
毎日の食事やリラックスタイムに親しまれているコーヒー。カフェインが含まれるため、勉強や仕事のおともにしている人も多いはず。コーヒーにはさまざまなはたらきがあり、私たちの生活において健康やパフォーマンスのサポートが期待されます。いままでとは違ったコーヒーの取り入れ方としてコーヒーナップやコーヒーブレイクなど気になる飲み方やそのポイントについて今回、大東文化大学の福島さん、ネスレ日本の新井さんに詳しくお話を伺った。

福島 洋一さん
大東文化大学 スポーツ・健康科学部 健康科学科 教授、ネスレ日本㈱ 学術顧問

新井 真由美さん
ネスレ日本㈱ コーポレートアフェアーズ統括部 ウエルネスコミュニケーション室
本記事のリリース情報
ウェルビーイングに特化した「Welulu」にて「コーヒーの楽しみ方」や「コーヒーナップ」に関するインタビューを受けました。
品種や産地、精製方法、焙煎度合いで異なる風味がたのしめるコーヒーの世界
──本日はよろしくお願いします。
福島さん:よろしくお願いします。
──コーヒーというとお茶や水の次によく飲まれている飲み物と言ってもよいほど、習慣的に口にしている人も多いかと思います。まずはコーヒーの歴史について、どのようにしてコーヒーが広まっていったのか教えていただけますか?
福島さん:そうですね、コーヒーは元々イスラム圏で飲まれており、ヨーロッパには17世紀にオスマン帝国を通じて伝わりました。とくにイスタンブールでは、「賢者の学校」と称されるコーヒーハウスやカフェの原型が生まれ、人が集いコーヒーを飲みながら、多くの議論や知識の交換を促されたといわれてきました。その後ヨーロッパ各地に広がり、ロンドンやパリなどでもコーヒーが人気となりました。
──賢者の集まる場所、議論や知識の交換の場所など、現在と通ずるものを感じます。
福島さん:そのとおりです。ヨーロッパに広がる過程でコーヒーは一部で迫害を受けることもありましたが、活発な議論を促す飲み物として次第に受け入れられるようになりました。
さらに、ヨーロッパによる植民地時代にともない、コーヒーの栽培地はブラジルやインドネシアなどへと広がり、現在の主要生産地となりました。日本にも江戸時代にオランダから伝わり、明治時代以降に広く飲まれるようになったのです。
品種×産地×製法によってコーヒーの味は変わる!
──栽培地は世界各地にあるとのことですが、品種や産地によってコーヒーの風味は異なる味わいとなるのでしょうか?
福島さん:はい、それぞれに特徴があります。まずコーヒーの品種は、おもにアラビカ種とロブスタ種の2つに大別され、アラビカ種は高品質で、酸味が強く、香りが高いのが特徴です。高級コーヒーとして知られており、コーヒーの風味を重視する方に好まれます。一方、ロブスタ種はボディ感が強く、ポリフェノールの含有量も多めです。価格が比較的安価であり、コーヒーのブレンドによく使われます。
──それぞれ違う特徴があるのですね。
福島さん:その通りです。産地による風味の違いは、土壌や気候、栽培方法によって大きく影響されます。たとえば、エチオピア産はフルーティーで複雑な味わい、ブラジル産のコーヒーはナッツのような風味とバランスのよい味が特徴です。
さらにコーヒーの製法も風味に影響を与えます。発酵させる方法によってフルーティーな香りや酸味が強くなったり、焙煎がどのくらい深いかで風味に違いが出ます。
──焙煎の程度ではどういった風味で差が出るのでしょうか?
福島さん:浅煎りは豆本来の風味が強く酸味が際立っているのが特徴で、中煎りはバランスよく風味と酸味の調和が取れていて、深煎りは苦味が強くコクのある味わいになります。
──複雑にさまざまな条件が掛け合わさって各豆独自の風味が完成しているのですね。
コーヒーナップ、コーヒーブレイク…コーヒーを賢く取り入れよう!
──コーヒーに多く含まれるポリフェノールについて教えてください。
福島さん:ポリフェノールはコーヒー豆に多く含まれ、その量は赤ワインと同等、緑茶の2倍に及びます。日本人の摂取するポリフェノールの半分くらいはコーヒー由来です。たとえば、1日に2~3杯のコーヒーを飲むことで、かなりの量のポリフェノールを摂取することができます。
──1日にたった2杯でも!?正直、仕事中だけで2杯は飲んでいそうです。ただ、健康のために飲みたいものの、カフェインが気になる人もいるかと思います。その場合はどうすればよいでしょうか?
福島さん:カフェインを避けたい場合は、デカフェ(カフェインレス)のコーヒーを選ぶとよいです。デカフェはカフェインをほとんど含まないため、ポリフェノールのチカラをを享受できます。
──デカフェの選択肢があるのはよいですね。とくに寝る前のカフェイン摂取は気になってしまいます。
福島さん:とくに、寝る前3時間以内は注意が必要です。
さらに、年齢とともにカフェインの代謝が遅くなるため、高齢の方はとくに注意が必要です。
1日3杯「3 coffee a day」コーヒーの飲みわけ方
──コーヒーのはたらきを踏まえたうえで、時間帯によってデカフェを選んだり、さまざまな飲み方の工夫がポイントになりそうですね。
福島さん:まさに、健康を意識した生活習慣の一環として、コーヒーの飲みわけをおこなうことは非常におすすめで、1日3杯のコーヒーを自分にあった適切なタイミングで取り入れて健康な毎日を目指す「3 coffee a day」が注目されています。これは、1日3杯のコーヒーを飲むことで、ポリフェノールをしっかり摂取できるだけでなく、生活リズムを整えることにもつながるというものです。
──「3 coffee a day」とはとても興味深いです。3杯ということは朝・昼・晩といった飲みわけなのでしょうか?
福島さん:はい、まず朝ですが、起床後の空腹でブラックコーヒーを飲むのはできれば避け、朝食後に1杯のカフェインを含むコーヒーを飲むことで、午前中を活動的に過ごす手助けとなります。
昼は、昼食後にもう1杯のカフェインを含むコーヒーを飲むのが理想的です。このタイミングでコーヒーを飲むことで、午後も活動的に過ごしやすくなります。
夕方以降は、カフェイン摂取を控え、デカフェのようなカフェインレスコーヒーを飲むことをおすすめします。カフェイン摂取は控えつつもポリフェノールは摂取できます。
──ぜひとも試してみたいです!
コーヒー×昼寝?「コーヒーナップ」でシャキッと!
──コーヒーナップについても教えてください。まずコーヒーナップとはどういう意味なのでしょうか……?
福島さん:ナップというのは英語の「nap」つまり「昼寝」や「仮眠」のことで、コーヒーを飲んでから短い昼寝をおこなうことを「コーヒーナップ」と呼んでいます。
──なるほど!コーヒーと昼寝の組み合わせなのですね!
福島さん:コーヒーナップの働きは一時的なものでなく、午後の数時間にわたり持続すると報告されています。
──コーヒーを飲んだり、昼寝をしたり。コーヒーナップの正しいやり方を教えてください。
福島さん:広島大学の林先生と共同で作った「コーヒーナップのための5カ条」に従っておこなってください。
ポイントは、昼寝前にカフェインを含むのコーヒーを1杯飲み、20分間の昼寝をします。寝る際には頭を支えましょう。周囲の環境を整えることも大切です。そして昼寝から目覚めたあとは、軽く身体を動かすことで、さらにシャキッとしやすくなります。
──すぐに試してみたいと思います!コーヒーの飲みわけによって、どのような期待ができるのでしょうか?
福島さん:コーヒーの飲みわけによって期待できることは多岐にわたります。まず、朝と昼の摂取は、日中の活動をサポートし、生活リズムを整える可能性があります。
そして夕方以降にはカフェインレスコーヒーを飲むことで、夜のリラックスタイムを確保できます。
座りっぱなしのオフィスワークにはコーヒーブレイクを!
──生活にコーヒーを取り入れることをとくにおすすめしたい人はいますか?
福島さん:基本的にはコーヒーを飲めるすべての人におすすめですが、とくにオフィスワーカーにとっては健康維持のための重要な習慣となり得ると思っています。
また、座位行動を中断するブレイクも注目されています。オフィスワーカーが座位時間を減らすことはなかなか難しいですが、同じ座位時間でもブレイクを途中で入れることで疾患リスクが低下する可能性が研究で示唆されています。「コーヒーブレイク」の名の通り、ブレイクのお供にコーヒーはもってこいです。
──座りっぱなしが健康に及ぼす影響は現代人にとって大きな問題ですよね……。おもにどんなことが期待できるのでしょうか?
福島さん:メタボリックシンドロームのリスクを低下させる可能性が示唆されています。健康診断の血液マーカーを改善するという研究もあり、注目されています。
その他にも、メンタルヘルスへの効果についても研究があり、ブレイクが抑うつ感の軽減に役立つ可能性が示唆されています。仕事に対する意欲が高まることも期待できそうです。
──仕事に行き詰まったときも、コーヒーブレイクをちょっと入れるだけで気持ちが入れ替わりますよね!取り入れ方のポイントがあれば教えてください。
福島さん:大事なことは定期的にブレイクを取ることです。できれば30分に1回、少なくても1時間ごとに5〜10分はブレイクを取りたいものです。ブレイク時には立ち上がり、軽いストレッチや歩行を取り入れるとさらに効果的ですよ。
コーヒーの新しい楽しみ方を生活に取り入れよう!
コーヒーを楽しむためにカフェインの適切な量を知ろう
──1日あたりのカフェインの適切な摂取量はどのくらいなのでしょうか?
福島さん:カフェインの摂取について日本ではまだ具体的なガイドラインが設けられていませんが、欧州食品安全機関(EFSA)が出している基準では、1日のカフェイン摂取量は400ミリグラムまでであれば健康に問題がないとされています。コーヒーに換算した場合、約3~5杯の量になるので、参考にしてみてください。
──3〜5杯ほどなのですね。カフェインに敏感な人がいるように、やはり摂取するにも自分に合う量、個人差があるのでしょうか?
福島さん:そのとおりです。カフェインの感受性には個人差があり、遺伝的にカフェインの代謝が速い人と遅い人がいますし、感受性の高い人と低い人もいます。そのため、自分に合った適量を見つけることが大切です。
とくに子どもや妊娠中の方については注意が必要です。子どもの摂取量は体重1キログラムあたり3ミリグラムが目安で、妊娠中の場合は、1日200ミリグラムまでが目安とされています。
──カフェイン中毒の話も耳にするので、気をつけたいです。
福島さん:日常的なコーヒーの摂取量程度では問題にはなりませんし、目安となる5杯を超えて飲んだら直ちに害が出るわけではないので安心してください。ただし、カフェインが入っている食物はほかにもあり、例えばエナジードリンクの中には相当量のカフェインを含むものもあります。カフェインを摂りすぎると、心拍数の増加や興奮状態、不安感、場合によっては不整脈を引き起こすことがあり、さらに長期的な過剰な摂取により依存症状が現れることもあります。とくに子どもや若者が適量を超えて摂取しないように注意をしたいですね。
コーヒーを選ぶ際のポイント
──コーヒーの選び方について、ポイントやアドバイスはありますか?実はたまにカフェでどの豆にしますか?と聞かれることがあり、わからずいつも店員さんに説明してもらっていました……。
新井さん:なかなか難しいですよね。種類で選ぶなら、アラビカ種は酸味が強く香りが豊かですので、酸味のあるフルーティーなコーヒーが好みの方におすすめで、ロブスタ種は苦味が強くボディ感がありますので、しっかりとした味わいが好みの方におすすめです。
また、焙煎度合いでも味が変わってきます。豆本来の風味が強く、酸味のあるものを飲みたい場合は浅煎りのもの、風味と酸味のバランスがよいものを飲みたい場合は中煎りのもの、苦味やコクのある味わいのものを飲みたい場合は深煎りのものがおすすめです。
──それぞれの特徴を踏まえて、次は自分で選んでみたいと思います!おいしいコーヒーを楽しむためのコツがあれば教えていただけますか?
新井さん:コーヒーを淹れる際、ホットコーヒーであれば、まずカップをお湯で温めておくことです。これをおこなうことで、香りと味が引き立つのでおすすめです。
アイスコーヒーの場合は、最初にお湯でしっかりとコーヒーを溶かし、コーヒーの風味をしっかりと引き出して、そのあとでたっぷりの氷を使って冷やすとおいしく仕上がります。
──風味を引き出すための淹れ方をすると楽しめるのですね。最近のおすすめのコーヒーの楽しみ方を教えてください。
新井さん:よくカフェでおしゃれに2層にわかれているカフェラテを見かけるかと思います。牛乳とよく冷やしておくことで意外と簡単にできて、おうちでも手軽にカフェ気分が味わえるのでぜひ作ってみていただきたいです。
ポイントは牛乳とコーヒーの温度差をしっかりつくることです。
──私にもできるか心配です。
新井さん:きっと大丈夫です!作り方は、先に氷と牛乳を入れてよく冷やし、そのあとにコーヒーを注ぐだけです。逆にコーヒーを先に注ぐと混ざってしまいますので、順番に気をつけてくださいね。
──インスタントコーヒーの保管方法としてポイントがあればお伺いしたいのですが。
新井さん:ソリュブルコーヒー(インスタントコーヒー)は、フタをあけた時についている内蓋(紙のシール)は縁をのこしておくことで、フタを締めたときに密着して空気が入りづらくなるためより風味を長持ちさせることができますよ。
──なるほど。ただそんなに器用にできるものなのでしょうか?
新井さん:スプーンなどを活用して開封することで、簡単に内蓋の縁を残すことができます。
──順番が秘密だったのですね!おうちでカフェ気分、素敵です。おふたりにとって、至福のコーヒータイムはどんな時間でしょうか?
福島さん:私の場合は、集中して仕事を終えたあとに飲むコーヒーが最高の一杯です。最近、研究室に新しい冷蔵庫が入り、氷ができるようになったので、熱々のコーヒーを氷で一気に冷やして飲むのがマイブームで、とてもリフレッシュになります。
──新しい冷蔵庫に氷、ワクワクが伝わってきます……。
新井さん:私はブラックコーヒーを飲むことが多いのですが、ちょっと疲れたときは甘いものと一緒に楽しむのが好きです。たとえば、ブラックコーヒーとチョコレートの組み合わせが最高です。少しの甘いものと組み合わせることで、一気におちつきます。
──甘いものとの組み合わせは至福ですよね。リフレッシュのコーヒー、最高ですね!
編集後記
今回、コーヒーが多方面によい影響を与えてくれることがわかり、水やお茶のように毎日飲んでいる人が多い理由がわかりました。味はもちろんですが、毎日飲むからこそタイミングや飲み方を工夫して飲みたいなと感じました。
東京農工大学農学部卒業。同大学院修士課程修了後、ネスレ日本㈱入社。ネスレ中央研究所(ローザンヌ)、ネスレリサーチ東京、ウエルネスコミュニケーション室等への勤務を経て、2022年より現職。博士(農学)。日本ポリフェノール学会評議員、抹茶と健康研究会学術委員。