に耳を傾ける時間がヨガにはある。

本記事では、ヨガインストラクターとして現場で指導する傍ら、次世代の指導者の育成にも携わる木村珠理さんが登場。聞き手は「よりみちYoga」の共催者であり、自らもヨガを通して内面の変化を感じている、株式会社Walklogの荻津こはるさん。

ヨガの本質や呼吸の力、そして心地よく生きるためのヒントを伺い、暮らしに息づくヨガの哲学を紐解いていく。

本シリーズでは、「よりみちYoga」をともにつくる講師が登場。
それぞれの生き方とヨガの哲学を通して、心と体をやわらかくするヒントをお届けします。

 

木村 珠理さん

ヨガインストラクター育成講師

「心地よさを選ぶ力」を大切に、日常に息づくヨガと瞑想的なライフスタイルを提案。ヨガとの出会いは19歳。産後に心身の不調をきっかけに練習を再開し、アーサナを通じて“心と体はひとつ”という実感を深める。「自分は自分が選んだものでできている」と気づいた経験から、肩ひじ張らないヨガを伝えることを軸に活動を展開。一般クラスのほか、岩盤ヨガやビーチヨガ、哲学・瞑想クラスなど幅広く指導している。現在はOMYOGA認定講師として、RYT200/RYT500/RPYTなどの資格講座を担当。

https://www.instagram.com/juli.yoga.shanti/?hl=ja

荻津 こはるさん

株式会社Walklog

SNSマーケティング会社で飲料・コスメ・食品ブランドなどのアカウント運用や撮影ディレクションを担当。企画から制作まで一貫して形にする経験を重ね、コンテンツを通じたブランド成長を支援。その後、ブランディングや営業企画の領域で企業やサービスの立ち上げ、営業組織の仕組みづくりに携わる。現在は株式会社Walklogにてウェルネスをテーマとしたイベント「よりみちヨガ」を共同主宰し、心と体を整える習慣をライフスタイルの一部として提案している。

https://company.walklog.jp/about-6

目次

体からのサインに耳を傾けて気づいた、ヨガの真髄

荻津:「よりみちYoga」シリーズ第4弾のゲストは、ヨガインストラクターとして現場で活躍しながら、次世代の指導者の育成にも携わっている木村珠理さんです。どうぞよろしくお願いします。まずは、木村さんとヨガとの出会いを教えてください。

木村:よろしくお願いします。私がヨガと出会ったのは19歳のときでした。初めて体験した「シャバーサナ(仰向けで全身を休めるポーズ)」の心地よさに衝撃を受けたのを覚えています。

それまでの私は、常に何かしていないと落ち着かないタイプだったんです。けれど、ポーズをとりながら静かに自分の呼吸を感じていたら、“動かない時間”にも豊かさがあることに初めて気づきました。そこから本格的にヨガと向き合うようになったのは、出産を経てからです。

荻津:産後に再びヨガを始めたきっかけは何だったのですか?

木村:出産後に、坐骨神経痛が悪化してしまって。私の場合は病院や鍼に通っても改善せず、友人の勧めでヨガを再開しました。最初は半信半疑でしたが、少しずつ痛みが和らぐとともに、ヨガが心のよりどころのような存在になっていきました。でも、いつの間にか「もっと柔軟な体になりたい」「もっと難しいポーズを習得したい」と自分を追い込み、体に負担をかけすぎた時期もあったんですよ。

荻津:心地よさを求めていたはずが、いつの間にか「できること」を増やすことが目的になってしまう。ヨガに限らず、私たちの日常にも通じる話だと思いました。体にはどんな負担がかかったのでしょうか。

木村:痛みや不調が増し、ついには太ももの裏側にあるハムストリングスを断裂。そのときにようやく気づきました。動くことと休むこと、その両方をバランスよく取り入れることが大切なんだと。体を酷使するほど心まで硬くなってしまう。ヨガを通して、結果を追い求めるだけでなく、立ち止まることにも意味があると知りました。

荻津:ヨガは「継続が大切」と言われますが、自分に合った続け方を見つけることが重要なのかもしれませんね。

木村:その通りです。練習量ではなく、今の自分が何を求めていて、そのためにはどんなペースで体を使うべきか。そこに意識を向けることが大事です。

ですから、私はレッスンでも「みんな違ってよい」と伝え続けています。その日の気分や体調、体の柔らかさや筋力、集中できる時間の長さも、人によって異なりますから、当然同じポーズを取っていても、感じる「心地よさ」の場所も違います。大切なのは、他人と比べず、自分なりの心地良さを見つけること。周りと同じである必要はないと気づけた時こそ、ヨガの本当の楽しさが始まるのです。

心を整える「1対2」の呼吸法。呼吸のリズムで心身をリセットする

荻津:これからヨガを始めたい人が、心地よく続けるために意識しておくと良いことはありますか?

木村:一番お伝えしたいのは、やはり、「頑張りすぎないこと」です。呼吸をひとつの指標にしてみてください。呼吸が浅くなったり、苦しく感じたりしたら、それは体が「もう十分だよ」と教えてくれているサインです。身体が過緊張になるほど限界まで使うより、少し余白を残して動くくらいがちょうどいい。無理をせず、呼吸の流れに身を委ねるように動くと、心も自然と落ち着いていきます。

ヨガは、ポーズの完成度を競うものではなく、今この瞬間の自分に丁寧に意識を向ける練習です。呼吸のリズムに合わせて動くことで、自分の体の声を聞く感覚が少しずつ育っていきます。

荻津:以前、レッスンで「1対2の呼吸」という方法を教わりました。息を吸う時間よりも、吐く時間をゆっくりと2倍にするというものだったのですが、それだけで体の力が抜けて、心まで穏やかになるのを感じたんです。こうした呼吸法には、医学的な根拠もあるのでしょうか?

木村:ヨガにはさまざまな呼吸法がありますが、世界最古のヨガ研究所と言われているインドにある「カイヴァリヤダーマヨーガ研究所」では、呼吸が体内の血中ガス濃度や筋肉の反応にどう作用するか、科学的な知見を加えたヨガを実践しています。

吐く息を長くすることで二酸化炭素濃度が高まり、自律神経がリラックスモードに切り替わる。反対に、酸素を過剰に取り込みすぎると、筋肉がこわばることもあります。出産のときに「ゆっくり吐いて」と言われるのも、その作用を利用しているんですよ。

荻津:私たちは呼吸を1日に何万回も繰り返しているのに、普段その存在を意識することがほとんどありません。でも、少し深く呼吸するだけで、頭の中のざわめきが静まり、心まで落ち着いていく。そんな小さな意識的な動作で、自分の状態が変わるなんて、本当に不思議です。

木村:たとえば夜、眠る前に「今日もよく頑張ったな」とつぶやきながら、ゆっくりと息を吐いてみる。あるいは、仕事で気が張っているときに「今、どんな呼吸をしているかな」と一度立ち止まってみる。それだけで肩の力が抜けて、胸のあたりにあった緊張がふっとゆるむのを感じます。呼吸は場所を選ばず心を整えてくれる“小さなお守り”のような役割を果たしてくれます。

心を静めて見つめることで養われる、気づきの力

荻津:ヨガを続けるなかで、体の変化だけでなく、日常の感じ方にも変化があったのではないでしょうか。

木村:一番大きい変化は、感情や身体の些細な変化に、丁寧に目を向けられるようになったことです。私たちは、自分の心や体の状態には意外と鈍感。たとえば「イライラしている」と感じても、その奥にある疲れや緊張を見落としがちなんですよね。そこで、体の動きや呼吸の浅さ、心の揺れを観察すると、今の自分に何が起きているのかが少しずつ見えてきます。

木村:ヨガの根底にある「瞑想」には、主に2つの方法があります。1つ目は、一点に意識を集中させる瞑想(集中瞑想/サマタ瞑想)。呼吸や姿勢に意識を向けながら集中することで、心の軸が定まっていきます。

2つ目は、今この瞬間をありのまま見つめる瞑想(観行瞑想/ヴィパッサナー瞑想)。浮かんでくる感情や思考を気づいて受け止めることも、変えていくこともできます。心が静まることで、自然と整理されていくのです。

どちらにも共通しているのは、評価や判断、受動的な心の動きから離れて自分で心の状態を選択していることです。外の世界に働きかけるのではなく、自分の内側にある感覚に耳を澄ませることで、心が落ち着き、思考や感情がクリアになっていきます。

荻津:他にも、レッスンで教わった「イメージ瞑想」がとても印象に残っています。眠りにつく前に、「どんな気持ちで一日を終えたいか」を自分に問いかけるという教えでした。そういった時間の使い方があると、忙しい日々の中でも、心をやさしく切り替えるゆとりを持てるようになりますね。

木村:子どもの頃って、想像をめぐらせながら眠りについていましたよね。お気に入りの絵本や音楽を思い浮かべて、安心の中に沈んでいくように。でも大人になると、頭の中が忙しすぎて気づいたら寝落ちしているなんてことも多い(笑)。「どんな気分で眠りたいか」は意外と意識しないものです。

でも、本当は眠りの時間も自分でデザインできます。「今日はやさしい気持ちで寝たいな」とイメージして呼吸を深くするだけで、翌朝の体の軽さが全然違う。心を落ち着かせて眠るという小さな習慣が、“今日よりちょっといい明日”へとつながっていくのです。

心の余白は、日々の小さな選択の積み重ねによって育まれる

荻津:木村さんが「ウェルビーイングだな」と感じるのは、どんな瞬間ですか。

木村:「自分の意思で選択できている」と感じるときですね。たとえば「今日は休もう」「海を歩こう」と、自分の体調や気分を見ながら決められているときです。反対に「こうしなきゃ」「こうあるべき」と思い込みすぎると、心が窮屈になります。選択肢を持てることが、心の自由を支える土台となっているのです。

荻津:教室には、悩みや不安を抱えた方も多く通われているのではないでしょうか。そうした方には、どんなふうに寄り添っていますか。

木村:人生の選択は、自分の内側で何が起きているのかを理解することから始まります。そこで、私は「ノンバイオレント・コミュニケーション(NVC)」という手法を育成講座で紹介しています。NVCは、アメリカの臨床心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグ博士が提唱した“共感を軸にした対話法”です。評価や批判ではなく、「自分は何を大切にしていたのか」に意識を向けることで、不安や焦りが静まり、深呼吸できる感覚が戻ってきます。

荻津:相手を責めるのではなく、自分の中の“声”を聴くということですね。

木村:そうですね。たとえば「どうしてあんなことを言うの?」と感じたとき、その裏には「もっと理解してほしかった」「安心したかった」という思いが隠れていることがあります。自分の本音を見つけてあげると、他人への攻撃性も自然と和らいでいくんです。恋愛や人間関係のすれ違いも、「なぜこうなったのか」ではなく、「私は何を求めていたのか」と問いかけることで、心の整理ができるようになります。

荻津:相手を責める言葉は、裏を返せば「こうしてほしい」という期待の表れであることもありますね。

木村:相手を責めても物事は進まなくて、じつは「手伝ってほしい」「話を聞いてほしい」といった“お願い”に言い換えることで、一歩前進していくことは多いのかもしれませんね。

そしてそれは、自分自身に対しても同じ。「なんでこんなにイライラしてるんだろう」と観察してみると、「本当は時間が足りなくて焦っている」「落ち着いて話す余裕がほしかった」という気持ちが見えてきます。

その気づきをもとに、次の行動を自分で選んでいく。そうした小さな選択の積み重ねが、心に余白と静けさを取り戻してくれるのだと思います。

“自分”に還る静けさ。自然と調和する暮らしの知恵

荻津:休日は、どのように過ごされるのがお好きですか?

木村:私は神奈川県の葉山町に住んでいるのですが、朝の海を散歩するのが日課なんです。波の音を聞きながら深呼吸していると、まるで潮騒に溶け込むかのように消えていく。波のリズムと自分の呼吸が重なって、心がゆっくりと整っていくのを感じます。夏の朝はそのまま海に入ることも(笑)。

海風に触れていると、自然のリズムに自分の呼吸が重なって、心も体も無理のないペースを取り戻せる。それが私にとっての“本来のリズム”なのです。

荻津:自然の中にいるだけで、何かに追われているような感覚がふっとほどける瞬間がありますよね。

木村:それが瞑想と同じ効果をもたらします。心を一度リセットして、「本当に大切なことって何だろう」と立ち止まれる。そうして意識を“今”に戻すことが、ウェルビーイングな時間だと感じています。

荻津:睡眠や食事の習慣も大切にされているそうですね。

木村:夜は早く休むようにしています。条件が揃えば、20時半ごろに布団に入って、朝5時に起きる。十分な睡眠を取ると、翌朝の体が驚くほど軽いです。

食事は「我慢」ではなく「調整」することを意識しています。外食のときは好きなものをおいしくいただき、翌日は野菜を多めにしてバランスを取っています。

木村:迷ったときは、まず「今の自分はどう感じている?」と静かに問いかけます。「今日は調子がいいから食べよう」「今日は控えよう」と、自分に合う選択をその都度する。ヨガって、じつはその連続的な判断と調整の繰り返しなんですよ。

まずは自分の中の環境をやさしく整えること。そうしてストレスや迷いを少しでも減らせば、周囲との関係や行動も穏やかになっていく。そんな連鎖が広がれば、社会全体もやさしく変わっていくはずです。そして、それが子どもたちによりよい未来を渡すための、小さくても確かな一歩だと考えています。

荻津:お話を聞いていると、ヨガは身体を動かすだけでなく、暮らしや生き方そのものを見直していく哲学のようですね。

木村:ヨガの語源であるサンスクリット語の「ユジュ」(牛や馬と車をつなぐ軛)は、“つながり”を意味します。自分と体、人と人、自然と人。そのつながりを思い出すことが、ヨガ哲学の根底にはある。そして、自分を大切にすることで、他者にもやさしくなれる。ヨガはその気づきをくれる時間です。

荻津:私自身も、瞑想や呼吸を暮らしのリズムに取り入れ、日々をしなやかに整えていきたいです。そしてひとりでも多くの方がヨガを通じて自分を大切にしながら、周りとのつながりを実感できますように。そんなウェルビーイングな輪がもっと広がっていくことを願っています。本日は貴重なお話をありがとうございました!

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