心身の健康に必要不可欠な「睡眠」。忙しい現代人こそ、環境を整えて睡眠の質を上げることが大切だという。睡眠の質に大きく影響する要素の1つに湿度がある。湿度の調節によいとされる素材に麻の一種『ヘンプ』がある。今回は、快適な睡眠を助ける「ヘンプ100%の寝具」を販売する菊屋の三島直也さんに詳しくお話を伺った。
この記事の監修者

三島 直也さん
有限会社菊屋代表取締役
自然素材がもたらす快適な睡眠体験

── はじめに、睡眠に影響を及ぼすものを教えてください。
三島さん:まず睡眠環境の要素として、温度や湿度、匂いなど五感にかかわるものがあります。なかでも、睡眠環境の一番の大敵は湿度です。
私たちが素材として使用している麻の一種である『ヘンプ』は、自然素材のなかでも吸湿性や速乾性に優れている特徴をもっています。ヘンプを素材とした吸湿性の高い寝具は、快適な睡眠環境を整えてくれるんです。
── ヘンプは麻の一種なんですね。麻には、リネンやラミーなどもありますが、なぜヘンプなのでしょうか?

三島さん:ヘンプ素材は日本の古くから伝わる大麻草からとれる繊維で、薬品を使わない自然素材です。自然素材100%の製品なので、化学薬品に反応しやすい過敏な体質の方にとても喜ばれます。そのような人のなかには、睡眠環境の湿度も気にしている人が非常に多いようです。
調べてみると、「寝具 自然素材 安眠」などの検索ワードで弊社に辿り着いている人が多いようです。肌の悩みなどをもつ人が調べた末に、ヘンプ素材に出会っている印象があります。
ユーザー目線の自然素材がもつ安心感
── ヘンプは、肌の悩みをもつ人にもありがたい存在なんですね。では、自然素材の安心感について、生活者が実感できるポイントを教えてください。
三島さん:とくに過敏症の人は、自然素材を選ぶこと自体に安心感をもっている印象があります。また、麻特有のざらっとした触り心地が安心する人が多いですね。麻の素材は、日本古来の神事にも使われるため、そういった部分に精神的な安心感をもつ人も多いと思います。
── 神事でも使用されているんですね。

三島さん:神社のしめ縄や御祈りの際に手にもつ大幣(おおぬさ)、相撲で使うまわしも実は大麻草からできています。最近では安価なもので代用している場合もありますが、格式の高い神社では、今でも大麻草を使っている場合が多いんです。
麻・ヘンプ素材の魅力とは

── では、改めてですが麻・ヘンプ素材の特徴や魅力を睡眠に絡めて教えていただけますか。
三島さん:麻・ヘンプ素材は、寝ている間の汗を吸い取ってくれて、乾きが早く睡眠時の快適さをキープしてくれることが特徴です。人間は、寝ている間にコップ一杯の汗をかくと言われますが、これは液体ではなく蒸気のことを指します。蒸気を吸い取ってくれたり、乾かしてくれたりするようなものがないと、人間はムレを感じて不快感をもちます。
この現象は夏場だけではなく、冬場も同じです。冬は厚手の布団を重ねますよね。厚い布団をかけると体温が上がりすぎて布団内部の湿度も上昇してしまいます。そのせいで布団を剥いで風邪をひいてしまうこともあるんです。
麻・ヘンプ素材は吸湿性に優れているため、夏でも冬でも布団内部の湿度の上昇に対応できる魅力があります。
── 麻・ヘンプ素材を使った寝具として取り入れやすいものを教えてください。

三島さん:肌に直接触れるものとしては、枕やシーツはすぐに取り入れられて効果を実感しやすいです。弊社では、ヘンプ素材を使用した蚊帳(かや)も販売していますが、寝具以外に寝室の環境を整えるものにヘンプを使用すると、快適さを感じられると思います。
心身の健康と睡眠のつながり

── 素材の選び方は、睡眠にどう影響すると思いますか?
三島さん:自然素材がいいという意見に変わりはありませんが、まず本人が安心して安眠できそうと感じることが大切です。まずは寝室環境、そのなかの一要素として寝具の素材があると考えます。
素材や形状、価格などの面で精神的に安心できるかどうか、自分が納得できるかが大きく影響します。
── 睡眠を支える寝具選びで、自然素材がもつ“調湿性”や“肌触り”が、リラックスにつながったという事例はありますか?
三島さん:実際に来店されるお客さんからは、『ムレ感がなくなる』『ざらっとした手触りが落ち着く』などの声をいただいております。吸湿性を褒めていただくことも多いですね。ヘンプ素材の蚊帳に関しても、精神的な落ち着きを感じる意見が多く、素材そのものが与える精神的な安らぎを楽しんでいるようですね。
余談ですが、私の姉が自分の赤ちゃんをヘンプでできたタオルケットで包んだところ、泣き止んで落ち着いたこともあったそうなんです。少しスピリチュアルな観点になってしまいますが、ヘンプが持つ精神的な安心感を実感するエピソードでした。
── 自然素材に限らず、生活者に取り入れて欲しい睡眠習慣を教えてください。
三島さん:まずは毎日、自分の寝室空間を整えることが大切です。寝具のメンテナンスをして、これなら眠れると感じられる状態の寝室空間を作るといいでしょう。枕の形を整えることや、シーツのシワを伸ばすことでも十分です。
寝室に寝転んだときに気持ちがいいなと感じるのが大切なので、自分の五感で感じてみてください。
創業74年企業としての信頼と挑戦
── 菊屋は、前身の布団の小売業を営んでいた時代から、今年で創業74年です。長年愛されてきた理由はどんなところにあると思いますか?
三島さん:私たちがお客さんをしっかり愛してきた歴史があるからですね。
たとえば、お客さんから「こういう布団が欲しい」という声に合わせて商品を仕入れて販売をしていたりと、先々代の祖父は常にお客さんを第一に考えていたと聞いています。先代の父は「社会のために働くこと」をつねづね口にしていました。
── 創業74年間を振り返ってみて感じることはありますか?
三島さん:70年以上継続している企業は実をいうと1%にも満たないんですよ。町の小さな布団屋さんから始まり、さまざまな挑戦をしてきたからここまで続けられているんだと思っています。
今後は、ただものを販売するのではなく、今まで以上にしっかりとお客さんに寄り添って安眠を提供し続ける会社でありたいと考えています。
── 伝統を守りながらも、新しい挑戦として取り組んでいることはありますか?

三島さん:温故知新(おんこちしん)という考え方を大切にしたいと思っています。便利で手軽に手に入れられるものがどんどん出てくるなかで、伝統工芸品は衰退しつつあると感じていて、そこに負けない取り組みをしていきたいですね。
たとえば『伝統工芸品×◯◯』のようなものです。私たちの場合『ヘンプ×睡眠』『蚊帳×睡眠』などを大切に、発信にも力を入れていきたいですね。とくに、ヘンプには今後もこだわり続けたいと思っています。採れる量が少なく、織りにくいため、大手企業では扱いづらい素材なんです。
中小企業だからこそ、できることを大切にするという意味でも、ヘンプ素材にはこだわりたいです。
お客さんの声に向き合うものづくり
── 魅力あふれる自然素材のヘンプですが、ヘンプを使った商品を製作・販売するうえで、意識していることを教えてください。
三島さん:この寝具さえあれば絶対に眠れるというものは存在しません。だからこそ、自分の睡眠習慣を整えて、精神的に安心できる寝室空間とは何かに気づいてもらうことを意識していますね。
── そのほか、薬に頼らない安眠術の講座も開催されていますよね。今すぐ実践できる安眠術は何かありますか?
三島さん:そうですね。自分が一番心地がいい睡眠環境を見つけることが大事です。
眠りに関する悩みの根本は、精神的な面が大きいと言われています。今、自分はどのような眠りの環境にいるのか、寝る前の行動を書き出してみるのも有効です。
── お客さんに睡眠習慣を振り返ってもらう過程で、製造者側として気が付かされることはありますか?

三島さん:はい、お客さんの声を活かして既存製品改良や、「こういうものが欲しい!」という要望をもとに寝具以外の製品を開発することも多いです。
最近は、麻の素材を使った洋服や、ふんどしパンツなども販売しています。そもそもヘンプ素材を扱うようになったのも、蚊帳をヘンプで作ったのも、お客さんから欲しいという声があったからなんです。
既存の製品を改良するのはもちろん、お客さんや世間から求められるものに向き合っていきたいと考えています。
── 最後に、睡眠に悩む人へメッセージをお願いします。
三島さん:現代人が今も昔も変わらず必要としているものが睡眠です。
ところが現代では、睡眠不足が深刻化し、うつ病になってしまう人や、自殺者が増えてしまっている現状があります。自分が安心して眠れる環境を、自分でデザインできる人が増えて欲しいと願っています。
また、薬に頼らない安眠術を全国各地に発信をしていき、プラスαとして、麻の素材が当たり前のように日本で使われていく未来を作っていけたらいいなと考えています。
── 自分が安心して眠れる環境を見つけることが、安眠につながるんですね。自然素材の寝具が安心感につながることもとても興味深いです。本日は素晴らしい話をありがとうございました!
				
		
1995年、静岡県生まれ。愛知大学地域政策学部を卒業後、愛知県豊橋市に本社を置く「SALAグループ」へ入社、金融・保険業を学び、2023年家業である有限会社菊屋代表取締役に就任。
菊屋公式HP:https://anmin.com/