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青少年の24時間行動ガイドラインの達成と主観的健康の関係【琉球大学・高倉教授、京都大学・喜屋武助教】

ヒトの24時間の生活活動は、身体活動、座位行動、睡眠の3活動を中心に構成されており、いずれかが増えるといずれかが減るという相補的な関係にある。欧米諸国では、それぞれの行動の推奨時間を示した子どもと青少年のためのガイドラインが作られ、ガイドラインの達成状況と健康の関係状態との関連が調べられているが、日本人を対象とした研究はまだまだ少ない。

今回、琉球大学の高倉教授、京都大学の喜屋武助教らの研究によって、小中学生の24時間行動(睡眠、身体活動、スクリーンタイムの組み合わせ)ガイドラインの達成状況により主観的健康度が異なることが明らかになった。

今回は、高倉教授・喜屋武助教に研究の背景と内容、24時間行動ガイドラインを達成するための過ごし方などについて詳しいお話を伺った。

高倉 実さん

琉球大学医学部保健学科疫学・健康教育学分野 教授

2010年~2014年琉球大学大学院保健学研究科研究科長。筑波大学体育専門学群卒業、筑波大学大学院体育研究科修了、博士(医学)。専門は疫学、ヘルスプロモーション・健康教育、学校保健。青少年における健康の社会的決定要因に関する研究や子どもの身体活動・体力と学力に関する研究に取り組んでいる。

喜屋武 享さん

琉球大学 医学部 保健学科 臨床心理・学校保健分野 准教授
京都大学大学院医学研究科社会疫学分野 特定助教(兼務)

2019年から沖縄県児童生徒体力向上推進委員会委員(2022年より同委員会副委員長)。琉球大学教育学部保健体育専修卒業、琉球大学大学院教育学研究科修士課程修了、岐阜女子大学大学院文化創造学研究科修士課程修了、琉球大学大学院保健学研究科博士後期課程修了、博士(保健学)。専門は学校保健、社会疫学。

「24時間ガイドライン」と健康の関連

──まず、この研究をおこなったきっかけを教えていただけますか?

高倉教授:喜屋武先生と私は、元々児童生徒の健康に興味を持っており、学力や身体活動などとの関連を長年研究してきました。とくに沖縄県における、児童生徒の健康と学力の関係や社会的決定要因との関連を調査していて、今回の研究もこの調査の一環としておこないました。

24時間の生活行動は、身体活動、座位行動、睡眠で構成されており、“それぞれの行動が健康にどう影響を与えるか”については、これまでたくさん研究がおこなわれてきましたが、ここ10年で、すべての行動を組み合わせ“どの行動が多くなる(または少なくなる)と、健康にどう影響を与えるか”ということが注目されるようになってきました。

私たちも沖縄県のデータで検討することができないかと考え、過去に集めたデータを使用して、この研究に取り組みました。

喜屋武助教:【身体活動・座位行動・睡眠】は、どれかが増加すれば、別のどれかが減少するというお互いを補完し合う関係です。そのため、これらの行動が1日の中でバランスよく取られることが重要であり、健康への影響を考える際には、24時間全体の組み合わせが大切になってきます。

カナダやオーストラリアではこういった研究がかなり進んでおり、それぞれ2016年、2020年に3つの行動【身体活動・座位行動・睡眠】組み合わせによる健康への影響を総合的に考えた指針である「ガイドライン」も作成されました。2020年にはWHOから「24時間行動ガイドライン」が発表されています。

WHOが出しているとなると“世界全体に向けての指針”にもなるので、このガイドラインが日本においても適用できるかどうかを確認したかったという点も、研究の理由です。

──日本でも「24時間行動ガイドライン」が作られているのですか?

高倉教授:日本の「24時間行動ガイドライン」は作られておらず、まだまだ研究が進んでいない状態です。研究が進んでいる先進国と比べて、研究のスタート自体がかなり遅かったことが、研究の進捗が遅れている一つの理由です。

喜屋武助教:もう一つの理由として、国際的に比較できる形でのデータが集まっていないという点も挙げられます。

日本では全国の児童を対象に、体力・運動能力に関する調査を実施してデータを集めていますが、日常生活の身体活動についてはデータが集められておらず「24時間行動ガイドライン」の検討に必要なデータが揃っていないのです。

私たちは独自の質問紙調査で、日常生活の身体活動についても把握できる質問からデータを集め、今回の研究をおこないました。

沖縄県内の小学生・中学生のデータを分析

──どのような方法で研究に取り組んだのでしょうか?

高倉教授:2014年に沖縄県教育委員会と共同で、沖縄の児童生徒を対象に身体活動、体力、学力、学習状況、学校生活、家庭生活などの関連を調べる調査をおこないました。

沖縄県の児童生徒の体力や学力が全国平均よりも低いという問題意識からおこなわれた調査です。

かなり大規模なデータが集められましたので、「24時間行動ガイドライン」の検討にも使えそうだということになり、今回はこの調査データを使用しました。

喜屋武助教:調査の対象者は沖縄県の小学5年生(2,408名)と中学2年生(4,360名)の子どもたちで、質問紙調査の回答や、体力・学力のデータなどが収集されています。

質問紙調査では、児童生徒の基本的な情報として、性別や学年、家庭の経済状態にくわえ、睡眠時間、身体活動時間、スクリーンタイム(テレビ、パソコン、スマートフォンなどの使用時間)、勉強時間、朝食を食べたかなどの生活習慣にも回答してもらいました。さらに、健康との関連を調べるために、主観的健康や自覚症状、身長、体重などのデータも収集しています。

身体活動は、1日に60分以上の息が弾んだり汗をかいたりするような中高強度の身体活動をおこなっているか、スクリーンタイム(座位行動)は1日2時間未満、睡眠については、小学5年生で1日9〜11時間、中学2年生で8〜10時間をガイドライン達成基準としました。

これらのデータをもとに、睡眠・身体活動・スクリーンタイムの推奨時間の達成状況と主観的健康度との関連を分析しています。

青少年の健康増進には、適度な睡眠と十分な身体活動が重要

──分析の結果、どのようなことがわかったのですか?

喜屋武助教:解析の結果、​​小学生においては「スクリーンタイムと睡眠」のガイドラインを達成することが、良好な健康状態と関連していました。それに対して、中学生は「身体活動のみ」「睡眠のみ」「スクリーンタイムと睡眠」「身体活動と睡眠」「3つのガイドラインの全て」の達成が、良好な健康状態と関連していることがわかりました。

──小学生と中学生で良好な健康状態と関連するガイドラインの数が違うんですね。

喜屋武助教:小学生は、主観的健康が悪いと回答する子どもが中学生より少ないんです。具体的な数値でいうと小学生の場合、悪いと回答する割合が8.7%、中学生は11.6%でしたので、そういった点も関係しているのではないかと考えられます。

もし、そういった点が関係ないとするならば、小学生の方が“行動による健康影響を受けにくい”という可能性は考えられます。

高倉教授:先行研究でも、思春期前期に比べて思春期後期の方が「24時間行動」と健康との関連が強いということが明らかになっています。小学生よりも中学生の方が、生活習慣(24時間行動)と主観的健康が関連しているという結果になったというのは、「思春期後期の特徴」を表していると捉えることもできますね。

──特にどの行動が健康との関連が強くみられたのでしょうか?

喜屋武助教:この図は中学生の結果を示したもので、図の数字は、未達成のグループと比較したときに、主観的健康が何倍に向上するかを示しています。

 

たとえば、一番右の「すべて達成」では、3行動すべてのガイドラインを達成している場合は、未達成(左端)と比較して、主観的健康が3.88倍に向上していることになります。

赤で示している部分は、主観的健康が良いというデータがでていて、特に差がみられるのは、未達成と比較して4.14倍も向上がみられた「身体活動と睡眠」でした。

これらのデータから導き出すと“適度な睡眠と十分な身体活動を組み合わせること”が青少年、とくに中学生の健康増進において効果的である可能性が考えられました。ただし、今回の研究は、横断研究といって、一時点のデータを使った研究結果なので、明確に因果関係があると言い切れない点は注意が必要です。つまり、健康的だからよく身体を動かし、適度な睡眠が取れていると考えることもできます。

──睡眠、身体活動、スクリーンタイムは、どの時間帯に各活動の時間を設けるのが望ましいでしょうか?

喜屋武助教:これはまだ研究段階で、お答えが難しいです。

たとえば「睡眠」の観点からすると、運動は朝におこなった方がいいといいますが、「身体活動」でみると、朝は身体がきちんと起きていないので、運動は午後におこなうのがいいと考えられているんです。何のために行うかなどの視点によって、同じ行動でも望ましい時間帯が変わってくる可能性もあるかもしれませんね。

高倉教授:とくに子どもに関する研究は少ないですね。

小学生の方がガイドライン未達成率が高い

──小学生と中学生で、ガイドラインを達成している割合に差はありましたか?

喜屋武助教:すべての推奨ガイドラインを達成していない割合は、小学生が39.2%、中学生が10.4%となっており、“中学生の方がガイドラインを達成している割合が高い”という結果になりました。

──どうして差がでているのか、考えられる理由はありますか?

喜屋武助教:小学生と中学生で一番差が見られたのが“身体活動と睡眠”でした。

あくまでも推測にはなってしまいますが、おそらく部活動による影響なのではないかと思います。部活動でよく動き、身体活動が活発になり、日中に動いた分しっかり睡眠を取っていると考えられますね。

別の研究でも、普通は年齢があがると身体活動が下がっていく傾向があるため、小学校1〜6にかけてゆるやかに身体活動が減っていきますが、中学生になると突然少し身体活動が上がっているという結果がでていました。

今回の研究では、小学5年生と中学2年生を比較しているので、そういった差が結果にもでてきていることが考えられますね。

高倉教授:それに加えて、睡眠のガイドラインを達成をしている割合は、中学生は50%、小学5年生は半分の26%くらいでした。睡眠を達成できた小学生がかなり少なかったというのも、差の理由のひとつだと考えられます。

小学生も中学生も、学校の登校時間が決まっているので、自然と起床時間も決まっていますよね。小学生のガイドラインである9〜11時間を達成するためには、7時に起床するとしたら22時には寝ておかなくてはなりません。

最近の小学校高学年は、習いごとをしている子どもも多く、中学生とあまり変わらない生活スタイルであることも多いため、睡眠の基準がなかなか達成できなかったのではないでしょうか。

中学生になると8〜10時間と睡眠時間の基準も短くなるので、達成しやすいのだと思われます。

大人が生活習慣を整えることが大切

──子どもが「24時間行動ガイドライン」を達成するために、大人たち(両親)はどのようなサポートをするのが良いと思われますか?

喜屋武助教:子どもたちの生活習慣には、親の生活が大きく影響すると思います。まずは、大人が手本となって生活習慣を整えることが重要なのではないでしょうか。子どもと一緒に自分も健康になっていこうと意識してみてください。

身体活動、座位行動、睡眠の3つの行動の中で、すぐに改善できそうなことは“座位行動を減らす”ことかと思います。ゲームやテレビで座っている時間ができるだけ短くなるよう、スクリーンタイムには制限を設け、その時間を別の行動に充てるように意識すること。

そしてプラスアルファで、外に運動に出かけるなどして身体活動を増やす。日中に長い昼寝をせずに、夜にしっかり睡眠を取るという点を心がけるとよいと思います。

高倉教授:同じく、親のサポートが重要だと感じますね。“身体活動を増やす”という点では、徒歩や自転車で通学するなど、通学をアクティブな方法に変えてみるというのも一つの手です。

また、これは私たちが意識すべきことなのですが「24時間行動ガイドライン」をより多くの人に普及させることも大切だと感じています。ガイドラインの重要性や効果を広く知らせることで、健康的な生活を促進することができるのではと考えています。

──小学生、中学生など、子どもの年齢にあわせて意識した方がいいポイントはありますか?

喜屋武助教:小学生と中学生では発達段階が異なり、小学生は“家族”が一番近いコミュニティですが、中学生になると親元を離れ“友達”と関わりを持つことが多くなってきます。

そういった発達段階の違いを意識して、お子さまが小さい時は家族で出かける時間を作るようにし、中学生になると友達同士でいろんなことをしてみようという働きかけも大事になってくると思います。

活動量計を用い、より精密なデータを収集

──今回の結果を踏まえ、これから研究をしようと思っている、もしくは現在おこなっていることはありますか?

喜屋武助教:今回の研究では、質問紙に回答してもらってデータを集めましたが、さらに客観的なデータを集めようと、「活動量計」などの装置を用いた新たな調査をスタートしています。

より精密なデータを集めていき、研究のエビデンスを深めていくことで、今後も地域の健康づくりに貢献していきたいと考えています。

高倉教授:客観的に測定したデータが集まると、たとえば“身体活動と座位行動を置き換えると健康影響がどれだけ変わるか”など、より深い分析ができるようになります。

今後の目標としては、より詳細なデータを収集し、さまざまな条件下での健康影響をより深く調べていくことです。お話したように、沖縄県は学力も体力も全国平均より低いとされている地域ですので、その県を対象に研究をしているということにも意義があると考えています。

── 高倉教授、喜屋武助教、本日はどうもありがとうございました!

Wellulu編集後記

健康維持のために“適度な運動や十分な睡眠が大切”“座りっぱなしは身体によくない”ということはなんとなく知っていましたが、24時間での各行動のバランスを意識したことはなかったので、今回のお話で新たな気づきを得られました。

青少年(とくに中学生)の主観的な健康向上には、3つの行動の中でも身体活動と睡眠が重要とのことですが、児童生徒の生活習慣を改善するには、同居する大人のサポートが不可欠です。

ご家庭に小学生、中学生の子どもがいらっしゃる方は、ぜひ一緒に健康になるつもりで、生活習慣の改善を心がけてみてはいかがでしょうか。

本記事のリリース情報

青少年の24時間行動ガイドラインの達成と主観的健康の関係(ウェルビーイングメディア「Wellulu」)

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