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見た目年齢の判断基準は「肌の動き」と「顔の向き」?顔の動きと老化の印象の関係【工学院大学・蒲池教授】

工学院大学情報学部情報デザイン学科の蒲池みゆき教授の研究が、顔の動きと老化の印象との関連を明らかにした。蒲池教授は、顔の表情認識、皮膚の動き、質感の研究を行い、特に顔の動きが年齢認識にどのように影響するかを探求しており、ポーラ化成工業との共同研究では、顔の動きの遅れが老化の印象に与える影響について新たな知見を提供している。今記事では、蒲池教授の研究の背景から、顔の動きと見た目年齢の関係、ほうれい線やゴルゴラインなど年齢を感じさせる顔の特徴、見た目年齢を保つためにできることなど、日常に応用できる内容まで深く掘り下げていく。

蒲池 みゆきさん

工学院大学副学長、同大学情報学部情報デザイン学科 教授

コミュニケーションで発揮される「人間の情報処理」を、心理物理学的アプローチから研究。九州大学文学部哲学科・心理学専攻卒。九州大学大学院人間環境学研究科行動システム心理学専攻修了、博士(人間環境学)。国際電気通信基礎技術研究所研究員を経て、2006年に工学院大学情報学部情報デザイン学科着任。学科長、情報学部長を経て、2021年から副学長。

本記事のリリース情報

人が顔から情報を得る仕組みを、蒲池みゆき教授(情報デザイン学科)がメディアサイトで紹介

見た目年齢は重要?人間はとく「顔」で相手を認識する

──蒲池教授、今回の研究に取り組まれたきっかけや背景について、詳しく教えていただけますか?

蒲池教授:私の研究の出発点は心理学、特に知覚心理学の分野にあります。私が大学時代に選んだ卒論のテーマは「顔の表情」の研究でした。当時、顔に関する研究は非常に注目されており、人間がどのように他人の顔の表情を識別するのかが主要な研究テーマでした。現在では、年齢や性別、人種の識別に関する「顔の属性識別」などの分野も研究が広がっています。

──顔が人物識別において非常に重要な役割を果たしているとのことですが、その理由はなぜでしょうか?

蒲池教授:人間は「顔を使って他者を識別する能力」が非常に発達しています。猿も同様ですが、人間の脳には「顔を識別するための特別なニューロン」が存在します。例えば、大脳の、右耳の上辺りに位置しているニューロン群がその一つです。これらのニューロンは「顔ニューロン」と呼ばれ、顔の表情を識別し、人物を判別するのに重要な役割を果たしています。興味深いことに、脳の損傷によって顔が識別できなくなる現象もあります。また、赤ちゃんは生まれた瞬間から顔を識別するニューロンが活動を始め、これは人間が本能的に顔を使って他者を識別することを示しています。

「顔の動き」が見た目年齢に差をつける

──研究方法について、詳しくお聞かせください。

蒲池教授:肌の動きのタイムラグや顔の向きと老化の印象に関するポーラ化成工業との共同研究では、20代〜60代のモデルの顔の動きをモーションキャプチャーで測定しました。すると、年齢が上がるにつれて顔の動きが遅くなることが分かりました。例えば、笑顔や口を開ける動作をする際、若い人は顔の動きが素早く同時に行われますが、年配の方では動きが遅く、下から順に動いていくようなリレー現象が見られます。20代と60代の比較で約0.1秒の遅れが確認されました。

次に、皮膚の内部の変化を調査しました。皮膚の粘弾性を測定する機器を使用しました。粘弾性とは、物質の粘りと弾力性を表すものです。年齢が上がると粘弾性が低下し、皮膚が硬くなることが分かりました。この結果、筋肉が動いても皮膚の表面がついてこない状態が発生し、笑顔などの表情がぎこちなく感じられているものと考えられます 。特に、この皮膚の動きが見た目年齢へ影響するピークは50代であることが分かりました。

これらの研究から、年齢を重ねるにつれ皮膚の粘弾性が低下し皮膚が硬くなり、肌の動きが遅くなることで老化の印象に大きく関わっていることが確認され、「肌の動き」が、見た目年齢の判断基準のひとつになりえることを示しています。加えて、本研究では「50代では静止画(画像)より動画の方が老化を感じさせる」ことがわかっています。

──静止画ではなく動画になると老化の印象を加速させるというのは面白い発見ですね。

ゴルゴラインなどを考慮した「顔の向き」で見た目年齢が若くなる

──加えて「若く見える顔の向きがある」という研究結果も出ていますね。

蒲池教授:はい。顔の中でも頬は皮膚の表面積が広く、顔の動きの遅れが特に目立つ部分です。また頬はたるみやほうれい線、ゴルゴラインと呼ばれる線がでてくる為、より年齢を感じさせる要因となります。これらの頬の特徴が強調される角度や見えにくくなる角度によって老化の感じ方が変わっており、見た目年齢にも差が出てきます。特に横顔は頬が見えにくくなることで老化を感じにくい ことがわかりました。

──頬に特に年齢を感じさせる特徴があるのですね。昨今の化粧品業界はほうれい線に加えゴルゴラインにも注目が集まっている印象を受けます。

蒲池教授:はい、最近ではゴルゴラインにも注目が集まっています。ゴルゴラインとは、目の下にあるくまとはまた別の線のことで、これが顕著になると年齢を高く感じさせる、つまり見た目年齢が上がってしまう傾向があります。実際に、写真でゴルゴラインを消す画像処理をしてみると、かなり若く見えます。

また、ゴルゴラインは光の当て方によっても目立ち方が変わってきます。なかなか日常の中で調整するのは難しいかもしれませんが、照明の位置や角度を考慮すると、相手にほうれい線やゴルゴラインの印象を弱めることもできるので、見た目年齢を下げ、若々しさにより自信を持つ上ではポイントとなるかもしれません。

顔を隠す「マスク」はコミュニケーションに障害をもたらす?

──マスクが普及したことによる社会的コミュニケーション上の影響についても、教授の見解をお聞かせください。

蒲池教授:マスクの普及により、特に若い世代の中には、顔を隠すことに安心感を見いだし、社会的コミュニケーションに影響を与えていると考えています。自己の顔に対する不安や、他人に見せたくないという感覚が強まっている可能性があります。これは、一種の社会的コミュニケーション障害とも言える状態です。マスクが顔を隠す逃げ場となり、自信の喪失やネガティブな自己認識を促進する可能性があります。

──まさに「若者のマスク依存」はトピックになっていますね。顔の識別という点でも影響はありますか?

蒲池教授:はい、子供たちにとっては、マスク着用が顔の認識能力の発達に影響を与える可能性も指摘されています。特に2歳までの赤ちゃんは、周囲の人の顔を見ることで、顔認識のための細胞の機能を発達させます。マスクで顔が隠れた人ばかりを見ていると、これらのニューロンが十分に活性化されない恐れがあります。

また大人であっても、顔の表情を読み取る学習が弱まることで、人の感情を理解する能力が低下する可能性があります。これは、将来的に社会全体でのコミュニケーション能力の低下に繋がる懸念も示唆されています。

見た目年齢の若々しさを保ち、健やかなコミュニケーションを取るために

──「若々しさ」の観点で、顔の動きや向きについてお話を伺いましたが、今からでもできることを教えてください。

蒲池教授:顔のケアについては、化粧品業界からの示唆としては、顔の筋肉を鍛えるよりもマッサージが効果的と言われています。特にほうれい線やゴルゴラインが形成される部分には「リガメント(日本語では腱鞘(けんしょう)と呼ばれる貝柱状の組織があり、これを柔らかくするためのマッサージが推奨されています。鍛えると硬くなり表情の動きがなめらかでなくなるため、鍛えるよりもマッサージで全体を柔らかく保つことが大切です。またよく知られているように、肌の水分量を保つことも重要とされていますので、保湿とマッサージが効果的かとおもいます。 

──「健やかなコミュニケーション」を取るという観点ではどんなことが大切でしょうか。

蒲池教授:コミュニケーションに関しては、人間にとっては顔、ひいては表情が非常に重要です。特に目線や視線の方向は、相手が何に興味を持っているかを示す重要な情報源であり、それらを通じて、相手の意図や感情を理解することが基本です。会話の中で表情を豊かにすることを心がけてみると、より理解が深まるかもしれません。

また昨今、マスクで顔の表情が隠れることでコミュニケーションに影響が出ることも指摘されています。特に子供の発達期においては、顔の表情を通じて他人の感情を理解する能力が育つため、マスクによる影響は無視できません。大人においても、顔の表情を通じたコミュニケーションが重要であることから、今後マスクなしのコミュニケーションがより重要になる可能性があります。

──今後の研究方針について、どのようなことを考えていますか?

蒲池教授:顔の研究はまだしばらく続ける予定です。特に、VR空間での顔認識やアバターの使用に関する研究に興味があります。これは、今後より発展していくであろうバーチャル空間におけるコミュニケーションの質に大きく関わってくるからです。

さらに、人間の本質的な特性、特に生物学的な側面に関する研究も重要だと考えています。例えば、化粧や外見の意味、清潔感の重要性などは、人間の生殖能力や社会的地位の指標と深く関連しています。これらの要素は人間の基本的な動物としての特性に根ざしており、この点を忘れてはならないと思っています。

──今回は顔の動きと向きが見た目年齢に関わってくることを示唆されましたが、顔の動きの大きさや話すスピードなども影響をあたえるのでしょうか?

蒲池教授:発話に現れる顔の運動についての研究は取り組んでいるのですが、地域差や個人差による表情の特性を考慮すると、動きの豊かさや速さがコミュニケーションや年齢認識に影響を与える可能性はあるかもしれません。特に、関西地方の人々のように表情が豊かで話すスピードが速い場合、それが若々しさや活動的な印象を与えるかもしれません。逆に、話すスピードが遅く、表情の動きが小さいと、年配の印象を与える可能性があります。

ただし、これはあくまで仮説です。実際の研究データに基づいて確認する必要があります。地域や文化による表情の違い、それが年齢認識に与える影響を明らかにするための研究は、今後の課題として非常に魅力的です。

──蒲池先生、本日はありがとうございました。

Wellulu編集後記:

蒲池教授の研究は、顔の表情と肌の動きが私たちの年齢認識や見た目年齢にどのように影響を与えるかを明らかにしました。このインタビューから、顔の動きの微細な変化がどのように人間の認識に影響を与えるかの理解を深めることができました。また、ゴルゴラインの予防・解消の顔のケアやコミュニケーション力に対する新しい洞察も提供されました。蒲池教授の研究は、今後の化粧品開発や社会的コミュニケーションのあり方に大きな示唆を与えています。


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