寝返りが多い、朝起きても疲れが残っているなどの睡眠の悩みは、マットレスによって大きく左右される。身体に合う寝具を選べば、心地よい睡眠に近づける。
今回は、100%天然ラテックスを使ったマットレスを提供するグローバル産業株式会社の取締役・事業本部長の沼上 瞬さんに、ラテックス(※)製マットレスの魅力と睡眠を変える寝具選びのポイントを伺った。
【ラテックスとは】
ゴムの木から採取される乳白色の樹液を加工した伸縮性の高いゴム

沼上 瞬さん
グローバル産業株式会社 取締役 事業本部長
眠りの質を左右する面で優しく受け止めて支えられる感覚

── グローバル産業株式会社のマットレスは、独自の支えられる感覚がアピールポイントだそうですね。その感覚のもとになる「正反発」は、具体的にどんな特長があるんですか?
沼上さん:正反発の特長は、物体の重さに比例して沈み、同じ比率で反発が返ってくるところです。この特長は、マットレスの素材であるラテックスによるものです。たとえば、体重が一番かかるお尻の部分は重さの分だけしっかりと沈み込むので、マットレスが「面で優しく受け止めて支える」状態になることで、体圧が分散されます。重さや振動にもしっかり追従するので、沈み込んだまま戻らないこともありません。
横向き寝の場合、肩や腰部といった身体の突出した部分を包み込みながら支えてくれるので、どのような体位でも比較的負担が少ない寝心地を叶えられるのが正反発の魅力ですね。
── ぐっすりと眠れそうですね。体感面の利点はどうですか? 寝返りは打ちやすくなるのでしょうか?
沼上さん:はい、すごく快適になりますよ。常に優しい反発が戻ってくるので、寝返りが本当に打ちやすくなります。筋力が低下している方でも、包まれつつ押し返される感覚によって、体勢を楽に変えることができるんです。寝返りのしやすさと、姿勢を保つ力を同時に満たせるのが、正反発のすごいところです。

── 正反発はよく聞く高反発や低反発とは、何が違うんでしょうか?
沼上さん:一般的な高反発マットレスは沈まないので寝返りがしやすいんです。しかし、高齢者や痩せている方だと、1点に圧力がかかりすぎてストレスを感じたり、お尻がしびれたりすることもあります。筋肉量が多ければ、筋肉がクッションになるので高反発マットレスでも寝心地がいいと感じやすいです。
一方、低反発はじわっと沈み込んでいくのが特長ですね。体圧分散性能が高く、深く沈み込んだ分、面で身体を支えるので床ずれ対策が必要な方には向いています。ただし、反発力が弱めなので、身体を支える力が少し弱いんです。高反発に比べると低反発は、寝返りが打ちにくいと感じられやすいです。あえて言うなら、正反発は高反発と低反発の“いいとこ取り”。身体の輪郭をしっかりサポートしながらも、優しくかつパワフルに支えてくれる、そんな感覚ですね。
── 正反発の特長がよくわかりました。多くの高反発製品が販売されるなかで、あえて正反発商品を開発している理由を教えてください。
沼上さん:創業者がラテックス製マットレスで寝ていたところ、悩んでいた腰痛が改善したことがきっかけです。数多くのマットレスを試しても、腰痛が全然改善しなかったそうで、たまたまラテックス製マットレスを使い始めたら、自然とラクになったと聞いています。
実は、ラテックス製マットレスは海外では一定のシェアを占める国もあるほど、一般的なんです。創業者の「ラテックス素材の魅力を、ぜひ日本にも広めたい」という熱い情熱によって、ラテックス製マットレスを製作・販売するようになりました。日本国内では、まだ知る人ぞ知る寝具素材なので、これからもっと普及活動をしていきたいです。
実際に寝てみて心地よさを感じるかどうかがポイント

── ラテックス製マットレスは、どんな悩みを持つ方におすすめですか?
沼上さん:腰痛や肩こり、背中の張りを抱えている方におすすめです。寝ているときは、全身で均等に重力を受ける姿勢になります。寝具に対して平行になるので、立っているときよりも身体全体で重力を受けている状態なんです。
寝ているときに姿勢が崩れてしまうと、朝起きたときに疲れが取れない、腰痛・肩こりの原因になります。寝具は休息の土台として、全身の重さを面で受ける設計が重要だと私は考えています。
── マットレスや枕を選ぶときに、チェックするポイントがあれば教えてください。
沼上さん:寝具は体感商品ですから、やはり店舗に行って試すことが大切です。実際に寝てみて、沈み込み方や寝返りの打ちやすさを確かめてみてください。そして、触れたり寝たりしてみて「なんだか違和感がある」「寝心地がいい」というようなフィーリングも大切にしてほしいです。
違和感を覚えるものは、身体が無意識に合わないと答えているサインかもしれませんから。自分に合った快適なマットレスでリラックスできると、自律神経の切り替えがスムーズになり、眠りの質もグッと上がると思います。

── 実際に使っているユーザーさんからはどのような声をいただいていますか?
沼上さん:アンケートでは、8~9割の購入者から「よく眠れるようになった」「腰痛が軽減した」という嬉しいメッセージをいただいています。高齢者の方からも「包まれながらも押し返されるから、楽に寝返りが打てる」と評判です。
ラテックスが健康・環境に与える好影響

── ラテックスだからこそのメリットはありますか?
沼上さん:メリットは、カビが生えにくいこと、ダニやトコジラミが発生しにくいこと、そして殺菌力があることですね。そもそも、ラテックスのもとになっているゴムの木には自然に備わっている防虫効果があるんです。防虫・防カビ加工の必要がなく、半永久的に効果があります。アレルギーで悩んでいる方にも優しい素材だと思います。
また、保温性と適度な通気性があるため、比較的快適なんです。自分の体温をため込んでくれるような感覚で、熱すぎず蒸れすぎず、ちょうどいい温度を保ってくれます。ただ、ラテックスは吸湿性はあっても放湿性が低いので、ベッドパッドを併用していただき、除湿も心がけると快適ですね。

── メリットが多いラテックスにも、放湿性が低いデメリットがあるんですね。 お手入れで気を付けてほしいことはありますか?
沼上さん:ベッド枠や床板に接する面を空気に触れさせて、乾かすと効果的です。ラテックスは柔らかいので立てかけるのは難しいですが、折りたたんだり、ひっくり返したりして湿気を逃してあげてください。
また、マットレスには必ずベッドパッドを敷くことを強くおすすめしています。マットレスは身体を支えて体圧を分散することが目的で、ベッドパッドの役割は汗や湿気を吸収して発散することが目的です。できたら、吸放湿性の高い天然素材がおすすめです。
ラテックスはサステナビリティにも貢献

── サステナビリティの観点で、天然素材のラテックスはどのような効果がありますか?
沼上さん:たくさんの効果があります。実は、原材料のゴムの木はCO2の吸収力が高い植物の1つなんです。ラテックスのマットレスは、樹液を高温の水蒸気で蒸し焼きにして作るので、生産時にCO2を放出してしまいますが、製品を生産するときにかかる燃料消費と、ゴムの木が吸収するCO2量がほぼ同じくらいと言われているんです。
また、ゴムの木は30年にわたり、樹液を出し続けます。そのあいだもゴムの木はCO2を吸収しますし、樹液を出さなくなったあとは家具に加工され、最後まで利用できる木材です。ゴムの木はカーボンニュートラルにも貢献する素材なんです。
【カーボンニュートラルとは】
温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること
── カーボンニュートラルにも貢献できるんですね!ほかにも効果があるのでしょうか?
沼上さん:はい。生分解性があるので、石油製品のようにマイクロプラスチック化しません。土にマットレスを埋めると、2年ほどで分解されるんです。100%植物由来なので、焼却処分もできます。
── ラテックス製品を扱う企業として、サステナビリティの観点で今後取り組みたいことを教えてください。
沼上さん:ラテックスの端材を無駄にしない、アップサイクルする商品開発を進めたいと考えており、マレーシアの工場で長年使っていただいた寝具をリサイクルする方法を検討中です。ラテックスの端材を粉砕して固めることで、耐久性をあげた製品として再度販売するのを目標に動いています。
心地よい眠りを通じてウェルビーイングを実現する

── グローバル産業株式会社として、よい睡眠とはどのような状態だと考えていますか?
沼上さん:よい睡眠とは、心身ともに心地よい状態で眠れることだと考えています。素材や構造の快適性はもちろん大切ですが、それ以上に“リラックスして休める体験”を提供することを目指しています。たとえば、寝返りをしたときの音や、肌に触れる質感など、五感でホッと落ち着ける感覚があることで、睡眠がより深くなるんですよ。だからこそ、私たちは寝具の使用感をとても大切にしています。
── 使用感がよければ、リラックスしてぐっすり眠れそうですね。マットレス開発を通じて、どのように人々のウェルビーイングに貢献していきたいですか?
沼上さん:マシュマロのような心地よいマットレスの提供によって、人々の健康に貢献していきたいですね。寝具は単に眠る道具だと思われがちですが、ウェルビーイングに直結するアイテムです。現代の子どもたちは、勉強やスマホなどで脳をフル回転させていますよね。子どもたちが日々の体験を脳に適切にインプットするためにも、睡眠がものすごく重要なんです。
触り心地のよいマットレスであれば、睡眠導入の効果が期待でき、よい眠りに導きやすいのではないかと考えています。

── 最後に、開発・製造を続けていくなかで大切にしている理念を教えてください。
沼上さん:もちろん合成素材にもよいものはありますが、人間の身体も自然界の一部だからこそ、できる限り天然素材を使いたいという強い想いがあります。また、品質は絶対に妥協しません。物価高や素材の高騰によって、販売価格に頭を悩ませることが増えてきました。
温暖化による長雨で東南アジアにあるゴムの木の農園が水害にあったり、ゴムの木の根が腐ったりして、ラテックスの値段が高騰するケースもあります。それでも、品質を落とさずに価格とのバランスを取りながら、ラテックス素材の魅力と製品を日本市場にもっと広めていきたいです。
── マシュマロのような天然マットレスは、心地よい眠りにいざなってくれそうです。ラテックスは保温性や吸湿性などのメリットだけでなく、サステナビリティにつながっているのも興味深かったです。本日は素晴らしい話をありがとうございました!
東京生まれ、神奈川県在住。2007年同社に入社後、日本全国を営業として活動。各地での出会いと経験から、現在は天然ラテックス及び天然素材を用いた新商品開発に従事。
家庭用寝具HP:https://www.bodydoctor.co.jp/
医療福祉寝具HP:https://www.doctorcare.jp/