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温泉・お風呂に入るとなぜ眠くなる?「深部体温」の上下が睡眠の質を高める【秋田大学・上村准教授】

「温泉に入るとリラックスできる」と感じる人は多く、休養や療養のために利用する人もよく見かける。しかし、温泉と睡眠との関係は、詳しくはわかっていなかった。

そこで、本研究グループは、温泉に入ると本当によく眠れるのか、塩化物泉と炭酸泉について、簡易脳波計と深部体温計を使って実験を行った。

その結果、塩化物泉と炭酸泉に入浴したときの方がさら湯よりもよく眠れていることがわかった。また、塩化物泉は炭酸泉やさら湯と比べて少し疲労感が出ることが判明した。

※デルタパワーとは「より深い睡眠」に必要な脳波「デルタ波」が、どれだけ出ているかを計測した値。パワーが高ければ高いほどしっかり眠れていることになる。

今回は研究の第一人者である秋田大学大学院医学系研究科 保健学専攻理学療法学講座 上村准教授に、温泉と睡眠の関係について伺った。

上村 佐知子さん

秋田大学大学院 医学系研究科保健学専攻理学療法学講座 准教授

理学療法士、臨床心理士、公認心理師
2005年 スタンフォード大学ナルコレプシー研究所・睡眠センター在外研究員。2008年にPh.D.を取得(秋田大学、医学)研究分野は、睡眠導入剤服用後の高齢者の精神・運動機能の変化や、温泉が生体と睡眠に与える影響。2000年ごろから秋田県臨床心理士会スクールカウンセラー。2013年~2021年 秋田県教育委員

温泉の健康効果とは?加熱作用の高い塩化物泉と炭酸泉

── はじめに、上村先生が今回の研究に取り組んだきっかけを教えてください。

上村先生:私はもともと医療に従事した経験から、「薬だけに頼らない治療」に興味を持っていたんです。「よく眠れない」と悩む方も多い中で、”薬を渡すだけが治療ではない”と感じていました。

私が秋田に住んでいることもあり、古くから病気の治療や健康増進に使われている温泉療法に興味を持ちました。わが国でも歴史が長く、湯治や療養に用いられてきましたが、そのエビデンスがしっかり取れていなかったんですよね。

一方で、入浴は睡眠を促進することはわかっていましたので、日本人が大好きな温泉を、「脳波」や「体温」といった客観的な指標を用いて調べたいと思いました。

【体温と睡眠の関係】保温効果の高い塩化物泉、炭酸泉は「湯疲れ」しにくい?

── 数ある温泉の中でも、塩化物泉と人工炭酸泉に着目した理由はありますか?

上村先生:温泉の中で加熱作用がとくに強いのが塩化物泉と炭酸泉なんです。硫黄泉ですと、検証環境が良くなかったせいもあるかもしれませんが、前述のふたつよりも温度はあがりにくかったのです。

人工炭酸泉を選んだ理由は、天然の炭酸泉は希少であるためです。また、人工炭酸泉は医療界やスポーツ界で多く利用されていて、その効果にも興味がありました。

2つの温泉は温まり方に違いがあります。塩化物泉は、塩分が肌の表面について放熱しにくくなることで、保温効果が高くなります。

炭酸泉のほうは、血流をよくして、末梢の血管まで血液がめぐるので、皮膚には「紅潮反応(肌表面が赤くなる)」といった、反応が起きることもあります。温まりやすい一方で、放熱しやすいので「湯疲れ」しにくいという特徴があります。実際の温度よりも暖かく感じるといわれます。

今回実際に「深部体温」を測ってみて、一番高くなったのは人工炭酸泉でした。

※塩化物泉:塩分が溶け込んだ温泉。日本の温泉の27%がこれに当たるといわれている。
※炭酸泉:炭酸が溶け込む温泉。二酸化炭素の濃度によって加熱作用や疲労回復効果が上下する。

温泉で深部体温を上げ、放熱することで「睡眠の質」が高まる

── 身体がしっかり温まることで、睡眠にどういった影響をもたらすのでしょうか?

上村先生:もともと人間には体温リズム(24時間周期で日中上昇し、夜間に低下する)があります。

温泉につかることで深部体温が上昇すると、身体は放熱して冷まそうとします。しっかり深部体温が下がることで、スムーズに入眠できるんです。

今回測った深部体温は「直腸」の温度で、入浴後30分で上がった体温がどのくらい下がるかを計測しました。その結果、温度が一気に高くなったあとに「一番放熱が早かった」のが人工炭酸泉という結果になりました。

この急激な深部体温の低下は「寝付きの早さ」と比例し、さらに、「朝方の体温の最低点が低いほど熟眠感と比例する」との研究結果もあります。

── 体温だけで「睡眠の質」が改善できるとは驚きです。

深部体温の上下が「黄金の90分」に影響する

上村先生:「睡眠の質」という部分をもう少し掘り下げると、このグラフのように最初にくるノンレム睡眠(夢を見ない深い眠り)をいかに深くするかが重要になります。

6〜7時間の睡眠の中で90分と短い時間ですが、これが自律神経やホルモンを整えることに影響します。「黄金の90分」とも呼ばれ、たとえば8〜10時間と長く眠るよりもこの90分で深く眠って6時間ほどで起きるほうが効果が高いという研究結果もあるほどです。

温泉による深部体温の上下を利用することでこの90分の質をより高めることができるのです。

このように深部体温が眠りに影響するのは、さまざまな実験結果からも明らかです。

たとえば運動したあと、少ししてから眠くなるのも同じ仕組みです。また、小さなお子さんは、眠くなると手足がぽかぽかと温かくなりますよね? 実はあれも、たくさん動いたりご飯を食べたりして、深部体温=直腸の温度が高くなったあとに、熱を逃すために手足で発散しているということなんですよ。

手足の温度が高いと眠い…と思われがちですが、入眠のポイントとなっているのはその手前。身体の内部の温度調節が鍵になっているんです。

心地よい入眠は「深部体温を“急激”に上げ・下げる」ことがポイント

── たしかに深部体温の調整だけすればよいと考えると、取り入れやすいですね!
今回の実験では40度の温泉に15分ということでしたが、これは老若男女共通の入り方ですか?

上村先生:実は、この温度と時間はまだ研究の余地があります。今回の実験では大学生の男性だけで計測しましたので、すべての性別・年齢の方に最適とは言えないと思います。人によっては「40度に15分も入り続けるのは熱くて辛い」という声もありました。体調や体質とも関係しますので、無理のない熱さで入っていただくのが一番いいと思います。

ただ、入眠に関しては「深部体温が急激に上がって、下がる」ということがポイントになりますので、ぬる過ぎるお湯だと効果は得にくいかもしれません。また、大学生を対象とした今回の実験では、睡眠の2時間前に入浴したところ深部体温の下降カーブはスムーズでした。若者であれば1〜2時間前、高齢の方ですと、身体の熱反応が鈍くなっている場合があるので2〜3時間前でもいいと思います。

逆に湯温が40度を超えると交感神経(活動モード)が優位となり、睡眠の妨げになることもあるので注意してください。

 

自宅で手軽に!加熱作用のある炭酸入浴剤でも、睡眠の質は変わる?

── 自宅のお風呂でも工夫できることはありますか?さら湯でもいいのか入浴剤があるほうがよいのかなど知りたいです。

上村先生:はい、研究によってさら湯よりは入浴剤があるほうが望ましいことがわかりました。

入浴剤は種類がいろいろあるので、一概には言えませんが、たとえばバスソルトを利用することで塩分濃度をあげたり、入浴剤で炭酸をプラスしたりすることはできるでしょう。

温泉よりは塩分濃度や炭酸濃度は控えめになりますが、身体を温める以外にも、香りによるリラックス効果も睡眠によい影響を与えます。どの入浴剤も、温泉ほどではないとしても加熱作用はありますので、最初は「湯疲れ」や「ほてり」に注意しながら入浴してください。また、お肌の異常が見られた場合は直ちに中止してください。

── さきほど、炭酸の濃度の話題がでましたが、それも重要になるのでしょうか?

上村先生:濃度も影響します。今回の実験では人工炭酸泉は1000ppmの濃度でした。これはかなり高い濃度で酸性がph4.2〜5になります。おそらく、600〜800ppmでも似た効果は得られそうです。さら湯はph8くらいなので、そこから少し酸性に寄せる必要があります。

人の身体に備わる「自然な回復力」を活かして健康に

── 本日はありがとうございました。上村先生が現在取り組まれている研究について教えてください。

上村先生:人の身体がもともと持っている「自分で回復する力」に着目しています。今までも薬を使わない眠り方を研究していて、温泉の調査もその一環でした。

今回紹介した体温を調節する方法のほかにも、「認知行動療法(ストレスなどで固まって狭くなってしまった考えや行動を、自分の力で解きほぐして改善する療法)」を用いて質のよい眠りがとれるような内容も研究しています。

また、温泉は睡眠以外にも「肌によい」「凝りによい」などさまざまな効果が注目されています。今は減ってしまっていますが、少し前には「温泉病院」というのもたくさんあって、積極的に医療に活用されていました。

研究を通して、それらのエビデンスも明らかにしていきたいです。温泉の魅力を再発見し、医療はもちろん地域振興などにも活かせればと思っています。

Wellulu編集後記

温泉に入るとなぜリラックスして眠れるのか、仕組みがわかるとより活用したくなりますね。深部体温を上下させるだけで、「睡眠の質」がここまで改善するのは驚きでした。また、泉質によって、身体を温める作用が違うのも興味深いです。

バスソルトや重炭酸のタブレットを使えば、自宅で手軽に取り入れられるのも嬉しいですね。「仕事などで脳が休まりにくく入眠しにくい」とか、「小さなお子さんの寝かしつけに苦労している」とお悩みの方にも、おすすめできそうです。

温泉や温浴効果の研究が今後進んでいくのも、とても楽しみです。

本記事のリリース情報

・Welluluにて上村佐知子准教授の研究が紹介されました。

温泉は「よく眠れる」ことを証明

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