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人と人との交わりが生む“おもしろさ”を追い求めて。コミュニティづくりから見る新しい組織・人事のカタチ

組織における“人とのつながり”が、今あらためて見直されている。なかでも注目すべきは、会社という枠を超えて生まれる「コミュニティ」という存在。

ポラスグループ人事部長の石田茂さんは、20年以上にわたり社外の多様な人々とつながりを築き、社内外にコミュニティを育ててきた人事のプロフェッショナルである。制度や施策の立案だけにとどまらず、「人が人と出会うこと」そのものに価値を見出し、そこから組織に変化の芽を生み出してきた。

本記事では、ポラスグループ人事部長・石田茂さんと、Wellulu編集長・堂上研による対談を通じて、これからの組織と人材のあり方を考察する。

変化の時代において、個人と組織がともに「ウェル」であるために、何が必要なのか。コミュニティの力と人事の可能性について、両者の視点から紐解いていく。

 

石田 茂さん

ポラスグループ
ポラス株式会社 人事部長/ポラテック株式会社 監査役

1996 年ポラスグループ株式会社へ新卒入社し、以降一貫して29年間人事に携わり、2013年人事部長に就任し現在に至る。過去複数のグループ関連会社設立を担い、国内プレスカット材最大手のポラテック株式会社監査役を兼任。
グループ全人事機能を主管、制度・政策企画を得意としつつ企業カルチャーづくりに重きを置く。毎月のグループ27社取締役会へ参画して奮闘中。
ライフワークとして複数の異業種交流会を20年に渡り企画・主催し、社会関係資本を構築。趣味はお酒とキャンプ。

https://www.polus.co.jp/

堂上 研

株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu編集長

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。

https://ecotone.co.jp/

目次

はじめに感じた“場づくり”への想い

堂上:今日は石田さんとご一緒できることを楽しみにしていました。僕自身、「人のつながりこそがウェルビーイングの核心かもしれない」と考えてメディアを立ち上げましたが、石田さんは20年以上にわたってコミュニティを動かしてこられたとお聞きしています。まずは、どのような想いで20年も続けてこられたのか伺いたいです。

石田:コミュニティを始めたきっかけは、入社数年目のときに「会社の風土が内向きに固まっている」と強く感じたことにあります。むしろ社外の人たちとの刺激ある場に飛び込むことで、自分自身の視野が広がることもある。一度そうした場を経験すると「自ら機会をつくり、機会によって自らを変えよ」という言葉を実感できるんですよね。

その体験から「だったら、自分でコミュニティをつくってしまおう」と思ったんです。あまりに堅苦しい会合だとおもしろくないので、まるで飲み会の幹事を延長するような感覚でスタートしたら、気づけば23年続いていました。

堂上:すごいですね。それぞれが自由に出入りするようなコミュニティなら、長く続けていくうちに新旧メンバーが入れ替わって飽きがこないし、どんどん新たな出会いも生まれますよね。人の流れが生まれ、新しい出会いが起きる。その「偶然性」がコミュニティの醍醐味ですよね。

石田:まさに。例えば薄くても長く切れない「かつらむき」という会では、いわば誰が幹事でもOKで、自己紹介すら決まりなく進めています。本当に自由です。時々「この集まりは何をするんですか?」と聞かれますが、要は「好きに過ごしてもらえればいいや」というスタンスですね。共通のトピックや目標がある場も楽しいと思うのですが、僕らの場合、とにかく「偶然の出会い」こそがおもしろさの源だと感じています。

人の相談を受ける内的モチベーションと「介在価値」

堂上:石田さんとお話していると、「人事という仕事を心から楽しんでいるんだな」という印象を強く受けます。人事という領域に軸足を置き続けている理由や、原動力が何なのか教えていただけますか?

石田:原動力は「人が変わる瞬間に立ち合えたときの喜び」ですね。高校時代から人に相談されることが多かったのですが、問題を解決するというより、その人が一歩踏み出すための“きっかけ”を探し、一言二言かけると相手がパッと笑顔になる。その瞬間に大きなやりがいを感じるんです。

堂上:その「“きっかけ”を届ける感覚」が、採用や教育など人事全般に活きているのですね。

石田:そうですね。会社に入ってからは採用担当として、就職生に「自分のやりたい道を探すサポート」を続けてきました。入社後の教育や配属で困っている社員を見たときも同じ気持ちが芽生えます。そこに伴走して、小さな後押しをして、その人が「何かを変えよう」と思う瞬間を一緒に迎えると、こちらまでエネルギーをもらえるんですよね。

堂上:なるほど。相手の「変化」に寄り添う喜びがあるからこそ、人事の枠に留まらず外部コミュニティでも活き活きと動けるわけですね。実際、今は人事が単なる管理部門ではなく「変革のキーマン」として注目されはじめている気がします。

石田:そうですね。制度を整えるだけで終わらず、その制度を根付かせていくところまで見届けないと、意味が薄くなるものです。特に僕が勤める会社は住宅ビジネスなので、「家を建てて終わり」にせず、その後のコミュニティ形成に関わり続ける傾向があります。

僕の中では、入社した人や社内向け制度でも同じスタンスなんです。施策を打ち出したら、社員がどんな変化を見せているのかをちゃんと見届けたい。「人と組織」が実際に変わらないなら、仕組みは絵に描いた餅に過ぎないですよね。

「介在価値」を追求し続けた学生時代と水泳・バンド体験

堂上:石田さんご自身の学生時代も聞いてみたいです。小さい頃は水泳に打ち込んでいたそうで、しかも週6回もスイミングスクールに通う生活とのことでしたね。そこからバンドのボーカルになるなど、「目立ちたがり屋」の資質が発揮されていたと伺いました。

石田:そうなんです。水泳は中学までは本気で練習していて、「オリンピックに行きたいな」という夢を抱いていました。途中からやんちゃな友人たちとつるむ高校生活になり、水泳の優先度が下がったのですが(笑)。それでも「人の前に立ちたい」「周囲を楽しませたい」という気持ちは強く残っていました。バンドで一番前のボーカルをやったり、大学ではずっと飲み会の中心で盛り上げ役を買って出たり……そういう姿勢が自分のアイデンティティだったと言えますね。

堂上:なるほど。その延長で、「相手を楽しませたい」とか「相手が変化するきっかけを与えたい」というのは、石田さんの本質にも根付いている気がします。しかも、短期集中で物事を吸収する力や行動力もあって、勉強でも急に力を発揮してみたり……。

石田:ええ、定期テスト前に狂ったように勉強して、学年2位ぐらいに食い込んだことも(笑)。ただ、僕はそこに大きな計画はなくて、自分が「今やりたい」と思ったことに全力で取り組むタイプなんです。水泳でもテニスでもバンドでも、やるならとことん楽しむ。

そうすると周囲の人が「あいつなら付き合ってみるか」と思ってくれるし、結果的に助けられることも多いんですよね。学生時代から「介在価値」を発揮することが好きで、その精神は社会に出てからの人事の仕事にもつながっていると思います。

配属ガチャからの脱却。「自分株式会社」で考えてみる

堂上:会社に入ると、いわゆる「配属ガチャ」で自分が思い描いていた部署と異なる役割に振り分けられることがありますよね。僕も広告会社でクリエイティブ志望だったのに営業に配属されて、「なぜ?」と思った経験があります。石田さんは最初から人事を希望されていたのですか?

石田:じつは、入社当初は営業を希望していました。ところが、社長が新卒採用を一気に増やすタイミングで「人事部門を強化する」という大方針があったんです。それで総勢23人が、初任配属で人事関連に着任するプロジェクト部署ができた。僕も「手を挙げたい!」と思い、挙手制でその一員になったんです。結局それが成功体験になってしまって、何事も「とりあえずやってみたいなら手を挙げよう」と。

堂上:手挙げ文化があったのですね。やりたい仕事を自分から宣言して取りに行く環境があると、組織全体の活性度が変わります。ただ、現場としては「全部手を挙げられても仕事のバランスはどうするんだ」という課題もあるとは聞きますが……。

石田:かなり手を挙げ過ぎて「キャパオーバー」という洗礼を受けたこともあります(笑)。先輩から「自分が社長の株式会社だと思ったら、無責任に抱えすぎるのはダメだろう。お客様(周囲)から次の仕事が来なくなるよ?」と叱られました。でも、裏を返せば何でも挑戦する姿勢を歓迎する文化があったわけで、熱量のある若手にとっては最高でした。

堂上:なるほど。実際の業務で失敗しても周囲が「次はこうすればいい」と庇ってくれるような懐の深さがあったんですね。今の時代、副業や転職してキャリアを自分で切り拓くという話題もよく聞きますが、石田さんはずっと同じ会社で人事を続けられています。そこに不満などはなかったのでしょうか。

石田:テンションが下がる局面はもちろんありました(笑)。ただ、そこをきっかけに「じゃあ自分で会社を変えられないかな」と考え、事業の仕組みまで踏み込んで提案したり、新卒配属後の人材育成プロジェクトを勝手に立ち上げたりしていくうちに、自分の居場所はたくさんあるんだなと気づきました。

それでも、もっと社外にも仲間がほしいと思って、夜は積極的に外部交流へ出かけました。会社内だけに閉じこもると通用しない場面も多いので、色々吸収して会社に還元するというループが楽しかったんです。

堂上:リクルート出身の方が言う「社内が社会と思うな」と似ていますね。自社が「全世界」だと思って働いていると、どうしても同調圧力や社内政治に振り回されがちになりませんか。

副業・兼業を公認する流れも少しずつ進んでいますが、実際は「すべての社員に開かれた制度」というわけでないことも多いですよね。「特例を作ると平等性を欠くからダメ」と言われたり。人事としてのご意見はいかがですか?

石田:予定調和が大好きな人事部だと、イレギュラーを嫌いがちです。ただ、これから先の企業に必要なのは「個別対応の柔軟性」ですよね。みんなが同じ制度で同じ成果を出す時代じゃないし、何かを変えようとする人を許容してあげる、その余白がイノベーションを生むはずです。

実際、「手挙げ制度あります!」と声高にPRしていても、社内で本当に活用されるのがごく一部だと意味がない。僕はできるだけ裾野を広げられる施策を目指していて、それが会社としての総合力につながると思います。

住宅とコミュニティ形成の関係。売って終わりではない街づくり

堂上:住宅ディベロッパーというと「大規模な分譲地を開発し、販売して終わり」というイメージがあるのですが、石田さんがおっしゃる「街づくり」や「コミュニティ形成」はかなりユニークですね。

たとえば地域住民とのトラブルや、旧住民との交流など、会社としてどこまで関わるのか興味があります。

石田:僕らは分譲地を引き渡した後でも関わるケースが多いんです。コミュニティがきちんと機能するようワークショップやイベントを企画したり、街の景観がきれいなまま維持されるよう景観協定を結んだり、地元の集会所とつないで旧住民との交流を自然発生的に促したり。お客様にも「ここに住むなら、お互いにマナーを守りましょうね」といった約束事を用意しています。

そうすることで、「ちゃんと景観を保ちたい」「周りと気持ちよく暮らしたい」という同じ価値観の方々が集まるから、トラブルが起きにくいコミュニティになるんですよね。実際、そこに住む人がずっと快適に暮らしてくれれば、結果的に企業イメージも向上します。

堂上:売って終わりではなく、持続的なコミュニティを重視する企業文化があるんですね。それは人事政策でも同じかもしれません。社員を採用し、それで終わるわけではなく部署に配属された後の成長までを伴走する。

石田:そうです。たとえば街全体を「コネクティビティ=つながり」の集合体と捉えている感覚です。住宅では表札の名前こそ違えど「みんなで地域を育てようよ」という意識がある。人事は社員それぞれに奮闘してもらいながらも、必要に応じて“仲介役”を担うことも多いです。ここでも共通しているのは「自分たちがどう介在して、結果的に全員が幸せになるか」という発想なんだと思います。

コミュニティが生み出す“セレンディピティ”と長期的な関係

堂上:石田さんご自身も、夜はほぼ外部コミュニティに顔を出しているようですが、具体的にどんなスタイルで続けているのですか?

石田:人事責任者やCHROなど“大手企業が主”のクローズドな集まりをやっています。人事のサードプレイスとして、また参加した方々が「人事をおもしろがろう」と思ってもらえるような場として、「人語会(Jingo-kai)」という会を主催しています。最近では毎回150人を超える方々に参加していただけており、そのニーズの高さを感じています。似た規模感の企業同士が実際に役立つ情報を深いところまで教え合っているんです。

参加要件は「人事の実務に責任を持っているか」「営業目的の来場ではないこと」。そこをしっかりしておくと、お互いに余計な利害を絡ませず対話できるんです。結果的に、それをきっかけに共同プロジェクトが生まれたり、逆に思わぬ出会いで結婚に至る二人が現れたり(笑)。もう“セレンディピティ”のかたまりですよ。

堂上:飲み会的なゆるいつながりから、新規事業が動くとか、本当に結婚するとかおもしろい話が尽きないですね。やはり会社を超えたコミュニティの力は計り知れないです。

石田:それこそ「かつらむきの会」という異業種交流飲み会は23年続いてますが、2カ月おきに20人ほどが集まってダラダラ話すだけ。それなのに10年ぶりにフラッと来る人もいれば、新メンバーがその場に合流して盛り上がることもある。表向きは何のイベント要素も仕切りもないけれど、いつの間にか人と人が共鳴する瞬間が生まれるんです。

自然に身をおいてリズムを整える。キャンプ好きの充電術

堂上:最後に、石田さんがウェルビーイングを保つために大切にしていることを教えていただきたいです。趣味のキャンプを年に20泊ほど実行しているとか……。

石田:ソロキャンプの時間はかなり大事にしています。人とコミュニケーションをとるのが好きとはいえ、かなりエネルギーを使っているので、自然の中で誰とも喋らずにひたすら焚き火を眺めたり、好きなお酒を飲んだりしてリフレッシュするんですよ。それで“自分を空っぽにする”時間があると、また次に動くエネルギーが充電できます。

堂上:すごくわかります。人と会うのは楽しくても、その分、心地よい疲労が溜まる。そこをうまくデトックスするのがキャンプなんですね。

石田:はい。本や漫画を読み漁るのと同じ感覚かもしれません。自然に触れると「色々悩んでいたことが小さなこと」と思えるんです。月曜からまた人と会ってエネルギーを注ぐためには、僕にとってキャンプで“無になる”時間が最適な方法でした。

そういう感覚は、この先もずっと大事にしていきたいです。たとえば2050年、僕が80歳を迎えていたとしても、きっと変わらず人と集まって「最近どう?」って話し合っている気がします。キャンプで心を整えながら、人と出会い続けていたい。未来に向けて特別な夢があるわけではないけれど、そんな日常を“続けていられること”が、僕にとっての理想の未来です。

堂上:自然と向き合い、自分を整える時間を持ちながら、人とつながり、共に笑い合える未来を描いていく。そのリズムを自分の意思で紡ぎ続ける石田さんの姿勢がすごく素敵です。本日は貴重なお話を、ありがとうございました!

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