近年、真夏並みに暑い期間が大幅に延びるなど、気候変動が目立つ。こういった季節の変化に対して、寝具をどのように選べばよりよい睡眠が得られるのかわからない人もいるだろう。
時代や季節によって求められる寝具はどのように変化してきたのか。素材や快適さに着目し、さまざまな寝具ブランドを開発している株式会社ディーブレスの代表取締役・増田 吉史さんに詳しくお話を伺った。

増田 吉史さん
株式会社ディーブレス・株式会社ディーブレスワールド・丸三綿業株式会社 代表取締役
時代によって変化する寝具へのニーズ
── 時代によって生活者の寝具に対するニーズは変化するのでしょうか?
増田さん:昔と今では、やはり変化を感じますね。昔は、住環境が整っていなかったので、冬は暖かく、夏は涼しい寝具へのニーズが主でした。
最近は住宅の設備も充実し、夏はエアコンが稼働していないと寝られない日が続くことも多くなっています。寝具レベルで温度を調整するニーズだけではなく、+αの機能が求められていると感じています。
そういった状況で寝具に求められているのは、「軽さ」「柔らかさ」「肌触りのよさ」に特化した商品ですね。さらに、美容や健康などの未来の課題を解決できるような効果が求められ始めているような感覚もあります。
── そういった変化があるなかで、株式会社ディーブレスではどのように商品開発をおこなっているのでしょうか?

増田さん:ユーザーのニーズに応える商品開発を考えるのではなく、企画者のアイデアや素材との出会いから商品開発をおこなうことが多いです。柔らかさという観点でいえば、20年前から「とろけるふとん」という商品を販売しています。
これは、赤ちゃんの肌着に使用されているとても柔らかい素材との出会いがきっかけで生まれた商品です。時代の流行やニーズを見定めることももちろん大切ですが、それがすべてではないと思っているんです。
── 流行やニーズがすべてではないとは、どういうことでしょうか?
増田さん:はい、流行やニーズに応えることが、必ずしも生活者の睡眠課題の解決に直結するわけではないと考えています。たとえば、低反発まくらが流行っていても、低反発まくらが合うかどうかは人それぞれです。
であれば、流行やニーズを追うのではなく、さまざまな選択肢を提示して、ユーザー個々の課題解決の手法を増やすための商品開発をおこないたいと思っています。
よりよい寝具を開発するための工夫
── 「柔らかさ」や「快適さ」にこだわる生活者が増えるなかで、どういったことを意識して商品開発をおこなっていますか?
増田さん:弊社の技術でできることとできないことを把握したうえで、より長く快適さを実感してもらえる商品の開発を心がけています。同じシルクやウールであっても、商品によって産地やグレードにこだわっています。同じウールでも羊の飼育方法で肌触りが変化したりするんですよ。
素材にとことんこだわることで、何度洗濯しても柔らかさが変わらない、長く楽しめる、何年使っても使い心地が変わらない商品づくりを心がけています。数年先も変わらずに求められる「基本的な快適さ」を提供することを目標にしています。
夏も羽毛布団が売れる!?

── 株式会社ディーブレスの顧客にはどのような人が多いのでしょうか?
増田さん:顧客層はバラバラですが、40〜60代の女性が一番多いですね。最近はさまざまな企業が寝具開発に取り組んでおり、若年層のニーズも感じるのでそういった世代にもアプローチしていきたいと考えています。
── 意外だった生活者からの反響はありますか?
増田さん:あります!冷感寝具を企画した際に、アンケートで冷感機能に関する内容をいただくかと思いきや、柔らかさや肌触りを評価する内容をいただいたことがありました。柔らかさを打ち出した商品に関して、柔らかさを評価いただく一方で、別の角度から厳しいご意見をいただくこともあります。
企画側の狙いがそのまま生活者からの反響に表れることばかりではないので、私たちが予測するのは限界があるんだろうなと感じましたね。アンケートの内容は参考にしつつも自分たちが本当によいと感じる商品を作り続けなければならないと実感しています。
── 夏が猛烈に暑かったり、暑さが長引いたりと気候変動を実感する昨今ですが、寝具の売れ行きも変化しているのでしょうか?
増田さん:猛暑の長期化で、エアコンを使用する期間が長くなったからか、オールシーズン使用できる通年寝具や、しっかりした厚さの羽毛布団などが売れるようになっているんです。意外にも、真夏に冷感寝具が売れるという状況はなくなってきたんですよ。
アパレル業界の知人から聞いた話ですが、冬向けの厚手のコートも売れなくなっているそうなんです。寒い季節が短くなったことで、防寒よりも肌触りや着心地が求められているようで。寝具にも同様の傾向を感じています。
ブランドの思いをユーザーに伝えるための工夫

── 株式会社ディーブレスでは、さまざまなブランドを取り扱っていますが、ブランド間の差別化はどのようにおこなっていますか?
増田さん:弊社のブランドでは、「暖かさならこの商品」「柔らかさならこの商品」と、ブランドごとの売りを明確にして、比較しやすくなるように情報を提示しています。ネーミングやロゴ、キャッチコピーの時点から違いが明確になるように心がけているのもポイントです。
── ネーミングやロゴも差別化ポイントなんですね。商品の情報提示でほかに意識していることはありますか?
増田さん:注意点やデメリットもきちんとつたえるようにしています。たとえば、自宅の洗濯機で洗えず、手洗いやクリーニングが必要になるなど、管理上の手間をデメリットだと感じる人もいるでしょう。
何年使ってもいい商品だと思って欲しいからこそ、欠点になりえる部分も事前に把握したうえで、検討し購入してほしいんです。
寝具開発企業が教える寝具選びのコツ

── 寝具開発企業として、生活者の睡眠の悩みをどのように感じていますか?
増田さん:やはり睡眠に満足していない生活者が多く、また悩みも多種多様になっていると感じます。昔は、寝具に求めるニーズが暖かさや軽さ、マットレスの硬さなどだったのに比べて、最近は健康や美容を求める声も聞かれますね。
髪が綺麗に保たれるマクラカバーなども登場しているんです。
── 自分に適した寝具を選ぶ時のコツはありますか?
増田さん:寝具を選ぶときは、実際に試してみるのが一番です。とくにマットレスやまくらは、使用した時の感覚を体験してから選ぶほうがいいでしょう。
ネットで買い物をする時代ですし、そういった需要が増えつつありますが、心から納得した寝具を選びたいのであれば、実際に試すことは欠かせないと思います。店員さんに商品特長、疑問点を聞きながら選べるのも、対面購入のメリットです。
── 一気に寝具を買い換えるのが難しい場合、まずはどの商品から買い替えを検討し始めればいいですか?
増田さん:体重の影響を受ける”支える寝具”側のまくらや敷き布団、マットレスから買い替えがおすすめです。はじめは違和感があるかもしれませんが、ぜひ1週間くらいは試して判断して欲しいです。
掛け布団の優先順位は低めでいいと思いますが、保温性や通気性、重さなどを見直したい場合は、買い替えを検討するといいでしょう。
寝具選び以外で実践できる睡眠改善の方法

── 睡眠習慣の課題は生活習慣の変化の影響も大きいのでしょうか?
増田さん:かなり大きいと思っています。近年は在宅勤務が増えて、頭が疲れていても日中の身体の活動量が減っている傾向にあります。
やはり身体が疲れていないと夜になっても眠れない、疲れが取れないという人が増えつつあるように感じます。
── 寝具と合わせることで効果的な睡眠の改善方法はありますか?
増田さん:基本的な部分になりますが、朝きちんと日の光を浴びる、日中に適度に身体を動かすなど生活習慣全体の改善が必要です。寝る直前の習慣でいえば、照明を暖色系に変える、寝る直前にスマホを触らないなども効果的でしょう。
ただ、いきなり習慣をやめるのは難しいのが現実です。急にやめるのではなく、何か別の習慣に置き換える、少しずつ減らす工夫からはじめるのがよいかと思います。
── 寝具開発企業として、今後どのように睡眠業界に貢献していきたいですか?
増田さん:単にトレンド、流行を追うのではなく、作り手にとっても使い手にとっても本当に必要な役立つ商品の開発を心がけていきたいです。そのためにも生活者に誠実であり続けることが大切だと思っています。
すぐに拡大できるかはわかりませんが、これまでの商品開発で培った技術や素材を生かして寝具分野以外でも、生活者の役に立つ商品を開発していきたいと考えています。
2008年に入社後、新規開拓や商品開発に携わり、ものづくりの現場と市場をつなぐ役割を担う。2018年に寝具製造工場・丸三綿業を事業承継し、伝統技術と現代の感性を融合させた製品づくりに邁進。快適な眠りと豊かな暮らしの価値創造を目指した事業展開に取り組んでいる。2023年7月より現職。
https://www.d-breath.co.jp/